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第四章 星天燃ゆる雪の都
序幕 「戦に至る因子」 一
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雪の都ユフムダルにある六華デュランダ公の居城オグルスピア。
深夜、その城の最上階にある回廊を息を殺すように静かに進む二つの人影があった。
廊下は明かりが灯されておらず暗かったが、等間隔に設置された大きな窓から仄かに差し込む月明かりのおかげでそれなりに夜目がきいた。
窓の横を通過する度に、月明かりが朧に二人の顔を浮かび上がらせる。
一人は、ジゼルを連れ去った大剣の男ウィルマであった。今は大剣を携行しておらず、腰には短刀を帯びている。
もう一人は銀髪のスラッとした体型の青年だった。
一般的な男性と比べれば長身の部類に入るのだが、大きな体格を有するウィルマが横に並ぶと小さく見えた。
「意外とすんなり入れたな」
ウィルマが銀髪の青年に声をかける。
「ふふ、相手方もまさか屋上から侵入されるとは思わないさ。現に屋上テラスは施錠されてなかったし、下層の警備に比べてここは人の気配が圧倒的に少ない。おそらく上階の居住スペースは少数精鋭での警備に留めているのだろう。まぁ俺だって自分の生活範囲にゴチャゴチャと多数の兵士がいるってのは嫌だから理解はできる」
「確かに。だが油断は禁物、慎重に進むぞ」
「もちろん、心得ているさ。さてと目的の物はっと・・・」
銀髪の青年は立ち止まると目を閉じて精神を集中する。
「多分、もう少し先だな」
「・・・多分か。お前の感知能力をもってしても、その程度しか分からない程度の微弱な魔力なら捨て置いてもいい気がするがな」
「おいおい、ここへ来る前にちゃんと説明しただろ?封陣石とやらで魔力感知を阻害されているにも関わらず感じるってことは、相当に強い魔力が蓄えられている可能性が高いって。寝てたのか?」
「聞いてたよ。でも前回同じように強い魔力を感じるとか言って、張り切って東の都ブロエーラルに忍び込んだ時は、結局、熱火系の魔元石だったじゃないか。どうせ今回もそんなとこだろうよ」
「だが、S級の極大魔元石だったし破壊できてよかっただろ?」
「熱火はどちらかというと大した脅威じゃない。それにあれはレプリカだった。有意義な成果だったとは到底言えないな」
「むっ、それはそうだけど今回も同じとは限らないだろ?もしかして震重系だったらどうする?オリジナルだったら更に由々しき事態だぞ!」
「声がでかい、分かったから熱くなるな。俺だってそれは十分理解しているさ。だが、こういう隠密行動的なものは俺の性に合わないから、ボヤきたくもなるんだよ」
「まったく、こういう地道な作業が大きな成果につながるんだって思えばやりがいもあるだろうに」
腕を組んでムスッとしていた青年だったが、すぐに真剣な表情でその足を止める。それを見たウィルマも意図を察したようで顔を引き締めた。
二人の目の前には金で装飾された重厚な扉があり、扉上部にあるプレートには展示室と記載されていた。
「ここか?」
「ああ、間違いない」
二人は目を見合わせ頷き合うと、ゆっくり力を込めてその扉を押した。
静寂の中、扉の動きに合わせて重々しく軋む音が室内に反響する。
扉を開け切った二人は中の様子を確認する。展示室内は常夜灯が灯っていたため、暗闇にあっても中の様子が視認できる程度には明るかった。
そして、二人はすぐに部屋の中央にあるものに気付き愕然とする。
広い展示室の中央には手を組んで椅子に座る女性が一人。
