命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

三幕 「鴉の品格 後」 二

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 空を飛び回っていた紅孔雀は、三人の頭上に来ると翼を羽ばたかせながら空中でホバリングを始める。

 そして三人に照準を合わせると次々と火球を放ち始めた。

「げっ、まじか!」

「くっ!エラル、シオン、とりあえず火事にならないように火球の処理に集中しよう!」

 三人は上空から流星のように降り注ぐ火球をただひたすらに剣と魔操で打ち払って相殺する。

「どうするアス!?魔力も残り少ないし、何か手を打たないとこのままじゃジリ貧だぞ!」

「・・・剣が届かない以上、現状を打開するには強力な遠隔魔操で撃ち抜くしかないと思う!」

「となればシオンしかないな。シオン!あの硬い紅孔雀を撃ち抜くのに必要な魔力はどのくらいで練れる!?」

「多分、一分あれば・・・。でも、水氷魔操じゃ威力が十分あってもそれを当てるだけの速度が出せないよ!」

「黒ピアスを使って風音で速力を強化したらどう!?」

「それなら多分いけると思うけど、輝波が出ちゃうよ!?」

「この状況じゃ仕方ない。他に手立てもないし黒ピアスを使おう!」

「う、うん、わかった。・・・風音も練る必要があるから全部で二分頂戴!」

「任せろ!アス、全力でシオンを守るぞ!」

「了解!」

 エラルとアスが前面に立って、次々と放たれる火球を捌き始めると同時に後方のシオンから強烈な輝波と強力な魔力の圧が発せられた。

 その圧に脅威を感じたのか明らかに紅孔雀の連射速度が上がる。

「まだ、早くなるのかよ!」

「でも、一発一発の威力は弱まってる!このままなんとかしのごう!」

 かろうじて剣で払い続ける二人であったが、次第に疲労の色が見えてきた。

「あっ!」

 蓄積された疲労によって、ほんのわずかに反応が遅れたエラルが火球を一つ払い損ねてしまう。火球は魔力を練るために無防備となっているシオンに向かって駆け抜けた。

「危ない!」

 咄嗟にアスが後方に振り返ってその火球を打ち払う。だが無理な動きで体勢が崩れたために、次弾に反応することができず背中に火球の直撃を受けてしまう。

「ぐぅっ!!」

 事前に展開しておいた衛浄のクッションが若干魔力を相殺したおかげで、火球は大きく燃え上がらずに消失したが、それでもアスの背中は大きく焼けただれた。

「アス!」

 目の前で片膝をついて苦痛に顔を歪めるアスを見て、シオンが援護に入ろうとする。

 しかし、その行動を制止するようにアスは首を振りながら手を広げて前に出した。

「大丈夫だから・・・、シオンは魔力を練ることに集中して・・・」

「でも!」

「今はもうシオンの魔操だけが頼りなんだ。お願い」

 アスは剣を支えにフラつきながらもなんとか立ち上がり、再び剣を構えた。

「アス、すまない!俺が前に立つから少し休め!」

 アスを庇うように最前に立ったエラルは、更に剣に魔力を込めて迫り来る火球を一人で捌き始める。

 鬼気迫る表情で火球と相対するエラルであったが、耳につけられたピアスの魔元石は吸排済みを示す灰色に変化しており、最後の力を振り絞っていることが見てとれた。

 限界が近いことが明らかな二人の様子を見たシオンが真剣な表情で呟く。

「ごめん、紅孔雀を殺すことにどこか躊躇してた。私だけ覚悟が足りてなかったね。・・・すぐに魔力を練り切るからもう少しだけ耐えて」

 迷いを払拭したシオンが再び魔力を練り始めると今度は大気も大きく振動を始めた。

 先程までとは打って変わって著しく集中力が高まったシオンの周囲に、濃密で研ぎ澄まされた魔力が一気に創生されていく。

 だが、魔力が練り上がるよりも先に、最前で火球を処理していたエラルの剣から赤い輝きが消失してしまう。

「くそっ、魔力が切れたか」

「僕の剣にはまだ少し余力があるから、次は僕が前に立つよ!」

 そう言って前衛に立つアスであったが先程のダメージがあるためか、明らかにその剣速は遅く、処理が間に合わない。二つ処理したところで、続く火球がアスの横をすり抜けた。

「しまった!」

「く、こりゃ本格的にやばいな。ここまできたら、もう体を盾にするくらいしかできないぞ」

 苦笑いをしながら、覚悟を決めたエラルが火球の射線上で剣を構える。

「エラル伏せて!逆(さか)の風!」

「えっ?ええぇっ?」

 後方からのシオンの声にエラルが慌ててその場に伏せると、強烈な逆風が迫り来る火球を全て押し返し、そのまま消失させた。

「も、もしかしてシオン、間に合った・・・のか?」

 伏せたエラルが後方に顔を向けると自信に満ち溢れた表情のシオンが頷きを返した。

「後は私に任せて!一気に行くよ!」

 シオンは上空の紅孔雀に両の掌を向けて力強く叫ぶ。

「風壁の隧道!」

 シオンの手元から筒状となった緑色の激しい風が一直線に展開されると、そのまま紅孔雀を内側に包み込みながら更に後方まで長く伸びた。それはシオンと紅孔雀を結ぶ風のトンネルのようにも見えた。

 間髪入れずにシオンは極限まで練った水氷の魔力で巨大な氷の槍を創生すると、同じく極限まで練った風音の魔力を今ほど創り出した氷の槍に纏わせる。

 強烈な魔力の圧にあてられた紅孔雀が慌てて回避行動を取ろうとするが、周囲に展開された激しい風の気流に阻まれて思うように旋回できずにいた。

「怖がらせてごめんね。せめて一瞬で終わらせるから・・・」

 シオンは巨大な氷の槍の照準を紅孔雀に合わせて、口伝と共に一気に放つ。

「音速の氷槍!!」

 氷の槍は凄まじい速さで風のトンネルを駆け抜け、ドンという轟くような音と共に紅孔雀を貫通するとそのまま彼方へと消え去った。

 後には胴体にポッカリと穴が空いた紅孔雀の姿がある。

 一瞬の出来事だったために紅孔雀はまだ自身に何が起こったのかよく分からないといった様子で翼を二、三羽ばたかせていたが、すぐに穴から大量の血液が噴き出し、力のない鳴き声をあげながらそのまま大地に墜落した。
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