命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

五幕 「邂逅」 三

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 シクステンが姿を消してからしばらくの間、アスとエラルは洞窟内を調査したが抜け道のようなものは発見出来なかった。勿論、人が隠れられるような場所もない。

「くそっ、あいつどこ行ったんだ!?」

「不可解だね。これだけ探しても見つからないなんて。・・・しょうがない、一旦モードレッドさんのところに戻ろう」

 二人が社に戻ると既にレンの祈りは終わっているようで、モードレッド、レン、シオンの三人は石碑の前で談笑をしていた。

「お、戻ったか。ついさっきレン様の祈りが終わったところじゃよ。それで、ホゾの道はどうじゃった?」

「それが・・・」

 アスとエラルが洞窟で起こった出来事を話すとモードレッドは顎髭をさすりながらため息を吐いた。

「そうか、消えたか。シクステンから目を離したのは失態じゃったな。じゃが、済んだことを問うても仕方あるまい。現場を確認したいし、皆で今一度ホゾの道を見に行こう」

 それからすぐにアスとエラルはモードレッド達と共に再びホゾの道に入り、最奥の広間に辿り着く。

「ふむう、ここでいなくなったと・・・」

 モードレッドがおもむろに拳を握り、岩肌を叩いた。それから繰り返し一面の壁や地面を叩き、さらには跳躍して天井にも拳をぶつける。

「感触的にはどこにも空洞はないな。みっしりと詰まっておる。じゃが洞窟は一本道、消えたとなるとここで何かが起こったのは間違いないんじゃろう」

 モードレッドは少し考え込んでから、再び拳を握った。今度は活性系の魔力を全身に纏わせしっかりと肉体を強化している。研ぎ澄まされた魔力によってモードレッドの拳は極限にまで固められ、強烈な圧を放ち始めた。

「皆下がっておれ。効果があるかは分からんが、全力で壁を叩いてみるぞ」

 モードレッドが正面の壁に向かって拳を構えるとにわかに岩肌から淡い光を放つ光球が現れた。

 薄暗くて気付かなかったが光球が浮かび上がってきた岩肌の直下には見たことのない紋が刻まれている。

「やめろ、じじい。神聖なる道を汚すな」

 光球から突如放たれた女性の声に皆が驚くと共に警戒の様相を見せた。

「何者じゃ、貴様」

「・・・うちの馬鹿が不用意にホゾの道を開いたっていうから心配して見てみればやはりこの様か。正直お前達アリオンとは話したくもないんだが、こちらとしても道を無駄に荒らされるのも困るからな。道を開けるから先に進め」

 そこまで言うと光球は消失し、眼前の岩肌の中央にスッと光の縦線が入る。続いて岩肌は軟体生物のように歪みながら光の線を境に音もなく左右に分かれ、円筒状の通路が現れた。

「なんとも奇っ怪な・・・」

 アス達が目の前の光景にただただ驚く中、突如足元から光の薄い膜で出来た球体が発生し、五人の体を包み込む。

「なんだよこれ!?」

「分からん。じゃが、不用意に触れてはならんぞ!レン様は私のお側へ!」

 慌てふためくアス達のことなどお構いなしに光の球体は皆を包み込んだまま浮かび上がると、そのまま一気に加速して先程できた円筒状の通路に突入した。

「うわわ!」

「きゃあ!」

 急加速によって体勢を崩したアス達が悲鳴を上げる中、光の球体は高速で通路を右に左に上へ下へと駆け抜け、やがてホゾの道の最奥にあった広間と似た形状の場所でゆっくりと静止する。そして、光の球体は優しく地面に着地してから消失した。

 体勢を崩したアス達は球体の中で皆尻餅をついており、その姿のまま地面に降ろされる形となった。

 何が起こったのか分からず、呆然とするアス達の目の前に再び光球が現れる。

「・・・なんというか、無様な姿だな。心配しなくても今のはただの移動手段だ。そのまま目の前の通路を進め。こっちも暇じゃないから、とっとと行動しろ」

 そう言うとすぐに光球は消失し、代わりに通路に灯りがついた。

「なんだよ、こいつ。いちいちムカつくな!」

 エラルがムスッとした表情でその場に立ち上がる。

「はは、ほんとだね。他のみんなは大丈夫?」

 アスがそう問いかけながら皆の様子を見回すと、それぞれ頷きながらその場に立ち上がった。

 あれだけ激しい動きをしたにも関わらず、皆に怪我一つなかったことにアスはとりあえず安堵する。

「あ!ねぇ皆、後ろ見て!」

 シオンが指差す方にアスが視線を移すと先ほど光の球体に乗って通ってきた道が静かに塞がっていく光景が映った。

「むぅ、退路は塞がれたか。・・・やむを得まいな、皆先に進もうぞ」

 周囲に警戒しつつモードレッドを先頭に一行は光球が示した一筋の道を進み始める。しばらく進んだところで、アス達は十メートル四方の大きな広間に辿り着いた。

 広間の中央には木製の大きな円卓があり、その周囲を囲むように十脚程度の椅子が置かれている。そしてアス達から見て最奥にある椅子には端正な顔立ちをした長髪の男が一人座っていた。

