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二人の住処 1
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「ただいまー、っと」
ブーツの砂を落としながら、玄関の扉を開く。家の中からは、夕食の旨そうな匂いが漂っていた。
そのいい匂いに、バースィルは腹を鳴らす。少しだけ襟足が長い髪と同じ赤色をした三角耳が頭上でピコピコと喜びを表し、ふわりとした毛並みの長い尾が機嫌よく揺れた。西方の狼獣人は情熱的で感情表現が豊かな者が多く、バースィルも同族の彼ら同様に表情や耳や尻尾で自身の感情をよく表した。
今日も朝から仕事を頑張ってきた。同棲というよりも転がり込んだと言ったほうが正しい家で、恋人が夕飯を作って待ってくれている。
そんな愛の巣らしい生活に、バースィルは琥珀色の瞳を細め思わずニヤけた。
団の色である赤があしらわれた白い騎士服の合わせを寛げながら、ダイニングへと足を踏み入れる。
中には、皿によそった料理をテーブルへ置く恋人の姿。
白の柔らかなシャツを着た体はすらりと細身で背が高く、黒のシンプルなエプロンが似合っている。宵闇を思い起こさせる紺の入った黒髪は今日も美しく艷やかで、耳へかからなかった一房が頬の辺りに影を落としていた。色白の肌との対比は美しい。こちらを認めて眼鏡越しに細められた瞳は、夕焼けと夜空の混ざったような暖かい色をしていた。それは美貌を柔らかに彩っている。バースィルはこの不思議な瞳の色が好きだった。
バースィルは満面の笑みで恋人に歩み寄った。そのまま、がばりと抱きしめる。
「帰ったぞ、ウィアル」
「おかえりなさい。……こら、団服を脱いでからですよ」
ウィアルは、慌てて皿をテーブルに置いてから、バースィルの抱擁を甘んじて受けた。口ではそう言うものの、大人しく腕の中に収まる様を見てバースィルも満足げだ。ゆったりと機嫌よく尻尾も揺れてしまう。
ウィアルの肩口に顔を埋めてすうぅと嗅げば、深い森を思い出させるような落ち着いた匂いがする。バースィルは、この匂いも好きだった。堪らず顔を擦り付ければ、ウィアルはくすぐったそうに肩を揺らして小さく笑った。
いい匂い、優しい声、そして心地のよい体温。すべてが腕の中の恋人を知らせてきて堪らない。腹が減っていたはずなのに、違う欲が頭をもたげる。
「なぁ、ウィアル……」
「はい、どうしました」
顔を上げれば、穏やかな笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。自分の朝日のような瞳とは真逆の、夕日を思わせるそれ。室内灯を反射して、星のように月のように煌めいている。
バースィルは、一つ笑んでウィアルの頭に唇を落とした。そうして頬ずりしながら囁いた。
「愛してる。なぁ、……したい」
そう切なく乞えば、ウィアルが体を固まらせたのが分かった。表情はさほど変わらないが、眦が少し赤みを帯びているようだ。よく見れば微かに口元が窄められているようにも見える。
バースィルは、あと一押しとばかりに赤い眦に口付ける。
「なぁ……、だめか?」
琥珀の瞳でまっすぐに見つめれば、夕日の双眸は僅かに揺れた。
「……夕食、が先です。それから、……シャワーも」
そう言って、ウィアルは困ったような恥じらったような感情が混ざりあう顔で、少し視線を逸した。
バースィルはというと、にんまり喜色満面で、愛しい恋人を抱きしめていた。それから片手をウィアルの頬へと添えると、顔を自身の方へと向けさせる。そして唇へと顔を寄せた。ウィアルは少し躊躇ったものの、応えるように顎を上げてくれる。
重なる唇は薄いながらも柔らかく、食むようにふにふにと堪能したバースィルは、割り入るように舌の侵入を試みた。しかし入ってすぐの歯列に阻まれ、中の温かさは味わえない。数回、伺うようにつついてみるが開かれはしなかった。なら仕方がないと引き下がる、今だけは。
しばらく抱き心地と香りを堪能したバースィルはウィアルを解放し、騎士服を脱いでコート掛けへ吊るした。シャツの一番上のボタンを外し、襟を寛げる。それから流しで手を洗った後、食事をテーブルへ運ぶ手伝いをした。
ソーセージと野菜がたくさん入ったポトフ、予め大きめにカットされたステーキ、柔らかくマッシュされたポテトに葉物サラダ、手製のピクルス、そしてフライパンで丁寧に炒められたバターライス。どれも旨そうだし、実際旨いだろう。
「今日も旨そうだ。ありがとな、ウィアル」
「どういたしまして。口に合うと良いのですが」
「お前の料理は、何でも旨いよ」
テーブルに向かえば、性欲は早々に引っ込み食欲がバースィルを支配する。ゴクリと喉を鳴らした後、二人で女神に祈ってから手をつける。好物の肉から口へと運んだ。少し手早く焼き上げられたそれは、柔らかで弾力があり、肉汁を口内へと溢れさせた。
