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第二章 遠き日の約束
三幕 「翡翠の角」 三
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視界が暗転しアスの体に意識と感覚が戻る。その目には、掌の上で浮遊する輝核を労るように見つめるヴェルノの姿が映った。
ヴェルノが、添えられた手をゆっくりよけるとパウラの輝核はゆらゆらと空に向かって上昇を始め、やがて双極に向かって飛んで行った。
「見えたかアス」
背中越しに声をかけるヴェルノに対してアスは、うんと小さく答えた。
「なにがあったか分かりましたか?」
輝葬の完了を確認したタラスがヴェルノに近づき声をかける。
「・・・コモラ狩りだ。多分さっき鞄を見つけた場所からそう遠くない所に狩りの痕跡があるはずだ」
「ジョフレ様がわざわざコモラを狩りに・・・」
タラスが顎に手を当て考えるような素振りを見せる。
「となると、狙いは翡翠の角辺りでしょうかね」
ヴェルノが驚いた表情でタラスを見る。
「よく分かったな。タラスの言う通り、その翡翠の角とやらを持つコモラを狙ったみたいだ。結果は返り打ちにあったようだが」
「ジョフレ様程の高貴な方が、わざわざこんな山奥に来る理由が他に思い当たりませんからね」
「なるほどな。ちなみにパウラの記憶では顛末まで確認できなかったが、ジョフレも相当の怪我を負っていたようだから亡くなっている可能性が高い。道中に亡骸があるかもしれないから周囲に注意しながら進もう」
「わかりました。一応確認しますが、遺品の回収は?」
「荒れ狂うコモラが徘徊している可能性があるからな。周囲の安全性が確認できるまで輝葬も遺品回収もとりあえず後回しだな」
タラスは頷くと、更に奥地へ進むべく、先ほど鞄を発見した場所に向かって歩き始める。
アスがその後ろを追従しようとすると、ヴェルノに袖を引っ張られた。
「何、お父さん?」
振り向くとヴェルノが神妙な面持ちで囁く。
「タラスの発言が腑に落ちない。あの遺体の状況を見て、即座にコモラによるものと推測することは少し不自然だ。翡翠の角のことも然り。・・・ここまでの道中でも少し不穏な気配を発していたし、杞憂かもしれないがタラスの動向には少し注意しておこう」
タラスが道中で見せた監視するような鋭い視線にヴェルノもやはり気付いていたのだ。
既にタラスに対して若干の不信感を抱いていたアスの気持ちは、ヴェルノの言葉で確信に変わる。
アスは真っ直ぐに父の目を見て深く頷いた。
鞄を発見した場所から更に山を進むと、ゆるやかな起伏が続く丘陵地帯が広がった。
それは輝葬の記憶で見た景色そのものだった。
アス達が立っている場所からは麓の景色が一望でき、大地に視線を移すと草花が注ぎ込む日光を気持ちよさそうに浴びている。時折吹き抜ける山風も心地良い。
ピクニックであればこれほど気持ちのいい場所はなかなかないだろう。
しかし、アスの目の前にはそんな気持ちを吹き飛ばすような光景が広がっていた。
辺りを見回せば、各所に点在する岩に酸化して薄黒くなった血の痕がついている。
その中で特に多くの血痕が残る岩の影には遺体が一つ横たわっていた。
多分、ジョフレ一行の誰かの遺体であろう。
その遺体から少し離れた場所に一頭の馬のような生物が伏していた。
その頭には鮮やかな翡翠の色をした角がある。
例のコモラで間違いなかった。
「・・・美しい」
タラスが少し高揚したような表情でそう呟いた。
「予想外だな、まさかこの場所に留まっているとは思わなかった」
「誘引香のせい?」
アスはジョフレ達がコモラを誘き寄せるために使用したと思われる誘引香の可能性を考えた。
「いや、流石に誘引香の効果は切れているだろう。もしそうだとしても、獣は人の血の匂いを嫌う。それでもここに留まるということはそれなりの理由がありそうだな」
「何かを守ってるみたい」
ジゼルの言葉通り、目の前のコモラからは怒りではなく慈愛に満ちた雰囲気が感じ取れた。
「さて、どうするかな。ゆっくり輝葬させてくれるとありがたいが・・・」
パキッ。
「あっ」
一同が音のした方を向くと、小枝を踏んでしまったタラスが悪びれた様子で頭を下げた。
「・・・すみません、迂闊でした」
小枝の音に気づいたコモラがこちらに顔を向けゆっくり立ち上がる。
そこに人がいることを認知した途端、恐ろしいほどの殺気がアス達に向けられた。
「この状況で足の速いコモラから逃げるのは難しいだろうな。こうなった以上はやむを得ない。・・・皆、戦おう」
「今回はコモラの住処を荒らした人間の方が間違いなく悪いのにね。こういうの嫌だな」
「そうだな・・・」
ヴェルノとジゼルがグラディウスを鞘から抜いて魔力を込める。
同時にアスが全員に衛浄系魔操でクッションを展開する。
クッションが全員に定着したのを確認してからアスもグラディウスを抜刀した。
「皆さん申し訳ないです。・・・アスさんの剣には私が魔力を込めますので、こちらに剣を向けてください。」
