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第四章 星天燃ゆる雪の都
序幕 「戦に至る因子」 二
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城を早急に離脱するために、シクステンは侵入した経路を逆走し疾風の如く屋上テラスを目指す。
途中で遭遇した兵士二名を難なく押し退け無事屋上テラスに辿り着くと、そのままフェンスを越えて躊躇することなく城の屋上から跳躍した。
眼下には侵入者への対処のため、慌ただしく城内を右往左往する兵士達の姿が見えた。
シクステンは落下を始めた体をすぐに震重系の魔操で軽くすると共に、風の魔操で推進力を生み出す。
暦上では春を迎えたといっても、雪の都ユフムダルの夜空にはまだ雪がちらついており、身に受ける向かい風と相まって、その寒さが身に染みた。
地上に向かって斜めに滑空し、一気に城壁外にある街の上空にまで至ると、次は闇夜の空から街を見回し、人気の少なさそうな場所を選んで着地する。
そこから更に休むことなくユフムダルの主要街を囲む外郭に向かって駆け出した。
2km程駆けると外郭の大門が見えてきた。
当然のことながら門の鉄でできた落とし格子は降りており通過はできない。
それでもシクステンは勢いそのままに止まることなく外郭の大門に迫った。
「止まれ!何者か!」
その姿に気付いた外郭監視台の兵士が、風音系の魔操で拡声した尋常ならざる大声をシクステンに浴びせる。
シクステンは問いに答えず、再び震重系の魔操を発動する。体を軽くしたうえで高さ八メートルの外郭を飛び越すつもりであった。
「ぬぅ!不審者め、守備隊抜刀!魔砲隊照準合わせ!」
外郭上の守備隊は抜刀した剣に魔力を込めるとそのまま階段を伝って地表に降り立ちシクステンを迎え撃つ。
魔砲隊と呼ばれた者達は外郭上に設置された魔砲と呼ばれる大砲型アーティファクトの砲門を手際良くシクステンに向けた。
兵士達はよく訓練されておりその動きは早い。
「邪魔だ!」
シクステンが駆けながら、極大の火球を前方で待ち受ける兵士に向かって放つ。
火球は着弾と同時に轟音を鳴り響かせながら爆ぜ、火柱が上がった。
回避しきれなかった兵士数名が火に呑まれる。
それでも兵士の士気が衰えることはなく、残った兵士は意気揚々とシクステンに切りかかった。
「ちっ!」
脱出を最優先に考えるシクステンは兵士の斬撃を掻い潜り、目の前に立ちはだかる外郭の前で、跳躍のために大きく屈んだ。
瞬間、シクステンの目が白くまばゆい光を捉える。外郭上の魔砲から高密度の魔力で生成された光線が放たれたのだ。
シクステンが横に跳んで間一髪のところで光線を回避する。
光線が当たった大地はジュワッという音と共に蒸発し、直径3メートル程度の円形の窪みを作り上げた。
「第一砲門、雷光魔元石換装急げ!第二砲門照準!守備隊は敵の足を止めろ!突撃!」
外郭上の指揮官から矢継ぎ早に発せられる命令に兵士達が敏速に対応する。
「うっざ!」
間髪入れず突撃してくる守備隊の見事な連携がシクステンの魔力を練る時間を奪い、かつその足を止める。
そこに第二砲門が照準を合わせ発光を始めた。
「正気か!?お前らの仲間もいるんだぞ!?」
「守備隊退避!第二砲、放て!」
斬りかかっていた兵士達は光線が発射されると同時にシクステンを照準の中央に残して、魔砲の影響範囲外に後退した。
守備隊はコンマ数秒のズレで巻き添えを食うようなギリギリのタイミングでの退避をいとも簡単そうにやってのけたのだ。
「うおぉ!」
次弾もかろうじて横に転がり跳んで回避したシクステンであったが、流石に今回はギリギリだったようで光線がかすった左腕に大きな火傷を負った。
その左腕をさするシクステンの目つきが一気に鋭くなる。
「・・・無視するのが一番早いかと思ったが、本当によく訓練されている」
ズボンについた土を払いながら呟くシクステンに再び守備隊が斬りかかる。
「どうやらここは全員潰すほうが早そうだな」
短刀の切先を守備隊に向けたシクステンが大きく息を吸うと、にわかに額の黒き紋が発光し短刀は緑に染まる。
それから時間にして一分弱。
夜空にちらつく雪が月明かりを浴びてキラキラと光る中、外郭の上で短刀についた血を振り払うシクステンの姿があった。
その足元には喉元を切られ息絶えた指揮官が横たわる。周囲には守備隊と魔砲隊の遺骸が多数あり、破壊された魔砲の残骸も散らばっていた。
「・・・時間を食った」
そう呟くとシクステンは外郭から飛び降り、一路、街の外に向けて駆け出した。
シクステンが去った外郭上に人影が二つ。二人とも志征のコートを羽織っており、その裾が外郭上に吹く風によってパタパタとはためく。
「泳がすためとはいえ、すまない」
一名がひざまずき指揮官の顔にそっと手をあて、見開かれたままとなっていた目の瞼を閉じる。
「ミリア、見失う前に行くぞ。遺体は後続が丁重に葬ってくれるだろう」
「そうだな。だが、少しだけ祈りを捧げたい」
ミリアと呼ばれた女性はひざまずいたまま目を閉じて手を組み、ゆっくり頭を下げた。
「これだけの兵士を軽くあしらえる程の相手だ、俺達も気合い入れないとな」
もう一人の男がそう言いながら、外郭上の惨状をもう一度見回した。
祈りを終えたミリアが立ち上がり、シクステンの走り去った方向に視線を向ける。
「・・・さぁ行こう、ランデル」
「ああ」
二人は外郭を飛び降りると、一陣の風となってシクステンの後を追った。
途中で遭遇した兵士二名を難なく押し退け無事屋上テラスに辿り着くと、そのままフェンスを越えて躊躇することなく城の屋上から跳躍した。
眼下には侵入者への対処のため、慌ただしく城内を右往左往する兵士達の姿が見えた。
シクステンは落下を始めた体をすぐに震重系の魔操で軽くすると共に、風の魔操で推進力を生み出す。
暦上では春を迎えたといっても、雪の都ユフムダルの夜空にはまだ雪がちらついており、身に受ける向かい風と相まって、その寒さが身に染みた。
地上に向かって斜めに滑空し、一気に城壁外にある街の上空にまで至ると、次は闇夜の空から街を見回し、人気の少なさそうな場所を選んで着地する。
そこから更に休むことなくユフムダルの主要街を囲む外郭に向かって駆け出した。
2km程駆けると外郭の大門が見えてきた。
当然のことながら門の鉄でできた落とし格子は降りており通過はできない。
それでもシクステンは勢いそのままに止まることなく外郭の大門に迫った。
「止まれ!何者か!」
その姿に気付いた外郭監視台の兵士が、風音系の魔操で拡声した尋常ならざる大声をシクステンに浴びせる。
シクステンは問いに答えず、再び震重系の魔操を発動する。体を軽くしたうえで高さ八メートルの外郭を飛び越すつもりであった。
「ぬぅ!不審者め、守備隊抜刀!魔砲隊照準合わせ!」
外郭上の守備隊は抜刀した剣に魔力を込めるとそのまま階段を伝って地表に降り立ちシクステンを迎え撃つ。
魔砲隊と呼ばれた者達は外郭上に設置された魔砲と呼ばれる大砲型アーティファクトの砲門を手際良くシクステンに向けた。
兵士達はよく訓練されておりその動きは早い。
「邪魔だ!」
シクステンが駆けながら、極大の火球を前方で待ち受ける兵士に向かって放つ。
火球は着弾と同時に轟音を鳴り響かせながら爆ぜ、火柱が上がった。
回避しきれなかった兵士数名が火に呑まれる。
それでも兵士の士気が衰えることはなく、残った兵士は意気揚々とシクステンに切りかかった。
「ちっ!」
脱出を最優先に考えるシクステンは兵士の斬撃を掻い潜り、目の前に立ちはだかる外郭の前で、跳躍のために大きく屈んだ。
瞬間、シクステンの目が白くまばゆい光を捉える。外郭上の魔砲から高密度の魔力で生成された光線が放たれたのだ。
シクステンが横に跳んで間一髪のところで光線を回避する。
光線が当たった大地はジュワッという音と共に蒸発し、直径3メートル程度の円形の窪みを作り上げた。
「第一砲門、雷光魔元石換装急げ!第二砲門照準!守備隊は敵の足を止めろ!突撃!」
外郭上の指揮官から矢継ぎ早に発せられる命令に兵士達が敏速に対応する。
「うっざ!」
間髪入れず突撃してくる守備隊の見事な連携がシクステンの魔力を練る時間を奪い、かつその足を止める。
そこに第二砲門が照準を合わせ発光を始めた。
「正気か!?お前らの仲間もいるんだぞ!?」
「守備隊退避!第二砲、放て!」
斬りかかっていた兵士達は光線が発射されると同時にシクステンを照準の中央に残して、魔砲の影響範囲外に後退した。
守備隊はコンマ数秒のズレで巻き添えを食うようなギリギリのタイミングでの退避をいとも簡単そうにやってのけたのだ。
「うおぉ!」
次弾もかろうじて横に転がり跳んで回避したシクステンであったが、流石に今回はギリギリだったようで光線がかすった左腕に大きな火傷を負った。
その左腕をさするシクステンの目つきが一気に鋭くなる。
「・・・無視するのが一番早いかと思ったが、本当によく訓練されている」
ズボンについた土を払いながら呟くシクステンに再び守備隊が斬りかかる。
「どうやらここは全員潰すほうが早そうだな」
短刀の切先を守備隊に向けたシクステンが大きく息を吸うと、にわかに額の黒き紋が発光し短刀は緑に染まる。
それから時間にして一分弱。
夜空にちらつく雪が月明かりを浴びてキラキラと光る中、外郭の上で短刀についた血を振り払うシクステンの姿があった。
その足元には喉元を切られ息絶えた指揮官が横たわる。周囲には守備隊と魔砲隊の遺骸が多数あり、破壊された魔砲の残骸も散らばっていた。
「・・・時間を食った」
そう呟くとシクステンは外郭から飛び降り、一路、街の外に向けて駆け出した。
シクステンが去った外郭上に人影が二つ。二人とも志征のコートを羽織っており、その裾が外郭上に吹く風によってパタパタとはためく。
「泳がすためとはいえ、すまない」
一名がひざまずき指揮官の顔にそっと手をあて、見開かれたままとなっていた目の瞼を閉じる。
「ミリア、見失う前に行くぞ。遺体は後続が丁重に葬ってくれるだろう」
「そうだな。だが、少しだけ祈りを捧げたい」
ミリアと呼ばれた女性はひざまずいたまま目を閉じて手を組み、ゆっくり頭を下げた。
「これだけの兵士を軽くあしらえる程の相手だ、俺達も気合い入れないとな」
もう一人の男がそう言いながら、外郭上の惨状をもう一度見回した。
祈りを終えたミリアが立ち上がり、シクステンの走り去った方向に視線を向ける。
「・・・さぁ行こう、ランデル」
「ああ」
二人は外郭を飛び降りると、一陣の風となってシクステンの後を追った。
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