命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

三幕 「誘い(いざない)の下降」 七

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 同刻、軍施設直下の地下シェルター中央大広間内。

 封陣石が設置されたこの大広間には、黒フレアの降下を待ち構える三人の志征の姿があった。

 直上から響く激しい衝撃音に三人の内の一人が腰の魔錬刃を抜きながら呟く。

「この振動と音からすればそろそろか。一線を退いてから久しいジェレル様と、ヴェルノとかいう男にここまでの誘導を任せるってことだったから少し心配していたが、杞憂だったようだな。上手くやっている」

「そうだな。ヴェルノは元鳳らしいが今は鴉ってんだから、正直なところ実力は胡散臭いと思ってたよ」

 そう応えながら、もう一人も抜刀し魔力を魔錬刃に込め始める。

「ははは、まぁ全盛期は過ぎたおっさんには違いないだろう。ここまで良くやってくれたんだし、あとは俺たちが何とかするってことで年寄り二人にはゆっくり休んでもらおう」

 更にもう一人、この中でリーダー格と思われる男がゆっくりと剣を抜く。

「さぁおしゃべりはここまでだ。ナシオ、ジーモー、気合い入れろよ」

「了解だ。・・・フロイラン、終わったらいつも通りみんなで酒だぞ」

「ああ、そうだな。美味い酒をたらふく飲もう。・・・いくぞ!」

 三人が、一階に向かって続く階段の先、ヴェルノたちが黒フレアを誘導するために開け放たれたままとなっている鉄の扉に視線を移すと、すぐに二つの人影が駆け抜ける。ヴェルノとジェレルだ。