その女性の後ろには1m四方の分厚い展示用ガラスケースが置かれた漆黒の台座があり、ガラスケースの中には淡い紫の光を発する極大の魔元石が安置されていたのだ。
「・・・震重の魔元石」
「ああ、マズイな。あのデカさはS級か。それに座ってるあの女、かなりデキる」
椅子に座る女性は笑みを浮かべながら口を開く。
「寝ずの番になるかと思って鬱々としていましたが、遊び相手が来てくれて嬉しいです」
女性は穏やかな口調でそう言うと、椅子から立ち上がり腰に帯びた剣を鞘から抜いた。
その動作に合わせて女性が羽織るコートの裾が揺れる。魔元石の淡い紫の光に照らされて浮かび上がったコートには白地に炎のような緋色の模様が入っていた。
「・・・志征か」
「ええ、志征の鳳第一席で、クィンス・リーマンと申します。よろしければお二方のお名前を伺えますか?」
穏やかな口調とは対照的に、クィンスが構えた剣の切先からは圧倒的な殺意が感じられた。
「おー、怖い怖い。悪いけどそんな強烈な殺意を放つような女性に名乗る名前は持ち合わせていないね」
銀髪の青年が軽口で応じながら短刀を構える。その横にいたウィルマも無言で短刀を抜いた。
「そうですか、失礼な方ですね。それでは大きい殿方を太郎君、小さい殿方を次郎君としましょう。さて太郎君と次郎君、貴方達はどちらから先に、・・・死にますか?」
その言葉に呼応するかのようにクィンスの剣が眩い光を発しながら一気に深紅に染まる。
「おいおい、神剣持ちかよ・・・。かなり厄介だが、どうするウィルマ?」
「どうもこうもない、こいつを排除して石を破壊する。それだけだ」
「まぁそうなんだけど、・・・神剣相手に短刀だけじゃキツいな。街で目立たないようにと星刃を置いてきたのは失策だった。こんなことになるなら多少強引にでも持ってくればよかった」
「俺はたらればの話は好かん。やむを得ん、星紋を使うぞ」
「・・・了解だ」
ウィルマと銀髪の青年が念じるとそれぞれの体を黒いオーラが包み込み、額にはうっすらと黒い紋が浮かび上がった。
その様子を見たクィンスの目が丸くなる。
「まさか、星喰・・・?本当に存在していたとは驚きです」
「ああ?なんだ星喰いって!?食ってんのはお前らだろ?」
「よせ、シクステン。何も知らない奴らとは話すだけ無駄だ。・・・さぁ参るぞ、女」
ウィルマが魔力を解放し、両腕からそれぞれ大炎と鋭く大きな風の刃をクィンスに向かって放った。
すぐに回避行動をとるクィンスであったが、突如発生した強力な魔力の荷重によって足が鈍る。
「簡単には逃がさない、とりあえずくらっとけ」
魔力の荷重は銀髪の青年、シクステンが放った震重系の魔操によるものだった。
動きが鈍り回避困難と判断したのかクィンスは迫り来る大炎と風の刃に向かって真正面に剣を構えた。
直撃は不可避と思われる中にあっても、クィンスは余裕の笑みを浮かべている。
放たれた炎と風の魔操が剣を構えるクィンスに直撃し、轟音が鳴り響くと共に粉塵が舞い上がった。続いてクィンスが立っていた場所には火柱が立ち上る。
「これで終わり・・・、とはいかないか」
シクステンが呟くと同時に目の前の火柱が一気に消失し、その跡にはゆったりと剣を構えるクィンスの姿があった。
「無傷か。全力で放った魔操だったが、剣に込めた魔力で容易く相殺されたようだな。想像以上に強い」
ウィルマは無表情のままであったが、その口調は重々しい。
「ぬるいですね。この程度だと遊び相手にもなりませんよ?」
一方のクィンスはクスクスと笑いながら、二人に向かってゆっくりと剣を構え直す。
「・・・シクステン、ここは俺が抑えるからお前は逃げろ。全力の魔操が通用しない以上、星刃のない今の俺達ではまず勝てん」
