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冒険の物語
第十一話
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俺は一つ気がついて、ダールベルクに尋ねる。
「そう言えば、二人ともしっかり鍛えたのに、測定器が壊れなかったぞ。どういうことだ? 測定器の枠は超えてるだろう?」
「あれは、お前が壊したという報告を受け、魔導機器研究所のフューラー師が改良を加え、溢れる魔力を上手く拡散できるようにしてくださったものだ。お前も試験運用を手伝ったのではなかったのか」
あー、した、したわ。
魔導器学や魔導工学の権威であるフューラー先生は俺の勇者教育関係者の一人で、魔導具や魔導器についての知識を教えてくれた。俺の魔力が多いことに着目していて、俺も研究を手伝ったりしていたのだ。
「あー、それは皆々様にお手間をおかけしまして……」
「何を言うか。曖昧に続いていた制度を変更する契機になったのだ。良いことだろう、勇者殿よ」
そう言ったダールベルクは、はっはっはと豪快に笑った。
一緒に笑んでいたルサリオンは、二人へと視線を移し再び尋ねた。
「それで、如何様になさいますか」
「迷惑をかけなきゃ、低ランクでもいいか?」
「とおっしゃいますと?」
「俺たちは、冒険者の嗜みを全く知らない。低ランクからきちんと学びたいと考えている。なので――」
そう言ってアレクはエルを見る。
その視線を受けて首肯したエルも、アレクへと視線を返した。
「E級から始めさせてもらえないか」
「僕もそれでお願いします。さすがにF級からだと、道のりは長そうだしね」
アレクとの宣言に合わせて、ふふっとエルは笑った。
二人とも、ちゃんといろいろと考えていたのだな。
俺のガキの頃とは大違いだ。
あの頃の俺は、皆の期待に答えたくて、とにかく強くあろうとしていた。
強くなければ魔王は倒せないと思っていたからだ。
冒険者の嗜みとか、他には常識とかお約束とか、そういうのは随分と欠如していたんじゃないかと思う。
「お前、何か悪く考えてるだろ」
いつの間にか手を離していたアレクが、今度は俺の頬を軽く摘み、訝しげに尋ねた。
え、なに、どうした。
「さっきのマスターの話、忘れたのか? お前が強いのは、冒険者の経験があるからだって。だから俺たちの言葉を穿って取るなよ」
「穿ってないぞ」
「今、変な顔してたぞ」
そう言って、俺の顔をむにっと小さく引っ張ってから手を離した。
「そうだ。お前の功績は、ギルドでもとても評価されているし、良い改善にも繋がっている。感謝することはあっても、間違っても悪しきことはない」
「ギルド職員たちだって、少しは仕事が多い方が良いのですよ。少々アクシデントがある方が、学びも多いです。頑張ってくださる方がいるというのは、彼らの為にもなっているのですから」
アレクの心遣いを受けて、ダールベルクもルサリオンも俺に言葉を投げかけてくれた。何かありがたいなと思ってしまう。
「それに、ヴァルは多くに慕われていたからな。さすがに六年では人の出入りは多いが、それでも――」
ダールベルクの言葉が途中で止まる。目を細めて、俺たちの後ろへと視線を流した。
俺もその原因に気がついて、振り返って顔を扉の方へと向ける。
廊下が騒がしい。弱く防音の魔法がかけられているのか、正確な情報が得られない。なんだろう。
ダールベルクがすぅと息を吸ったかと思うと――
「入って構わぬぞ」
大きく声を張った。部屋が揺れんばかりの声。
ルサリオンは慣れたものでしれっと紅茶を飲んでいる。
エルはひゃっと小さく声を漏らして、俺にしがみついた。
アレクも驚き背筋がぴーんとして固まっている。騎士団でヴォルフガング師匠が怒鳴った時と同じ反応だ。
くくくと笑いを堪えていると、廊下の騒がしさが大きくなった。
「待っているやつはおるのだよ」
ダールベルクがそう言うとともに、大きな音を立てて扉が開かれる。
ノックもなく確認も断りもなく、一人の男が入ってきた。
