7 / 35
遭逢の物語
第七話
しおりを挟む
拙くそして長い説教は終わり、俺は村に報告したり、ギルドに連絡したりと、夕方まで忙しく過ごした。
夕飯は簡単なものになってしまったが、二人で囲む。
アレクは言葉少なに夕食を取り、互いにそれぞれの部屋に引っ込んだ。
その様子を見て、俺は激しく反省をしていた。
もっといい伝え方があったはずだ。
まず無事だったことを喜び、フォレストベアを倒せたことを褒め、気をつけることをしっかり伝える。
怒鳴らなくたってできたことだ。
情けない話だが、あの時の俺は自制が効かなかった。
だから、俺はアレクに詫びなければならない。
その日の晩はやけに冷え込み始めたので、毛布を追加してやろうとアレクの部屋に向かった。
今日のこともあったので様子も見ておきたかったし、謝れるのなら早く謝るべきだと考えていた。
部屋の中から洟をすする音が聞こえる。
あぁ、これは……。
俺がしこたま怒ったのを思い出して、泣いてるのかもしれない。
自身の情けなさや不甲斐なさに、胸のあたりが苦しくなった。
すまない、アレク。
俺はふと思い立ち、炊事場に向かい火を起こして薪をくべ牛乳を移した鍋を火にかける。
魔導具ならすぐに火がつくのにと、少し後悔した。魔導具はとかく便利故に、やむを得ない場合を除き頼らず生活をするという方針でいたが、こんな弊害があるとは思わなかった。
一人では思い至らなかったことだろう。
シュヴァルツは止まり木の上で眠っていたところを俺の気配で起きてしまったようだ。しかし何かするでもなく、俺を見ていた。
今日はありがとうなと伝えて、燻製肉をエサ入れに入れておいた。
軽く首を振った後、鋭い嘴で手前に引き寄せていた。
お気に召してくれたようで何よりだ。
温まった牛乳をカップへと移して砂糖を落とし、この前ラオーシュからもらったチョコレートの菓子を数個皿に移す。カップは自分の分も用意した。残りの牛乳と、砂糖は……、軽く入れるか。
疲れた時は甘いものとラオーシュはよく言っていたし、メディアナはつらい時は甘いものを口にして忘れることも肝要だと俺にお小言を言っていた。
懐かしいことを思い出しながら燭台とトレイを手に取って、アレクの部屋へ向かった。
「アレク」
名を呼び軽くノックする。
しばらくすると静かに扉が開いた。
扉の隙間から顔を出した寝間着姿のアレクは、濡れた子犬のような顔をしていた。小さな燭台では分かりづらいが、擦ったのであろう目元が少々赤い。
「一緒に飲もうか。よかったら部屋に入れてくれ」
こくりとうなずいたアレクに招き入れられる。
部屋の中は、ランタンの灯りのみで薄暗いながら柔らかい光に照らされていた。
座学用の机へ燭台を置き、トレイはサイドチェストへ置く。
アレクはベッドへ座り、俺は向かい合うように椅子へ座った。
「だいぶ冷え込んだからな、温かいものを飲もうと思って」
そう言って、牛乳の入ったカップをアレクに手渡す。
アレクが飲み始めたのを見計らって、今日のことを詫びた。
「今日は怒鳴ってすまなかった。お前が無事だったのを喜ぶことが先だったな」
ずっと謝らねばと思っていたのだ。
自然と言葉が綴られる。
「お前が生きていてくれて本当によかった」
アレクはその言葉に驚いた顔をして、慌てて答えた。
「だ、大丈夫です。僕の方こそ、ごめんなさい。勝手な行動をしました」
「待ってくれ。まずは俺の話だ。
たしかにお前は良くないことをしたと俺は思っている。だからと言って、怒鳴っていいわけじゃない。これからは気をつける。すまなかった」
俺が謝りの言葉を述べると、アレクは柔らかい優しげな笑みを浮かべた。
「わかりました。ヴァルの気持ち、理解します。
あの、僕も、僕もこれからちゃんと気をつけます。ちゃんと判断ができるようになりたい」
そう答えてくれたアレクの頭を、俺はゆったり撫でる。
気持ちが良いのか、アレクは可愛らしく目を細める。