アスが頷いてタラスに剣を向けると、タラスが風音系の魔力を注入する。剣は風音の魔力によって、静かに緑色に染まった。
視界が暗転しアスの体に意識と感覚が戻る。その目には、掌の上で浮遊する輝核を労るように見つめるヴェルノの姿が映った。
ヴェルノが、添えられた手をゆっくりよけるとパウラの輝核はゆらゆらと空に向かって上昇を始め、やがて双極に向かって飛んで行った。
「見えたかアス」
背中越しに声をかけるヴェルノに対してアスは、うんと小さく答えた。
「なにがあったか分かりましたか?」
輝葬の完了を確認したタラスがヴェルノに近づき声をかける。
「・・・コモラ狩りだ。多分さっき鞄を見つけた場所からそう遠くない所に狩りの痕跡があるはずだ」
「ジョフレ様がわざわざコモラを狩りに・・・」
タラスが顎に手を当て考えるような素振りを見せる。
「となると、狙いは翡翠の角辺りでしょうかね」
ヴェルノが驚いた表情でタラスを見る。
「よく分かったな。タラスの言う通り、その翡翠の角とやらを持つコモラを狙ったみたいだ。結果は返り打ちにあったようだが」
「ジョフレ様程の高貴な方が、わざわざこんな山奥に来る理由が他に思い当たりませんからね」
「なるほどな。ちなみにパウラの記憶では顛末まで確認できなかったが、ジョフレも相当の怪我を負っていたようだから亡くなっている可能性が高い。道中に亡骸があるかもしれないから周囲に注意しながら進もう」
「わかりました。一応確認しますが、遺品の回収は?」
「荒れ狂うコモラが徘徊している可能性があるからな。周囲の安全性が確認できるまで輝葬も遺品回収もとりあえず後回しだな」
タラスは頷くと、更に奥地へ進むべく、先ほど鞄を発見した場所に向かって歩き始める。
アスがその後ろを追従しようとすると、ヴェルノに袖を引っ張られた。
「何、お父さん?」
振り向くとヴェルノが神妙な面持ちで囁く。
「タラスの発言が腑に落ちない。あの遺体の状況を見て、即座にコモラによるものと推測することは少し不自然だ。翡翠の角のことも然り。・・・ここまでの道中でも少し不穏な気配を発していたし、杞憂かもしれないがタラスの動向には少し注意しておこう」
タラスが道中で見せた監視するような鋭い視線にヴェルノもやはり気付いていたのだ。
既にタラスに対して若干の不信感を抱いていたアスの気持ちは、ヴェルノの言葉で確信に変わる。
アスは真っ直ぐに父の目を見て深く頷いた。
鞄を発見した場所から更に山を進むと、ゆるやかな起伏が続く丘陵地帯が広がった。
それは輝葬の記憶で見た景色そのものだった。
アス達が立っている場所からは麓の景色が一望でき、大地に視線を移すと草花が注ぎ込む日光を気持ちよさそうに浴びている。時折吹き抜ける山風も心地良い。
ピクニックであればこれほど気持ちのいい場所はなかなかないだろう。
しかし、アスの目の前にはそんな気持ちを吹き飛ばすような光景が広がっていた。
辺りを見回せば、各所に点在する岩に酸化して薄黒くなった血の痕がついている。
その中で特に多くの血痕が残る岩の影には遺体が一つ横たわっていた。
多分、ジョフレ一行の誰かの遺体であろう。
その遺体から少し離れた場所に一頭の馬のような生物が伏していた。
その頭には鮮やかな翡翠の色をした角がある。
例のコモラで間違いなかった。
「・・・美しい」
タラスが少し高揚したような表情でそう呟いた。
「予想外だな、まさかこの場所に留まっているとは思わなかった」
「誘引香のせい?」
アスはジョフレ達がコモラを誘き寄せるために使用したと思われる誘引香の可能性を考えた。
「いや、流石に誘引香の効果は切れているだろう。もしそうだとしても、獣は人の血の匂いを嫌う。それでもここに留まるということはそれなりの理由がありそうだな」
「何かを守ってるみたい」
ジゼルの言葉通り、目の前のコモラからは怒りではなく慈愛に満ちた雰囲気が感じ取れた。
「さて、どうするかな。ゆっくり輝葬させてくれるとありがたいが・・・」
パキッ。
「あっ」
一同が音のした方を向くと、小枝を踏んでしまったタラスが悪びれた様子で頭を下げた。
「・・・すみません、迂闊でした」
小枝の音に気づいたコモラがこちらに顔を向けゆっくり立ち上がる。
そこに人がいることを認知した途端、恐ろしいほどの殺気がアス達に向けられた。
「この状況で足の速いコモラから逃げるのは難しいだろうな。こうなった以上はやむを得ない。・・・皆、戦おう」
「今回はコモラの住処を荒らした人間の方が間違いなく悪いのにね。こういうの嫌だな」
「そうだな・・・」
ヴェルノとジゼルがグラディウスを鞘から抜いて魔力を込める。
同時にアスが全員に衛浄系魔操でクッションを展開する。
クッションが全員に定着したのを確認してからアスもグラディウスを抜刀した。
「皆さん申し訳ないです。・・・アスさんの剣には私が魔力を込めますので、こちらに剣を向けてください。」
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