「はっ?なんだよそれ、俺だけ逃げるなんて嫌に決まってるだろ!」
「目的を履き違えるな。二人の命を賭してこいつと戦うことより、こいつらが震重系の極大魔元石を得た事実をリアス達に伝えることの方がはるかに重要だ。シクステン、頼む」
「・・・くそっ、五分だ。そいつを抑えてくれるなら必ず五分でこの城を離脱する。だから、五分経ったらウィルマもなんとかして逃げてくれ」
「ああ、心得た。勝機はないとはいえ、俺もここで死ぬつもりはない。さぁ行け!」
ウィルマの行けという言葉と同時にシクステンは体を翻して駆け出した。
すぐにクィンスが追撃してくるだろうと予想して身構えるウェルマであったが、意外にもクィンスは笑みを浮かべたままで特に動きを見せなかった。
「・・・追わなくていいのか?」
「ふふふ、必死そうにお話しするお二人が可笑しくて、つい見入ってしまいました。私の悪い癖です」
「ずいぶんと余裕そうだな。こっちとしてはありがたいことだが、流石に侮りすぎだ。俺を倒してから追うつもりなのだろうが、シクステンがこの城を離脱するまでの時間を稼ぐこと位は容易にできる。残念だったな、間違いなくお前の失態だ」
「・・・寡黙な方かと思っておりましたが、ずいぶんと饒舌なんですね。もしかして余裕がないからでしょうか?」
クィンスの指摘に、心を見透かされたような気分になったウィルマは苦い表情で舌打ちをした。
「ふふ、お喋りな方は嫌いではありませんよ。・・・そうですね、お喋りついでに一つ面白いことを教えて差し上げましょう」
「面白いこと?」
「我々のお作法的な話ですよ」
クィンスが構えた剣の切先を少し下げる。
「志征は正体不明の敵が複数名現れた場合は、こっそり追っ手をつけてわざと一名を逃すことにしているんです。そうすると逃げた一名は大抵拠点まで案内してくれるので、その位置を特定したら、直ちに大量の兵士を動員してお仲間を一網打尽にするんです。どうです?中々考えられてて面白いでしょう?」
「・・・だから、シクステンを逃したと?」
「ええ、その通りです」
ウィルマが肩を揺らして笑う。
「あら?そんなに面白かったですか?」
「ああ、確かに面白い。というか安心した。もし今の話が本当ならシクステンは拠点までは必ず逃げ帰れるということになるからな。・・・俺も一つ教えてやろう。シクステンの感知能力は特に優れているから、当然追われていることにすぐ気付く。そして、拠点にある武器を持てばお前とも対等に戦えるくらいの力も持っている。つまり、追うのがお前程の実力者でもない限り、返り討ちにあって終わりになるということだ。ふふ、確かによく考えられた愚策だよ」
ニヤリとした表情で皮肉を言うウィルマであったが、対するクィンスは顎に人差し指を当てて首を傾げる。
「ん~、おかしいですね。私は『この城に鳳は一人しかいない』と言った覚えはないのですが・・・」
ウィルマの眉がピクリと反応する。
「もう一人いたのか。だがそれでも・・・」
「いちいち発想が貧困な方ですね。正しくはもう二人、先程の彼を追うのは二名の鳳ですよ」
「・・・」
最早返す言葉を失ったウィルマは、かわりに短刀を強く握りしめた。その頬を一筋、冷たい汗が伝う。
「さてと、お喋りはこの位にしましょうか。階下の兵士達も先程の音でやわら押し寄せてくるでしょうし、邪魔が入らないうちに遊びを再開しましょう」
クィンスが再び剣を構え、膨大な熱火の魔力を剣に注ぎながら、ゆっくりとウィルマに向かって歩き出す。
やがて剣の魔力許容量を超えて溢れ出した魔力が大気を熱し、その著しい熱気が陽炎となって奥の極大魔元石が放つ紫の光をゆらめかせた。
「神剣から漏れ出る程の魔力を操るか。・・・すまないみんな、この局面を脱することはどうやら思った以上に難しそうだ」