「ヴァルさん!!!」
橙じみた褐色の髪に落ち着いた色みの軽装備を身に着けた男が、俺を見るなり大きく名を呼んで足音高く歩み寄る。
俺は慌てて立ち上がり、エルの前を通り抜けて歩み出た。
「ヴァル、さん……!」
数歩先で俺の顔を認め、もう一度俺の名を呼ぶとぼろぼろと泣き始める。
そうして男は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺の胸へと飛び込んだ。
倒れ込むように駆け寄り、俺の体を抱くようにしがみつく。
「ヴァルさん! ううぅあぁ、ヴァルさん!!」
「エドワルド!」
その様子に驚きながらも、俺はその男――エドワルドを支えるように抱え込んだ。
エドは俺の胸になするように顔を埋め、背中を小さくだがばしばしと叩いてくる。
「ほんもの、本物だ……! 本物の、ヴァルさん……!」
洟をすする音と震える声音。
ただただ俺の存在を確かめるように、エドは俺に縋り付く。
嗚咽の合間に繰り返される呼吸が暖かく、くすぐったい。
俺はエドの背中をさすってやり、頭を撫でてやる。
「相変わらずすぐ泣くなぁ、お前は。ちゃあんと生きてる、本物だぞ」
「うあぁ、だって、だってなぁ……!」
「俺がどんなのかなんて、お前だって十分知ってるだろ。泣くなよ、ほら」
エドの細い体を抱きかかえながら、ポケットから手拭きを出す。顔を上げたエドをぐしぐしと拭いてやる。
充血してしまった鈍色の瞳を確認して、赤くなっている目元を撫でてやった。
「うっうっ、ヴァルさん、元気そうで本当によかった……!」
「お前もな」
心底嬉しそうに喜んでくれるエドに、俺は穏やかに微笑んだ。
俺の元パーティメンバーのエドワルド。
こいつも元気であったのなら行幸だと――
「いってぇ……!」
ちょっと前にあったように、今度は俺の左脇腹が殴られる。
振り返ると、アレクがまた不貞腐れた表情で立っていた。
「久々の再会だろう。野暮なことは言わんが、座って落ち着いたらどうだ」
ダールベルクが柔らかく微笑んだ。
エドワルドは、はいとうなずいて、俺から離れる。
ちらりと俺の顔を確認すると、へらっと嬉しそうに笑った。
六年ぶりで互いに年を取っていたわけだが、その笑顔は確かに昔のままだった。
◇
俺とエドワルドの出会いは十年前。
グリュンフェルト近くのダンジョンで行方不明になった初心者パーティを救出に向かったところ、一緒に救出することになったのがエドワルドと、その相棒のラドウェルだった。
初心者パーティは、崩れた所からそれまで見つかっていなかった下層へと入り込み、奥へと進み過ぎていたらしい。長く秘匿されていたその下層には、誰の目にも止まらなかった魔力溜まりがあり、そこから滲み出てきた魔物たちが多数徘徊していた。
それらから初心者パーティを助けたのが二人で、その際ラドウェルは瀕死の怪我を負ってしまっていた。
そのラドウェルを、自身もボロボロながら必死になけなしのポーションと手当てで救おうとしていたのがエドワルドだった。
周りの魔物駆除をしながら捜索していた俺は無事そこへ辿り着き、初心者パーティをすぐさま転移でギルドに放り込んだ。
そうして瀕死のラドウェルと疲労困憊のエドワルドに治癒魔法をかけ、二人も無事助けることができたのだった。
救出が終わったら周辺の掃除をすることになっていたので、治癒で元気になった二人が手伝ってくれたんだよな。
その縁で懐かれてしまって、パーティを組むまでに至ったんだ。
「……という感じなんだが、納得してくれるか?」
俺がアレクたちに説明する。
黙って聞いていたアレクだったが、厳しい顔で見解を述べる。
「それって大丈夫か? 他のダンジョンに同じようなものはなかったのか? 魔力溜まりがあるということは、危険な魔物も多くなるってことだろ」
あぁ、この子はもう既に使徒として物事を見てるんだな。
俺はそう感慨深く思った後、アレクの頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でた。
