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第二章 遠き日の約束
二幕 「ロムトアへ」 二
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二人は人混みをかき分けながら五分ほど歩くと待ち合わせ場所であるリンドという名の喫茶店に到着した。
店の前はオープンテラスとなっており、多くの利用者で賑わっている。
オープンテラスを一通り見回したがヴェルノの姿はみえなかったため、二人は店の扉を開け店内に入った。
店の中も多くの利用者がいて、コーヒーの香りがほのかに漂ってくる。
「うーん、店の中にもいないね。まだ来てないのかな」
ジゼルはそのまま、カウンターに向かうとコーヒーを淹れている最中の店主に声をかけた。
「マルチェロさん、こんにちわ。お父さんって来てないですか?」
ここは王都に来た時に家族でよく使う店であったため、アスもジゼルも店主とは顔馴染みだった。
「いらっしゃい、ジゼルちゃん。ちょっと待ってね」
口元に髭を蓄え、白髪が混じった五十歳くらいの店主マルチェロは優しい声でジゼルに返すと、真剣な表情でドリップを続けた。
フィルターペーパー内の挽いたコーヒー豆にお湯を注ぎ終えると、ドリップされたコーヒーが上品な香りを放つ。
マルチェロは女性店員に出来立てのコーヒーをお客様に運ぶよう指示してから、ニッコリ微笑んでジゼルの方に視線を向けた。
「今のところ、ヴェルノはまだ見かけてないよ。今日はここで待ち合わせ?」
「うん、そろそろ来るとは思うんだけど。・・・じゃあ先に注文しちゃおうかな。マルチェロさん、いつものやつお願いします」
「はいよ。アス君もいつも通りお姉ちゃんと同じでいい?」
「はい、お願いします」
アスがペコリと頭を下げる。
二人はそのままカウンターの席に並んで座った。
しばらくしてマルチェロが二人の前に牛乳のたっぷり入ったコーヒーを一つずつ置いた。
「はい、お待ちどおさま」
「ありがとう。いい香り」
ジゼルはカップを持ち上げ、湯気のあがるコーヒーに二、三、息を吹きかけてから一口啜る。
そんな姉を横目にアスはコーヒーと一緒に置かれた角砂糖を一つカップに落とし、ティースプーンでゆっくりとかき混ぜた。
マルチェロは微笑みながら、ごゆっくりと言うと再びカウンター内に戻り、他のお客から注文されたコーヒーを作り始めた。
二人のコーヒーが半分くらいになった頃、ようやくヴェルノが店に現れた。
「すまんな、遅くなった」
ヴェルノはカウンターに座る二人の元に来ると手刀を切りながら苦笑いをした。
「いいよ、そんなに待ってないし。ところで、後ろの人は?」
ヴェルノの後ろには青いコートを羽織った長髪の青年が立っていた。
アスとジゼルが青年に視線を向ける。
「ああ、今日会ってきた昔の知人に捜索依頼を受けてな。この人はその知人から検分役として派遣された魔操師のタラスで今回の捜索に同行する予定だ」
ヴェルノが二人に青年を紹介するが、青年は照れるように笑みを浮かべると顔の前で否定するように軽く手を振った。
「ヴェルノさん、正しくは魔操師見習いですよ」
「ん、そうだったのか?アイツが信頼して派遣してくる位だから既に魔操師なのかと思ってたよ。・・・えーと、それでこっちの二人がアスとジゼル、俺の子供だ」
ヴェルノの言葉に合わせて、アスは初めましてと頭を下げ、ジゼルはニッコリ微笑んで手を振った。
「お二方、初めまして。タラスと申します。どうぞよしなに」
タラスが二人に対して丁寧にお辞儀を返す。その気品のある所作は生まれの良さを感じさせた。
よく見ればコートの下に着ている服も上質なシルク素材だ。
「さてと、依頼内容を簡単に説明しておきたいが、カウンターでは落ち着かないな。奥の空いているテーブル席に行こう」
ヴェルノはマルチェロに声をかけ、タラスと自分の飲み物を注文すると奥のテーブルに歩を進めた。
アスとジゼルも飲みかけのカップを手に持ち、ヴェルノの後に続く。
席についてから程なく、注文したコーヒーが運ばれてきた。