「そうか……。分かった。次はきちんと考えような、二人で。約束だ。
よかったよ、もう嫌になって出ていっちまったらどうしようかと思った」
「いいえっ、そんなこと、ない、です」
「でも、泣いてたろ」
「……!」
あ、しまった。
俺の脳内でメディアナが「あんた、そういうとこがデリカシーがないっていうのよ!」と叫んでいた。
「違う、違うんです……」
アレクは否定するが、そこで言葉が詰まってしまう。
少しの間、沈黙が部屋を支配する。
無理をして聞くのはどうかと思ったので、気になった別のことをアレクに尋ねてみた。
「なぁ、なんで無理に追ったんだ? よかったら話してほしい」
俺は戀うようにアレクの頬を撫でた。
アレクはカップを握りしめて、更に黙り込んでしまう。顔がだんだんと俯いていく。
「大丈夫、ちゃんと話してくれれば、怒らないし、怒鳴ったりしないから。俺はただ知りたいだけなんだよ。……お前の気持ちを話してくれないか」
な? と顔を覗き込むと、アレクは恐る恐る顔を上げた。
「……できないのが、怖かったんです。できなかったら、もうここにも居られなくなっちゃうのかなって」
想定してない返答だった。
「んなわけあるか。できないなんて、最初は皆そうだよ。できるようになるために色々やるんだから」
「……でも!」
「でもじゃねぇよ。できないからって追い出さない。できるように俺となってけばいいだろうに」
俺はいつも思っていることを口にする。
すると、アレクの紫青色の大きな瞳からぽろりぽろりと涙がこぼれ始めた。
「わっなんで泣くんだよ」
拭くものがない。
俺の寝間着の袖を伸ばして、身を傾けて拭いてやる。
アレクが俺の前で泣くのも、この五ヶ月で初めてだ。
そうだ、これくらいの子供なんてまだまだ泣き虫なはずだ。妹なんていつもビービー泣いていた。
助けろメディアナと思ったけれど、あいつも手のかからないエルの面倒しか見たことがないはず。
じゃあ、ラインハルトだ。三児の父親の知恵を俺に授けてくれ……。
俺がラインハルトの爽やかな笑顔を思い返している間にも、アレクはずっとぽろぽろ泣いていた。
今の子供ってこんなに静かに泣くのか?
俺の記憶にある妹なんてギャンギャンひどかったから、これはこれで不安が……。
情けないことに、俺はおろおろするしかできなかった。
しばらく泣いてから落ち着いたアレクは、牛乳をひとくち、ふたくちと飲んで、ゆっくりと話し始めた。
「僕、小さい頃から嫌なことがあって……。いつ死んでもいいやって生きていたんです」
そう打ち明けるアレクの瞳は揺れていた。
「父様と母様が亡くなって、とてもとても悲しかったのです。つらかったし、寂しかった。
それから叔父様の家族が邸に移り住んできたのですが、僕がいることを好ましく思ってはいらっしゃらなかった。だから、僕も早く父様と母様のところにいきたいと思って過ごしていたのです」
アレクの諦観は、これだったのか。
先にメディアナに、確認しておくべきだった。
完全に失態だ。
アレクの話を踏まえると、義理の家族となった叔父一家がしていたのは実質家の乗っ取りで、先代の嫡子であったアレクを邪険に扱い自分の息子に継がせようと画策していたようだ。
手っ取り早いのはアレクが死ぬことで、事故死や病死に見せかけた何かしらを企んでいたようだ。
アレクは、俺も痛感しているが――聡い子供だったので叔父夫婦の考えを理解していたのだろう。
その時が来るかという頃、一人邸を抜け出したアレクは町中でメディアナと出会ったというわけだ。
たしかメディアナは、勇者出現の神託を受けてすぐに町に繰り出したと言っていた。
そのお陰で、街で偶然通りすがった勇者を確保できたのだ。
まさに女神の神託がアレクを救ったのだった。
「強くなった成果が欲しくて、フォレストベアを追いました。でも相手も強くて……。ここで死んじゃうのかなってそんな気がしたんです」
