命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

六幕 「星喰と星天と希望の翼」 六

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「まさか飛行系のアーティファクトにお目にかかれるとは驚きだったな」

 興奮した様子でエラルがそう言うと、アスとシオンも同意するように大きく頷いた。

「うん、本当にすごい発表だった」

「空を飛ぶなんて、なんか凄すぎて想像もつかない世界だね。私たちもあの小型艇とかに乗れる日が来るのかな?」

「極大魔元石を生成するための素材としてレアな鉱石が大量に必要になるから、すぐには無理だろうけど供給体勢が整えばいずれは乗れるんじゃないかな」

「すぐには無理でもデュランダ公の言った通り、これで世界の開拓は一気に進むだろうな」

「そうだね。・・・でも正直な気持ちを言えば未開の地は空からじゃなくて人の足で少しずつ切り開いていけるとよかったかなとも思う」

「確かにな、自分達の足で切り開くからこその感動ってのもあるからな。そう考えると冒険の醍醐味がかなり失われることにもなるか」

 感動と否定が入り混じる複雑そうな表情で腕を組むアスとエラルを見て、シオンが笑みを浮かべる。

「ふふ、それってなんだか贅沢な悩みだよね」

「まぁ、そう言われるとそうなんだけど」

 アスが苦笑いをシオンに返したところで、突如大きな声が広場に向かって発せられた。

 大声は処刑台にいた兵士からのものである。

「皆、静粛に!予定通り今から賊徒ウィルマの処刑を行う!」

 兵士の緊迫した声によって、騒がしかった広場は一気に静まり返り一帯を緊張の色に染め変えた。

 同時に、式典の発表によって処刑のことが意識から外れていたアスたちの緩んだ気持ちも引き締める。

「祝賀の式典が開催される今日にあって処刑を執行することは、皆が抱いた大きな感動に水を差す行為であるということは我々も十分に理解している!だが、此度はどうか容赦いただきたい!なぜならば、この者は人類の敵とされる古の星喰と呼ばれた種族の末裔であり、今程の式典で発表のあった人類の宝でもある震重系の極大魔原石を破壊しようとした大罪人であるからだ!さらにはこの者には複数の仲間がいることも確認されている!よって、人類に仇なす星喰共にその蛮行の罪深さと愚かさを思い知らせるため、あえて今日、この日にこの者を公の場で処刑するのである!」

 ウィルマが星喰であるという兵士の発言は、広場に集まった群衆を大きくどよめかせた。

 おとぎ話の中の存在と思われていた星喰がいきなり目の前に現れたのだから無理もない。

「処刑の執行人は志征の鳳第八席ミリア・リーマン!葬送の教誨師(きょうかいし)はユフムダル第一教会司祭のインサ・スエラ!輝葬師は双極のマーカス・エドガーである!・・・まずは葬送を行うため、司祭インサは断頭の剣を持って処刑台の壇上へ!」

 兵士の声に応じて、処刑台の下に控えていた女性が立ち上がった。両掌に長い布袋を横たえて捧げ持ち、処刑台へと続く短い階段をゆっくりと登り始める。

 布袋に包まれているのは断頭用の剣であろう。一撃で首を落とすためか、通常の剣よりも刀身が一回り大きいようで、遠目にもかなりの重量があることが窺える。

 大剣を運ぶ女性は司祭用の白いローブについたフードを深く被っており、アスたちからはその顔を確認することは出来なかい。しかし、その所作からは若い女性らしい雰囲気が感じられた。

 コーン、コーンと七回、青銅の渇いた鐘の音が広場に鳴り響く。

 それは処刑の始まりを意味する鐘の音であった。

 無機質な鐘の音が言いようのない緊張感を醸し出し、広場は再び静寂に包まれた。

 階段を登りきり処刑台に上がったインサは鎖で繋がれたウィルマの前でひざまづくと、布の袋から丁寧に大剣を取り出して、壇上に設置された台の上にそっと置いた。

 それからインサは手を合わせ天に向かって短く祈りを捧げ、ウィルマに顔を向けた。

「咎人ウィルマ、今日をもって汝の生は終わりを迎えます・・・」

 インサの優しげな声が胸元に取り付けられたマイクを通して、広場の魔伝機から広場全体に響く。

「されど、その死をもって慈悲深きラウル様は汝の犯した大罪をお許しになるでしょう。双極の輪廻を経て生まれ変わった先に汝の罪はありません。此度の死は終わりではなく希望の一歩なのです。恐れずに浄化の死を受け入れ、来世に進みなさい。汝が敬尊愛助の心を宿して再びこの世に生まれることを切に願います。・・・最後に咎人ウィルマよ、汝の終生の言葉を聞き遂げましょう。何か言い残すことはありますか?」

 首を垂れてうなだれていたウィルマがゆっくりと顔を上げ、ニヤリと口角を上げた。

 目は潰されているため閉じたままであったが、顔はしっかりとインサの方に向けられている。

「・・・上手く、・・・化けたもんだな」

「・・・まぁね。この人、ご丁寧に進行用のカンペを懐に忍ばせてあってさ、おかげで助かったよ」

 インサがその身に纏った白いローブの胸元をポンと軽く叩く。

「それで一応確認だけど、成すべきことは分かってる?」

「ああ、・・・大いなる意思は感じている」

「そう、じゃあ後はよろしくね」

 ウィルマのかすれる程に小さな声とインサの声がマイクを通して広場全体に伝わるも、広場の群衆や処刑台を警護する兵士にとっては意味不明なやりとりに聞こえたようで皆困惑した様子で成り行きを伺っていた。

