命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

五幕 「邂逅」 二

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 アスが社の中に入ると、すぐにがらんとした大きな広間にでた。

 広間の大きさから想像するに、社のほぼ全部がこの大広間ということになるのだろうと思われた。

 大きな広間の左右と正面には扉が一つずつ、そして中央には一メートル四方の石碑が置かれているが、それ以外にめぼしい物は何も無い。

「・・・想像以上に何にもないんだな」

 エラルがそう言うと先に入っていたレンが同意するかのように頷いた。

「とりあえず中央の石碑だけはシオン姉様と一緒に眺めたんだけど、それ以外に何も見るものないからびっくりしちゃって。ちなみに扉は勝手に開けない方がいいかなと思ってまだ開けてないよ」

「ほほ、左の扉を開ければ清めの間があり、地熱で温めれたお湯が少量ですが湧き出ておりますよ」

「えっ、温泉ってこと!?」

 レンのテンションが一気に上がるがモードレッドは小さく首を横に振る。

「いえ、残念ながらそこまでの量はありませんので、手拭いを湿らせて体の汚れを拭う程度のことしかできません」

「なんだ、がっかり・・・。他の部屋は?」

「右の部屋は寝床があるだけで他にはなにもありません。奥の扉は開けると外に出られますが、その先にホゾの道と呼ばれる小さな洞窟があるのみで、その洞窟も十メートル程度で行き止まりとなっております。ゆえにこの社は中央にある『オズの石碑』を祀るためだけに存在しておるということになります」

「えー、なんかつまんないところなんだね」

「まぁそう仰せになりますな。ここはラウル様がつむぎの聖女オズを失った場所であると同時に、人類に自由を与えることを決心なされたという場所でラウル教にとって非常に重要な聖域となりますからのう。さてと・・・」

 モードレッドは自身の荷物から替えの光武服と手拭いを取り出すとレンに手渡した。

「レン様は左方の部屋で身を清め、祈りを捧げる準備を始めてくださいませ。祈りが終わりましたら今宵はここで一夜を過ごし明朝ユフムダルに戻ることにいたしましょう」

「はーい。・・・あっ、シオン姉様も一緒に来て!清めの間でお互いの体を綺麗にしようよ!」

「えぇ・・・、お互いにって、それはちょっと恥ずかしいよ」

「いいからいいから、行こ!」

 またもレンはシオンの袖を引っ張り、無理矢理に清めの間へと連れて行ってしまった。

「やれやれ、またシオンが連れて行かれちゃったな。ところでじいさん、祈りはどれくらいかかるんだ?」

「清めに三十分、祈りに二十分程度といったところかのう」

「ふーん、結構かかるんだな。アス、少し時間があるみたいだしホゾの道ってやつを見に行こうぜ」

「うん、そうだね。僕も見に行きたいと思ってたんだ」
「・・・おい、俺もついて行っていいか?」

 奥の扉に向かおうとするアスとエラルにシクステンが声をかけた。

「えっ、なんで?」

「なんでって、ただの好奇心だよ。じいさんいいだろ?」

「ふむぅ、まぁこんなところで何かしでかすこともないとは思うが・・・。そうじゃのう、わしはレン様のお側を離れられんから、もしアスとエラルが見張りを兼ねてくれるというなら良いじゃろう」

「えー、やだよ。アスと二人で行きたいからシクステンはここで大人しくしててくれよ」

 エラルがあからさまに嫌そうな顔を見せるが、シクステンはニッコリ微笑んでエラルの肩を叩く。

「冷たいこと言うなよ。極力、お前達の邪魔はしないようにするからさ」

「既に邪魔なんだけど・・・」

「はは、いいから行こうぜ」

 不貞腐れた表情をするエラルを意に介さず、シクステンは奥の扉に向かって歩き始めた。

「ふふ、まぁしょうがないね。僕達も行こ、エラル」

「ちぇ、ほんと邪魔せず大人しくしててくれよな」

 そう言いながらアスとエラルもシクステンの後を追って奥の扉に向かう。

 社の中と外界を隔つ重厚な扉をアス達が押し開けるとモードレッドの言った通りすぐに屋外に出た。そこから少し歩き三人は小さな洞窟に辿り着く。

 洞窟のある辺りは魔力磁場の影響が少ないようでうっすらと雪が積もっている。周りを見回しても雪山の光景が広がるばかりで、他に何かあるようにも思えなかった。

「ここから先の雪山を進むのは流石に難しそうだな。人類未開の地っていうのも納得だよ。アス、ジゼルさんの手がかりを探したいと言っても、俺たちが進めるのはこの洞窟までが限界だと思うよ」

「うん、僕もそう思う。この洞窟になにか手がかりがあればいいんだけど、なかったら一旦ゼラモリーザから引き返すしかなさそうだね」

 アスとエラルが周囲を見回しながら話をしている中、先に洞窟の入り口に立ったシクステンが振り返る。 

「おい、明かりは持ってるか?中は大分暗いぞ?」

「ああ、松明があるよ。てかなんで何も持ってないあんたが先陣を切ってるんだよ。ほら、ちょっとどいて」

 エラルがシクステンを押しのけ、松明に熱火の魔操で火を灯すと先頭に立って洞窟を進み始めた。

 十メートル程度進んだところで三人は行き止まりにぶつかる。ここもまたモードレッドが言った通りであった。

 奥は若干広い円形の空間となっており、三人がゆったりと並んで立てるくらい広さがある。その広間側面の岩肌にいくつかの燭台があったため、エラルはそこに松明で火を灯した。

 広間全体が仄かに照らされる。だが、三人の視界には何の変哲もない洞窟の岩肌が映るのみであった。

「本当に何にもないな」

「うん、なんとなく意味ありげな空間ではあるけどね」
 アスが行き止まりの岩肌を素手で撫でるも、ただひんやりとした感触が手を伝う。

「しょうがない、戻ろうぜ。・・・もしかしてだけど、案外この意味ありげな燭台に火を灯したことで外に変化があったりして」

「まさか。もしそうだったらびっくりだよ」

「だよなぁ」

 アスとエラルが踵を返し洞窟の入り口に戻ろうとしたが、なぜかシクステンはその場所を動かない。

「シクステンさん、戻らないんですか?」

「ん、ああ、もう少しだけここを見たい。悪いが先に行っててくれるか?すぐに行くよ」

 アスの声がけにシクステンは顔を正面の岩肌に向けたまま応じた。

「変な奴、ただの岩肌なんか見て何が楽しいんだか。アス、放っておいて外の様子を見に行こうぜ」

「あ、うん。シクステンさん、僕達は洞窟の入り口付近にいますので、あまり遅くなりませんようお願いします」

「ああ、了解だ」

 アスとエラルは来た道を戻り、洞窟の外に出ると周囲をあらためて見回した。当然のことながら周囲の雪山にめぼしい変化は見られない。

「・・・まぁ、そうだよな」

「残念だけどお姉ちゃんの手がかりはここにはなさそうだね」

「これからどうする?」

「これ以上進むのは厳しいし一旦ユフムダルを目指そうかな。お姉ちゃんを追いかけてた緋雀はユフムダルから最後の連絡をしたって話だし、なにか別の手がかりがあるかも。もしかしたらゼラモリーザに行くと言いつつ、急遽別の進路に変えたのかも知れないしね」

「そっか、少し遠回りになったけど、ゼラモリーザには何も無いってことが分かっただけでも一応の成果になるか。まぁ俺たちが行ける範囲においては、になるけど」

「ごめんね。こんなところまで連れてきて」

「いや、いいんだよ。俺が望んだことだし、それにアスとシオンの二人と色々巡る旅は本当に楽しいからな」

 ニッコリと笑うエラルに、アスは少し間を置いてから小さく頷き、ありがとうと呟いた。

「それにしてもシクステンはまだ戻ってこないな。ここで待っているのも寒くなってきたし、早く戻りたいからちょっと呼んでくるよ。アスは念のためここを見張っててくれ」

「うん、気をつけてね」

 エラルはもう一度松明に火を灯し洞窟の中に入っていく。それからすぐにエラルの大きな声が洞窟内に鳴り響いた。

 声は洞窟内で反響して若干聞き取りづらかったが、それでもエラルの言いたいことはアスに十分伝わった。

 それはシクステンが洞窟内からいなくなったということであった。
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