長いまつ毛をゆらしてぽろりと涙がこぼれた。
「だけど、死にたくないって思ったんです。ヴァルのところに帰りたいって」
右手で涙を拭い、顔を上げて俺を見つめる。
「だから、生きててよかったなって思ったら、涙が出てきちゃって」
そう言って小さく微笑む。
俺は相づちも打たず、アレクをじっと見つめ返す。
言葉一つ一つをちゃんと聞くために。
「なので、僕はここにくることはつらくなかったのです。ヴァルはいつも気にしてくれていたけれど、大丈夫。
今日のことも、ヴァルの言うことは尤もだと思う。僕のことを心配してくれてありがとう。
だから、僕はここが好き、ヴァルが好きだよ」
そう言って今度はしっかりと微笑んだアレクは、いつものどこか大人びた感じではなく、子供らしい笑顔だった。
俺はアレクのコップを取り上げてサイドチェストに置き、アレクの横に腰掛けた。
「そうかよかった。お前が無事で、俺も本当に嬉しいよ」
そう言って肩を抱いて、頭を撫でてやった。
アレクは、くすぐったそうに表情を緩めた。
俺が導き出した答えは、単純で、当たり前のこと。
こんな小さな子供が諦めていいことではない。
――生きていてほしい。
俺は、今一度この願いを反芻する。
俺が守ろう、俺が生かそう。
この子が子供であるように、俺は大人だ。
この子が子であってくれるなら、俺は親だ。
この子が勇者である前に、俺は勇者だ。
俺にできることが一つでもあるなら、俺は尽くそう。
アレクのために。
「俺もお前が来てくれてよかったと思ってる」
驚くほど落ち着いた声が出た。
「たいへんだろうけど、二人で頑張ろうな。俺たちは家族だ。俺はお前を助ける。きっと皆もお前を助けてくれるから、安心しろ」
アレクはうなずきながら、小さな体でぎゅっと抱きついてきた。肩が震えて、少し洟をすする音が聞こえる。
背中に手を回して撫でてやると、嬉しそうにすり寄った。
夕飯は簡単なものになってしまったが、二人で囲む。
アレクは言葉少なに夕食を取り、互いにそれぞれの部屋に引っ込んだ。
その様子を見て、俺は激しく反省をしていた。
もっといい伝え方があったはずだ。
まず無事だったことを喜び、フォレストベアを倒せたことを褒め、気をつけることをしっかり伝える。
怒鳴らなくたってできたことだ。
情けない話だが、あの時の俺は自制が効かなかった。
だから、俺はアレクに詫びなければならない。
その日の晩はやけに冷え込み始めたので、毛布を追加してやろうとアレクの部屋に向かった。
今日のこともあったので様子も見ておきたかったし、謝れるのなら早く謝るべきだと考えていた。
部屋の中から洟をすする音が聞こえる。
あぁ、これは……。
俺がしこたま怒ったのを思い出して、泣いてるのかもしれない。
自身の情けなさや不甲斐なさに、胸のあたりが苦しくなった。
すまない、アレク。
俺はふと思い立ち、炊事場に向かい火を起こして薪をくべ牛乳を移した鍋を火にかける。
魔導具ならすぐに火がつくのにと、少し後悔した。魔導具はとかく便利故に、やむを得ない場合を除き頼らず生活をするという方針でいたが、こんな弊害があるとは思わなかった。
一人では思い至らなかったことだろう。
シュヴァルツは止まり木の上で眠っていたところを俺の気配で起きてしまったようだ。しかし何かするでもなく、俺を見ていた。
今日はありがとうなと伝えて、燻製肉をエサ入れに入れておいた。
軽く首を振った後、鋭い嘴で手前に引き寄せていた。
お気に召してくれたようで何よりだ。
温まった牛乳をカップへと移して砂糖を落とし、この前ラオーシュからもらったチョコレートの菓子を数個皿に移す。カップは自分の分も用意した。残りの牛乳と、砂糖は……、軽く入れるか。
疲れた時は甘いものとラオーシュはよく言っていたし、メディアナはつらい時は甘いものを口にして忘れることも肝要だと俺にお小言を言っていた。