「その時点で一通りは調べたから安心しろ。当時、同様なことが起きたら俺個人が対応していたんだが、それ以降はパーティで対応するって話に決まったんだ」
一人用のソファに腰掛けたエドワルドが、こくりとうなずいて俺の言葉を補ってくれる。
「ヴァルさんと俺たちはパーティを組んで、この街の冒険者では対応できない難易度の依頼や緊急依頼を受けることにしたんだよ。それはヴァルさんがパーティを抜けた後も続いている。だから心配しなくていい」
そう言って、少し鋭い目を柔らかくして微笑む。
俺が抜けても、この街の安全のために身を粉にしてくれてるんだな。それがエドワルド自身の口から聞けて、俺はほっとした。
そんな俺の横で、そのエドの笑みを不服とするかのようにムスッとした表情で睨むアレク。その左手はまた、ぎゅっと俺の右手を握っている。
なんだ、どうしたんだ、さっきから。
「ヴァルさん、俺も一つ聞いていいですか」
どうしたと返すと、エドワルドは続けた。
「どこかで隠し子でも見つかったんです?」
「お前、俺のことをなんだと」
「来る者拒まず、流れた浮名は数知れず?」
「なんだその雑な表現は」
「いや、俺もラドも同じ認識なんですけど」
どういう認識だと、思わず苦笑いと溜息が溢れた。
別にそんなことないと思うんだが。そりゃあ、勇者だってんで寄ってくる奴は多かったけどさ……。
「この子らはそういうんじゃない。こっちはエル、友人が引き取って育ててる子で、こっちはアレク、俺が引き取ってる」
「ヴァルさんが、子育て……」
エドワルドが驚いて言葉を失っている。
鈍色の瞳は、驚愕のあまり白黒しているように見えた。
「何を言うか。十年前とて、お前たちを育てる様は子育てと変わらなかったぞ」
「あ! だからこの前、俺に親離れしろって言ってたんですね」
ダールベルクが楽しげにからかい、それを聞いたエドワルドが首を振りつつも笑っている。
エドワルドのやつ、ギルドとも上手くやっているようでよかった。俺が抜けたもののエドのパーティの扱いは、少々特殊だ。ギルドとの関係性は、互いにとって重要だろう。
それが上手く続けられているのであれば、良いに越したことはない。
「そう言えば、二人ともしっかり鍛えたのに、測定器が壊れなかったぞ。どういうことだ? 測定器の枠は超えてるだろう?」
「あれは、お前が壊したという報告を受け、魔導機器研究所のフューラー師が改良を加え、溢れる魔力を上手く拡散できるようにしてくださったものだ。お前も試験運用を手伝ったのではなかったのか」
あー、した、したわ。
魔導器学や魔導工学の権威であるフューラー先生は俺の勇者教育関係者の一人で、魔導具や魔導器についての知識を教えてくれた。俺の魔力が多いことに着目していて、俺も研究を手伝ったりしていたのだ。
「あー、それは皆々様にお手間をおかけしまして……」
「何を言うか。曖昧に続いていた制度を変更する契機になったのだ。良いことだろう、勇者殿よ」
そう言ったダールベルクは、はっはっはと豪快に笑った。
一緒に笑んでいたルサリオンは、二人へと視線を移し再び尋ねた。
「それで、如何様になさいますか」
「迷惑をかけなきゃ、低ランクでもいいか?」
「とおっしゃいますと?」
「俺たちは、冒険者の嗜みを全く知らない。低ランクからきちんと学びたいと考えている。なので――」
そう言ってアレクはエルを見る。
その視線を受けて首肯したエルも、アレクへと視線を返した。
「E級から始めさせてもらえないか」
「僕もそれでお願いします。さすがにF級からだと、道のりは長そうだしね」
アレクとの宣言に合わせて、ふふっとエルは笑った。
二人とも、ちゃんといろいろと考えていたのだな。
俺のガキの頃とは大違いだ。
あの頃の俺は、皆の期待に答えたくて、とにかく強くあろうとしていた。
強くなければ魔王は倒せないと思っていたからだ。
冒険者の嗜みとか、他には常識とかお約束とか、そういうのは随分と欠如していたんじゃないかと思う。
「お前、何か悪く考えてるだろ」
いつの間にか手を離していたアレクが、今度は俺の頬を軽く摘み、訝しげに尋ねた。
