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第二章 遠き日の約束
三幕 「翡翠の角」 一
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明朝、四人はテントを片付けると、比較的歩きやすそうな場所を選び、草木を掻き分けながらロムトアのきつい傾斜道を上り始めた。
遭難しないように途中の木々に目印をつけながらしばらく進むと、先頭を歩くヴェルノがふと立ち止まり、後ろを歩くアスを見た。
「・・・アス、感じるか?輝波だ」
アスはその場に立ち止まると、悪路によって乱れた呼吸を整えてから静かに目を閉じる。キーン、キーンという微弱な信号が感じられた。
「うん、感じる。それも複数」
「残念だが、最低でも何名かは命を落としている可能性があるな。最悪全員か。とりあえず信号を頼りに進もう」
そこから、信号の発生源と思われる方向を目指して山を進み続けると、野営を行ったと思われる形跡を発見した。
「・・・多分、ジョフレ一行の野営跡だろうな」
「ヴェルノさん、あれを」
タラスが一本の木を指差す。
そこには大型の獣がつけたと思われる大きな爪痕があった。
それを見たヴェルノが苦々しい表情で大きく息を吐く。
「ドゥーランの縄張りか、面倒だな」
「ええ。気づかなかったのか、知らなかったのか。かなり危険な場所で野営してたみたいですね」
「ドゥーランって?」
ジゼルが首を傾げる。
「確か、猿類の大型獣だったはずだよ。かなり凶暴な性格で縄張りに入った生物に、その鋭い爪で襲いかかるって」
本から得た知識を思い出しながら説明するアスにヴェルノが頷く。
「ああ、そうだ。個体の強さは俺達の実力からしたら大したことはないだろう。ただ、ドゥーランはボス猿を頂点に群れで行動しているため、群れの数によってはかなり厳しいことになる。もしかしたらジョフレ一行もドゥーランに襲われたのかもしれないな。・・・ここからは十分に用心して進もう」
ヴェルノは鞄から魔元石のついたピアスをアスとジゼルに渡す。
タラスも同様にピアスを取り出す。その色は緑色、風音系を表していた。
「面倒よね、ピアス。つけたり外したりで嫌になっちゃう」
ジゼルが渡されたピアスを面倒くさそうに装着する。
「そうだな。輝核への悪影響さえなければ常につけていたいとこだよな」
「うん、ほんとそう思う。便利だけど不便よね魔元石って」
「・・・便利だけど不便。なるほど、面白い表現ですね」
ジゼルの言葉がツボをついたようで、タラスが口元を抑えてクスクスと笑った。
珍しく笑う姿を見せたタラスを見て、驚いたジゼルがアスに小声で確認する。
「私、何か変なこと言ったかな?」
「そんなことないよ。いつも通りだよ」
アスが真面目な表情で返す。
「そっか、いつも通りね。・・・って、それはそれでなんとなく失礼な気がするぞ」
ジゼルがアスの脇腹をつっつき、アスがたまらず笑い声をあげる。
「二人とも何やってるんだ?準備ができたんなら、もう出発するぞ」
「はーい。私もアスも準備オッケーだよ、お父さん」
ヴェルノはじゃれ合う二人にやれやれといった表情をしながら、再び輝波を頼りに山の奥へ歩を進めた。
野営の跡地から少し進んだ場所で無造作に放られたボロボロの革の鞄を発見した。
周囲には中に入っていたと思われる衣類や旅の道具が散乱している。
「ドゥーランに襲われたってこと?」
ジゼルが眉をひそめてヴェルノの顔を見る。
「うーん、なんとも言えないな。鞄の損傷具合からすると襲われたというよりは、放棄した鞄を鳥や獣がつつき回したといった感じだな。多分中に食糧品が入っていたんだろう。しかし、この辺りで鞄を放棄せざるを得ない何かが起こった可能性は高いな」
「この荷物は回収するの?」
アスはしゃがんでボロボロの鞄についた土を軽く払った。
「そうだな、遺品の可能性が高いから回収しよう。ジゼル、周囲を警戒してくれ。アスと俺は散乱した荷物を回収する。タラスも悪いが周囲を警戒してくれると助かる」
ジゼルとタラスは頷くと、前後に分かれ、周囲に目を配る。
「あっ、あれ見て」
ジゼルが唐突に声を上げ、少し離れた場所の木の根本辺りを指差す。
一同がその指差す方向を見ると、横たわる人の姿らしきものがあった。
周囲を警戒しつつヴェルノ達がその場所に近づくと、そこには胸元を何かに貫かれて絶命したと思われる男性の遺体があった。
「さっきの鞄の持ち主・・・か?」
ヴェルノが早速、丁寧に遺体の検分を開始する。
遺体には至る所に打撲痕や裂傷があり、それらは何らかの獣に襲われた際についたものと思われた。
一通り検分したが、死因はやはり胸元の傷で間違いないようだった。
「この傷跡、ドゥーランではありませんね。・・・もしかして一角獣のコモラですか?」
傷跡を見たタラスが呟く。
「コモラか・・・。確かに傷の大きさはコモラの角と言われればそうも見えるな。しかしコモラは温厚な性格で人を襲うなんてことは滅多にないはずだが・・・」
「この辺りを重点的に調査してみますか?」
「いや、先に輝葬するよ。この男の特徴を見るに、捜索依頼のあった内の一人、『パウラ』で間違いなさそうだ。彼の記憶を見ればここで何があったかは少しは分かるだろう。ジゼルとタラスは引き続き周囲を警戒してくれ。アスは俺の後ろで輝葬を見ているように」