懐かしいことを思い出しながら燭台とトレイを手に取って、アレクの部屋へ向かった。
「アレク」
名を呼び軽くノックする。
しばらくすると静かに扉が開いた。
扉の隙間から顔を出した寝間着姿のアレクは、濡れた子犬のような顔をしていた。小さな燭台では分かりづらいが、擦ったのであろう目元が少々赤い。
「一緒に飲もうか。よかったら部屋に入れてくれ」
こくりとうなずいたアレクに招き入れられる。
部屋の中は、ランタンの灯りのみで薄暗いながら柔らかい光に照らされていた。
座学用の机へ燭台を置き、トレイはサイドチェストへ置く。
アレクはベッドへ座り、俺は向かい合うように椅子へ座った。
「だいぶ冷え込んだからな、温かいものを飲もうと思って」
そう言って、牛乳の入ったカップをアレクに手渡す。
アレクが飲み始めたのを見計らって、今日のことを詫びた。
「今日は怒鳴ってすまなかった。お前が無事だったのを喜ぶことが先だったな」
ずっと謝らねばと思っていたのだ。
自然と言葉が綴られる。
「お前が生きていてくれて本当によかった」
アレクはその言葉に驚いた顔をして、慌てて答えた。
「だ、大丈夫です。僕の方こそ、ごめんなさい。勝手な行動をしました」
「待ってくれ。まずは俺の話だ。
たしかにお前は良くないことをしたと俺は思っている。だからと言って、怒鳴っていいわけじゃない。これからは気をつける。すまなかった」
俺が謝りの言葉を述べると、アレクは柔らかい優しげな笑みを浮かべた。
「わかりました。ヴァルの気持ち、理解します。
あの、僕も、僕もこれからちゃんと気をつけます。ちゃんと判断ができるようになりたい」
そう答えてくれたアレクの頭を、俺はゆったり撫でる。
気持ちが良いのか、アレクは可愛らしく目を細める。
「そうか……。分かった。次はきちんと考えような、二人で。約束だ。
よかったよ、もう嫌になって出ていっちまったらどうしようかと思った」
「いいえっ、そんなこと、ない、です」
「でも、泣いてたろ」
「……!」
あ、しまった。
俺の脳内でメディアナが「あんた、そういうとこがデリカシーがないっていうのよ!」と叫んでいた。
「違う、違うんです……」
アレクは否定するが、そこで言葉が詰まってしまう。
少しの間、沈黙が部屋を支配する。
無理をして聞くのはどうかと思ったので、気になった別のことをアレクに尋ねてみた。
「なぁ、なんで無理に追ったんだ? よかったら話してほしい」
俺は戀うようにアレクの頬を撫でた。
アレクはカップを握りしめて、更に黙り込んでしまう。顔がだんだんと俯いていく。
「大丈夫、ちゃんと話してくれれば、怒らないし、怒鳴ったりしないから。俺はただ知りたいだけなんだよ。……お前の気持ちを話してくれないか」
な? と顔を覗き込むと、アレクは恐る恐る顔を上げた。
「……できないのが、怖かったんです。できなかったら、もうここにも居られなくなっちゃうのかなって」
想定してない返答だった。
「んなわけあるか。できないなんて、最初は皆そうだよ。できるようになるために色々やるんだから」
「……でも!」
「でもじゃねぇよ。できないからって追い出さない。できるように俺となってけばいいだろうに」
俺はいつも思っていることを口にする。
すると、アレクの紫青色の大きな瞳からぽろりぽろりと涙がこぼれ始めた。
「わっなんで泣くんだよ」
拭くものがない。
俺の寝間着の袖を伸ばして、身を傾けて拭いてやる。
アレクが俺の前で泣くのも、この五ヶ月で初めてだ。
そうだ、これくらいの子供なんてまだまだ泣き虫なはずだ。妹なんていつもビービー泣いていた。
助けろメディアナと思ったけれど、あいつも手のかからないエルの面倒しか見たことがないはず。
じゃあ、ラインハルトだ。三児の父親の知恵を俺に授けてくれ……。
俺がラインハルトの爽やかな笑顔を思い返している間にも、アレクはずっとぽろぽろ泣いていた。
今の子供ってこんなに静かに泣くのか?
