魔王が強くてニューゲームを始めるらしいので、次代の勇者を育成することになった。

青木十

文字の大きさ
4 / 35
遭逢の物語

第四話

しおりを挟む
 道すがら、折れ枝を拾いながら歩く。辺境の森は山の斜面にあり、歩くだけでも十分鍛錬になった。
 アレクも足場に注意しながら、折れ枝を拾っていく。

 ある程度集まった枝を腰に下げていたロープでまとめ小脇に抱えたところ、アレクがいないことに気が付いた。俺が屈んでロープを触っていた間に、どこかに行ってしまったのだろう。

「アレク!」

 返事はない。
 俺は、微かに残るアレクの魔力を頼りに足取りを追った。簡単に魔力を追えるということは、まだ近くにいるということだ。

「アレク!」

 俺は再度名を呼んだ。相変わらず返事がない。

 ここは森の奥深くではないが、それでも魔物は出る。

 俺はアレクに刃物を持たせていないことを後悔した。
 アレクが持っているのは木剣のみだ。いつもなら弓矢も持たせているのだが、今日はそういう予定ではなかった。アレクとて勇者、浅い森の魔物に後れを取ることはないだろうが、木剣だけでは分が悪い。解体用の短剣を持っていてくれたらいいのだが。

 そんなことを考えながら魔力を辿っていると、太い木の根元に屈み込むアレクを発見した。

「アレク!」

 名を呼び駆け寄る俺に気が付いたアレクは、はっとして振り返った。紫がかった青い瞳が不安げに揺れている。

「どうした」

 アレクの肩越しに覗き込むと、屈んだアレクの目の前、木の根元に何か黒いものが丸まっている。
 大きさとしては、猫くらいか。

「なんだこれ」

 俺の声に合わせて、怯えたようにピィピィと声を上げるそれは――

「ナイトホークの雛か」

 ナイトホーク、こっちの方だとナハトファルケとか、黒ファルケとか呼ばれる鷹のような魔物の鳥だ。
 鷹の魔物というと、かなりの確率でこいつらを指す。

 ナイトホークが鳥類の鷹と差があるのは、魔物であるため知能が高いこと。
 そして、夜目が利く生物だということ。
 どちらも明確な差だ。

 黒い羽で覆われている身体を暗闇に溶け込ませ、夜目で見据えた獲物を空から一方的に嬲る。夜目の利かない人からすると、大変恐ろしい生態を持っているのだ。
 せめてもの救いは、まだ小型の魔物であること。そうは言っても、普通の鷹よりも大きく育ち、そこら辺の大型の鷹よりも速度も力もある。あくまでも魔物の中では、ということだ。

 木の上を見上げると、高い位置に巣が見えた。
 いくら北方で気温が低いとは言え、もう夏も盛りだ。普通の鷹ならもう巣立っている頃だろう。
 鷹の繁殖期からは少々遅いのだが、ナイトホークは厳冬期以外は繁殖期といっても過言ではないからだ。
 魔物だから根本的な生態も違うのだ。

 雛の方へ視線を戻す。
 落ちた時にやったのか、片方の翼が折れ曲がっていた。
 痛みからか空腹からか、それとも心細さからか、小さく体が震えている。

「枝を探していたら声が聞こえて」
「そうだったのか」

 そう言ってアレクの頭を軽くこつんとする。
 瞠目したアレクに、俺は続ける。

「ちゃんと声掛けするように。一人でいなくなるな」
「ごめんなさい」
「分かればよろしい」

 それから、アレクにナイトホークの危険性について話した。
 これがどういう生物なのか、魔物なのか、理解する必要がある。
 まだ小さい雛がただの鳥に見えたとしても、育てば魔物、闇夜の狩人とまで謳われた種なのだ。

「生まれて少し経ったくらいか。おそらく冬前、かかっても積雪期までには巣立ち、南へ飛び立つ算段なんだろうな」

 頭上の巣にはまだ数羽いるようだった。

「この子、巣に返せるかな」

 アレクが優しい願いを口にする。
 アレクの気持ちは尊重したいが……。

「返せはするが、元通りは無理だろうな」

 そう口にするとアレクの肩がびくっと揺れた。

「巣の中で弱者とされてしまっては、同じことが繰り返されるだけだ」

 そう。
 偶然落ちるということはある。
 今回はそうだろう。
 だが次落ちる時は偶然だろうか。

 魔物だって生きるのに精いっぱいなのだ。

 他の命に気をかけてやれるのは、本人に余力がある、恵まれた環境にいるものだけだ。

「それに、育てば小型とは言え一端の魔物だ。人に害をなすようになるだろう」

 アレクは、立ち上がって俺を見やる。
 そんな顔をしないでくれ。俺だって、そうならなければいいと願いたいよ。
 そう思いながら俺は、酷なことを口にした。

「俺たちにできることは、ここで殺してやるくらいだ」

 アレクの瞳が大きく見開かれた。
 紫青色の瞳には、不安、悲しみ、憤りといった様々な感情が渦を巻いている。

 俺は腰のベルトに装備していた鞘から短剣を取り出した。俺が普段解体などに使用しているものだ。
 アレクの手を取り、それを握らせる。

 アレクはもうすでに動物や魔物を倒すことを学び実行している。俺たちが生きていく上で、必要なことだ。生きていくために狩りをしなくてはいけないし、生き延びるために魔物を倒さなくてはならない。
 このナイトホークを手にかけることは、それらと何も変わらない。
 つらくてもやる判断をしなくてはならないし、悲しくても実行しなくてはならない。

 青ざめた顔で短剣を見つめるアレク。
 やがて短剣を握る手に力を込めた。
 そうして顔を上げ俺を一度目に映すと、アレクは雛に向かって身を屈めた。

 俺は口を真横に結びそれを見守る。
 そう、俺が何かを言ってはいけない。
 アレク自身が決めることだ。

 短い間なのかそれとも長い間だったのかは分からない。

 沈黙の後、振るえるようにアレクの声がこぼれた。

「やっぱり殺せない」

 アレクは上半身をこちらに向けて、もう一度口にした。

「ごめんなさい、僕はこの子を殺したくないです」

 俺は、アレクの横へ同じように膝をついて屈み込んだ。
 そうして――

「お前は優しいな。いい子だ」

 そう言って、ゆっくりと掻き抱く。
 驚いたアレクは息をのんだ。
 小さな背中を優しく撫でさする。

「自分でどうするか決められたな。偉いぞ」

 柔らかい銀髪越しに頭上へと唇を落とす。
 それから、頭も撫でてやった。

「お前に大事なのは、自分で決め自分で責任を取ることだ。大丈夫、どちらを選んでもお前は正しいし、偉いぞ」

 俺が体を離すと、アレクは驚いたような顔をしていた。

「じゃあ……」
「ああ、この子を助けようか」
「……! はい!」

 驚き顔から満面喜色へと変化する。
 可愛いやつめ。

 アレクに渡していた短剣を腰に仕舞う。
 それから雛を両手で掬い、俺は治癒魔法をかけてやった。アレクに翼を支えてもらって、折れていた骨も治すことができた。
 落ちてから数日だろうか、痩せていたが体力は残っているように見えた。

 周りを調べていたアレクが俺に報告する。

「虫を食べていた痕跡がありますね」
「そうなのか、根性のある奴だな」

 その生への執着は称えられるべきだな。
 俺は腰のベルトに結んでいた布を解き、その中に雛を包み込む。最初は暴れていたが、横からアレクが頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。
 そうして大人しくなったナイトホークを、アレクに抱えさせる。
 アレクは、優しく慈愛に満ちた瞳で腕の中を覗き込んでいた。

 アレクが持っていた枝を俺が纏めて拾い、俺が持っていたものと一纏めにした。ロープでの作業が終わると、それを左腕に抱える。
 こうやって常に片手を、可能なら利き手を開けておくのは大事なことだ。
 特に今はアレクの両手がふさがっているからな。

「よし、今度こそ帰ろう」
「はい!」

 アレクはまた元気な声で返事を返してくれた。


 家に戻った俺たちは、拾った雛に水や柔らかい肉を与えた。
 肉へと齧り付く姿は、雛とは思えぬ勇ましさだった。
 それを見届けた俺は、これからの事を相談するためアレクの意思を確認した。

 万が一があった時、全ての責任を取れるかどうか。

 アレクは、決意に満ちた眼差しでしっかりと首肯した。
 そうであるのならば、俺がすることはアレクの手伝いだ。

 きちんと世話をすること。
 ちゃんと躾けること。
 周り――特に村へ迷惑をかけないこと。

 あと、俺には迷惑をかけていいこと。

 守るべきことは二人で決めた。
 そして最後に、アレクは雛の名前を『シュヴァルツ』と名付けた。

 こうして、我が家に新たな家族が仲間入りすることになったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...