ヴェルノはそのコーヒーをブラックのまま一口啜ってから、周囲に話が聞こえない程度の小さな声で話を始めた。
「今回の捜索場所は王都の西にあるロムトアという小さな山だ。捜索対象はジョフレという貴族の青年とその従者四名の計五名。予定の日限になっても帰ってこないとのことで、俺に捜索の依頼が来た」
「ふーん、なんか不思議だね。貴族だったら普通は双極に依頼するんじゃんないの?」
ジゼルが首を傾げる。それは至極当然の疑問でもあった。
双極の捜索費用は著しく高いとはいっても貴族からすれば微々たるもので払えない額ではない。
ゆえに公的機関の双極に依頼する方が無難なはずである。
「多分、ロムトアだからかな」
アスが真剣な表情で呟く。
「えっ?なんで?」
「確かロムトアは貴族であっても立ち入ることが許されていない禁足地だったはずだよ。そんなところに勝手に入った事実は公にしたくないから双極じゃなくて鴉に依頼したんじゃないかなって」
ヴェルノが驚いた表情でアスを見た。
「よく知ってたな。依頼の理由はアスの言った通りだ。貴族は特に名声を重視しているところがあるから、誰にも気付かれないように秘密裏に対応してほしいと依頼されている」
「へぇー、もしかしてアス、それもアルジィさんに教えてもらったの?」
「うん、この間たまたま教えてもらったんだ。人の管理化にない原生の山で凶暴な獣や蟲が多数生息しているから近づいちゃ行けないよって」
「なるほどな、アルジィに聞いたのか。アスの言う通り、ロムトアはかなり危険な土地になるから、しっかり準備してから向かおう」
「でも、そのロムトアって場所、禁足地なんでしょ?捜索のためとはいえ勝手に入ってもいいの?」
ヴェルノがニヤッと悪そうな顔をする。
「そりゃあ勿論駄目だよ。だが、禁足地といっても誰かが四六時中見張っているというわけじゃない。入ること自体は容易だから今回はこっそりと忍び込むつもりだ。・・・見つかったらそれなりにお咎めはあるだろうが、まぁ大丈夫だろう」
「大丈夫だろうって言われても、なんかすごく不安なんですけど。・・・ねぇアス」
ジゼルが同意を求めるようにアスの方に顔を向けたが、その表情を見て溜め息をついた。
禁足地のロムトアに入るということで好奇心を刺激されていたアスの目は、既に期待に胸を膨らませるかのようにキラキラと輝いていた。
店の前はオープンテラスとなっており、多くの利用者で賑わっている。
オープンテラスを一通り見回したがヴェルノの姿はみえなかったため、二人は店の扉を開け店内に入った。
店の中も多くの利用者がいて、コーヒーの香りがほのかに漂ってくる。
「うーん、店の中にもいないね。まだ来てないのかな」
ジゼルはそのまま、カウンターに向かうとコーヒーを淹れている最中の店主に声をかけた。
「マルチェロさん、こんにちわ。お父さんって来てないですか?」
ここは王都に来た時に家族でよく使う店であったため、アスもジゼルも店主とは顔馴染みだった。
「いらっしゃい、ジゼルちゃん。ちょっと待ってね」
口元に髭を蓄え、白髪が混じった五十歳くらいの店主マルチェロは優しい声でジゼルに返すと、真剣な表情でドリップを続けた。
フィルターペーパー内の挽いたコーヒー豆にお湯を注ぎ終えると、ドリップされたコーヒーが上品な香りを放つ。
マルチェロは女性店員に出来立てのコーヒーをお客様に運ぶよう指示してから、ニッコリ微笑んでジゼルの方に視線を向けた。
「今のところ、ヴェルノはまだ見かけてないよ。今日はここで待ち合わせ?」
「うん、そろそろ来るとは思うんだけど。・・・じゃあ先に注文しちゃおうかな。マルチェロさん、いつものやつお願いします」
「はいよ。アス君もいつも通りお姉ちゃんと同じでいい?」
「はい、お願いします」
アスがペコリと頭を下げる。
二人はそのままカウンターの席に並んで座った。
しばらくしてマルチェロが二人の前に牛乳のたっぷり入ったコーヒーを一つずつ置いた。
「はい、お待ちどおさま」
「ありがとう。いい香り」
ジゼルはカップを持ち上げ、湯気のあがるコーヒーに二、三、息を吹きかけてから一口啜る。
そんな姉を横目にアスはコーヒーと一緒に置かれた角砂糖を一つカップに落とし、ティースプーンでゆっくりとかき混ぜた。
