命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

四章終幕 「東へ」 一

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「くっ・・・」

 アスは自分の体に覆いかぶさる瓦礫を押し除け、その場にゆっくりと立ち上がった。軽い脳震盪を起こしているようで足元がふらつく。

 時間の経過とともに身体の感覚が戻ってくると、全身から脳に送られてくる痛みの信号も徐々に鮮明になり、その痛みで顔が歪んだ。

 爆発の瞬間、咄嗟に衛浄魔操のクッションを展開し魔力を相殺したことで致命傷は避けられたが、その後の記憶が飛んでいることから、アスは身体を強く打ってしばらく気を失っていたのだと悟った。

 一帯には爆発による熱気の余韻が残っているため、おそらくだが気を失ってから然程時間は経過していないのであろうと思われた。

「エラル!シオン!」

 アスは黒フレアが作り出した大きなクレータの中央に向かって辿々しく歩きながら仲間の姿を探す。

 ふと近くの瓦礫から音がしたため、そちらに視線を移すと顔をしかめながら体を起こすエラルの姿が見えた。

 アスはふらつきながらもなんとかエラルの下に辿り着く。

「エラル、大丈夫?」

「ああ、咄嗟に魔操で相殺したからなんとか・・・。アスも無事でよかったよ。シオンは?」

「分からない。無事だといいけど・・・」

 アスはそう言ってもう一度辺りを見回すと瓦礫と化した処刑台の裏手からこちらに向かってゆっくりと歩いてくるミリアとシオンの姿を見つけた。

 一番間近で爆発を受けたミリアの怪我は酷いようでシオンに肩を預けている。

「・・・お前たちも生きていたか」

 駆け寄るアスとエラルの姿を見てミリアが小さく笑みを浮かべて言った。

「二人とも怪我は?」

「私は大丈夫だけど、ミリアさんが・・・」

「問題ない。利き腕と肋骨が折れただけだ」

 ミリアはシオンの肩から腕を下ろすと左手で胸を押さえてふぅと息を吐いた。

「私はみんなから少し離れていたから見えたんだけど、ミリアさんが爆発の被害を抑えるために咄嗟に黒フレアの全方位を熱火の壁で覆って・・・。それで多分周囲の被害はかなり抑えられたんだと思う。だけどミリアさん自身を守るための魔力が弱くなって、十分に魔力を相殺しきれなかったみたい・・・」

「そうか、あの魔力量の爆発にしては被害が小さいなとは思っていたけど、ミリアさんが守ってくれてたのか」

 エラルがミリアの負傷した腕に目を向ける。

「あの一瞬が見えていたとは驚きだな。だが、市民を守るのは志征の務めだから気にするな。・・・さてと黒フレアだが、奴がどこに行ったか分かるか?」

「すみません、あの爆発で僕たちも見失ってしまって・・・」

 アスがそう言うや、オグルスピア城の中腹あたりの壁面が大きな音を立てながら吹き飛んだ。

「・・・あそこか。分かりやすい奴だ」

 そう言うとミリアは左手に剣を持ってオグルスピア城に向かい出した。

「まさかまだ戦うつもりですか!?その怪我じゃ無茶ですよ!」 

「案ずるな。怪我を治すあてはちゃんとある。それに被害を抑えるために、戦える限り前線に立つのは志征の責務だからな」

「それなら僕たちも行きます!戦力は多い方がいいでしょうから」

「・・・アスといったか。正直、お前たちの力には驚いている。まさかあそこまで動けるとはな。だが一つ言っておく。星喰のウィルマが変異したと思われる先程の黒フレアは、おそらく全力ではなかっただろう。まだ変異したばかりだからなのかは分からんが、強力な肉体を制御しきれていないような印象があったからな。・・・お前たちの実力なら戦力として十分カウントできる。しかし、黒フレアも徐々に力を制御できるようになるだろうから、先程よりも過酷な戦いとなることは間違いない。ついてくるなら死は覚悟してもらうぞ」