先程、想像以上と評したクィンスの力が、それでもまだ全力でなかったということを知ったウィルマは顔をしかめながら、小さくそう呟いた。
深夜、その城の最上階にある回廊を息を殺すように静かに進む二つの人影があった。
廊下は明かりが灯されておらず暗かったが、等間隔に設置された大きな窓から仄かに差し込む月明かりのおかげでそれなりに夜目がきいた。
窓の横を通過する度に、月明かりが朧に二人の顔を浮かび上がらせる。
一人は、ジゼルを連れ去った大剣の男ウィルマであった。今は大剣を携行しておらず、腰には短刀を帯びている。
もう一人は銀髪のスラッとした体型の青年だった。
一般的な男性と比べれば長身の部類に入るのだが、大きな体格を有するウィルマが横に並ぶと小さく見えた。
「意外とすんなり入れたな」
ウィルマが銀髪の青年に声をかける。
「ふふ、相手方もまさか屋上から侵入されるとは思わないさ。現に屋上テラスは施錠されてなかったし、下層の警備に比べてここは人の気配が圧倒的に少ない。おそらく上階の居住スペースは少数精鋭での警備に留めているのだろう。まぁ俺だって自分の生活範囲にゴチャゴチャと多数の兵士がいるってのは嫌だから理解はできる」
「確かに。だが油断は禁物、慎重に進むぞ」
「もちろん、心得ているさ。さてと目的の物はっと・・・」
銀髪の青年は立ち止まると目を閉じて精神を集中する。
「多分、もう少し先だな」
「・・・多分か。お前の感知能力をもってしても、その程度しか分からない程度の微弱な魔力なら捨て置いてもいい気がするがな」
「おいおい、ここへ来る前にちゃんと説明しただろ?封陣石とやらで魔力感知を阻害されているにも関わらず感じるってことは、相当に強い魔力が蓄えられている可能性が高いって。寝てたのか?」
「聞いてたよ。でも前回同じように強い魔力を感じるとか言って、張り切って東の都ブロエーラルに忍び込んだ時は、結局、熱火系の魔元石だったじゃないか。どうせ今回もそんなとこだろうよ」
「だが、S級の極大魔元石だったし破壊できてよかっただろ?」
「熱火はどちらかというと大した脅威じゃない。それにあれはレプリカだった。有意義な成果だったとは到底言えないな」
「むっ、それはそうだけど今回も同じとは限らないだろ?もしかして震重系だったらどうする?オリジナルだったら更に由々しき事態だぞ!」
「声がでかい、分かったから熱くなるな。俺だってそれは十分理解しているさ。だが、こういう隠密行動的なものは俺の性に合わないから、ボヤきたくもなるんだよ」
「まったく、こういう地道な作業が大きな成果につながるんだって思えばやりがいもあるだろうに」
腕を組んでムスッとしていた青年だったが、すぐに真剣な表情でその足を止める。それを見たウィルマも意図を察したようで顔を引き締めた。
二人の目の前には金で装飾された重厚な扉があり、扉上部にあるプレートには展示室と記載されていた。
「ここか?」
「ああ、間違いない」
二人は目を見合わせ頷き合うと、ゆっくり力を込めてその扉を押した。
静寂の中、扉の動きに合わせて重々しく軋む音が室内に反響する。
扉を開け切った二人は中の様子を確認する。展示室内は常夜灯が灯っていたため、暗闇にあっても中の様子が視認できる程度には明るかった。
そして、二人はすぐに部屋の中央にあるものに気付き愕然とする。
広い展示室の中央には手を組んで椅子に座る女性が一人。
その女性の後ろには1m四方の分厚い展示用ガラスケースが置かれた漆黒の台座があり、ガラスケースの中には淡い紫の光を発する極大の魔元石が安置されていたのだ。
「・・・震重の魔元石」
「ああ、マズイな。あのデカさはS級か。それに座ってるあの女、かなりデキる」
椅子に座る女性は笑みを浮かべながら口を開く。
「寝ずの番になるかと思って鬱々としていましたが、遊び相手が来てくれて嬉しいです」
女性は穏やかな口調でそう言うと、椅子から立ち上がり腰に帯びた剣を鞘から抜いた。
その動作に合わせて女性が羽織るコートの裾が揺れる。魔元石の淡い紫の光に照らされて浮かび上がったコートには白地に炎のような緋色の模様が入っていた。
「・・・志征か」
「ええ、志征の鳳第一席で、クィンス・リーマンと申します。よろしければお二方のお名前を伺えますか?」
穏やかな口調とは対照的に、クィンスが構えた剣の切先からは圧倒的な殺意が感じられた。
「おー、怖い怖い。悪いけどそんな強烈な殺意を放つような女性に名乗る名前は持ち合わせていないね」
銀髪の青年が軽口で応じながら短刀を構える。その横にいたウィルマも無言で短刀を抜いた。
「そうですか、失礼な方ですね。それでは大きい殿方を太郎君、小さい殿方を次郎君としましょう。さて太郎君と次郎君、貴方達はどちらから先に、・・・死にますか?」
その言葉に呼応するかのようにクィンスの剣が眩い光を発しながら一気に深紅に染まる。
「おいおい、神剣持ちかよ・・・。かなり厄介だが、どうするウィルマ?」
「どうもこうもない、こいつを排除して石を破壊する。それだけだ」
「まぁそうなんだけど、・・・神剣相手に短刀だけじゃキツいな。街で目立たないようにと星刃を置いてきたのは失策だった。こんなことになるなら多少強引にでも持ってくればよかった」
「俺はたらればの話は好かん。やむを得ん、星紋を使うぞ」
「・・・了解だ」
ウィルマと銀髪の青年が念じるとそれぞれの体を黒いオーラが包み込み、額にはうっすらと黒い紋が浮かび上がった。
その様子を見たクィンスの目が丸くなる。
「まさか、星喰・・・?本当に存在していたとは驚きです」
「ああ?なんだ星喰いって!?食ってんのはお前らだろ?」
「よせ、シクステン。何も知らない奴らとは話すだけ無駄だ。・・・さぁ参るぞ、女」
ウィルマが魔力を解放し、両腕からそれぞれ大炎と鋭く大きな風の刃をクィンスに向かって放った。
すぐに回避行動をとるクィンスであったが、突如発生した強力な魔力の荷重によって足が鈍る。
「簡単には逃がさない、とりあえずくらっとけ」
魔力の荷重は銀髪の青年、シクステンが放った震重系の魔操によるものだった。
動きが鈍り回避困難と判断したのかクィンスは迫り来る大炎と風の刃に向かって真正面に剣を構えた。
直撃は不可避と思われる中にあっても、クィンスは余裕の笑みを浮かべている。
放たれた炎と風の魔操が剣を構えるクィンスに直撃し、轟音が鳴り響くと共に粉塵が舞い上がった。続いてクィンスが立っていた場所には火柱が立ち上る。
「これで終わり・・・、とはいかないか」
シクステンが呟くと同時に目の前の火柱が一気に消失し、その跡にはゆったりと剣を構えるクィンスの姿があった。
「無傷か。全力で放った魔操だったが、剣に込めた魔力で容易く相殺されたようだな。想像以上に強い」
ウィルマは無表情のままであったが、その口調は重々しい。
「ぬるいですね。この程度だと遊び相手にもなりませんよ?」
一方のクィンスはクスクスと笑いながら、二人に向かってゆっくりと剣を構え直す。
「・・・シクステン、ここは俺が抑えるからお前は逃げろ。全力の魔操が通用しない以上、星刃のない今の俺達ではまず勝てん」
「はっ?なんだよそれ、俺だけ逃げるなんて嫌に決まってるだろ!」
「目的を履き違えるな。二人の命を賭してこいつと戦うことより、こいつらが震重系の極大魔元石を得た事実をリアス達に伝えることの方がはるかに重要だ。シクステン、頼む」
「・・・くそっ、五分だ。そいつを抑えてくれるなら必ず五分でこの城を離脱する。だから、五分経ったらウィルマもなんとかして逃げてくれ」
「ああ、心得た。勝機はないとはいえ、俺もここで死ぬつもりはない。さぁ行け!」
ウィルマの行けという言葉と同時にシクステンは体を翻して駆け出した。
すぐにクィンスが追撃してくるだろうと予想して身構えるウェルマであったが、意外にもクィンスは笑みを浮かべたままで特に動きを見せなかった。
「・・・追わなくていいのか?」
「ふふふ、必死そうにお話しするお二人が可笑しくて、つい見入ってしまいました。私の悪い癖です」
「ずいぶんと余裕そうだな。こっちとしてはありがたいことだが、流石に侮りすぎだ。俺を倒してから追うつもりなのだろうが、シクステンがこの城を離脱するまでの時間を稼ぐこと位は容易にできる。残念だったな、間違いなくお前の失態だ」
「・・・寡黙な方かと思っておりましたが、ずいぶんと饒舌なんですね。もしかして余裕がないからでしょうか?」
クィンスの指摘に、心を見透かされたような気分になったウィルマは苦い表情で舌打ちをした。
「ふふ、お喋りな方は嫌いではありませんよ。・・・そうですね、お喋りついでに一つ面白いことを教えて差し上げましょう」
「面白いこと?」
「我々のお作法的な話ですよ」
クィンスが構えた剣の切先を少し下げる。
「志征は正体不明の敵が複数名現れた場合は、こっそり追っ手をつけてわざと一名を逃すことにしているんです。そうすると逃げた一名は大抵拠点まで案内してくれるので、その位置を特定したら、直ちに大量の兵士を動員してお仲間を一網打尽にするんです。どうです?中々考えられてて面白いでしょう?」
「・・・だから、シクステンを逃したと?」
「ええ、その通りです」
ウィルマが肩を揺らして笑う。
「あら?そんなに面白かったですか?」
「ああ、確かに面白い。というか安心した。もし今の話が本当ならシクステンは拠点までは必ず逃げ帰れるということになるからな。・・・俺も一つ教えてやろう。シクステンの感知能力は特に優れているから、当然追われていることにすぐ気付く。そして、拠点にある武器を持てばお前とも対等に戦えるくらいの力も持っている。つまり、追うのがお前程の実力者でもない限り、返り討ちにあって終わりになるということだ。ふふ、確かによく考えられた愚策だよ」
ニヤリとした表情で皮肉を言うウィルマであったが、対するクィンスは顎に人差し指を当てて首を傾げる。
「ん~、おかしいですね。私は『この城に鳳は一人しかいない』と言った覚えはないのですが・・・」
ウィルマの眉がピクリと反応する。
「もう一人いたのか。だがそれでも・・・」
「いちいち発想が貧困な方ですね。正しくはもう二人、先程の彼を追うのは二名の鳳ですよ」
「・・・」
最早返す言葉を失ったウィルマは、かわりに短刀を強く握りしめた。その頬を一筋、冷たい汗が伝う。
「さてと、お喋りはこの位にしましょうか。階下の兵士達も先程の音でやわら押し寄せてくるでしょうし、邪魔が入らないうちに遊びを再開しましょう」
クィンスが再び剣を構え、膨大な熱火の魔力を剣に注ぎながら、ゆっくりとウィルマに向かって歩き出す。
やがて剣の魔力許容量を超えて溢れ出した魔力が大気を熱し、その著しい熱気が陽炎となって奥の極大魔元石が放つ紫の光をゆらめかせた。
「神剣から漏れ出る程の魔力を操るか。・・・すまないみんな、この局面を脱することはどうやら思った以上に難しそうだ」
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