オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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合間の偶然 3

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 バースィルは、ランディアまで無事ウィアルを届けた。
 店先で掃き掃除をしていたブラントに事の次第を報告すれば、彼から随分と深く感謝をされてしまう。どうやら、いつもであればブラントがお伴をする決まりだったようで、今日はなかなか手が離せずウィアル一人で出てしまったらしい。

「じゃあ、買い出しの日は、俺が休みの日にすれば? ついてってやれる」

 何ともなしにそう言えば、ブラントが胡乱な目でバースィルを見据える。

「……それは、不純な動機ですか?」

 どうこう言いながらも、ブラントには警戒されてしまっているらしい。
 バースィルにとってのブラントは、誠実で口数が少ない男という印象だった。
 仕事中は無口で、接客も必要な会話のみ。人見知りというわけではなく、言葉を選んで会話をするようだ。ただのカフェの店員としては体つきが整っており、店員一本の仕事ではないのだろうなと思っていた。
 バースィルの動向にも興味を持たないようにしている、それがブラントだと考えていたのだ。

 そんな彼から警戒されている当のバースィルは、少し考えるような素振りを見せた後、愉快そうに言った。

「動機は不純じゃないが、下心はある」

 ブラントは、驚いたというよりも呆れたように、涅色くりいろの双眸を微かに見開いた。そして眉尻を下げて笑う。

「まあ、バースィルさんですからね」
「そりゃどういう意味だよ」
「そのまんま、かな」

 互いに顔を見合わせて笑い合った。それから「敬語やめてくれ」とバースィルが頼めば、ブラントも「分かった」と頷いてくれた。
 バースィルは、この誠実そうな店員とも距離が近くなれたのではと、嬉しく思った。


 買い出し品に損害はなかったし、ウィアルも気にしていないとのことだったので、今回はこれ以上は取り沙汰さないことにした。
 ただし、また同じようなことがあれば、ちゃんと詰め所か警ら中の騎士や衛士へ報告するようにと念を押しておいた。

 ウィアルは礼にコーヒーを出そうとしたが、バースィルはまだ職務中だからと断った。ウィアルも食い下がらず「では次来てくださった時に」と優しい笑みを浮かべていた。
 いつもの星と月の煌めきが瞬いていて、バースィルは心底安心したのだった。

 そうして、店の皆に別れを告げ、店の扉をくぐって外に出る。すっかり傾いた太陽が影を長く伸ばしていた。
 さて今度こそ拠点に戻るかと、バースィルは歩き出す。

「バースィル」
「ん?」

 呼ばれて振り返れば、ブラントが後を追って店から出てきたところだった。

「マスターのこと、本当にありがとう」
「大したことはしてねえよ。偶然通りかかれるなんて、ウィアルの運がよかったんだ」

 本当にそう思う。
 もしあの時、あの場所にいなかったらどうなっていたことか。冒険者たちの様子を見る限り、とんでもないことにはならなかったと思うが、それでも気に病むことにはなっただろう。

「それにしても、随分と気にするじゃねえか」
「ん、あぁ……」

 バースィルの問いに、ブラントは言葉が詰まったようだ。それなら言わなくて大丈夫だと伝えようとしたら、先に口を開かれる。

「……彼は恩人だから。彼に恩を返したくて、ここで働かせてもらってるんだ。万が一、彼に何かあったら悔いても悔いきれない」
「そうなのか。あんた、そういうの大事にしそうだもんな」

 そう返せば、ブラントは僅かに笑った。どうやら気恥ずかしく思ったようだ。そんな照れた笑みを落ち着け、ブラントは言葉を続けた。

「俺も毎日店に出れるわけじゃない。街を離れることもある。だから、実のところ、バースィルの存在には助かっているんだ」

 そんな風に思われていたのかと、バースィルは驚いた。
 シェフのように邪険にはしないが、ヘンリーのように気さくに話しかけてくるほどでもない、そういう態度を取るのがブラントであった。
 いやもちろん、シェフも嫌っているわけではないとちゃんと理解しているが、ウィアルやヘンリーのように目に見えて友好的ではないのは確かだ。そんな皆の対応のちょうど中間、無関心がブラントの選択だと思っていたのだ。

「まあ、恋敵じゃないなら、仲良くしてくれよ」

 バースィルが戯けて言えば、ブラントは噛みしめるように笑った。表情は少ないと思っていたが、よくよく見れば機微も見つけられるものだなと、バースィルも微笑みがこぼれた。
 笑い終えたブラントは一つ頷く。

「じゃあ、これからも頼むよ」
「ああ、もちろんだ」

 そう言って互いに手を振り合って、バースィルは本部へ戻った。
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