それぞれが持ち場につくと、ヴェルノは早速、輝葬を開始した。
遺体の輝核が激しく発光を始める。
ヴェルノの後ろでその様子を伺っていたアスの視界はやがて暗転した。
遭難しないように途中の木々に目印をつけながらしばらく進むと、先頭を歩くヴェルノがふと立ち止まり、後ろを歩くアスを見た。
「・・・アス、感じるか?輝波だ」
アスはその場に立ち止まると、悪路によって乱れた呼吸を整えてから静かに目を閉じる。キーン、キーンという微弱な信号が感じられた。
「うん、感じる。それも複数」
「残念だが、最低でも何名かは命を落としている可能性があるな。最悪全員か。とりあえず信号を頼りに進もう」
そこから、信号の発生源と思われる方向を目指して山を進み続けると、野営を行ったと思われる形跡を発見した。
「・・・多分、ジョフレ一行の野営跡だろうな」
「ヴェルノさん、あれを」
タラスが一本の木を指差す。
そこには大型の獣がつけたと思われる大きな爪痕があった。
それを見たヴェルノが苦々しい表情で大きく息を吐く。
「ドゥーランの縄張りか、面倒だな」
「ええ。気づかなかったのか、知らなかったのか。かなり危険な場所で野営してたみたいですね」
「ドゥーランって?」
ジゼルが首を傾げる。
「確か、猿類の大型獣だったはずだよ。かなり凶暴な性格で縄張りに入った生物に、その鋭い爪で襲いかかるって」
本から得た知識を思い出しながら説明するアスにヴェルノが頷く。
「ああ、そうだ。個体の強さは俺達の実力からしたら大したことはないだろう。ただ、ドゥーランはボス猿を頂点に群れで行動しているため、群れの数によってはかなり厳しいことになる。もしかしたらジョフレ一行もドゥーランに襲われたのかもしれないな。・・・ここからは十分に用心して進もう」
ヴェルノは鞄から魔元石のついたピアスをアスとジゼルに渡す。
タラスも同様にピアスを取り出す。その色は緑色、風音系を表していた。
「面倒よね、ピアス。つけたり外したりで嫌になっちゃう」
ジゼルが渡されたピアスを面倒くさそうに装着する。
「そうだな。輝核への悪影響さえなければ常につけていたいとこだよな」
「うん、ほんとそう思う。便利だけど不便よね魔元石って」
「・・・便利だけど不便。なるほど、面白い表現ですね」
ジゼルの言葉がツボをついたようで、タラスが口元を抑えてクスクスと笑った。
珍しく笑う姿を見せたタラスを見て、驚いたジゼルがアスに小声で確認する。
「私、何か変なこと言ったかな?」
「そんなことないよ。いつも通りだよ」
アスが真面目な表情で返す。
「そっか、いつも通りね。・・・って、それはそれでなんとなく失礼な気がするぞ」
ジゼルがアスの脇腹をつっつき、アスがたまらず笑い声をあげる。
「二人とも何やってるんだ?準備ができたんなら、もう出発するぞ」
「はーい。私もアスも準備オッケーだよ、お父さん」
ヴェルノはじゃれ合う二人にやれやれといった表情をしながら、再び輝波を頼りに山の奥へ歩を進めた。
野営の跡地から少し進んだ場所で無造作に放られたボロボロの革の鞄を発見した。
周囲には中に入っていたと思われる衣類や旅の道具が散乱している。
「ドゥーランに襲われたってこと?」
ジゼルが眉をひそめてヴェルノの顔を見る。
「うーん、なんとも言えないな。鞄の損傷具合からすると襲われたというよりは、放棄した鞄を鳥や獣がつつき回したといった感じだな。多分中に食糧品が入っていたんだろう。しかし、この辺りで鞄を放棄せざるを得ない何かが起こった可能性は高いな」
「この荷物は回収するの?」
アスはしゃがんでボロボロの鞄についた土を軽く払った。
「そうだな、遺品の可能性が高いから回収しよう。ジゼル、周囲を警戒してくれ。アスと俺は散乱した荷物を回収する。タラスも悪いが周囲を警戒してくれると助かる」
ジゼルとタラスは頷くと、前後に分かれ、周囲に目を配る。
「あっ、あれ見て」
ジゼルが唐突に声を上げ、少し離れた場所の木の根本辺りを指差す。
一同がその指差す方向を見ると、横たわる人の姿らしきものがあった。
周囲を警戒しつつヴェルノ達がその場所に近づくと、そこには胸元を何かに貫かれて絶命したと思われる男性の遺体があった。
「さっきの鞄の持ち主・・・か?」
ヴェルノが早速、丁寧に遺体の検分を開始する。
遺体には至る所に打撲痕や裂傷があり、それらは何らかの獣に襲われた際についたものと思われた。
一通り検分したが、死因はやはり胸元の傷で間違いないようだった。
「この傷跡、ドゥーランではありませんね。・・・もしかして一角獣のコモラですか?」
傷跡を見たタラスが呟く。
「コモラか・・・。確かに傷の大きさはコモラの角と言われればそうも見えるな。しかしコモラは温厚な性格で人を襲うなんてことは滅多にないはずだが・・・」
「この辺りを重点的に調査してみますか?」
「いや、先に輝葬するよ。この男の特徴を見るに、捜索依頼のあった内の一人、『パウラ』で間違いなさそうだ。彼の記憶を見ればここで何があったかは少しは分かるだろう。ジゼルとタラスは引き続き周囲を警戒してくれ。アスは俺の後ろで輝葬を見ているように」
それぞれが持ち場につくと、ヴェルノは早速、輝葬を開始した。
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