命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

三章終幕 「その羽を広げ、大きく飛び立つ鴉」 四

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 ノエル家を出た三人は貴族街を抜けてそのまま王郭西大門をくぐり、王都内郭の双極分枝に来ていた。

 アスが三週間程前に申請した双極認定輝葬師の証明書を受け取るためだ。

「やぁ、アス。無事学校は卒業できたかい?」

 アスが受付に顔を出すと二十代前半位の若い青年がニコニコとした表情で執務席を立ち、受付でアスと相対した。

 三週間前に申請を受け付けたのもこの青年であり、申請時に一悶着あったことから互いに顔見知りの仲となっていた。

「こんにちわ、コローノスさん。学校は予定通り卒業することができました」

 コローノスはアスが差し出した卒業証書を受け取るとその内容を確認する。

 貴族学校の卒業証書があれば輝葬師の学科試験が免除となる。そのため、既に技能の免除を受けているアスは卒業証書提出を条件に証明書の発行を申請していたのだ。

「うん、大丈夫そうだな。卒業番号を控えさせてもらうよ。あと色々書いてもらう書類もあるから座って待ってて」

 そう言って青年は自身の席に戻り証書に書かれた番号を控える。それから奥の金庫に向かい、金庫から何枚かの紙を取り出してアスがいる受付に戻ってきた。

「さてと、まずはこれが認定輝葬師の証明書だ」

 アスは目の前に置かれた一枚の紙を見つめる。そこにはアスを双極の認定輝葬師として証すると記載されていた。

「本来なら輝核台帳にも認定輝葬師である旨が登録されるから、この紙はどこの双極分枝でも再発行可能なものとなるとこだが、アスは例外でここでしか再発行できない。それを念頭に置いて無くさないように十分注意して持ち歩いてくれ」

 アスはわかりましたと頷いてから、紙を丁寧折りたたんで鞄にしまう。

 コローノスの注意は輝核台帳上においてアスの情報が非開示となっていたことに起因しており、申請時の一悶着もこのことによるものだった。

 この件はノエル家当主ネイハムが身元保証をすることで特例的に申請は受理されたが、危うくアスは輝葬師になることができないところだったのだ。

「えーっと、次はこれだな。これを読んで輝印を押してくれ。その次はこれだ」

 アスは輝葬師の誓約書、証明書受領書、輝葬師心得と次々とコローノスが出す書類を一つずつ処理していく。

 その合間に後ろの様子を窺うと、エラルとシオンが退屈そうに待合席でぼーっとしている姿が見えた。

「よし、手続きはこれで完了だ。お疲れさん」

 コローノスは処理した書類の束を持ち上げ、トントンと机で整える。

「それにしても貴族学校の卒業証書に多数の輝葬補助の実績と特例での輝葬の実績、更にそれらに基づく重鎮フランケさんの推薦状もあるのだから、学科と実技の免除どころか輝葬師の花形である双極本部の勤務も夢じゃないだろうに。本当に自由契約型でいいのか?」

「はい、双極勤務だと自由に世界を見て回れませんからね」

「そりゃそうだが。それでも安定した高給は魅力的な気がするけどなぁ」

「捉え方は人それぞれですよ、コローノスさん」

 アスがニコリと笑みを浮かべる。

「うーん、まぁそうか?」

 コローノスが腑に落ちない表情を浮かべる中、アスは立ち上がって頭を下げた。

「手続き、ありがとうございました」

「ああ、新たな輝葬師の誕生を祝福するよ。世界は危険なところもまだ多いから旅も気をつけてな」

「はい!」

 手続きを終えたアスはすぐに待合席に座るエラルとシオンの下に向かった。

「二人とも終わったよ!」

「ん、おお、終わったのか」

「お疲れ様、アス」

 席から立ち上がった二人は、軽く伸びをする。

「思ったより長かったな。それで証明書はもらえたのか?」

「うん、バッチリ」

 アスは握った拳の親指を立ててニッコリ微笑んだ。

「そうか、よかったなアス、おめでとう!」

「これで晴れて一人前の輝葬師だね、おめでとう」

「うん、二人ともありがとう」

「それで、これからどうする?向かうところとか決めてあるのか?」

「まずはゼラモリーザを目指そうかと思ってる」

「神山ゼラモリーザ・・・、ジゼルさんを連れ去った人達が最後に向かったといわれてる場所ね。確か追跡していた調査団のメンバーもそこで消息不明になったって」

「そうそう。それで後日、六華協定に基づいて捜索隊が派遣されたけど結局何も手掛かりが得られなかったんだよな。何かあてでもあるのか?」

「ううん。ただ、この目で実際にその場を確かめてみたいって思っているだけだよ。人から聞いただけの情報で捜索対象の候補から外すのも違う気がして。それに・・・」

「それに?」

「なんとなくだけど、そこに重要な何かがあるような気もするんだ」

「・・・そっか。じゃあ、当面の目標はゼラモリーザだな!でも、まさかいきなり未開の地を目指すことになるとは思わなかったよ」

「かなり危険な旅になると思う。二人は無理する必要はないから、本当に一緒に行くかはしっかり考えてほしい」

「考えるまでもないさ。もちろん行くよ。なっシオン」

「うん、危険な旅だからこそ助け合う仲間がいた方がいいでしょ?」

「・・・ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。二人とも改めてよろしくね」

「おう!そうと決まったら早速出発しようぜ!」

 そう言うとエラルは鞄を抱えて足早に双極分枝の外に向かった。

「ちょっと、待ってよエラル!」

「ふふふ、あんなにはしゃいで、まるで子供みたい」

「もう、あんなに慌てなくてもいいのに。・・・よいしょっと、さぁシオンも行こうか」

 アスは自分の荷物を背負うとシオンに優しく声をかけた。

「うん」

 シオンは笑みを浮かべながら一つ頷くとアスと共にエラルの後を追った。



 一行は双極分枝を出ると、そのまま王都外郭西大門を抜けて進路を西にとる。

 ゼラモリーザへ向かうのであれば、必ず六華のデュランダ公が統治する雪の都ユフムダルを経由する必要がある。

 そして王都からユフムダルへ向かうのであれば、王都外郭北大門から出てそのまま北上し例のボルプスを通過する街道が一番早い。

 だが、アスはその街道ではなく、遠回りになるがジゼルが連れ去られた西方のヴィエルニ家旧都遺跡付近まで向かい、そこからルフェコと呼ばれる街を経由してユフムダルに至る街道を北上するつもりでいた。

 この街道はジゼルを連れ去った者たちが北に向かう際に使用したものであり、アスは北上するにあたって、今回はそのルートをなぞっていこうと考えていたのだ。



 心地よい春の日差しを浴びながら、三人は街道を西に進む。

 羽を休めるかの如く穏やかに過ごした王都での五年を経て、今日、若き鴉は大きく飛翔する。

 その活力に満ちた鴉の羽ばたきが、止まっていた運命の歯車を静かにゆっくりと、されど確実に、再び回し始めた。
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