魔王が強くてニューゲームを始めるらしいので、次代の勇者を育成することになった。

青木十

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冒険の物語

第六話

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 冒険者の街、特に初心者の街と呼ばれるグリュンフェルトは、ヴォールファルト王国南部に位置する田舎ながらも大きな街だ。
 立地柄、魔族領とは遠く魔物も比較的低レベルで、ダンジョンも低層止まりが多い。冒険者の依頼も簡易な低レベルのものが揃っており、ヴォールファルトで冒険者になるなら、まずはグリュンフェルトでというのが定跡だ。この街でなら、成り立てのF級から中堅のC級まで、ランク上げを前提に活動することができる。焦らずランクを上げたい場合なら、B級も可能だ。
 俺が現役だった頃は、制度の呼び方はランク、個別の階級は級で表すのが主流だったが、最近の若い連中は共にランクで呼ぶんだっけな。気をつけないと年寄り扱いされそうだ。

 基本的なことを二人とおさらいしながら、乗合馬車を乗り継ぐこと数日。
 俺たちは無事グリュンフェルトへと到着した。

 初めての長旅は二人にも好評で、ゆっくりと流れる景色を飽きもせず眺めていた。何が見えたとか何がいたとか、どういう町だったとかどういう所だろうかとか、互いに話すことは尽きないようだった。シュヴァルツもアレクに寄り添って大人しくしていたため、問題なく過ごすことができた。
 転移で行こうとか言われなくて、本当によかった。俺たちが住んでる辺境は王都への利便が悪すぎるため移動はすべて転移で済ませているのだが、やはり地に足をつけた旅路を体験してもらいたかったのだ。
 そのことも、無事目的地に到着したことも、俺を安心させるのに足りる結果だった。


 冒険者の街グリュンフェルトは、周りを囲む防壁に守られている。
 街周辺は、広い草原に、木々生い茂る森、鉱山を有した山岳もある。森の奥へと入ることもできるし、山を登ってもいい、初心者向けから中級者向けまでダンジョンも多数揃っている。特に春である今は過ごしやすい気候とも相まって美しい自然を味わえるだろう。
 魔物討伐はもちろんのこと、土地柄を生かした採集場所で入手できる素材も多数ある。四方へ伸びる街道は各国各都市へと続き、行き交う商人たちの護衛依頼で遠征だってできるだろう。
 冒険者としていろいろな活躍が約束されている。
 それがこの街だ。

 街の中はというと、武器屋、防具屋、道具屋など冒険者向けの店が連なり、通りには冒険者や彼らを相手にするために訪れた商人たちが歩いている。冒険者向けの商売や、その商人や商会から頼まれる素材採集や護衛の依頼など、様々なものが冒険者ありきで成り立っている街なのだ。
 街の中央には、大きな冒険者ギルド会館が建っており、多くの依頼を捌いている。冒険者へのサポート体制もしっかりしており、大陸のギルド各支部の中でもトップクラスだ。
 それに、冒険者が滞在するための宿屋や冒険者向けの物件が立ち並んだ区画もある。冒険者は金を貯めて、拠点となる戸建てを買うことを目標にしていたりもするんだ。
 C級でも十分に食っていけるから、ここに滞在を続ける冒険者も多い。

 ただし、A級以上になるには、この街を出る必要がある。A級になるための難易度の高い依頼がないからだ。突飛な事案を除いて、基本的にはB級の査定までしかできない街なのだ。
 ただし、ここを拠点にして各地に遠征をしてランクを上げたりもできるから、完全に立ち去るとまでは考えなくていい。

 ランクのことだけ留意しておけば、冒険者としての最初の土地にこのグリュンフェルトを選ぶことは最適解だろう。
 長く冒険者をしていた俺も保証できる。
 冒険者を休んでいる間に変わっていたら……と思ってはいたのだが、先日グリュンフェルトのギルドマスターから連絡を貰うことがあり、相変わらずのようだと分かったのでそこも安心だ。


 乗合馬車が街の外にある停留所で停まる。
 ここで降りて、検問を通り街に入るのだ。
 俺は顔見知りに会うとあれなので、認識阻害の魔法をかけた。検問の魔法探知にはバレない自信があるから、このまま維持しておこうと思う。

 外部からの検問所へ並ぶ列の最後尾についた。
 ちなみに、冒険者は冒険者用の列があり、冒険者ギルドの身分証で判断される。商人ギルドへ登録済みの商人たちも似たような形式だ。俺たちもギルドで登録が終われば、以降はその列に並びもっと簡略化された検問になるだろう。

 アレクとエルの後ろから、検問の様子を見る。
 若い衛兵と事務官が一人ずつのようだ。この時間は人の出入りが少ないのか、担当者も少ないんだな。
 並んでいる者たちも確認してみたが、この列は商人か俺たち同様冒険者になりにきたんだろうなという風貌の若い連中が多いようだ。午後を少し過ぎた時間ということもあり、冒険者の列は少な目。商人の列は多そうだったな。商人たちは、昼前に前の町を出て街道沿いに進んできた俺たちと同じような時間感覚なのだろう。