 続いて、その二人を追従するように極大の火球が四つ、広間内に投げ放たれた。

 二人はすんでのところで四つの火球を回避するが、そのまま壁や床に当たった火球は大きな爆裂音と共に爆ぜ、一気に大広間内は火の海となった。

「おいおい、冗談だろ?なんだよこの魔力量は!?」

 ナシオが目の前の光景に目を戦慄し、声を荒げる。他の二人も同様で顔を凍りつかせた。

 予想を超える魔力量に出鼻を挫かれた三人が怯んでいる隙に、黒い人型の生命体が異様な速度で階段を駆け降りてきた。

 ハッと我に返ったフロイランが剣を構え、二人に指示をだす。

「ジーモー、敵を引きつけろ!ナシオは直ぐにシェルターの扉を閉めるんだ。予定通りここで孤立させるぞ!」

 フロイランの指示で、二人も慌てて戦闘体制に入る。

「風の縦刃、三!」

 ジーモーが叫びながら、黒フレアに対して風音系の魔操で作った風の刃を連続して三つ放った。

 しかし、黒フレアの駆け抜ける速さは想像以上で、放った風の刃は対象を捉えることなく全てが空を切る。

 だが、敵を引きつけるという目的は上手くいったようで、駆け降りる黒フレアは方向転換して、魔操を放ったジーモー目がけて一直線に突進してきた。

「魔力も速度も桁違いだが、動きは単細胞だな!」

 フロイランが、その軌道の脇で剣を振りかぶると、飛んできた球を打ち返すように片足をあげ、思いっきりジーモーに突進する黒フレアに向かって振り抜いた。

 金属がぶつかり合うような音が広間に鳴り響く。

 フロイランの剣は確かに黒フレアに直撃した。

 だが、その体表を覆う強大な魔力にその一撃を弾き返されたフロイランは、その反動で仰け反るように大きく体勢を崩す。

「しまった!」

 その衝撃に顔を歪めながら体勢を立て直そうとするフロイランに向かって、黒フレアがすかさず拳を振るう。その反撃の速さにフロイランの防御が間に合わない。

「くそっ!」

 無防備となったフロイランの体に黒フレアの拳が当たる寸前で金属音が鳴り響く。

 間一髪のところで援護に入ったヴェルノがその拳を剣で弾いたのだ。

 しかし、全力で弾き返したヴェルノの体勢も大きく崩れる。

「ジェレル!フォロー頼む!」

「応!氷柱、一本いくぞ!」

 ヴェルノの後方に控えていたジェレルが既に生成しておいた氷柱を黒フレアに撃ち込んだ。

 黒フレアは、その氷柱を鬱陶しそうに熱火の魔力を込めた腕で払って相殺する。

 その凄まじい魔力を表すかのように氷柱は一瞬で蒸発した。

 硬直させた時間は僅かであったが、その間にヴェルノとフロイランは後退し、次の攻撃に備えるために体勢を立て直すことが出来た。

「す、すみません。助かりました」

 先程おっさんと評したヴェルノに助けられたこともあってかフロイランがばつの悪そうな顔でヴェルノを見る。

 ヴェルノの姿はここまでの激闘を物語るかのようにボロボロになっており、呼吸もかなり乱れていた。

「気にしなくていい。それより黒から視線を切るな。一瞬でも油断するとやられるぞ」

「あっ、はい」

 フロイランは直ぐに目線を黒フレアに戻す。

「ふふ、耳が痛いな」

 ヴェルノと同様に息を切らしたジェレルが、呼吸を整えつつ片手で剣を構えながら苦笑いをする。

 屋上で折られた腕は力無くぶら下がり、袖の先から見える手は鬱血によって痛々しく青紫に染まっていた。

 そんな中、すぐに追撃してくるかと思われた黒フレアは何故かその場に立ち止まり周囲を見回し始める。

「な、なんだ?」

 黒フレアの不可解な動きに動揺するフロイラン。

「・・・分からんが、おそらく急に相手が増えたから状況確認でも始めたんだろう」

 ヴェルノが呼吸を整えつつ、そう返す。

「うおっ!危なっ!」

 突如、地下シェルターの扉を閉めに階段を駆け上がっていたナシオか叫び声を上げる。

「どうした!?」

 フロイランの声と共に、皆がナシオの方に目線を向けると、一階へと続く階段の途中で剣を構え臨戦体勢をとるナシオの姿が見えた。

 その正面には、開け放たれた扉から乗り込んできた二体の白フレアが立っている。

 その様子を見たヴェルノが苦々しい表情で舌打ちをする。

「くそ、さっき途中で遭遇したフレアだな。他はなんとか兵士が食い止めてくれたんだが、二体だけしつこく追ってきていたんだ。すまん、撒ききれなかったようだ」

 二体の白フレアは顔に描かれた黒く歪な線の模様をナシオに向けたまま動かない。

 ヴェルノ達に緊張が走る中、周囲を見回していた黒フレアが一点を見て顔を止める。

「ォオオン!」

 突然、黒フレアは不気味な叫び声をあげると通路の一つを指差した。そこは緊急時に退避用に使うとしていた十番通路だった。

「しまった!シオンの輝波の残滓を探っていたのか!」

 ヴェルノが黒フレアの意図を理解するのと同時に二体の白フレアが階段上から跳躍する。

 白フレアは着地と同時に黒フレアが指差した十番通路に向かって駆けた。

 二体の白フレアを追うように黒フレアも走り始める。

 虚をつかれて皆の動きが鈍っている中、十番通路に一番近いところにいたジーモーだけがすぐに反応する。

「黒フレアだけでも止める!」

 流石に全部を相手にすることは無理と判断したジーモーは白フレア二体をやり過ごし、その後ろから一直線に突進してくる黒フレアに照準を合わせて強力な逆風を放った。

 更にその風の影響で少し速力が落ちた黒フレアに対して一気に間合いを詰めて、全力で魔錬刃を振り抜いた。

 だが、その剣は黒フレアの体を守る強大な魔力に弾かれ、結果は僅かに体表を傷つけ、その突進を鈍らせるだけに留まった。

「援護!」

 黒フレアの前で体勢を崩したジーモーが叫ぶと、すかさずフロイランとナシオが応じる。

「圧の風!」

「火球、三!」

 フロイランが頭上から押しつけるような強力な風で黒フレアの動きを止め、続いてナシオが放った三発の火球が黒フレアに直撃する。

 志征の中で上位クラスである緋雀三名の流れるような連撃でやっと黒フレアの突進を止めることができた。

 すぐにフロイラン、ナシオ、ジーモーの三名が黒フレアを囲むように布陣する。

「予定通り黒フレアの相手は我々が引き継ぎます!ジェレル様とヴェルノさんは白フレアを追ってください!」

 黒フレアに顔を向けたままのフロイランの言葉にジェレルが応じる。

「了解だ!みんな鳳が来るまでなんとか粘れよ!」

「はい!」

「さぁヴェルノ、もう一仕事いくぞ。急げ!」

 既に十番通路に侵入し姿が見えなくなった二体の白フレアを追ってジェレルが駆け出す。

「やれやれ、魔力もほぼ残って無いってのに、白フレアが二体か・・・。骨が折れるな」

 ヴェルノはため息を一つ吐いてから、ジェレルを追いかけた。
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