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第二章 遠き日の約束
五幕 「追憶の行路」 一
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敷地外に出た一行は、とりあえず近くの公園で休憩しようと提案したオーべを先頭に歩き始めた。
「ごめんなさい、感情が抑えきれなくてほんとに思いっきりやっちゃった」
ジゼルが道すがら、みんなに向かって頭を下げる。
「いいさ、なかなかいいものを見せてもらったよ。十五の女の子に説教される三十代なんてなかなか見られないからね」
オーべは先程の光景を思い出しながら今度は声を上げて笑った。
「あれ?私の年齢ってオーべさんに言ってたっけ?」
「そりゃあ知ってるさ。ジゼルは記憶がないかもしれないが、小さい時に何度か会っているからね。赤ちゃんの頃には抱っこもしてるしな。勿論アスのことも知ってたよ」
「ええぇ?そうなの?」
驚くジゼルにオーべが優しく微笑みかけた。
「それにしてもバルタザールが和睦案を提示してきて、あの場を丸く納めるとは意外だったな」
「バルタザール卿は傲慢だが馬鹿じゃない。いくら上級貴族とはいえ、死罪にはそれなりの理由がいる。名声を重んじる貴族にとってはその理由の正当性はかなり重要になるが、その正当性を得るためには、裁判で色々なことを公にしてお前達が悪であることをつまびらかにする必要がある。だが、今回のジョフレや翡翠の角の件は公になればかなり印象が悪い。だから、分が悪いと考えて、無理に争わず和睦しようというのも変な話じゃないさ」
「うーん、それでも貴族を殴ったんだ。裁判を強行する可能性が高いと俺は思ったがな」
「ふふふ、甘いなヴェルノ。それだけだったら確かにどっちにも転ぶ可能性はあるな。だが言ったろう?許可証が俺の切り札だと。裁判をすればあれも公になる可能性が高く、そうなれば許可を出したヴィエルニ家が少なからず騒動に巻き込まれることになる。バルタザール卿としてはそれは絶対に避けたいところだろうから、今回はジゼルがエロワを殴ってもよっぽどのことがない限り和睦で終わると踏んでたよ」
「なるほどな、だからジゼルがエロワを殴れるように積極的にけしかけていたのか。それでも可能性は・・・」
「ゼロじゃない。まぁ仮にそうなったとしても、お前の実力なら衛兵を薙ぎ倒して逃亡することも容易だっただろう。しばらく指名手配にはなるだろうが、そんなこと恐れて黙ってるなんてお前らしくない。ジゼルがやらなかったらお前が殴るつもりだったんじゃないのか?」
「まぁそれはそうなんだが」
「ははは、相変わらずで安心したよ」
「・・・ところでオーべ、目的の公園はまだ遠いのか?貴族街は落ち着かないし、やっぱり内郭まで戻らないか?」
「ん?ああ、もう少しだ。確かこの道を曲がった先に・・・」
そう言いながらオーべが小走りで先を行って道の曲がった先を確認する。目的地が見えたようで、すぐにこちらを向いて手を振った。
ヴェルノ達がオーべに追いつき道を曲がると、そこから見える景色は貴族の屋敷が両脇にあるただの裏道で、他には貴族の馬車が見えるくらいだった。
馭者がラッパを鳴らし静かにゆっくりと馬車が動き始める。
「どういうことだ?」
ヴェルノがオーべに疑惑の目を向ける。
「すまない、公園に行くというのは嘘で、あの馬車が目的地だ。馬車の扉は開いているから、ここをゆっくりと通過する際に皆、馬車に乗ってくれ」
「どういうことだと聞いているんだが?」
「今は言えない。俺を信じて乗ってくれ」
オーべの真剣な表情に、一つため息を吐くヴェルノだったが、わかったと頷いてアスとジゼルにも馬車に乗るよう促した。
「ありがとう、ヴェルノ」
ゆっくりと走る馬車に乗り込むのはさほど難しくなく、無事全員が馬車に乗ることができた。
オーべは全員が乗ったことを確認すると扉を閉める。これで外からは誰が乗っているかはわからなくなった。
馬車の中はかなり広く、優雅かつ煌びやかな内装と据え付けられた最高級と思われるソファがアスとジゼルの目を奪った。
「座っていいの?」
ジゼルがおずおずとオーべに確認する。
「勿論、天井の低い馬車の中だ。中腰で立っているのは流石にしんどいだろ?」
オーべはジゼルに対して、貴賓をエスコートするように、どうぞとソファを勧めた。
「よいしょ」
ジゼルが座る前にどっかとヴェルノが腰を下ろす。
「おい!」
「ちょっとお父さん!」
「まぁいいじゃないか。アスもジゼルも座りな」
「もう、ほんと雰囲気台無し。アス座ろ!」
不貞腐れたジゼルがヴェルノの横に座るとアスは更にその横に並んで座る。
馬車の揺れを感じさせないソファの極上の座り心地がジゼルをすぐに上機嫌にした。
「気持ちいい~。ずっと座っていたいくらい」
「ははは、喜んでもらえたみたいでよかったよ」
オーべはそう言いながら、三人の対面にあるソファに腰を下ろした。
「さて、ここならいいだろ。これはどういうことなんだオーべ?なんでヴィエルニ家の馬車に乗せた?」
「えっ?そうなの?」
ジゼルが驚くと、ヴェルノが内装の一つとして刻まれた紋を指差した。
「ほんとだ、ヴィエルニ家の家紋だ」
そこには獅子と薔薇と剣で構成された厳かな紋があり、それを見たアスが驚く。
「すまない、正直ここまでがお膳立てだったんだ。やっとここまで来た」
オーべは感慨深そうにそう言うとジゼルを見つめた。
「これからヴィエルニ家でジゼルの正心の儀を行うよ」
「・・・へ?」
ジゼルがポカンとした表情ですっとんきょうな声をだした。
「ごめんなさい、感情が抑えきれなくてほんとに思いっきりやっちゃった」
ジゼルが道すがら、みんなに向かって頭を下げる。
「いいさ、なかなかいいものを見せてもらったよ。十五の女の子に説教される三十代なんてなかなか見られないからね」
オーべは先程の光景を思い出しながら今度は声を上げて笑った。
「あれ?私の年齢ってオーべさんに言ってたっけ?」
「そりゃあ知ってるさ。ジゼルは記憶がないかもしれないが、小さい時に何度か会っているからね。赤ちゃんの頃には抱っこもしてるしな。勿論アスのことも知ってたよ」
「ええぇ?そうなの?」
驚くジゼルにオーべが優しく微笑みかけた。
「それにしてもバルタザールが和睦案を提示してきて、あの場を丸く納めるとは意外だったな」
「バルタザール卿は傲慢だが馬鹿じゃない。いくら上級貴族とはいえ、死罪にはそれなりの理由がいる。名声を重んじる貴族にとってはその理由の正当性はかなり重要になるが、その正当性を得るためには、裁判で色々なことを公にしてお前達が悪であることをつまびらかにする必要がある。だが、今回のジョフレや翡翠の角の件は公になればかなり印象が悪い。だから、分が悪いと考えて、無理に争わず和睦しようというのも変な話じゃないさ」
「うーん、それでも貴族を殴ったんだ。裁判を強行する可能性が高いと俺は思ったがな」
「ふふふ、甘いなヴェルノ。それだけだったら確かにどっちにも転ぶ可能性はあるな。だが言ったろう?許可証が俺の切り札だと。裁判をすればあれも公になる可能性が高く、そうなれば許可を出したヴィエルニ家が少なからず騒動に巻き込まれることになる。バルタザール卿としてはそれは絶対に避けたいところだろうから、今回はジゼルがエロワを殴ってもよっぽどのことがない限り和睦で終わると踏んでたよ」