え、なに、どうした。
「さっきのマスターの話、忘れたのか? お前が強いのは、冒険者の経験があるからだって。だから俺たちの言葉を穿って取るなよ」
「穿ってないぞ」
「今、変な顔してたぞ」
そう言って、俺の顔をむにっと小さく引っ張ってから手を離した。
「そうだ。お前の功績は、ギルドでもとても評価されているし、良い改善にも繋がっている。感謝することはあっても、間違っても悪しきことはない」
「ギルド職員たちだって、少しは仕事が多い方が良いのですよ。少々アクシデントがある方が、学びも多いです。頑張ってくださる方がいるというのは、彼らの為にもなっているのですから」
アレクの心遣いを受けて、ダールベルクもルサリオンも俺に言葉を投げかけてくれた。何かありがたいなと思ってしまう。
「それに、ヴァルは多くに慕われていたからな。さすがに六年では人の出入りは多いが、それでも――」
ダールベルクの言葉が途中で止まる。目を細めて、俺たちの後ろへと視線を流した。
俺もその原因に気がついて、振り返って顔を扉の方へと向ける。
廊下が騒がしい。弱く防音の魔法がかけられているのか、正確な情報が得られない。なんだろう。
ダールベルクがすぅと息を吸ったかと思うと――
「入って構わぬぞ」
大きく声を張った。部屋が揺れんばかりの声。
ルサリオンは慣れたものでしれっと紅茶を飲んでいる。
エルはひゃっと小さく声を漏らして、俺にしがみついた。
アレクも驚き背筋がぴーんとして固まっている。騎士団でヴォルフガング師匠が怒鳴った時と同じ反応だ。
くくくと笑いを堪えていると、廊下の騒がしさが大きくなった。
「待っているやつはおるのだよ」
ダールベルクがそう言うとともに、大きな音を立てて扉が開かれる。
ノックもなく確認も断りもなく、一人の男が入ってきた。
「ヴァルさん!!!」
橙じみた褐色の髪に落ち着いた色みの軽装備を身に着けた男が、俺を見るなり大きく名を呼んで足音高く歩み寄る。
俺は慌てて立ち上がり、エルの前を通り抜けて歩み出た。
「ヴァル、さん……!」
数歩先で俺の顔を認め、もう一度俺の名を呼ぶとぼろぼろと泣き始める。
そうして男は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺の胸へと飛び込んだ。
倒れ込むように駆け寄り、俺の体を抱くようにしがみつく。
「ヴァルさん! ううぅあぁ、ヴァルさん!!」
「エドワルド!」
その様子に驚きながらも、俺はその男――エドワルドを支えるように抱え込んだ。
エドは俺の胸になするように顔を埋め、背中を小さくだがばしばしと叩いてくる。
「ほんもの、本物だ……! 本物の、ヴァルさん……!」
洟をすする音と震える声音。
ただただ俺の存在を確かめるように、エドは俺に縋り付く。
嗚咽の合間に繰り返される呼吸が暖かく、くすぐったい。
俺はエドの背中をさすってやり、頭を撫でてやる。
「相変わらずすぐ泣くなぁ、お前は。ちゃあんと生きてる、本物だぞ」
「うあぁ、だって、だってなぁ……!」
「俺がどんなのかなんて、お前だって十分知ってるだろ。泣くなよ、ほら」
エドの細い体を抱きかかえながら、ポケットから手拭きを出す。顔を上げたエドをぐしぐしと拭いてやる。
充血してしまった鈍色の瞳を確認して、赤くなっている目元を撫でてやった。
「うっうっ、ヴァルさん、元気そうで本当によかった……!」
「お前もな」
心底嬉しそうに喜んでくれるエドに、俺は穏やかに微笑んだ。
俺の元パーティメンバーのエドワルド。
こいつも元気であったのなら行幸だと――
「いってぇ……!」
ちょっと前にあったように、今度は俺の左脇腹が殴られる。
振り返ると、アレクがまた不貞腐れた表情で立っていた。
「久々の再会だろう。野暮なことは言わんが、座って落ち着いたらどうだ」
ダールベルクが柔らかく微笑んだ。
エドワルドは、はいとうなずいて、俺から離れる。
ちらりと俺の顔を確認すると、へらっと嬉しそうに笑った。
六年ぶりで互いに年を取っていたわけだが、その笑顔は確かに昔のままだった。
◇
