89 / 131
第三章 受け継がれるもの
三章終幕 「その羽を広げ、大きく飛び立つ鴉」 三
しおりを挟む
旅立ちの日の朝、アスは準備した荷物を持ってノエル家の屋敷の門前にいた。
そこにはアスを見送るためにネイハムと数名の従者の姿もあった。
「いよいよだな、アス」
ネイハムが感慨深そうにアスに声をかける。
「ええ。今までお世話になりました。ネイハム様を始め、ノエル家の皆様には本当に良くしてもらいました。感謝しています」
「辛くなったらいつでも戻ってくるといい。ここはアスの家でもあるのだからな」
ネイハムの優しい言葉にアスはニッコリ微笑み、ありがとうございますと頭を下げた。
「それにしてもエラルとシオンは遅いな。何をしているんだか。・・・誰か二人の様子を見てきてくれないか?」
従者の一人が二人の様子を窺うために屋敷へ向かおうとするのと同時にエラルとシオンが姿を現した。
「ようやく来たか。アスの旅立ちの日だっていうのに二人とも何やってたんだ」
「ごめん、ごめん。ちょっと準備に手間取ってしまって」
「もう!だから前の日にちゃんと準備しておいてって言ったのに!」
シオンがムスッとした顔でエラルを睨む。
「ん?二人ともその格好はなんだ?それにその荷物は・・・?」
エラルとシオンが旅に出るような丈夫な布地の服とコートを身に纏って、更には大きな鞄を抱えていることにネイハムが怪訝な表情をする。
「ふふふ、アス。俺とシオンも一緒に行くぞ」
「は?」
「え?」
アスとネイハムがすっとんきょうな声を上げる。
「兄様ごめん。俺、アスと一緒に行くよ」
「何を言っているんだ?アスと一緒にって?ええ?」
突然のことに困惑し混乱するネイハムにエラルが深々と頭を下げる。
「ほんとにごめん。でも、今日アスと共に旅立つってことはずっと前から考えていたんだ。このまま王都で暮らしていくのはやっぱり耐えられない。俺は世界を見て回りたいんだ」
「しかし、お前にはノエル家の一員としての責務が・・・」
「俺は本気だよ兄様。もし認めてくれないなら、今この時点をもってノエルの名を棄てる」
「いや、急すぎて、・・・もう少し考えても」
「十分考えた。いきなりのことで申し訳ないと思っているけど、お願いだ兄様。認めてほしい」
ネイハムは頭を抱えて大きくため息を吐く。
「・・・シオンも行くのか?」
「はい。エラルから一ヶ月程前にアスと一緒に旅立つつもりでいるということを聞いて、私もついていくことにしました。エラルとアスがいなくなって私だけノエル家に残るのもなんとなく変な気がして。それに行方不明の父を探したいという気持ちもありましたので」
「そうか。アスは、・・・その様子だと知らなかったようだな」
アスは目を丸くしたまま固まっていた。
「アスに言うと、こいつ変に気を使って黙って出ていくような気がしたからさ。悪いけど今日まで内緒にしてた。勘付かれないように旅道具もギリギリの一昨日と昨日で一気に買い揃えたんだぜ」
エラルはニカっと笑いながら準備した旅道具をポンと叩く。
その様子を見たネイハムは首を振って諦めたような表情をした。
「わかったよエラル。その代わりアスが帯同を認めたらだ。アス、エラルとシオンが共に旅立ちたいと言っているがいいか?」
「えっと・・・」
ネイハムの質問にアスが困った表情をする。
「何にも配慮する必要はない、率直にアスの想いを聞かせてくれ」
「・・・そうですね、正直なところで言えば二人がいてくれたら心強いです。でも、僕はお姉ちゃんを探すことを優先するつもりでいますので、二人がそれでよければ、になりますが」
「ふむ、エラルとシオンはどうだ?」
「それで構わないよ。俺もシオンも旅の初心者だからアスに色々学ばせてもらうつもりだし、そうなればアスの目的を優先するのは当然だと思ってるからね」
「私も父を探すといっても手掛かりがあるわけじゃないので、当面はジゼルさんの捜索をお手伝いしたいと考えています」
二人の意向を確認したネイハムが改めてそれでよいかと尋ねてきたため、アスは静かに頷く。
「そうか。ならばもう何も言うことはない。・・・今日はアスの見送りの予定だったが、よもやエラルとシオンの旅立ちの日にもなるとは思わなかったよ」
ネイハムがそう言うと、アス、エラル、シオンは顔を引き締めて頭を下げた。
「今日、旅立つ三名にラウル様の御加護があらんことを願う。皆、息災でな」
「うん、ありがとう兄様!」
そう言ってエラルがニカっと笑う。
「今までお世話になりました」
シオンはもう一度頭を下げた。
「ネイハム様もご達者で」
アスは真っ直ぐにネイハムの目を見つめた。
「ああ、たまには便りをくれよ」
三名は頷くとニッコリ微笑むネイハムを背に、力強くその一歩を踏み出した。
三人の後ろ姿が見えなくなる頃、女性の従者がネイハムに近づき声をかけた。
「本当によろしかったのですか?エラル様のために、ネイハム様が各所にかけあって二等貴族としてはかなり優遇された配属先を準備なされたのに・・・」
「いいさ。それに君も見ただろう?エラルの希望に満ち溢れた顔を。それで十分だ。今回の配属に尽力してくれた関係者の方々には後ほど私から謝罪に行くよ」
「承知いたしました。それでは、関係先への面会について段取りをしておきます」
「ああ、悪いが頼む」