「なるほどな、だからジゼルがエロワを殴れるように積極的にけしかけていたのか。それでも可能性は・・・」
「ゼロじゃない。まぁ仮にそうなったとしても、お前の実力なら衛兵を薙ぎ倒して逃亡することも容易だっただろう。しばらく指名手配にはなるだろうが、そんなこと恐れて黙ってるなんてお前らしくない。ジゼルがやらなかったらお前が殴るつもりだったんじゃないのか?」
「まぁそれはそうなんだが」
「ははは、相変わらずで安心したよ」
「・・・ところでオーべ、目的の公園はまだ遠いのか?貴族街は落ち着かないし、やっぱり内郭まで戻らないか?」
「ん?ああ、もう少しだ。確かこの道を曲がった先に・・・」
そう言いながらオーべが小走りで先を行って道の曲がった先を確認する。目的地が見えたようで、すぐにこちらを向いて手を振った。
ヴェルノ達がオーべに追いつき道を曲がると、そこから見える景色は貴族の屋敷が両脇にあるただの裏道で、他には貴族の馬車が見えるくらいだった。
馭者がラッパを鳴らし静かにゆっくりと馬車が動き始める。
「どういうことだ?」
ヴェルノがオーべに疑惑の目を向ける。
「すまない、公園に行くというのは嘘で、あの馬車が目的地だ。馬車の扉は開いているから、ここをゆっくりと通過する際に皆、馬車に乗ってくれ」
「どういうことだと聞いているんだが?」
「今は言えない。俺を信じて乗ってくれ」
オーべの真剣な表情に、一つため息を吐くヴェルノだったが、わかったと頷いてアスとジゼルにも馬車に乗るよう促した。
「ありがとう、ヴェルノ」
ゆっくりと走る馬車に乗り込むのはさほど難しくなく、無事全員が馬車に乗ることができた。
オーべは全員が乗ったことを確認すると扉を閉める。これで外からは誰が乗っているかはわからなくなった。
馬車の中はかなり広く、優雅かつ煌びやかな内装と据え付けられた最高級と思われるソファがアスとジゼルの目を奪った。
「座っていいの?」
ジゼルがおずおずとオーべに確認する。
「勿論、天井の低い馬車の中だ。中腰で立っているのは流石にしんどいだろ?」
オーべはジゼルに対して、貴賓をエスコートするように、どうぞとソファを勧めた。
「よいしょ」
ジゼルが座る前にどっかとヴェルノが腰を下ろす。
「おい!」
「ちょっとお父さん!」
「まぁいいじゃないか。アスもジゼルも座りな」
「もう、ほんと雰囲気台無し。アス座ろ!」
不貞腐れたジゼルがヴェルノの横に座るとアスは更にその横に並んで座る。
馬車の揺れを感じさせないソファの極上の座り心地がジゼルをすぐに上機嫌にした。
「気持ちいい~。ずっと座っていたいくらい」
「ははは、喜んでもらえたみたいでよかったよ」
オーべはそう言いながら、三人の対面にあるソファに腰を下ろした。
「さて、ここならいいだろ。これはどういうことなんだオーべ?なんでヴィエルニ家の馬車に乗せた?」
「えっ?そうなの?」
ジゼルが驚くと、ヴェルノが内装の一つとして刻まれた紋を指差した。
「ほんとだ、ヴィエルニ家の家紋だ」
そこには獅子と薔薇と剣で構成された厳かな紋があり、それを見たアスが驚く。
「すまない、正直ここまでがお膳立てだったんだ。やっとここまで来た」
オーべは感慨深そうにそう言うとジゼルを見つめた。
「これからヴィエルニ家でジゼルの正心の儀を行うよ」
「・・・へ?」
ジゼルがポカンとした表情ですっとんきょうな声をだした。
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