オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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合間の偶然 2

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「怪我もないし、損壊もないようだから、どうするかはウィアルに任せる。詰め所に連れてってお小言を食らわせとけってんなら、俺が連れてくわ」

 バースィルが窺うようにウィアルの顔を振り返れば、ウィアルは慌てて首を振った。

「滅相もない。そういう気分の時もありますよね。私は慣れてますから、彼らを咎めることはしません」

 慣れてちゃだめなんだがと、バースィルは思わず呆れる。それで、はたと気が付いた。

 曖昧な感覚のする店。シュジャーウの言う隠蔽魔法。エミルの言っていた地味な恰好。
 なるほど、こういうことを減らすために店に魔法をかけてるのか。
 それなら納得できるなと、バースィルは一人肯いた。

「ほら、感謝してさっさと店なり宿なりに行けよな。綺麗どころと酒飲みたいなら、南の方にそういう通りがあるから」

 そう言って追い払おうとすれば、ひょろりとした細身の男――服装をよく見たら魔法使いなのだと見て取れた――がペコペコと頭を下げながら、仲間たちと共に主犯の二人の背を押して通りの奥へと促していく。その通りにある安宿の一つへと消えていった。

 宿に連れ込まれてたら堪ったもんじゃねえなと、無事にウィアルを救えたことに胸を撫で下ろす。
 一つ安堵の溜息をついて、ウィアルへと振り返った。買い出しの帰りだったのだろう、両腕には二つ買い物袋を抱えていて、ずれ落ちそうな一つを取り落とさぬよう支えていた。
 その落ちそうな袋を支えて、抱え直させる。

「バースィルさん、ありがとうございます。分かってもらえなかったら、武力行使くらいしか思いつかなかったので助かりました」

 安心し切ったふんわりとした笑顔。細められた瞳は、傾き始めた陽光を拾い上げて殊更美しい色を湛えていた。薄くも柔らかそうな唇は、嬉しそうに綻んでいる。
 こんなんだから絡まれるんだよと心の中でぼやいて、バースィルは首を振った。

「武力行使なんて、あんたにできるもんかよ。相手は現役の冒険者だぞ、ったく。
 ……大事がなくてよかった」

 思わず手を伸ばして、柔らかくだが抱きしめる。
 予想だにしなかったのか、身を躱すこともできずにウィアルは腕の中に収まった。ふわりと深緑を思わせる香りが鼻腔をくすぐる。
 そっと窺えば驚いて見張った上、頬が赤い。これくらいで照れるのかと、愛らしくて笑みがこぼれた。

「だ、大丈夫ですよ、若い人にはそうそう負けません」
「そういうのは、年寄りが言うセリフなんだよ」

 バースィルはそう言いながら、くくくと笑った。ウィアルは何かショックを受けたようで、何とも可愛らしい間抜けな顔で「年寄り……」と呟いた。
 ころころ表情の変わるウィアルが面白くて、バースィルは声を殺して笑う。肩を揺らしながら、彼が抱える荷物の半分を攫うように受け取った。

「あっ」
「もう本部に戻るだけだから、荷運びくらいしてやるよ。ランディアに戻ろうぜ」

 そう言って、スタスタと歩き出す。
 そろそろ五ヶ月も住んでいる街だ。小路だって慣れたもの。迷いなくランディアの方へと足を向ければ、追いかけるように小走りでウィアルが歩み寄った。

「荷物くらい大丈夫ですよ」
「気にすんなって」
「バースィルさんは、どうも私のことを貧弱に思っているきらいがありますよね」

 少し眉根を寄せ、僅かに口を窄めたその顔が可愛かった。自分よりも年上の男なのに、そういう風に見えてしまう愛らしさがあった。
 バースィルは、フッと軽く笑って首を振る。

「貧弱とは思ってねえよ」

 か弱そうとは思ってるけれど、とは口には出さなかった。
 それに気が付かないウィアルは、不満そうな顔でバースィルを見上げながら言葉を続ける。

「こう見えても、昔はやんちゃだったんですよ?」
「やんちゃ……」

 久々に聞いた表現に曖昧な笑みを返しつつ、ウィアルの語彙はなんか古いなと考えていた。しかも、何を以ってやんちゃとしたいのか分からなかったが、ウィアルがそうだったというのは俄に――いや先ず以て信じられなかった。

「ふーん……、今の俺とその時のウィアル、どっちがやんちゃなんだ」

 バースィルが面白そうに尋ねれば、ウィアルは歳に似合わず可愛らしげに暫し首をひねった。

「……バースィルさん、ですかね?」
「ふ、ははっ、やんちゃなんて、ガキの頃に言われて以来だわ」

 バースィルは思わず笑ってしまって、我慢しきれず大きな笑い声が漏れた。
 その楽しげな様子に、ウィアルもつられて朗らかに笑った。
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