しょうたと家のないおじさん

木村 正広

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家のないおじさん

どこの誰だかさえも

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 この街で私のことを知っている人はほとんどいない。どこの誰だかさえもわからないだろう。名前を呼ばれることもない。強いて言うのであれば、知っているのは追い出されたアパートの大家さんくらいだろう。
 前に勤めた会社は家族経営で、私を解雇した数日後には家族まるごと夜逃げしたらしく、ハローワークに持っていく離職届などの書類はおろか、最後の月の給料すらまだもらっていない。
 
 この街に来て、もう何ヶ月くらいになるのだろう。過去のことはなるべく忘れるようにした。今の私はただのホームレスだ。

 スーパーなどから段ボールを集めたり、ゴミ捨て場から毛布などを拾っては、寝泊まりする場所をどうにか確保する。
 確保しても、食べ物を探し歩いているうちに、いつのまにか私の唯一の寝床は撤去され、また作っては撤去され、その繰り返しだ。

 もちろん職に就こうと努力はしてきた。しかし、手に職を持たない薄汚い中年男の就職はなかなかに難しいご時世らしい。どうにかこうにか集めた小銭をはたいて、履歴書を書いては送付をしてきたが、証明写真も、それを撮る金も使いきってしまった。手元にはなにもない。一度落ちぶれてしまえば、もうそこから這い上がれないのが現実だ。

 こんな状態になっても異臭の漂う廃棄物の中のものを食べてまで生きようとするのは、それほどまでに死ぬことが恐ろしいと感じるからだ。

 空腹、寒さ、疲労、奇妙な虫が身体にくっついていたり、視界のない夜の闇の中で複数の野犬の遠吠えを耳にしたり。とにかく死に近づいて身の危険を強く感じるほど、死ぬことが恐ろしいと感じるのだ。その反面、今ほど生きていることにありがたみを感じることはない。
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