俺とエドワルドの出会いは十年前。
グリュンフェルト近くのダンジョンで行方不明になった初心者パーティを救出に向かったところ、一緒に救出することになったのがエドワルドと、その相棒のラドウェルだった。
初心者パーティは、崩れた所からそれまで見つかっていなかった下層へと入り込み、奥へと進み過ぎていたらしい。長く秘匿されていたその下層には、誰の目にも止まらなかった魔力溜まりがあり、そこから滲み出てきた魔物たちが多数徘徊していた。
それらから初心者パーティを助けたのが二人で、その際ラドウェルは瀕死の怪我を負ってしまっていた。
そのラドウェルを、自身もボロボロながら必死になけなしのポーションと手当てで救おうとしていたのがエドワルドだった。
周りの魔物駆除をしながら捜索していた俺は無事そこへ辿り着き、初心者パーティをすぐさま転移でギルドに放り込んだ。
そうして瀕死のラドウェルと疲労困憊のエドワルドに治癒魔法をかけ、二人も無事助けることができたのだった。
救出が終わったら周辺の掃除をすることになっていたので、治癒で元気になった二人が手伝ってくれたんだよな。
その縁で懐かれてしまって、パーティを組むまでに至ったんだ。
「……という感じなんだが、納得してくれるか?」
俺がアレクたちに説明する。
黙って聞いていたアレクだったが、厳しい顔で見解を述べる。
「それって大丈夫か? 他のダンジョンに同じようなものはなかったのか? 魔力溜まりがあるということは、危険な魔物も多くなるってことだろ」
あぁ、この子はもう既に使徒として物事を見てるんだな。
俺はそう感慨深く思った後、アレクの頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でた。
「その時点で一通りは調べたから安心しろ。当時、同様なことが起きたら俺個人が対応していたんだが、それ以降はパーティで対応するって話に決まったんだ」
一人用のソファに腰掛けたエドワルドが、こくりとうなずいて俺の言葉を補ってくれる。
「ヴァルさんと俺たちはパーティを組んで、この街の冒険者では対応できない難易度の依頼や緊急依頼を受けることにしたんだよ。それはヴァルさんがパーティを抜けた後も続いている。だから心配しなくていい」
そう言って、少し鋭い目を柔らかくして微笑む。
俺が抜けても、この街の安全のために身を粉にしてくれてるんだな。それがエドワルド自身の口から聞けて、俺はほっとした。
そんな俺の横で、そのエドの笑みを不服とするかのようにムスッとした表情で睨むアレク。その左手はまた、ぎゅっと俺の右手を握っている。
なんだ、どうしたんだ、さっきから。
「ヴァルさん、俺も一つ聞いていいですか」
どうしたと返すと、エドワルドは続けた。
「どこかで隠し子でも見つかったんです?」
「お前、俺のことをなんだと」
「来る者拒まず、流れた浮名は数知れず?」
「なんだその雑な表現は」
「いや、俺もラドも同じ認識なんですけど」
どういう認識だと、思わず苦笑いと溜息が溢れた。
別にそんなことないと思うんだが。そりゃあ、勇者だってんで寄ってくる奴は多かったけどさ……。
「この子らはそういうんじゃない。こっちはエル、友人が引き取って育ててる子で、こっちはアレク、俺が引き取ってる」
「ヴァルさんが、子育て……」
エドワルドが驚いて言葉を失っている。
鈍色の瞳は、驚愕のあまり白黒しているように見えた。
「何を言うか。十年前とて、お前たちを育てる様は子育てと変わらなかったぞ」
「あ! だからこの前、俺に親離れしろって言ってたんですね」
ダールベルクが楽しげにからかい、それを聞いたエドワルドが首を振りつつも笑っている。
エドワルドのやつ、ギルドとも上手くやっているようでよかった。俺が抜けたもののエドのパーティの扱いは、少々特殊だ。ギルドとの関係性は、互いにとって重要だろう。
それが上手く続けられているのであれば、良いに越したことはない。
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