オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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不意の訪問 1

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 貸本屋カフェ『ランディア』に入り浸っているバースィルだが、普段は真面目に騎士として働いている。
 赤槍騎士団専用の建物に併設された独身者向けの宿舎で寝泊まりし、朝から出仕し夕刻まで働く。練兵場で皆と体を鍛え、王都内を警らし問題があれば対処する。必要な書類の作成や備品管理、先日の詰め所への配達もその一つだ。

 ヴォールファルト王国が有する騎士団は複数あり、目的に合わせて各地に拠点持っていた。その内、王都常駐のために王都内に拠点を持つ騎士団は二つある。
 王家を護る銀剣騎士団と、王都を守る赤槍騎士団だ。

 銀剣騎士団は、近衛として王族を護ることと王城の守護が任務となっている。
 所属は、様々な騎士団で成果を上げた者や、王国内の貴族が多い。また王族の御学友など、年代の近い親しい間柄の者が選ばれることもしばしばだ。基本的には、王立学園の騎士科を卒業した者が志願する騎士団である。

 赤槍騎士団は、バースィルたちが入団しているように、長期滞在の意志があれば異邦人でも採用されることが多い。平民や冒険者上がりの騎士も多数所属している。そのお陰か、王都住民との関係もよいものだった。
 任務内容は、王都の警備と安全確保。王都衛士隊と協力し王都を守るため、王都内の警らから周辺区域への遠征などをおこなっている。
 ちなみに、王都衛士隊は、主に住民の兵士たちによって組織されていて、赤槍騎士団と共に王都を守っている。分かりやすいところだと、門衛や検問は衛士の担当だ。

 王都を拠点とするこの二つの団には、白を基調にそれぞれの掲げた色を合わせた制服が用意される。赤槍なら、白地に赤が差し色のものだ。襟や袖口、襟の返しなどに鮮やかな色が添えられ、金糸もあしらわれている。
 バースィルたちも、仮採用ながら制服は渡されており、仮採用になった時点で余程のことがない限りは正式採用前提なのだなと理解していた。


 本日も、白と赤の制服に身を包み出仕すれば、班の皆とともに業務に当たる。午前は書類仕事を進めた後、練兵場での鍛錬、休憩を挟んだ午後からは商業区の警らが割り当てられていた。
 本来なら夜間の警らもあるのだが、仮採用の二人がいるという理由で、ケヴィン班は本採用まで免除されている。これに関しては、暫くは夜勤なしになることもあり、特にハンネスからは感謝された。
 そのような理由もあって、バースィルたちは、朝から夕刻までの出仕となっていた。

 粛々と書類仕事を進めれば、あっという間に鍛錬の時間になった。バースィルとシュジャーウは仮採用の身、警らの報告書や住民からの情報をまとめる仕事くらいで、まだ軽いものではあった。さっさと作業を済ませると、鍛錬を楽しみに席を立つ。
 他の三人は慌てて書類をまとめると、ケヴィンに提出して、二人とともに部屋を出た。

 班の皆と練兵場へ向かえば、他の班の者たちも姿を現す。警ら中の者たちと、夜勤の班を除いて、赤槍のほとんどの騎士が揃っている状況だ。
 新参のバースィルとシュジャーウだが、それなりに知り合いはできてきた。班ごとの活動が多いものの、施設内でも顔を合わすし、大きなところの清掃や倉庫整理などでは協力することもあったからだ。
 互いに挨拶を交わし合った後、班ごとに集まって身体をほぐし温める。そうしていると、少し遅れていた鍛錬指導の先輩騎士がやってきた。

 彼らの指示に従い、手始めに筋力鍛錬や反復運動などで体を鍛え、続いて拠点の周りを走り込む。その後、鍛錬用の剣を使用しての手合わせだ。

 数ヶ月前まで現役の冒険者だったバースィルたちだ。正規の騎士たちにも遅れることなく、淡々と鍛錬を進めていく。
 バースィルからすると、父との鍛錬のほうが正直きつかった。まだ子供であったからという理由もあるが、先ず以て父が容赦なかったからだ。今でも偶にではあるがあの頃の夢を見、嫌になって目を覚ますことがある程だ。
 早々に走り込みを終えると、シュジャーウと共に刃の潰れた剣を手にする。冒険者時代にも手合わせをしてきたからこそ、手の内を分かりあった相手は互いに苦戦を強いられる。それ故に、手合わせのしがいがあった。

 二人で剣を打ち合っていると、班の仲間たちも走り込みから戻ってくる。
 肩で息をしているエミルに水を渡しながら、ハンネスは二人に声をかけた。

「お前ら、熱心なのはいいが、ちゃんと水飲め」

 そう言われて、はたと気がついた二人は、程よく剣を下ろす。三人の元へ歩み寄れば、ラースがタオルを差し出してくれた。礼を言ってそれを受け取る。ハンネスも木製カップに水を入れて、二人へと手渡した。

「お前ら、丈夫な分、ケアがなってない。ちゃんと水は摂る、汗は拭く」

 シュジャーウがお母さんかと笑えば、「言うこと聞かないと、お父さんに言いつけるわよ」とハンネスは拳を振り上げた後、からからと笑った。お父さんとはおそらくケヴィン班長のことだろう。皆でその様子を思い描き、声に出して笑った。
 バースィルとシュジャーウは、汗をしっかりと拭き水で喉を潤わせ、再び剣を手に取る。

「二人とも元気過ぎる」

 その姿を見たエミルは、うええと溜息をついた。
 エミルは、小柄なため瞬発力は追随を許さないが、どうしても持久力は他者に劣る。馬の扱いが得意とか、武器の手入れが上手いとか、そういった評価されるものはあるのだが、二人の体力は素直に羨ましいと溢した。
 三人も一息入れると、それぞれ剣を手にした。まずは単独で剣を振るう。暫くすれば打ち合いに満足したバースィルたちが戻ってきて、他の班の者たちも交えた打ち合いを開始した。
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