「ようこそ、ここにお客さんが来るのは久々だ。さぁ座ってくれ」

 警戒して立ち止まるアス達に対してニッコリと微笑むその男の両眼は特徴的で、深く吸い込まれる程に紅い。

 瞬間、アスの脳裏に様々な記憶が蘇る。フレアに襲われたハマサ村でこの男を見かけたこと、ジゼルを連れ去ったといわれる紅い目の男のこと、シオンの村に現れフレアを手引きしたとされる紅い目を有したリアスという男のこと、そのフレアによって父を失ったこと、それら全てがここゼラモリーザにこの男がいたということで一本の線につながったのだ。

 アスは確信する。この男が全ての元凶なのだということに。

「お前が・・・、リアス」

 溢れ出る感情を抑えきれず敵意を剥き出しにその名を呟くアスに対して、男はニヤリとして頷いた。

「自己紹介は不要のようだな。まぁとりあえず落ち着けよ、今はただ話をしたいだけだ」

 リアスはアス達に対してもう一度椅子に座ることを促すためにゆったりとした所作で椅子を手の平で指した。

「話なんてどうでもいい、お姉ちゃんはどこだ!?お姉ちゃんを返せ!」

 腰に帯びた剣の柄を握り、今にも斬りかからんという様相でリアスに怒声を浴びせるアスをモードレッドが制止する。

「待て、何やら因縁があるようじゃがここは相手方の縄張りじゃ。一時感情を抑えよ」

 モードレッドに諭されながらも、湧き上がる感情を抑えきれないアスは剣の柄を握る手に強く力を込める。

「一度深呼吸をするんじゃ。よいか、因縁があるなればこそ話はするもんじゃ。それにわしとしては何がんだか分からん状態じゃし、こやつの話は是非とも聞いておきたい」

 そう言うとモードレッドはリアスの指し示した椅子の一つに腰をかけた。

「さぁ皆も座につこう」

「ふふ、物分かりのいいじいさんだな。だがそのじいさんの言う通りだ。今は俺の言うことに従っておいたほうがいい」

 いきり立つアスの肩をエラルがポンと叩く。

「アスの気持ちはそれなりに分かっているつもりだよ。だけど、今は剣を納めて話を聞こう。アスにとってもそのほうがいいと思う」

「・・・私も話を聞きたい。私のこと、お父さんのこと、多分この人は色々知っているだろうから」

 シオンとエラルはアスの横をすり抜けるとモードレッドの横の椅子に並んで座った。

「じゃあ、私はシオン姉様の横にしよ。私もじいと同じで何がなんだかって感じだけど、そもそも帰る方法が分からないんじゃどうしようもないしね」

 レンは危機感の欠けた軽い口調でそう言いながらシオンの横に座る。

「さて、他の皆は席に着いたようだがお前はどうする?」

 リアスの問いかけにアスは押し黙ってはいたが、皆が言葉をかけてくれたおかげで既に幾分か冷静さを取り戻していた。

 アスはこの場にそぐわない自身の感情を鎮めるために、肩が動くほどに大きく息を吸い、そして剣の柄にあてがった手の力を緩めながらゆっくりと息を吐いた。

「・・・いいだろう、話をしよう」

 アスが空いている席に進み、着座する様子を見つめながらリアスが満足そうに頷く。

「よし、これでそちらさんは皆席についたな。それじゃあビセンテとシクステンもこっちに来て席についてくれ」

 リアスがそう呼びかけるとリアスの後ろにある扉からシクステンと女性が現れ、リアスの両脇にある椅子にそれぞれ座った。

 女性は線が細く、長い髪を三つ編みにして丸メガネをかけている。一見すると理知的でおとなしそうな雰囲気があるが、アス達を睨みつける野獣のような好戦的で鋭い目がすぐにその印象を覆した。

「ったく、馬鹿のせいで、またアリオンどもをこの聖域に入れる羽目になってしまうとは。頭が痛いよ全く。ほんと糞以下だよお前は」

 登場していきなり辛辣な言葉をシクステンに浴びせる女性の声は先程の光球から聞こえてきたものであった。

「まぁそう言うなビセンテ。今回の件は確かにシクステンの浅慮が招いたことだが、俺としては結果的によかったと思ってる。偶然とはいえ、俺が会いたいと思っていた人物をここに連れてきてくれたんだからな」

 バツの悪そうな顔をするシクステンをにこやかに擁護するリアス。それを見たビセンテがキッとリアスを睨みつける。

「ふざけるなよ、本来ならすぐにでもこいつらを始末するところだろうに。お前あの女が来てからアリオンに甘くなったんじゃないか?」

「はは、頭に血が昇っているとはいえそれは言い過ぎだ。万一に備えて護衛をしたいって言うから参加させたが、黙っていられないなら今すぐ退出させるぞ?」

 リアスは笑顔のままだったが、その言葉には強烈な圧が込められている。

 ビセンテは軽く舌打ちをするとブスッとした表情で机に頬杖をついた。

「さてと、これでやっと場が整ったな。時間が勿体無いから早速話をしよう」

 リアスはその深紅に染まった両眼で参加者を一度見回してから話を始めた。
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