命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

三幕 「誘い(いざない)の下降」 五

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 ヴェルノとジェレルが激闘を繰り広げる中、地下ではディオニージが決断を迫られていた。

「すぐに退避するか、ここに留まり鳳を待つか・・・」

 苛烈な戦いが始まったことを示すように、地下シェルター内には上方からの振動と破壊音がひっきりになしに響き渡る。

 地下シェルターの一室にアス、ディオニージ、エランドゥール、シオン、フォンセが集まっていた。

 護衛である志征の三名は、黒フレアを迎え討つためにヴェルノ達が降下してくる予定地点、地下シェルターの大広間で待機している。

「アス、もう一度確認するがシオンの輝波は僅かに残っているんだな?」

 ディオニージの口調は温和なものであったが、事態が切迫していることを示すかのようにその表情は硬い。

「はい、先ほど発生した輝波の余韻のようなものが残っている感じです。集中すれば感じられる程度の微弱なものですが」

「そうか。・・・ジェレルの副官からの報告を踏まえると、多分黒フレアも白フレアもシオンの輝波の残滓を目指していると思った方がよさそうだな」

 今しがた魔伝機で地下にもたらされた情報によれば、屋上で使用された魔吸石の影響で一度は上に向かっていた白フレアであったが、魔吸石の効果が切れたと思われるタイミングでこぞって地下に向かい始めたとのことだった。

 ディオニージはどうしたものかとつぶやきながら顎に手をあて、フォンセに視線を向ける。

「・・・フォンセ、意見を聞かせてくれ」

「シオン様を狙う黒フレアは今現在この施設に誘き寄せていますので外界の危険度はかなり低いと考えます。そのうえで、鳳の到着までまだ時間がかかること、フレア群が明確にここを目指していること、御身のことの三点を考えれば直ちに退避すべきと考えます。あと希望的観測にはなりますが、鳳が地下ルートを通ってここに向かうことがあれば十番通路を退避する途中で早期合流ができる可能性もあります」

 ディオニージは顎をさすりながら少し考え込む。

 確かに、鳳が悪天候の地上ルートを避けて地下ルートを選択する可能性は多分にあった。

 だが、数多ある地下通路の中で十番が選ばれるとは限らない。

 鳳との合流はフォンセの言う通り希望的観測、賭けに等しい状況でもあった。もし違うルートを使っていた場合、合流は著しく遅れることにもなる。

 ディオニージはよしと意を決すると、周りの皆を見回した。

「・・・エラル、アス、シオンはフォンセの案内の下、十番通路で退避だ。私はここで鳳を待つ」

「それはなりません。ディオニージ様もすぐに退避願います」

「ここで戦う者達を置いて行くことはできないよ。私がそういうことを嫌うのはフォンセもよく知っているだろう?」

 その言葉にフォンセが一気に気色ばむ。

「この期に及んで小事にこだわってはなりません!貴方様には六華ノエル家の次期当主としてセレンティート国民の未来を切り開く大業とそれを成す責任がございます。その双肩にはセレンティート国民全ての想いがかかっているということを、ゆめゆめお忘れなきようお願い申し上げます」

「・・・しかし」

「ディオニージ様のお優しい心は皆理解しています。今、広間で敵を迎え撃とうとしている三名はそんなディオニージ様のために命を捨てる覚悟で臨んでいます。その想いを、願いを汲んであげてください」

 しばしの沈黙の後、ディオニージは静かに頷いた。

「わかった。だがここを出る前に三人に言葉をかけたい。それくらいはいいだろう?」

「はい、勿論でございます」

 フォンセはゆっくりと頭を垂れた。

「ありがとう。・・・エラルはフォンセと共に出立の準備をしておいてくれ。退避すると言ってもシオンを連れている以上、フレアの追撃が続く可能性もあるからアスとシオンにもそれなりの装備を渡しておいてほしい。準備ができたら十番通路前に集合だ」

「うん、わかったよ兄様」

 エラルが頷いてフォンセと部屋を出ようとするも、アスはその場を動かない。

「ディオニージ様、僕はここでお父さんを待ちたいと思います」

「えっ?何言ってるんだよアス、ここで待っていてもみんなの足手まといになるだけだろ?」

「ごめんエラル。このままお父さんと離れて避難するのは不安で・・・」

 ディオニージがゆっくりとアスに近づき、その肩に手をあてて優しく声をかける。

「不安な気持ちも分かるが、今は自分が逃げ延びることに全力を注ぐんだ。父君も多分それを一番望んでいるだろう」

「・・・はい」

 ここにいても足手まといで、退避はやむを得ない。

 そんなことは重々分かってはいたが『それでも』、という葛藤と不安が織り混ざった感情が、アスの中で渦巻く。

「さぁアス様も、フォンセの後に続いてくださいませ」

 フォンセが微笑みながらそう促すと、アスはか細い声で、はいと一言返事をして、エラルらと共に退避の準備のために部屋を出た。
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