 そんな中にあって、大いなる意志という言葉の意味を知るアスたちだけが焦りの表情を浮かべながら処刑台に向かって駆け出す。

「いけない!その人、ウィルマの仲間だよ!!」

 アスがそう叫ぶも、警備をしていた兵士たちは急に処刑台に近づいてきたアスたちの方こそが不審人物であると見なしたようで、すぐにその行手を遮り怒声を浴びせてきた。

「何者だ貴様ら!賊の仲間か!?」

「違う!僕じゃなくて、あそこの司祭が!」

 処刑台の上を遠目に指差すアスの瞳に志征の姿が映った。

 志征は疾風の如く処刑台の階段を駆け上がり、インサに向かって鋭い剣撃を放つ。

 インサは、その剣撃を振り向き様に躱すと、台に置かれた大剣を手に取り、流れるような動きでウィルマに向かって剣を放り投げた。

 それからすぐに後方に跳んで志征と距離をとる。

 投げられた剣はかなりの重量を感じさせるように鈍い金属音を立てながらウィルマの膝元に落ちた。

「もうバレたか。・・・じゃあね、ウィルマ。星の加護がありますように」

 魔伝機から声が聞こえるのと同時に志征がインサを追撃するが、それも躱したインサが処刑台から大きく跳躍する。

 おそらく震重系と風音系の魔操を使用しているのであろうインサは、まるで空を飛ぶかの如く空高く舞い上がり、そして城外方向に向かって滑空を始めた。

 わずかな間に目まぐるしく状況が変わったこともあって、兵士も群衆も呆気にとられた様子で上空のインサを見送る。

 アスたちも上空に逃げられてはなす術がないため、やむなくただじっとインサが滑空する様子を見つめていた。

 空を見上げていたアスは、ふとインサが去った方からユフムダルに向かって高速で飛来する白い球状の物体が多数あることに気が付いた。

「あれは・・・?」

 広場にいた群衆もアスと同様に空を見上げていたこともあって、白い球体に気付く者が多数おり、たちまち広場の喧騒が激しくなる。

 皆が飛来する球体に気づいてからほんの僅かな時間で、少なくとも百以上はある白い球体は、この広場を中心とした一帯に流星のごとく降り注いだ。

「くっ!」

「うおっ!」

「きゃあ!!」

 瞬間、アスたちは球体落下による凄まじい衝撃波で四方に吹き飛ばされる。

 大地を揺さぶるような大きな衝撃と轟音が連続して続き、一帯を覆うように大量の粉塵が舞い上がる中、悲鳴を上げて逃げ惑う群衆によって広場は一気に大混乱に陥った。

 吹き飛ばされたアスは受け身をとってすぐに体勢を立て直す。そして腕を前に出し粉塵から目を庇いながら周囲を見渡した。

 逃げ惑う群衆や広場の石畳や周囲の建物が大きく崩壊している様子がアスの目に映る。

 大きく陥没した地面の中央には飛来してきた直径三十センチ程度の白い球体が転がっていた。

「アス!シオン!大丈夫か!?」

 周囲の惨状に息を呑むアスの後ろから切迫したエラルの声がする。

 振り返るとエラルの無事な姿があり、目の端には少し離れた場所で服についた埃を払いながら立ち上がるシオンの姿が映った。

「うん、僕はなんともないよ!シオンは大丈夫!?」

「私も大丈夫だよ!」

 三人は広場の処刑台付近に一旦集合すると改めて阿鼻叫喚となっている広場周辺を見回した。

 兵士たちも突然のことに統政が取れず混乱しているようで逃げ惑う群衆の中で大声を張り上げながら右往左往している。

「それにしても酷い惨状だな。リアスの言っていた攻撃ってこれのことか?」

「分からない。だけどその可能性は高いだろうね。周囲にかなりの被害が出ているようだから、僕達はとりあえず付近の救助活動を行おう!」

「そうだな!」

「うん!」

 アスたちが近くの瓦礫と化した建物に目星をつけて救助活動に向かおうとした矢先、処刑台から女性の大声が聞こえた。

「皆、落ち着け!緊急事態につき指揮命令系統が回復するまでは鳳である私、ミリアがここの指揮を執る!広場一帯の兵士は全員、住民の安全を確保するとともに救助活動を実施しろ!」

「・・・あれは、さっきインサに切りかかっていた志征か。あの人が鳳だったのか」

「そうみたいだね。・・・あれ?あの人、どこかで見たことがあるような」

 処刑台に佇むミリアの姿がアスの記憶を刺激し、そしてアスは朧げに思い出す。

「もしかしてボルプスの地下で見た鳳?」

 アスがそう呟いた瞬間、処刑台の中央から天を突くような黒い閃光がほとばしり、続いて強烈な禍々しさを孕んだ特大の圧が一帯を支配した。

「う、嘘だろ!これって!?」

 今にも押し潰されそうな圧にエラルが怯えたような声を出す。

 この身に覚えのある強烈な圧にアスは戦慄しながら処刑台を見据えた。

「間違いない。・・・黒フレアだ!」

「えっ!?」

 ボルプスの時と同様に、この圧の影響を受けていない様子のシオンは二人の突然の変容にただ戸惑いの表情を浮かべてアスとエラルの視線の先に顔を向ける。

 三人が見つめる先、広場の処刑台の上には鎖に繋がれていたはずのウィルマの姿はなく、代わりに真っ黒の表皮を持った筋骨隆々の生命体が佇んでいた。

 身長は二メートル程。白フレアより小型で目や口といった白フレアには無い器官を有している。

 額には星天の証である星紋が刻まれており、その手には先程インサがウィルマに向かって放り投げた大剣が鞘に収められたままで握られていた。

「・・・まさか、あの黒はウィルマ!?」

「フォオオオオオァアアア!!!」

 アスが呟くと同時に、眼前の黒フレアはその口を大きく広げ、けたたましく咆哮した。
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