命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

三章終幕 「その羽を広げ、大きく飛び立つ鴉」 三

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 旅立ちの日の朝、アスは準備した荷物を持ってノエル家の屋敷の門前にいた。

 そこにはアスを見送るためにネイハムと数名の従者の姿もあった。

「いよいよだな、アス」

 ネイハムが感慨深そうにアスに声をかける。

「ええ。今までお世話になりました。ネイハム様を始め、ノエル家の皆様には本当に良くしてもらいました。感謝しています」

「辛くなったらいつでも戻ってくるといい。ここはアスの家でもあるのだからな」

 ネイハムの優しい言葉にアスはニッコリ微笑み、ありがとうございますと頭を下げた。

「それにしてもエラルとシオンは遅いな。何をしているんだか。・・・誰か二人の様子を見てきてくれないか?」

 従者の一人が二人の様子を窺うために屋敷へ向かおうとするのと同時にエラルとシオンが姿を現した。

「ようやく来たか。アスの旅立ちの日だっていうのに二人とも何やってたんだ」

「ごめん、ごめん。ちょっと準備に手間取ってしまって」

「もう!だから前の日にちゃんと準備しておいてって言ったのに!」

 シオンがムスッとした顔でエラルを睨む。

「ん?二人ともその格好はなんだ?それにその荷物は・・・?」

 エラルとシオンが旅に出るような丈夫な布地の服とコートを身に纏って、更には大きな鞄を抱えていることにネイハムが怪訝な表情をする。

「ふふふ、アス。俺とシオンも一緒に行くぞ」

「は?」

「え?」

 アスとネイハムがすっとんきょうな声を上げる。

「兄様ごめん。俺、アスと一緒に行くよ」

「何を言っているんだ?アスと一緒にって?ええ?」

 突然のことに困惑し混乱するネイハムにエラルが深々と頭を下げる。

「ほんとにごめん。でも、今日アスと共に旅立つってことはずっと前から考えていたんだ。このまま王都で暮らしていくのはやっぱり耐えられない。俺は世界を見て回りたいんだ」

「しかし、お前にはノエル家の一員としての責務が・・・」

「俺は本気だよ兄様。もし認めてくれないなら、今この時点をもってノエルの名を棄てる」

「いや、急すぎて、・・・もう少し考えても」

「十分考えた。いきなりのことで申し訳ないと思っているけど、お願いだ兄様。認めてほしい」

 ネイハムは頭を抱えて大きくため息を吐く。

「・・・シオンも行くのか?」

「はい。エラルから一ヶ月程前にアスと一緒に旅立つつもりでいるということを聞いて、私もついていくことにしました。エラルとアスがいなくなって私だけノエル家に残るのもなんとなく変な気がして。それに行方不明の父を探したいという気持ちもありましたので」

「そうか。アスは、・・・その様子だと知らなかったようだな」

 アスは目を丸くしたまま固まっていた。

「アスに言うと、こいつ変に気を使って黙って出ていくような気がしたからさ。悪いけど今日まで内緒にしてた。勘付かれないように旅道具もギリギリの一昨日と昨日で一気に買い揃えたんだぜ」

 エラルはニカっと笑いながら準備した旅道具をポンと叩く。

 その様子を見たネイハムは首を振って諦めたような表情をした。

「わかったよエラル。その代わりアスが帯同を認めたらだ。アス、エラルとシオンが共に旅立ちたいと言っているがいいか?」

「えっと・・・」

 ネイハムの質問にアスが困った表情をする。

「何にも配慮する必要はない、率直にアスの想いを聞かせてくれ」

「・・・そうですね、正直なところで言えば二人がいてくれたら心強いです。でも、僕はお姉ちゃんを探すことを優先するつもりでいますので、二人がそれでよければ、になりますが」

「ふむ、エラルとシオンはどうだ?」

「それで構わないよ。俺もシオンも旅の初心者だからアスに色々学ばせてもらうつもりだし、そうなればアスの目的を優先するのは当然だと思ってるからね」

「私も父を探すといっても手掛かりがあるわけじゃないので、当面はジゼルさんの捜索をお手伝いしたいと考えています」

 二人の意向を確認したネイハムが改めてそれでよいかと尋ねてきたため、アスは静かに頷く。

「そうか。ならばもう何も言うことはない。・・・今日はアスの見送りの予定だったが、よもやエラルとシオンの旅立ちの日にもなるとは思わなかったよ」

 ネイハムがそう言うと、アス、エラル、シオンは顔を引き締めて頭を下げた。

「今日、旅立つ三名にラウル様の御加護があらんことを願う。皆、息災でな」

「うん、ありがとう兄様!」

 そう言ってエラルがニカっと笑う。

「今までお世話になりました」

 シオンはもう一度頭を下げた。

「ネイハム様もご達者で」

 アスは真っ直ぐにネイハムの目を見つめた。

「ああ、たまには便りをくれよ」

 三名は頷くとニッコリ微笑むネイハムを背に、力強くその一歩を踏み出した。



 三人の後ろ姿が見えなくなる頃、女性の従者がネイハムに近づき声をかけた。

「本当によろしかったのですか?エラル様のために、ネイハム様が各所にかけあって二等貴族としてはかなり優遇された配属先を準備なされたのに・・・」

「いいさ。それに君も見ただろう?エラルの希望に満ち溢れた顔を。それで十分だ。今回の配属に尽力してくれた関係者の方々には後ほど私から謝罪に行くよ」

「承知いたしました。それでは、関係先への面会について段取りをしておきます」

「ああ、悪いが頼む」

 ネイハムはそう言うと目を細めて三人が旅立った道にもう一度視線を向けた。
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