マルチェロは微笑みながら、ごゆっくりと言うと再びカウンター内に戻り、他のお客から注文されたコーヒーを作り始めた。
二人のコーヒーが半分くらいになった頃、ようやくヴェルノが店に現れた。
「すまんな、遅くなった」
ヴェルノはカウンターに座る二人の元に来ると手刀を切りながら苦笑いをした。
「いいよ、そんなに待ってないし。ところで、後ろの人は?」
ヴェルノの後ろには青いコートを羽織った長髪の青年が立っていた。
アスとジゼルが青年に視線を向ける。
「ああ、今日会ってきた昔の知人に捜索依頼を受けてな。この人はその知人から検分役として派遣された魔操師のタラスで今回の捜索に同行する予定だ」
ヴェルノが二人に青年を紹介するが、青年は照れるように笑みを浮かべると顔の前で否定するように軽く手を振った。
「ヴェルノさん、正しくは魔操師見習いですよ」
「ん、そうだったのか?アイツが信頼して派遣してくる位だから既に魔操師なのかと思ってたよ。・・・えーと、それでこっちの二人がアスとジゼル、俺の子供だ」
ヴェルノの言葉に合わせて、アスは初めましてと頭を下げ、ジゼルはニッコリ微笑んで手を振った。
「お二方、初めまして。タラスと申します。どうぞよしなに」
タラスが二人に対して丁寧にお辞儀を返す。その気品のある所作は生まれの良さを感じさせた。
よく見ればコートの下に着ている服も上質なシルク素材だ。
「さてと、依頼内容を簡単に説明しておきたいが、カウンターでは落ち着かないな。奥の空いているテーブル席に行こう」
ヴェルノはマルチェロに声をかけ、タラスと自分の飲み物を注文すると奥のテーブルに歩を進めた。
アスとジゼルも飲みかけのカップを手に持ち、ヴェルノの後に続く。
席についてから程なく、注文したコーヒーが運ばれてきた。
ヴェルノはそのコーヒーをブラックのまま一口啜ってから、周囲に話が聞こえない程度の小さな声で話を始めた。
「今回の捜索場所は王都の西にあるロムトアという小さな山だ。捜索対象はジョフレという貴族の青年とその従者四名の計五名。予定の日限になっても帰ってこないとのことで、俺に捜索の依頼が来た」
「ふーん、なんか不思議だね。貴族だったら普通は双極に依頼するんじゃんないの?」
ジゼルが首を傾げる。それは至極当然の疑問でもあった。
双極の捜索費用は著しく高いとはいっても貴族からすれば微々たるもので払えない額ではない。
ゆえに公的機関の双極に依頼する方が無難なはずである。
「多分、ロムトアだからかな」
アスが真剣な表情で呟く。
「えっ?なんで?」
「確かロムトアは貴族であっても立ち入ることが許されていない禁足地だったはずだよ。そんなところに勝手に入った事実は公にしたくないから双極じゃなくて鴉に依頼したんじゃないかなって」
ヴェルノが驚いた表情でアスを見た。
「よく知ってたな。依頼の理由はアスの言った通りだ。貴族は特に名声を重視しているところがあるから、誰にも気付かれないように秘密裏に対応してほしいと依頼されている」
「へぇー、もしかしてアス、それもアルジィさんに教えてもらったの?」
「うん、この間たまたま教えてもらったんだ。人の管理化にない原生の山で凶暴な獣や蟲が多数生息しているから近づいちゃ行けないよって」
「なるほどな、アルジィに聞いたのか。アスの言う通り、ロムトアはかなり危険な土地になるから、しっかり準備してから向かおう」
「でも、そのロムトアって場所、禁足地なんでしょ?捜索のためとはいえ勝手に入ってもいいの?」
ヴェルノがニヤッと悪そうな顔をする。
「そりゃあ勿論駄目だよ。だが、禁足地といっても誰かが四六時中見張っているというわけじゃない。入ること自体は容易だから今回はこっそりと忍び込むつもりだ。・・・見つかったらそれなりにお咎めはあるだろうが、まぁ大丈夫だろう」
「大丈夫だろうって言われても、なんかすごく不安なんですけど。・・・ねぇアス」
ジゼルが同意を求めるようにアスの方に顔を向けたが、その表情を見て溜め息をついた。
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