ネイハムはそう言うと目を細めて三人が旅立った道にもう一度視線を向けた。
そこにはアスを見送るためにネイハムと数名の従者の姿もあった。
「いよいよだな、アス」
ネイハムが感慨深そうにアスに声をかける。
「ええ。今までお世話になりました。ネイハム様を始め、ノエル家の皆様には本当に良くしてもらいました。感謝しています」
「辛くなったらいつでも戻ってくるといい。ここはアスの家でもあるのだからな」
ネイハムの優しい言葉にアスはニッコリ微笑み、ありがとうございますと頭を下げた。
「それにしてもエラルとシオンは遅いな。何をしているんだか。・・・誰か二人の様子を見てきてくれないか?」
従者の一人が二人の様子を窺うために屋敷へ向かおうとするのと同時にエラルとシオンが姿を現した。
「ようやく来たか。アスの旅立ちの日だっていうのに二人とも何やってたんだ」
「ごめん、ごめん。ちょっと準備に手間取ってしまって」
「もう!だから前の日にちゃんと準備しておいてって言ったのに!」
シオンがムスッとした顔でエラルを睨む。
「ん?二人ともその格好はなんだ?それにその荷物は・・・?」
エラルとシオンが旅に出るような丈夫な布地の服とコートを身に纏って、更には大きな鞄を抱えていることにネイハムが怪訝な表情をする。
「ふふふ、アス。俺とシオンも一緒に行くぞ」
「は?」
「え?」
アスとネイハムがすっとんきょうな声を上げる。
「兄様ごめん。俺、アスと一緒に行くよ」
「何を言っているんだ?アスと一緒にって?ええ?」
突然のことに困惑し混乱するネイハムにエラルが深々と頭を下げる。
「ほんとにごめん。でも、今日アスと共に旅立つってことはずっと前から考えていたんだ。このまま王都で暮らしていくのはやっぱり耐えられない。俺は世界を見て回りたいんだ」
「しかし、お前にはノエル家の一員としての責務が・・・」
「俺は本気だよ兄様。もし認めてくれないなら、今この時点をもってノエルの名を棄てる」
「いや、急すぎて、・・・もう少し考えても」
「十分考えた。いきなりのことで申し訳ないと思っているけど、お願いだ兄様。認めてほしい」
ネイハムは頭を抱えて大きくため息を吐く。
「・・・シオンも行くのか?」
「はい。エラルから一ヶ月程前にアスと一緒に旅立つつもりでいるということを聞いて、私もついていくことにしました。エラルとアスがいなくなって私だけノエル家に残るのもなんとなく変な気がして。それに行方不明の父を探したいという気持ちもありましたので」
「そうか。アスは、・・・その様子だと知らなかったようだな」
アスは目を丸くしたまま固まっていた。
「アスに言うと、こいつ変に気を使って黙って出ていくような気がしたからさ。悪いけど今日まで内緒にしてた。勘付かれないように旅道具もギリギリの一昨日と昨日で一気に買い揃えたんだぜ」
エラルはニカっと笑いながら準備した旅道具をポンと叩く。
その様子を見たネイハムは首を振って諦めたような表情をした。
「わかったよエラル。その代わりアスが帯同を認めたらだ。アス、エラルとシオンが共に旅立ちたいと言っているがいいか?」
「えっと・・・」
ネイハムの質問にアスが困った表情をする。
「何にも配慮する必要はない、率直にアスの想いを聞かせてくれ」
「・・・そうですね、正直なところで言えば二人がいてくれたら心強いです。でも、僕はお姉ちゃんを探すことを優先するつもりでいますので、二人がそれでよければ、になりますが」
「ふむ、エラルとシオンはどうだ?」
「それで構わないよ。俺もシオンも旅の初心者だからアスに色々学ばせてもらうつもりだし、そうなればアスの目的を優先するのは当然だと思ってるからね」
「私も父を探すといっても手掛かりがあるわけじゃないので、当面はジゼルさんの捜索をお手伝いしたいと考えています」
二人の意向を確認したネイハムが改めてそれでよいかと尋ねてきたため、アスは静かに頷く。
「そうか。ならばもう何も言うことはない。・・・今日はアスの見送りの予定だったが、よもやエラルとシオンの旅立ちの日にもなるとは思わなかったよ」
ネイハムがそう言うと、アス、エラル、シオンは顔を引き締めて頭を下げた。
「今日、旅立つ三名にラウル様の御加護があらんことを願う。皆、息災でな」
「うん、ありがとう兄様!」
そう言ってエラルがニカっと笑う。
「今までお世話になりました」
シオンはもう一度頭を下げた。
「ネイハム様もご達者で」
アスは真っ直ぐにネイハムの目を見つめた。
「ああ、たまには便りをくれよ」
三名は頷くとニッコリ微笑むネイハムを背に、力強くその一歩を踏み出した。
三人の後ろ姿が見えなくなる頃、女性の従者がネイハムに近づき声をかけた。
「本当によろしかったのですか?エラル様のために、ネイハム様が各所にかけあって二等貴族としてはかなり優遇された配属先を準備なされたのに・・・」
「いいさ。それに君も見ただろう?エラルの希望に満ち溢れた顔を。それで十分だ。今回の配属に尽力してくれた関係者の方々には後ほど私から謝罪に行くよ」
「承知いたしました。それでは、関係先への面会について段取りをしておきます」
「ああ、悪いが頼む」
ネイハムはそう言うと目を細めて三人が旅立った道にもう一度視線を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる