命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

三幕 「鴉の品格 後」 一

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 村への帰路についた一行は三角点岩に差し掛かったところで、ただならぬ異変を察知してその足を止めた。

「エラル、シオン、気をつけて・・・」

「ああ、分かってる。三角点岩の方から俺たちに向かって強烈な殺気が放たれてる」

「紅孔雀がいたところよね。嫌な予感がする」

 シオンが不安そうに三角点岩を見つめる。

「ちょっと様子を見てくるから、二人はここで待っててくれ。何が起こるか分からないし、アスは万が一に備えてラナセスさんを安全な場所に一旦下ろしておいて」

「うん、分かった。エラル、気をつけてね」

 エラルは頷くと抜刀して警戒体制でゆっくりと三角点岩に近づく。その間に、アスは丁寧にラナセスを下ろし大地に横たわらせた。

 突如、三点岩の合間からけたたましい鳴き声と共に一羽の大きな鳥がエラルに鋭いくちばしを向けて、その体を貫く勢いで猛然と突進してきた。

「うおっ!?」

 間一髪のところでエラルは剣でくちばしをいなして横に避ける。三人の前に姿を現した鳥は紅孔雀で間違いなかったが、先ほど見た紅孔雀よりも一回り大きく、さらに雄々しさを感じさせる風貌をしていた。

「雄の親鳥?・・・」

 エラルが剣を構えて相対する紅孔雀は、見るからに怒り心頭といった様子で三人に禍々しい程の殺気を向けながら、紅い尾羽を全開に広げる。

 にわかに紅孔雀の尾羽が赤く輝くと熱火の魔力で練られた大きな火球がアス、エラル、シオンのそれぞれに向かって放たれた。

「えっ!?魔操!?」

 いきなりの火球での攻撃に虚をつかれたアスであったが、咄嗟に剣を払うことでなんとか直撃を回避した。

 だが、魔力が十分に込められていない剣では十分に威力を相殺することができず、利き腕に火傷を負ってしまう。

「魔力の援護が遅れてごめん!すぐに剣に魔力を注入するよ!」

 風音の魔力で自身に向けられた火球を相殺したシオンがすぐにアスの下に駆け寄り、慌ててアスの剣に魔力を注入する。

「アス!大丈夫か!?」

 エラルもどうやら上手く魔操で火球を相殺したようで、少し離れた三点岩のそばから心配そうにアスに声をかける。

「大丈夫、そんなにひどい火傷じゃない!それよりも集中しよう。この紅孔雀、魔創型の変異種だ!」

 魔力磁場の影響による変異には二種類あった。一つは大型変異であり今回のニードルリーパーのように巨大化による膂力強化と毒などの固有特性が強化される特徴がある。

 もう一つは魔創型変異と呼ばれ、体内で魔力を創生し、その魔力によって肉体を強化するとともに強力な魔法を放つことができるようになる特徴を持つ。

 五年前にヴェルノと共に戦ったコモラもそうだが、この魔創型の変異は非常に稀で、大型変異に比べてその危険性は極めて高い。

「できれば、戦いは避けたいところだけど・・・」

 アスは先程横たわらせたラナセスの遺体にちらりと視線を向ける。それから目の前で猛る紅孔雀を見据え、意を決して剣の柄を強く握り直した。

「やむを得ない、エラル、シオン、討伐だ!逃げても紅孔雀が火球で追撃してくれば森の大火災につながる恐れがあるし、ラナセスさんの遺体も無事では済まない!」

 アスの判断にエラルが顔をしかめる。

「くそっ、殺したくはないが今はそれが最善か・・・。しょうがない、アス!前後に挟んで一気に仕留めるぞ!」

 覚悟を決めたエラルが剣に熱火の魔力を込めて一気に紅孔雀に詰め寄ろうとするが、その動きに合わせて紅孔雀から大量の火球が放たれたために、相殺と回避でエラルの足が止まった。

「アス、気をつけろ!思ったよりも火球の連射速度が速い!」

「了解!紅孔雀の背面に入るよ!シオンは放たれた火の始末も考慮して水氷系に魔元石を変えておいて!」

 アスはそう叫ぶと一目散にエラルと相対する紅孔雀の背面に向かって駆け、勢いそのままに剣を振り下ろす。だが、野生の勘的なものなのか紅孔雀は後方を見ることなく横に飛んでその斬撃をかわした。

「まだだ!」

 アスは空振った剣を返してすぐに横に払う。剣の切先すら届かない距離であったが、剣に込められた風音の魔力と魔錬刃の性能が相まって生成された複数の風の刃が放たれ、紅孔雀に命中した。

 紅孔雀の体表を覆う羽毛の一部が弾けて舞い散るも体表に傷はついてはいない。その様子を見たアスは眉をひそめて大きく息を吐く。

「なんて硬い表皮なんだ・・・」

「氷柱、二!」

 続いてシオンの口伝と共に、アスの後方から紅孔雀に向かって直径十センチ程度の鋭利な氷柱が駆け抜けた。

 だが、すぐに体を翻した紅孔雀が自らの前面に炎の壁を展開し被弾前に氷柱を溶かしてしまう。エラルの言った通り、尋常ならざる程に早い魔力の展開であった。

「もらった!」

 アスとシオンに意識が向いたことで、エラルに隙だらけの背面を見せた紅孔雀に対して、エラルが跳躍して一気に剣を振り下ろす。

 完全に死角からの攻撃であったが、それでも紅孔雀は瞬時に体を翻しエラルに向かって火球を放つ。

 エラルの振り下ろした剣に火球がぶつかって剣速が鈍り、そのわずかな遅延の間に紅孔雀は側方に跳躍して斬撃を避けた。

「うそだろ、今のでも直撃しないのかよ!」

「アス!エラル!紅孔雀を跳躍させるから空中で当てて!いくよっ、突き上げ大氷柱!」

 紅孔雀の足元から巨大な氷柱が一気にせり出すと、シオンの言った通り紅孔雀が回避のため大きく跳躍した。

「よしっ、これなら!」

 その紅孔雀を追うようにアスが剣を横に構えて跳躍し、体勢を直したエラルも続く。

 紅孔雀が、先に接近してくるアスを撃ち落とすために火球を複数放つ。

 アスはその火球を全て相殺することに手を取られ、著しく失速し落下を始めた。

「エラル、後は頼んだ!」

 アスに火球を放った直後とあっては流石に魔力の練り直しが間に合わないのか、続いて迫るエラルに対して放たれる火球はない。

「今度こそ、もらった!」

 エラルが渾身の力を込めて剣を振り抜いた。

 しかし、それでも剣は虚しく空を切り、その反動でエラルは大きく体勢を崩しながら落下する。

「ああぁ、しまった!」

 なんとか体勢を直して着地したエラルが、悔しそうな表情で、すぐに上空を見上げた。

 アスとシオンも険しい表情で同じく空を見上げる。

「迂闊、鳥なら確かに空も飛べるよね・・・」

 大きな羽を広げて上空を悠然と飛び回る紅孔雀を見つめながら、シオンは小さくそう呟いた。
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