 シュヴァルツは大人しくアレクの肩に止まっているから、こいつの件もすぐ許可が出るだろう。街に入れたら、従魔とか使い魔とかそういう登録を冒険者ギルドで行う予定だ。
 これは国ごと、場合によっては街ごとに行なわなくてはならず、その手間を削減するために大陸全土に支部を持つ冒険者ギルドの方で対応してくれるようになっている。ただの獣ならまだしも、魔物が相手なら慎重にもなるだろうから仕方のないことだ。手間ではあるんだがな。

 俺たちが並ぶ前にもそれほど人はおらず、すぐに番が来た。

「冒険者になりに来ました」

 エルが愛想よく挨拶をする。

「僕と、この子がそうです。後ろのおじさんは保護者の人に頼まれた護衛の人」

 そう説明しながら、管理名簿に名前を書いている。アレクもそれに倣う。

 エルはこういうのがとても得意だ。
 素直であるというのは子供の美徳の一つで、それは大人にとっても自分にとってもよいことであると理解し、素直であることを心得ている。素直であるということを選んでいるのだ。
 と言っても、何でも素直に話すわけではなく、ちゃんと考えもする。もちろん、悪意なく考えるので、結果として評価は高い。
 それに常にたくさんの大人に囲まれて生活をしているため、先ず以て物怖じないのだ。

 だがな……。
 おじさん、いやおじさんだけどさ。なまじ説明が間違ってないため、訂正もしづらい。

 アレクに指示を出して、シュヴァルツについても記載をさせた。
 テーブルの向かいに座っている眼鏡の事務官に、口頭で説明をする。簡単な説明になるが、シュヴァルツの様子から問題なく連れて入る許可が出た。不許可になったら、保険でもらってきた書類を出さなきゃならないから助かったな。

 その横で、検問に立つ警備担当の若い衛兵は、エルの説明にこくりとうなずいていた。日に焼けた肌が健康そうな、真面目で穏やかな印象の男だった。
 エルの身なりを見て、良いところの子供が冒険者になりに来たように受け取ったのだろう。俺のことは、目立たないようにつけられた地味な護衛といったところか。

「そうか、この街は初めて冒険者になる子たちにいい街だ。立派な冒険者になるんだぞ」

 そう言って微笑み返してくれている。

 そう、この街は衛兵や役人など、街の関係者も冒険者に協力的なんだ。だから、揉め事も少ないし、敵愾心で絡まれることもない。初心者の街として、街全体が寛容で協力的なのだ。
 やはりこの街にしてよかったと思いながら、俺も名前を書いた。

「ヴァルドルフ……?」

 アレクが俺の書いた名を見て、怪訝そうにしている。しまった、説明を忘れていたな。
 後で話すと耳打ちして、背負袋を開けて中を事務官へ見せた。

「ねぇ、インベントリの中は確認しなくてもいいの?」

 エルが面倒なことに気がついた。
 それ、それなぁ。

「あぁ、それは申告を頼るしかないんですよ。中を確認する方法がないですからね」

 事務官は申し訳無さそうな顔で説明してくる。
 そうだよな、完全に善意に頼るしかない。俺だって、あれやこれやを全部申告できないししたくないくらいインベントリに詰まっている。
 インベントリは便利だが、それによるトラブルはすべて後手に回るから、警備も大変だろうなと同情してしまった。

「インベントリを持っているのか。すごいねキミは」

 衛兵の兄ちゃんは、エルを見て感嘆する。
 そう、インベントリを持ってるってことは、魔力が一定量あり、きちんと操作できる能力があるということだ。
 エルはにこにこしながら、更に申告する。

「僕もアレクも、おじさんも持ってるよ」

 エル、お前っ……と思ったが、違うな。
 これは分かってて言っているんだ。

 後から分かるよりも、今話しておく。
 それで自分たちの誠実さを買おうとしてるんだな。
 本当に聡いやつだ。

「あー、衛兵さん方すまねぇな。この子らはともかく、俺のはたくさん入ってて全部は申告できねぇんだ」
「はい、それはもちろん大丈夫ですよ。むしろ持ってることを知らせてくれるだけで、全く違う」
「中へ入ったら冒険者ギルドに登録する予定だから、それを保証としてくれ。この子らがギルド預かりになれば、俺自身も冒険者カードを出せる予定だから」
「承知しました。では、三人とも冒険者登録予定と別記しておきます」
「ありがとう、助かるよ」

 俺は検問の二人に礼を伝え、袋を背負いなおした。

 その後、二三やり取りして、無事街へと入ることができた。この街だからこんなもんだが、他のところ、例えばレオミュールの首都とかだともっと大変だろうなと痛感した。
 良し悪しはさておき、やっぱり転移って便利だわと、切に思った。
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