自分のことを考えて作ってくれた食事だ。旨くないわけがなかった。
ブーツの砂を落としながら、玄関の扉を開く。家の中からは、夕食の旨そうな匂いが漂っていた。
そのいい匂いに、バースィルは腹を鳴らす。少しだけ襟足が長い髪と同じ赤色をした三角耳が頭上でピコピコと喜びを表し、ふわりとした毛並みの長い尾が機嫌よく揺れた。西方の狼獣人は情熱的で感情表現が豊かな者が多く、バースィルも同族の彼ら同様に表情や耳や尻尾で自身の感情をよく表した。
今日も朝から仕事を頑張ってきた。同棲というよりも転がり込んだと言ったほうが正しい家で、恋人が夕飯を作って待ってくれている。
そんな愛の巣らしい生活に、バースィルは琥珀色の瞳を細め思わずニヤけた。
団の色である赤があしらわれた白い騎士服の合わせを寛げながら、ダイニングへと足を踏み入れる。
中には、皿によそった料理をテーブルへ置く恋人の姿。
白の柔らかなシャツを着た体はすらりと細身で背が高く、黒のシンプルなエプロンが似合っている。宵闇を思い起こさせる紺の入った黒髪は今日も美しく艷やかで、耳へかからなかった一房が頬の辺りに影を落としていた。色白の肌との対比は美しい。こちらを認めて眼鏡越しに細められた瞳は、夕焼けと夜空の混ざったような暖かい色をしていた。それは美貌を柔らかに彩っている。バースィルはこの不思議な瞳の色が好きだった。
バースィルは満面の笑みで恋人に歩み寄った。そのまま、がばりと抱きしめる。
「帰ったぞ、ウィアル」
「おかえりなさい。……こら、団服を脱いでからですよ」
ウィアルは、慌てて皿をテーブルに置いてから、バースィルの抱擁を甘んじて受けた。口ではそう言うものの、大人しく腕の中に収まる様を見てバースィルも満足げだ。ゆったりと機嫌よく尻尾も揺れてしまう。
ウィアルの肩口に顔を埋めてすうぅと嗅げば、深い森を思い出させるような落ち着いた匂いがする。バースィルは、この匂いも好きだった。堪らず顔を擦り付ければ、ウィアルはくすぐったそうに肩を揺らして小さく笑った。
いい匂い、優しい声、そして心地のよい体温。すべてが腕の中の恋人を知らせてきて堪らない。腹が減っていたはずなのに、違う欲が頭をもたげる。
「なぁ、ウィアル……」
「はい、どうしました」
顔を上げれば、穏やかな笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。自分の朝日のような瞳とは真逆の、夕日を思わせるそれ。室内灯を反射して、星のように月のように煌めいている。
バースィルは、一つ笑んでウィアルの頭に唇を落とした。そうして頬ずりしながら囁いた。
「愛してる。なぁ、……したい」
そう切なく乞えば、ウィアルが体を固まらせたのが分かった。表情はさほど変わらないが、眦が少し赤みを帯びているようだ。よく見れば微かに口元が窄められているようにも見える。
バースィルは、あと一押しとばかりに赤い眦に口付ける。
「なぁ……、だめか?」
琥珀の瞳でまっすぐに見つめれば、夕日の双眸は僅かに揺れた。
「……夕食、が先です。それから、……シャワーも」
そう言って、ウィアルは困ったような恥じらったような感情が混ざりあう顔で、少し視線を逸した。
バースィルはというと、にんまり喜色満面で、愛しい恋人を抱きしめていた。それから片手をウィアルの頬へと添えると、顔を自身の方へと向けさせる。そして唇へと顔を寄せた。ウィアルは少し躊躇ったものの、応えるように顎を上げてくれる。
重なる唇は薄いながらも柔らかく、食むようにふにふにと堪能したバースィルは、割り入るように舌の侵入を試みた。しかし入ってすぐの歯列に阻まれ、中の温かさは味わえない。数回、伺うようにつついてみるが開かれはしなかった。なら仕方がないと引き下がる、今だけは。
しばらく抱き心地と香りを堪能したバースィルはウィアルを解放し、騎士服を脱いでコート掛けへ吊るした。シャツの一番上のボタンを外し、襟を寛げる。それから流しで手を洗った後、食事をテーブルへ運ぶ手伝いをした。
ソーセージと野菜がたくさん入ったポトフ、予め大きめにカットされたステーキ、柔らかくマッシュされたポテトに葉物サラダ、手製のピクルス、そしてフライパンで丁寧に炒められたバターライス。どれも旨そうだし、実際旨いだろう。
「今日も旨そうだ。ありがとな、ウィアル」
「どういたしまして。口に合うと良いのですが」
「お前の料理は、何でも旨いよ」
テーブルに向かえば、性欲は早々に引っ込み食欲がバースィルを支配する。ゴクリと喉を鳴らした後、二人で女神に祈ってから手をつける。好物の肉から口へと運んだ。少し手早く焼き上げられたそれは、柔らかで弾力があり、肉汁を口内へと溢れさせた。
自分のことを考えて作ってくれた食事だ。旨くないわけがなかった。
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