命導の鴉

isaka+

文字の大きさ
108 / 131
第四章 星天燃ゆる雪の都

四幕 「星喰の片鱗」 四

しおりを挟む
 目的の小屋は先程ホワイトウルフと会敵した場所から五分程歩いた所にあった。

「まさかこんなに近くにあったとはな」

「そうだね、無理に拠点を作らなくてよかった。・・・でもなんでこんなところに作ったんだろう?正規の道からは外れているし不思議だ」

「ねぇこれってさ、小屋なの?小屋にしてはかなりでかいよね。もしかして昔誰かが住んでた家なんじゃないの?」

「お嬢さんの言うとおりで、わしも国が建てた避難用の小屋ではないと思う。中に入ればなおのことそう思うじゃろうて。さぁ入ろう」

 建物の中は熱火の魔元石で火が灯っており仄かに明るい。目の前には玄関から続く廊下があり、正面奥には二階へ上るための階段が見えた。広めのゆったりとした廊下には左右併せて四つの扉がある。

「左手手前の扉がリビングで奥がダイニングキッチンじゃ。そして、右手前の扉が風呂場で奥がトイレになっておる。あとは二階に寝室が二部屋ある」

 モードレッドが言った通り、中に入ればよく分かる。ここは小屋ではなく、かつて誰かが住んでいたと思われる家で間違いなかった。

 モードレッドを先頭にリビングに入ると、そこにはソファの上に毛布をかけられて眠る銀髪の男とその側で男を介抱する赤毛の可愛らしい少女がいた。

 少女は光武特有の黒の幾何学的な模様をあしらった着丈の長い橙黄色の拳法着を身に纏っている。

 ふと、アスは先日立ち寄った旅憩所で聞いた二人の光武のことを思い出して合点した。

 おそらくだがこの二人がそうなのだろうと。ともすればこの少女がもしかしたらレンなのではないかとの想像も膨らんだ。

「ただいま薪拾いから戻りました」

「うん、お疲れ様。・・・じい、その人達は?」

 少女はモードレッドの後ろに立つアス達を見つめて首を傾げる。

「薪拾いの途中、この者達がホワイトウルフの群れに襲われているところに遭遇しましたので、救助と保護を行いました。勝手な行動ではありますがご容赦願います」

「ふーん、それは構わないけど。こんなところで人に会うなんて意外ね」

 目を丸くする少女に対して、アス達は軽く会釈をするとそれぞれ名前を名乗った。

「アスとエラルとシオンね。初めまして、私は光武候補生のレンよ。正式に光武を名乗るために巡礼地のゼラモリーザを目指しているの。よろしくね」

 大きくクリっとした目を細めて微笑む少女を見てアスは若干戸惑いの色を見せる。

 予想していた通りこの少女がレンであったとはいえ、よもやこんなところでセロロミゼ(と思われる者)が追っていた人物に遭遇するとは思っていなかったからだ。

 エラルとシオンもおそらく同様の感情を抱いたのであろうか口をつぐんで言葉を発しない。

「え?私なんか変なこと言った??」

 三人が一様に固まってしまったため、レンが怪訝な表情をする。

「え、いや、なんでもありません。・・・こちらこそよろしくお願いします」

 アスは慌てて頭を下げた。

「レン様はヴィロック家当主のご令嬢であられる」

 モードレッドの口からヴィロック家という言葉を聞いた三人は驚きの表情を見せた。

「えっ?ヴィロックって、もしかしてラースィアの四大名家『四天』の一角を担うあのヴィロック家か?」

 エラルがそう言うとモードレッドの眉間に皺が寄る。

「その通りじゃ。だから童、レン様に対しては今のような馴れ馴れしい口の利き方はしないように十分注意しなさい」

「ちょっと、じい!変に威圧しないでよ。この人達とは同じ旅人同士なんだから家柄とか関係ないでしょ」

「そう言われましても・・・」

「いいの。さぁ三人ともどうぞ座って。って私の家でもないのに偉そうなこというのもなんか変だね」

 レンは愛くるしく微笑むと空いているソファを手のひらで指した。

「はい、ありがとうございます」

 アス達は勧められたソファにゆっくりと腰を下ろす。

 それからアスは、レンの横で眠る銀髪の男に目を向けた。

「あの、そこで眠っている方は?」

「この人?・・・うーん、なんていえばいいのかな」

 レンは少し困った表情でモードレッドを見つめた。

「この御仁はこの建物の近くで行き倒れとなっておってのう。素性は分からんが捨て置くわけにもいかず、やむなくここで介抱しているんじゃ。もう三日にはなるが一向に目を覚さん。そのため我々はここでずっと足止めをくっているんじゃ」

「そうですか。もしかしてですが、・・・この人は隻腕だったりしますか?」

「むむ、なぜそれを知っておる?お主の知り合いか?」

 モードレッドが少し緊張した面持ちでアスを見返す。

「いえ、先日ユフムダルの兵士から聞いた人物の特徴に似ているようでしたので・・・。確か銀髪で隻腕の男がオグルスピア城に忍び込んで逃亡したとのことで捜索していると言ってました」

「ふむぅ。となるとこの者で間違いなさそうじゃな。・・・それにしても国の探している賊であったとは厄介じゃのう。ここまで来てユフムダルまで連れ戻すのは流石に骨が折れる」

 モードレッドは銀髪の男を一瞥して溜め息を吐いた。

「そうですね・・・。ところでお二人は光武なんですよね?となると、武器は使わないと思うんですが、その剣はこの男性のものということですか?」

 アスが視線を移した先のテーブルには漆黒の刀身を持つ剣が抜き身のまま置かれている。アスの目にはなんとなくだが不気味な雰囲気を持った剣に映った。

「ああ、この男が持っていたものじゃよ。見たところ魔力回路は有しているようじゃがナンバーの刻印はないから、双極の箱で造られたアーティファクトではないと思われる。それにもう一つ、男の耳に漆黒の石がついた魔力回路を有するピアスがついているが、こちらもナンバーの刻印はない。我々人類には箱無しで魔力回路を有する魔具は造れんことを考えると一体どこで手に入れたのやら、なんとも不思議な男じゃて。・・・そういえばこの男を発見した時、男はこのピアスから発せられる活性の白い魔力の膜に包まれておったのう。もしかしたらこのピアスには生命維持装置のような役割があるのかもしれんな」

 シオンの黒ピアスと同様の事象が起こっていたということを聞いたアス達は一様に驚きの表情を見せた。

「ん?何か心あたりがあるようじゃのう」

「いや、なんでもないです。不思議な現象だなと思いまして・・・」

 アスの取り繕うような言葉にモードレッドが苦笑いをする。

「ふふ、お主ら三人ともに動揺の色が見えとるぞ。話せる範囲で構わんから知っている情報を共有してくれんかのう?」

 アスは困り顔をしながらエラルとシオンに視線を送ると両者は静かに頷いた。それを話しても良いという意味に捉えたアスはモードレッドに再び視線を向ける。

「・・・そんなに大した話じゃ無いのですが」

 そう前置きするとアスはシオンのピアスのことを話し始めた。勿論複数の魔力を蓄えられることや輝波を遮断することなどの詳しい機能は伏せるつもりである。

 レンとモードレッドは興味深そうにアスの言葉に耳を傾けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

処理中です...