俺の記憶にある妹なんてギャンギャンひどかったから、これはこれで不安が……。
情けないことに、俺はおろおろするしかできなかった。
しばらく泣いてから落ち着いたアレクは、牛乳をひとくち、ふたくちと飲んで、ゆっくりと話し始めた。
「僕、小さい頃から嫌なことがあって……。いつ死んでもいいやって生きていたんです」
そう打ち明けるアレクの瞳は揺れていた。
「父様と母様が亡くなって、とてもとても悲しかったのです。つらかったし、寂しかった。
それから叔父様の家族が邸に移り住んできたのですが、僕がいることを好ましく思ってはいらっしゃらなかった。だから、僕も早く父様と母様のところにいきたいと思って過ごしていたのです」
アレクの諦観は、これだったのか。
先にメディアナに、確認しておくべきだった。
完全に失態だ。
アレクの話を踏まえると、義理の家族となった叔父一家がしていたのは実質家の乗っ取りで、先代の嫡子であったアレクを邪険に扱い自分の息子に継がせようと画策していたようだ。
手っ取り早いのはアレクが死ぬことで、事故死や病死に見せかけた何かしらを企んでいたようだ。
アレクは、俺も痛感しているが――聡い子供だったので叔父夫婦の考えを理解していたのだろう。
その時が来るかという頃、一人邸を抜け出したアレクは町中でメディアナと出会ったというわけだ。
たしかメディアナは、勇者出現の神託を受けてすぐに町に繰り出したと言っていた。
そのお陰で、街で偶然通りすがった勇者を確保できたのだ。
まさに女神の神託がアレクを救ったのだった。
「強くなった成果が欲しくて、フォレストベアを追いました。でも相手も強くて……。ここで死んじゃうのかなってそんな気がしたんです」
長いまつ毛をゆらしてぽろりと涙がこぼれた。
「だけど、死にたくないって思ったんです。ヴァルのところに帰りたいって」
右手で涙を拭い、顔を上げて俺を見つめる。
「だから、生きててよかったなって思ったら、涙が出てきちゃって」
そう言って小さく微笑む。
俺は相づちも打たず、アレクをじっと見つめ返す。
言葉一つ一つをちゃんと聞くために。
「なので、僕はここにくることはつらくなかったのです。ヴァルはいつも気にしてくれていたけれど、大丈夫。
今日のことも、ヴァルの言うことは尤もだと思う。僕のことを心配してくれてありがとう。
だから、僕はここが好き、ヴァルが好きだよ」
そう言って今度はしっかりと微笑んだアレクは、いつものどこか大人びた感じではなく、子供らしい笑顔だった。
俺はアレクのコップを取り上げてサイドチェストに置き、アレクの横に腰掛けた。
「そうかよかった。お前が無事で、俺も本当に嬉しいよ」
そう言って肩を抱いて、頭を撫でてやった。
アレクは、くすぐったそうに表情を緩めた。
俺が導き出した答えは、単純で、当たり前のこと。
こんな小さな子供が諦めていいことではない。
――生きていてほしい。
俺は、今一度この願いを反芻する。
俺が守ろう、俺が生かそう。
この子が子供であるように、俺は大人だ。
この子が子であってくれるなら、俺は親だ。
この子が勇者である前に、俺は勇者だ。
俺にできることが一つでもあるなら、俺は尽くそう。
アレクのために。
「俺もお前が来てくれてよかったと思ってる」
驚くほど落ち着いた声が出た。
「たいへんだろうけど、二人で頑張ろうな。俺たちは家族だ。俺はお前を助ける。きっと皆もお前を助けてくれるから、安心しろ」
アレクはうなずきながら、小さな体でぎゅっと抱きついてきた。肩が震えて、少し洟をすする音が聞こえる。
背中に手を回して撫でてやると、嬉しそうにすり寄った。
10
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました
陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。
しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。
それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。
ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。
小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる