命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

二幕 「鴉の品格 前」 三

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 アス達は捜索依頼書を受領した後、村人達がニードルリーパーを発見した詳細な位置を確認してから村長宅を辞去し、明朝の出発に備えて村に一つしかない宿に向かった。

 一夜明けた早朝、準備を整えて宿を出たアス達は、快晴の空から注がれる心地の良い朝日を浴びながら森の入り口に向かう。

 宿には例の二人も泊まっていたため、昨夜の内に段取りは伝えてあって、今日は森の入り口で合流する手筈となっていた。

 アス達が森の入り口にある、木で出来たアーチ状の門に到着してから程なくして、その二人がやって来た。

「ベーガさん、ライさん、おはようございます。本日はよろしくお願いします」

「ああ、おはよう」

 アスが挨拶をすると、男達は少し眠そうな様子で応える。

 二人の名前は昨夜段取りを伝える際に聞いており、輝葬師の男はベーガ、もう一人の男は輝葬衛士のライといった。

 ライは輝葬衛士としては珍しく弓を扱うようで、今日は腰に帯びた剣の他にショートボウを背負っている。

「それでは、昨日伝えた通り僕達が先行して森に入りますから、ベーガさん達は後ろから追従してきてください。あと行動中の連絡はライさんとシオンの風音魔操で行いましょう」

「了解だ。一応念押ししておくが、戦闘が始まっても俺達は一切手助けはしないし、危険そうだと判断したらお前達を置いてとっととずらからせてもらう。いいな?」

「はい、それで構いません」

「よし、じゃあ進んでくれ」

 アス達はアーチ状の門をくぐり、マールトンに教えてもらった通りに森を進み始める。十五分程道なりに進むと一つ目の目印である社に辿り着いた。

 この社では春に五穀豊穣の祈りが捧げられ、秋の収穫時には祭りも行われるらしく、村人達にとっては神聖な場所であると聞いている。

 そのため、定期的に村人が往来するこの社までの道はそれなりに整備されていて歩きやすいものであった。

「社の入り口を真正面に据えて、左手にあたる方角を真っ直ぐ進むんだったよな?」

 エラルがアスに問いかけながら、これから進む方角に視線を向ける。

 アスはうんと頷いてから、エラルと同じ方角に顔を向けた。

 そこには乱雑に大きく育った無数の木々や草花があり、人間の手が入っていない大自然そのままの光景があった。

「思ったより険しい森ね・・・、あの幼いオレリアちゃんが一緒に行った道だっていうからもう少し歩きやすい場所かと思ってた」

 アスの横でシオンがため息まじりにそう呟く。

「そうだね、二人ともここからは慎重に進もう」

 三人は互いに頷き合うのを確認してから原生林の森に向かって歩を進めた。だが、すぐにアスがその足を止める。

「どうした、アス?」

 足を止めたアスを見て、エラルが首を傾げる。

「ごめんシオン、先に進む前に念のため後ろを歩いているベーガさんとライさんに一度連絡をしてもらっていい?今のうちにちゃんと風音の魔元石が優先されていることを確認しておきたい」

「あ、確かに確認してなかったね。それじゃあ、うーん・・・、予定通り社前を通過して本格的に森に入りますって送ってみるね」

 シオンは後ろを振り返ると風音の魔力を練り始める。

 にわかにシオンの左耳に装着されたピアスの魔元石が緑の光を放ち、すぐにシオンの声を乗せた一陣の風が後方を歩くベーガ達に向かって吹き抜けた。

 声は上手く届いたようで、ベーガが手を上げて応える。それを見てアスが安堵の表情を浮かべた。

「・・・よし、輝波は出ていないし大丈夫そうだ。でも、今回は輝波を感知できるベーガさんがいるから、魔元石の魔力切れによる黒ピアスの発動には特に注意してね」

「うん、分かってる。十分に気をつけるよ」

 シオンがフレアと同質の輝波を放つという事実は、前ノエル公ドローレンスの意向で、ドローレンスの他、アス、エラル、シオン、ディオニージ、フォンセの五名のみが知り得る重大な秘密事項であった。

 ドローレンスが本件を秘匿としたのは、現状、人類の天敵であるフレアの生体に関する情報を人類側が全く有していないことによるもので、万が一にでもこの事実がフレアの情報を渇望する国に知られれば、生体調査の名目でシオンが非人道的な人体実験の対象になる可能性が高いと考えたためである。

 勿論、本件の秘匿は国に対する重大な背徳行為であったが、それでもドローレンスはシオンを人体実験から守るために五年前の紅前会議で六華の地位と引き替えに『ただの村人』ということで押し切る決断をしたのだ。

 そのようにして得られた王都での平穏な生活の中で、シオンはアスとエラルの協力を得ながら慎重に、少しずつ自身の特異体質についての理解を深めていった。

 今現在、シオンの特性として分かっていることは、黒ピアスを使用すると熱火、風音、水氷の魔力を操れるが同時に輝波も生じること、黒ピアスと魔元石を同時に利用した場合は魔元石が優先されること、感情の著しい高揚に応じて輝波を放つことがあるという三点である。

 また、黒ピアスの特性としては五点、再錬が不要であること、常時装着しても輝核に影響がないこと、活性系魔力による自動治癒能力を有すること、封陣系魔力による魔操停止時及び平静時における輝波遮断能力が備わっていること、シオンが装着した時だけにしか効力を発揮しないことが分かっていた。

「さてと、シオンの魔操に問題ないことは確認できたようだし、みんな先に進もうぜ」

 エラルがそう言って意気揚々と森に足を踏み入れる。
「殿はよろしくね、アス」

 シオンはアスにニッコリと微笑みを送ってからエラルに続いて森に入った。

 その後ろを追ってアスが森に入ろうとしたとき、不意に森の奥から鳥のものと思われる大きな鳴き声が聞こえた。

「聞いたことのない鳴き声だ。なんの鳥だろ?」

 未知なる生物の存在に少し心が浮き立つような感覚を覚えながら、アスは森を進み始めた。
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