命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

四幕 「星喰の片鱗」 五

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「・・・なるほどのう。材質や魔力回路の造りを見る分には、この男のピアスと同質のもので間違いなさそうじゃな。この男のものと比べると造りは荒いがかなり複雑な回路を有しておる。おそらくじゃが、お話のあった生命維持の他にも色々な機能が備わっているのであろう」

 モードレッドは指でつまんだシオンの黒ピアスを明かりで照らして、入念に確認しながらそう言った。

 アスの話の後、モードレッドから実物を見せて欲しいと要望されたため、黒ピアスは今モードレッドの手中にあった。

「これはシオンさんが持つ時しか機能しないとのことじゃったね。シオンさん、ナンバーの刻印がないから双極の箱での解析はできないのじゃろうが、石の持つ機能の全容を把握するためにも色々と試してみることをお勧めいたしますよ。・・・といっても既に色々試しておるのかもしれんがのう」

「えっと、それは・・・」

 他に認知している機能がないかを詮索するような口ぶりにシオンは困ったような表情で口ごもる。

「おお、これは失敬。無理に話してもらおうという意図はないんじゃ。話せる範囲でよいと言ったであろう。シオンさん、ピアスを見せてくれてありがとう」

 一通りの確認を終えたモードレッドは満足した様子で黒ピアスをシオンに返した。

「ところで、これはお父上から貰ったとのことだが今もご健在かね?」

「いえ、村がフレアに襲われた時から行方不明となっています・・・」

「そうであったか。・・・不躾な質問を重ねて申し訳ないが、昔は何をされていたお方か伺ってもよいか?」

「父は母と出会った頃から記憶喪失だったそうで、私も詳しくは分からないんです」

「ふむぅ・・・」

 モードレッドは顎髭を触りながら少し考え込む。

「何か気になることでもあるの?」

 不思議そうに首を傾げながらそう尋ねるレンに対して、モードレッドは少し躊躇する様子を見せてから話し始めた。

「シオンさんには少し失礼な話とはなりますが、あくまで年寄りの突拍子もない戯言ということでご容赦ください。・・・もしかしたらですが、この男もシオンさんの父上も『崩記』に記された星喰の血筋なのではないかと思いましてな」

 崩記とは堕天の日を始まりとする人類の創世記を描いた書物であり四王記よりも歴史は古い。アス達もその書物のことは知ってはいたが、よもやそこに登場する星喰がシオンと関連しているかもなどとは夢にも思っていなかったため、モードレッドの発言にただただ驚きの表情を浮かべた。

「確か星喰って堕天の日にフレアと共に突如現れたとされる人類に酷似した生命体のことよね?フレアと共に人類に敵対してたけど、今は絶滅したとかなんとか・・・。なんでじいは今の流れでそう思ったの?ってか崩記なんて四王記と同じく信憑性の薄い御伽話じゃない」

 アス達が押し黙る中、レンが怪訝な表情をしながらモードレッドに尋ねた。

「仰る通りでかなり強引な発想だとは思っております。ただ、先程見せていただいたシオンさんの造りの荒いピアスは随所に手直しをしたような跡もありましたので、どうも手造りのように思えましてな。更にこの男の持つピアスや剣と同様の素材で造られていることから、これらは一貫した工法を用いられて生成されたと考えられます。崩記の中で星喰は双極の箱を用いずに我々のアーティファクトに似た独自の魔具を生成できたと記されておりますので、それらを複合して考えるともしかしたら星喰なのではないかと考えた次第です」

「うーん、星喰ねぇ。じゃあシオンも星喰の血を引いているってこと?全くもって人類に敵対するような人には見えないんだけど・・・」

 レンが大きな瞳をシオンに向けて再び首を傾げるが、シオンは否定するでもなく、黙ったまま目を伏せた。

「シオンさんに関しては私も同意見です。しかしオグルスピア城に忍び込んだというこの銀髪の男に関して言えば敵対しておるようにも思われます」

「まぁ、確かにそれはそうね」

「ちなみにシオンさん、崩記によれば星喰は額に黒い紋を有しており雷光系を除く全系統の魔操を使用できたとされておりますが、父上にそのような特徴は御座いませんでしたか?」

「いえ、・・・そのようなものはありませんでした」

 シオンは呟くようにそう答えると、テーブルに置かれた漆黒の剣にゆっくり視線を向けた。

「ですが、父もその剣によく似た漆黒の剣を持っていました。・・・私は、私は人では無くて星喰なのでしょうか?人類の敵なのでしょうか?」

 目に涙を浮かべるシオンを見てレンとモードレッドはハッとした表情をする。

「ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて・・・、じい、この話はもう終わりよ!」

「すまぬ、シオンさんを責めているつもりはなかったんじゃが、配慮が足りず誠に申し訳ない」

 俯いて肩を震わせるシオンの側にアスがそっと近寄り、微笑みながらその肩を優しく撫でた。

「大丈夫、シオンはシオンだよ。その他の何者でもない」

「だな。アスの言う通り、シオンはシオンだ」

 エラルもニッコリと微笑み、優しい口調でシオンに声をかけた。

「うん・・・、ありがとう・・・」

 小さく頷いて目に溜まった涙を拭うシオンを見ながら、アスはその心中を推し量る。

 おそらく複数系統の魔操を扱えること、輝波を放つことなど常人とは異なる特性を持つが故に星喰という存在がシオンの胸に深く突き刺さったのだろう。そんなシオンの葛藤する気持ちを考えると心が傷んだ。

 皆が口をつぐみ、静まり返る部屋の中で、突如、男の声が一同に向けられた。

「混血だから見殺しにしたと聞いていたが、お前はもしかしてトリストさんの子供か?」

 皆が驚きながら声のした方に顔を向ける。そこには目を覚ました銀髪の男がシオンを見つめていた。

「なんじゃ、お主目を覚ましておったのか?」

「ああ、お前達が俺が星喰かもって不愉快な話をしているあたりでな。何も知らないくせに俺をその名で呼ぶなんて、全く反吐がでるよ」

 銀髪の男は悪態をつきながらゆっくりと体を起こす。その際に毛布がずれ落ち、右腕の上腕から先が無い隻腕の姿が露わとなった。

「ほう、そういうお主は何を知っておるというのじゃ?目を覚ましたのなら丁度いい、お主のことを色々聞かせてもらおうか?」

 モードレッドが威圧するように低い声でそう言うも、銀髪の男は不敵な笑みを浮かべて首を横に振った。

「お前達なんぞに話すことなどない。だが・・・」

 銀髪の男は鋭い目つきでシオンを見つめる。

「お前がもしトリストさんの子供だというなら一つだけ覚えておくといい。お前の血筋はこのクソみたいな連中より遥かに崇高であるということをな。まぁ混血じゃ多少血は汚れているだろうが」

 まるでシオンが自分達の仲間であることを仄めかすかのような発言を受けて、シオンの表情は一気に真っ青になった。

 その様子を見ながら肩を揺らして笑う銀髪の男に対してモードレッドが強烈な殺気を放つ。

「大層な口を利くのう。それに失礼極まりない男じゃな。まぁ喋りたくないというならやむを得ん。直接体に聞くことにしよう」

「ははは、好きにすればいいさ。今の俺には抗う力は無いに等しいから拷問も簡単だろう。それでも俺が何かを喋るということは絶対に無いがな」

 銀髪の男は全く動じることなく余裕の表情を浮かべた。

「ふむぅ、どうやら威圧しても無駄のようじゃな。いたしかたない。この男の身柄は後日国に引き渡して後を任せることにしよう。・・・じゃがな、わしらは雪の中で行き倒れとなっておったお主を助けてやったのじゃ。名前くらいは名乗ってもよいじゃろうて」

「助けてくれと言った覚えはない。・・・が、おいとかお前とか呼ばれるのも不愉快だし名前だけは名乗っておこう。俺は、シクステンだ」

「左様か。ではシクステン、お主はしばらくの間わしの監視下に置く。余計な行動があれば容赦なく拳を叩き込むつもりでおるから、お主は瞬き一つですら細心の注意を払って行うようにせよ」

「くっくっく、そりゃ難儀なことだな」

 瞬間、ドンという音と共にモードレッドの拳がシクステンの脇腹に食い込む。

「ぐぅお!」

「まずは挨拶がわりじゃ。今後はそのふざけた口の利き方も慎むように」

「この糞じじいが・・・」

「おや?もう一発ほしいのか?」

 モードレッドが拳を構えるとシクステンは小さく舌打ちをして黙り込んだ。

「よろしい。・・・さて、レン様。この者が目を覚ましたことで、我々もようやくここから動けるようになりました。つきましては今後の行動について相談したく存じます」

「うん、そうだね。できればアスさん達とも一緒に話をしたいんだけどいいかな?」

「無論、そのつもりでおります。すまぬがアスさん達もそれで宜しいか?」

「ええ、それは構いません。ただ、シオンは少し休ませてあげたいので話は私だけでお願いします」

「うむ、確かにその方がよさそうじゃな。休むのなら二階の寝室をご使用なされるとよいでしょう」

「ありがとうございます。エラル、悪いけどシオンの側にいてあげて」

「ああ、了解だ」

 エラルに付き添われながら部屋を後にするシオンを見送ってから、アスはモードレッドに視線を向けて一つ頷いた。

「話を始めてもよろしそうじゃな」

「ええ、お願いします」

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