オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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二人の邂逅 1

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 赤槍騎士団の仲間たちと訪れたカフェは、壁一面の棚に古めかしい書物が並び、まるで小さな図書館のようなところだった。
 店の中には、木材と本とコーヒーと食事の香りが漂っていて、異質な匂いが混ざり合っているにも関わらず不快さはなかった。種族柄鼻のいいバースィルですら気にならないのだから、他の同僚たちも気にしていない。むしろ「今日も美味しそうな匂いがするね」と、隣に立つ垂れ耳兎のエミルはご機嫌だった。

 若い男の店員に六人掛けの席に通されて、メニューを見る。
 しっかりした木製の板に紙が留められており、手書きの料理名と価格が並んだシンプルなものだ。文字は形が整っているが流れるように美しく、共通語で分かりやすく書かれているそれは誰が見てもどんな料理か想像できる内容だった。

 カフェということで軽食だけと思っていたのだが、種類は少ないものの想像以上にがっつりしたメニューもあった。班長の話だと、騎士団の連中がよく来るらしく、しっかり腹ごしらえできるメニューがあり、かつ日替わり、週替わりも用意されているとのことだった。
 これなら自分の腹も十分満たせそうだと、バースィルは、日替わりメニューのガーリックライスとステーキのプレートを大盛りで頼んだ。「また肉か」と、幼馴染のシュジャーウは笑いながらも同じものを頼んでいた。他の皆も好き好きに選んでいく。
 一通り注文すると、テーブルには水差しと人数分のグラスが置かれた。澄んだ水は檸檬のような柑橘系の香りがしていた。

 店の中は、一人で来店し本を読みながら軽食を食べている者、バースィルたちのように複数人で訪れて食事をしている者と、カフェのようであり小洒落た食事処のようでもある。
 客層は、冒険者、衛士隊、そして騎士団というところだろう。ただ冒険者にしては質のいい服装をした魔術師もいて、王都の冒険者は実入りが良いのだろうかとバースィルは考えた。
 店員は先程の若い店員のみのようで、バースィルの抱いた印象は「随分と地味な男だな」だった。あとは奥のキッチンにコックでもいるのだろう、人の忙しげな気配がしていた。
 床はきれいに掃き清められ、軽い色味の木製テーブルも磨かれていた。近くの観葉植物を見れば葉も艶があり色鮮やかで、各所に手入れが行き届いているのだと理解できた。
 ただし、先程から店全体をよく見ようとすると、どうにも曖昧さが際立つ気がしてならない。バースィルは少し違和感を感じるも、原因は見当が付かなかった。

 この店に連れてきてくれたのは、バースィルが所属する小隊内の班長で、名をケヴィンという。
 褐色の短髪に鈍緑の瞳はヴォールファルトではよくある色で、彼がこの国出身だと伝えてくる。性格はおおらかで比較的真面目ながら、程よく抜いた性分のようで、バースィルにとって騎士団が居心地の良い場所だと思える一端を担ってくれている。
 今日は彼の奢りだ。勝手に大盛りにしたが、どんどん食べろと笑ってくれるばかりだった。
 他のメンバーは同じく班の仲間たち。垂れ耳と水色の髪が可愛らしい兎獣人のエミル、温厚でお人好しなラース、飄々としているが面倒見のいいハンネス、そしてバースィルの幼馴染シュジャーウだ。エミルは東南キュアノス共和国の出身、他の二人はヴォールファルト生まれらしい。

 シュジャーウは、もちろんカタフニア生まれのカタフニア育ち。豹獣人でバースィルとは同い年だ。
 金髪に横髪の一筋だけ黒が走り、後ろの毛は一房だけ長くし黒紐で結わえてあるのが特徴的だ。細身で靭やか、誇れる俊敏さは豹獣人の特徴を存分に活かしている。髪と同じニ色の散った小ぶりな耳、柔軟さを伝えるように揺れる長い尾が美しい種族である。
 バースィルの母親の生家が経営する細工工房の職人の長子で、同い年ながら長男らしくバースィルの面倒をよく見ていた。バースィルが突然冒険者になると言い出した時も、旅に出ると言い出した時も「いいんじゃない」と二つ返事でついてきてくれた。バースィルにとっては、心から信頼できる小さい頃からの相棒だ。
 彼はまた二つ返事で騎士団を志願し、上の計らいで二人まとめて同じ班に入れてもらえた。もちろんまとめて面倒を見れるという利点が大きいのだろうが、班員の気性も踏まえ異邦人の二人が過ごしやすいようにとの心遣いを感じている。

 王都に来てまだ三ヶ月、団に入ってそろそろひと月の二人に、班長は不便がないか尋ねてくれる。

「二人とも、不便はないかな」

 ケヴィンの問いに、バースィルもシュジャーウも首を振って返した。

「あぁ、大丈夫だ、皆が良くしてくれる」
「うん、そうだね。とても助かっています」
「そうか。もし気になることがあったら、気軽に相談してくれよ」

 この気さくな班長は、新人の二人をよく気にかけてくれているようだ。
 二人は、班も団も寮も来たばかりの自分たちには身に余る環境だと、感謝を添えて報告した。まだ仮採用の身だが早く正式採用になりたい、そう伝えれば、皆激励の言葉をかけてくれる。

「私たちも協力するから頑張って。二人が正式採用になってくれたら、とても心強いよ」
「そうそう。それに今は班長も手伝ってくれてるけど、三人でやってるもんね。人数がちゃんといる方が安心だし、二人とも頼りにしてる」

 ラースとエミルは互いに顔を見合わせて頷いた。浮かんだ笑みは、バースィルたちへの信頼が垣間見れるものだった。
 その様子に、ハンネスも同意する。

「だなぁ。それに早く正式採用になってくれれば、俺たちも仕事が減って助かるしな」

 二人に続いたハンネスの言い分に、ケヴィンが苦笑いを浮かべる。

「楽することばかり考えていたら駄目だぞ」
「班長だって、仮採用の書類が減って楽になるっしょ」
「ハンネス、お前なぁ」

 ケヴィンは、呆れたようにというよりも、仕方がないなぁといったような表情で笑った。
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