命導の鴉

isaka+

文字の大きさ
98 / 131
第四章 星天燃ゆる雪の都

二幕 「鴉の品格 前」 五

しおりを挟む
 それからしばらくして、祈りを終えた三人は今回の主目的であるラナセスの捜索を開始すべく段取りを始める。

「それじゃあ、三手に別れてラナセスさんの捜索を始めよう。輝波の感じ方から考えるとおそらく半径百メートル程の範囲内にいると思う。捜索中の合図は笛を使ってね」

「見つけたら三回短く鳴らす。返答は一回強く鳴らす。緊急事態の時は鳴らし続ける。でよかったよな?」

「うん、それで大丈夫。森にはさっき討伐したニードルリーパー以外にも危険な生物がいる可能性があるから慎重に行動してね。捜索に集中すると特に周りが見えづらくなるから要注意だよ」

「分かってるって。さぁ始めるぞ!」

「あ、あと・・・」

 意気揚々とすぐに自分の持ち場に向かおうとしていたエラルがその足を止める。

「ん?まだ何かあるのか?」

「えっと、ニードルリーパーについて一つ懸念があるから共有しておくね」

「懸念?」

「二人とも、一般には変異種が生まれる原因は不規則に発生する魔力磁場によるもので、その影響範囲は極めて小さいとされていることは知っているよね」

「ああ、学校でそう習ったけど?」

「影響範囲が小さいにも関わらず変異種の大群が発生したということは、おそらく今回のニードルリーパーは卵の段階でまとめて磁場の影響を受けたからなんじゃないかって想定してたんだ」

「あ、・・・そうか。確かニードルリーパーって一つの卵から何百って生まれるから」

 アスは自分の言いたいことを理解した様子のシオンを見て頷く。

「そう、さっきの戦いで目についたニードルリーパーは全数討伐したけど思ったより数が少なかったから、もしかしたらどこかにまだ大群が潜んでいるかも知れない。思い過ごしかもだけど、一応その点も気をつけてほしい」

「なるほど。そう言われると確かに少なかったな。・・・了解だ。それも気をつけて捜索するよ。まぁなんにせよ何かあれば笛で合図だな」

「うん、みんな無理はせずにね」

 三人は互いに頷き合った後、すぐに三方向に別れて捜索を開始した。



 アスが自身の持ち場の捜索を始めて三十分が経過する頃、シオンが捜索に向かった方角から三回短く笛の音が鳴った。

「あっちだったか」

 鬱蒼とする草木を中腰でかき分け続けていたアスは、ふぅと息を吐いて腰を伸ばし、額の汗を拭ってから笛を強く一回鳴らす。

 続いてエラルの捜索方面からも同様に笛の音が返ってきた。

 それからアスがシオンの笛の音が聞こえた方に向かって歩き始めたところで、再びシオンがいる方角から笛の音が鳴った。

「えっ?」

 今度は長い。それは間違いなく緊急事態の合図であった。心臓の鼓動が早まる中、アスは草木をかき分けてシオンの笛の音に向かって全力で駆けた。

 しばらく森を疾走したアスがその視界にシオンを捉える。

「シオン!」

 アスは駆けながら抜刀し、一気にその距離を縮める。そしてシオンのそばに到着すると剣を構えて周囲を見回した。しかし、特に敵と思われる相手の姿はない。

「大丈夫?何があったの?」

 不思議に思いつつもアスは周囲への警戒を解かず、シオンに背中を向けたまま尋ねた。

「あ、うん。実は・・・」

「大丈夫か!?」

 シオンが話しかけたところへ慌てた様子のエラルも到着し、アスと同様に剣を構えて周囲を見回す。しかし敵がいないことを受けてエラルも首を傾げた。

「・・・あれ?」
 肩透かしをくらったような表情でアスとエラルがシオンに目を向けると、シオンは不安そうな表情をしつつ頭を下げた。その肩は少し震えている。

「ごめん、緊急事態なのかは少し迷ったんだけど。・・・二人ともこっち来て」

 シオンに導かれるままに森を進むにつれて、ほんのりと腐臭が漂ってくる。

「あれ見て」

 シオンが指差す方に広がる凄惨な光景を見たアスとエラルは絶句した。

 そこにはおびただしい数のニードルリーパーの死骸があったのだ。

 どの死骸も元の形を成さないほどに損壊しており、辺り一面には蟲の赤い体液と肉が大量に飛び散っている。

「ラナセスさんと思われる遺体はさっき私がいた近くで見つけたんだけど、森の奥から漂ってくる腐臭が気になってここに来てみたら、この有様で・・・」

 シオンがこの悲惨な状況に眉をひそめる。

「なんだよ、これ。数百体はあるぞ・・・」

「私も何があったか見当もつかなくて。それでただただ不安になって、早く二人に来て欲しくて、それで笛を吹いたの」

 アスは頷くと深呼吸して心を鎮めてからゆっくりと死骸の様子を観察する。

「腐敗の状況から考えるとここで何かが起こってから二、三日は経っていると思う。死骸の著しい損壊は爆発によるものにも見えるけど焦げ跡とかはないから、・・・そうだな、単純に何か想像を絶する強い力で叩かれて肉体が弾け飛んだって感じかな」

「もしかして、フレアか?」

「分からない。でもフレアが人と魔元石以外を標的に活動したって話は聞いた事ないし、おそらく違う何かだと思う」

「なんかやばそうな気がするな」

「そうだね、今は周囲に危険を感じないけどあまり長居をしない方がいいかも。とはいえ、ここにいてもこれ以上のことは分からないし、とりあえずシオンが発見した遺体のところに向かおう」

 すぐに三人はその場を離れると、シオンが先頭に立って遺体を発見した場所までアスとエラルを導く。しばらく森を進むと木の根元にボロボロの姿で横たわる青年の姿があった。

 早速アスが身元を確認するために検分を開始する。

「特徴は聞いていた通りだし、ラナセスさんで間違いない。背中にニードルリーパーの毒針で刺されたと思われる跡があるけど急所は外れてるし、その他の傷もそこまで深くないから、おそらく受けた毒が全身に回ったために亡くなったんだと思う」

「・・・そうか。亡くなっているってことは予想していたことだったけど、それでも現実を目の前にするとつらいな」

「うん、そうだね・・・」

 アスは遺体のそばに落ちている剣に気づいて拾い上げる。刀身には蟲の体液がこびりついていた。

「・・・妹のオレリアちゃんを逃すために必死にここで戦ったのね」

 シオンが寂しそうにそう呟く中、アスが何かを思い立ったような表情で二人に視線を向けた。

「どうしたアス?」

「エラル、シオン、二人にお願いがある。本来であればここでラナセスさんを輝葬するところなんだけど、遺体の状態はそんなに悪くないから、できれば家族の下に連れて帰りたい。遺族が気持ちの整理をつけてこれからを生きていくためにも、もう一度顔を見て別れを告げる時間を作ってあげたいんだ」

 アスの突然の提案に、エラルとシオンが少し考える素振りを見せるも、すぐにそれぞれ頷いた。

「いいよ。アスがそうしたいって言うのなら俺は構わない。だけど流石に遺体を運ぶってなると帰りはかなりしんどい道のりになりそうだな」

「私もいいよ。でも、私の力じゃラナセスさんを背負って歩くのは難しいかな。その代わりに二人の荷物は私が持つよ」

「二人ともありがとう。それじゃあ他に遺品がないか付近を少し捜索したら、ラナセスさんを連れて村に戻ろう」

 三人はしばらく付近を見てまわり他に遺品が無いことを確認する。

 それから、ラナセスを村に連れて帰るためにアスは丁寧に遺体を背に乗せた。数十キログラムはある遺体が力無くもたれかかる背中には想像以上の重さを感じる。

「少し進んだら交代するよ」

「うん、ありがとうエラル」

 アスは遺体を運ぶということの大変さを噛み締めながら、背におぶさるラナセスの足をしっかりと両腕で把持して、慎重に森の悪路を歩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

処理中です...