「・・・僕たちは死ぬつもりはありません。そして、ミリアさんも死なせません!みんな助けます!」

 アスの力のこもった言葉にミリアがふっと笑みをこぼす。

「ふっ、大きく出たな。いいだろう、三人とも来い!皆で黒フレアを討伐するぞ!」

「はい!」

 アスたちの頷きを確認したミリアが城に向かって駆け出すと、アスたちも意を決してその後を追った。



 怪我を負っているとは思えない程に素早く駆けるミリアの後を追ってしばらく走るとアスたちの目にオグルスピア城の城壁が見えてきた。

 城壁では突如現れた大量の白フレアを撃退すべく兵士たちが奮闘しており、壁が砕かれる轟音や迎え撃つ兵士たちの怒号が飛び交っている。

 百を超える白フレアの猛攻は凄まじいようで、城壁のいたるところから煙が上がっており、近づくにつれて負傷兵の姿が目立つようになってきた。

「ここもなんとかしないと!」

 アスは横目に守備兵と交戦する白フレアを捉える。

 そちらに加勢しようと進路を変えようとした途端にミリアの大声が響いた。

「捨ておけ!今は黒フレアの討伐だけを考えろ!」

 アスは一瞬躊躇するも、苦虫を噛んだような顔で再びミリアの後を追った。

「心配はいらん。ユフムダルの兵士は優秀で、人数も多い!百や二百の白フレアであれば兵士たちだけでも十分対処可能だ!兵士たちを信じて一気に突き進むぞ!」

 そのまま一行は駆ける足を止める事なく城門に迫る。そして城門前で防陣を組む守備隊に向かってミリアが大声を張り上げた。

「鳳のミリアが通る!道を開けろ!」

 ミリアの姿を視認した城門前の守備隊がその声に応じて道を開ける。

 城門は丁度壁外の白フレアを攻撃をするために騎馬隊が出撃するタイミングだったようで、門の半ば程まで上げられていた。

 大地を揺るがすような地響きと共に城門から出陣する百騎程の騎馬隊とすれ違いながら、アスたちは城門をくぐり、そこから更に壁外の白フレアと城内の黒フレアの対処のために右往左往している兵士たちの間を駆け抜けて、オグルスピア城の入り口である大扉を越えて城内に入った。

 城内もやはり大混乱に陥っている。式典に列席した貴賓をどのように護衛するか防衛線をどのように展開するかといった言葉があちらこちらから聞こえてきた。

「おい!黒フレアは何階だ!?今はどの程度まで対処できている!?分かっていることを簡潔に教えろ!あと至急、衛生兵を一名呼んでくれ!」

 ミリアがその中から隊長格と思われる兵士一人を捕まえて、まくし立てるように要求を伝える。

「はっ!リジュ!リジュはいるか!?すぐにこっちに来てくれ!」

 隊長格の兵士の言葉に応じてすぐにリジュと呼ばれた兵士が駆け寄ってきた。

 ミリアは衛生兵の証である緑十字の刺繍がある腕章をつけたリジュの姿を確認すると、すぐに自身の状態を伝える。

「右腕と肋骨が折れている。繋げるだけの応急処置で構わないから速やかに治してくれ。リジュが治療している間にお前はさっきの質問に答えてくれ」

 リジュがすぐさま活性系魔操でミリアの治療を開始する中、隊長格の兵士が敬礼してから大声で状況の説明を始めた。

「現在、黒フレアは城の外壁を破って八階の式典会場に侵入しております!黒フレアが外壁を破壊した際に生じた瓦礫によって、式典に列席していた貴賓の内、複数名が死傷したとのことですが、式典会場にいた拳聖のモードレッド様が直ちに黒フレアを食い止めたおかげで貴賓にはそれ以上の被害は出ておりません!また、間を置かずに鳳のクィンス様が現着し、今はモードレッド様と共闘して黒フレアと対峙しております!我々城内の一般兵は戦闘の妨げになるとのことから貴賓の脱出路の確保と防衛線の展開を行なっているところであります!」

「その他の志征は?」

「志征は避難する貴賓の護衛と壁外の白フレア討伐の二班に分かれて任務を遂行中です!」

「そうか。志征の中には緋雀もいただろうに、黒にはあてず他に回したということか。クィンスが黒フレアを抑え込むことができる前提であれば最善手ではあるが・・・。それで、ランデルは?もう一人の鳳は何をしている?」

「ランデル様はユリクシエ王子とデュランダ公の護衛に入っております!」

「そうか、今のランデルならやむを得んか。状況はわかった、お前は任務に戻ってくれ」

「はっ!」

 隊長格の兵士が去ると、ミリアがアスたちに顔を向けた。

「治療が終わり次第、八階の式典会場に突入するぞ。今聞いた戦力配置であれば、白フレアは確実に抑えられるだろうから、目下の難事はやはり黒フレアになる。鳳のクィンスと私、それに拳聖モードレッドを加えた陣容で戦力はおそらく五分。そう考えると想定外の戦力であるお前たちの活躍が勝利の鍵になりそうだ。期待させてもらうぞ」

 ミリアの言葉に、アスたちが力強く頷く。

「終わりました!ほぼ完璧に繋げたと思います!」

 程なくしてリジュが治療の終わりを告げると、ミリアは一つ頷いてから身体を捻り腕を大きく回す。それから手を握りしめ、そして開いた。

「なるほど、何の違和感もない。この僅かな時間でここまで治せるとはいい腕をしている。リジュといったな、お前の名前、覚えておくぞ」

「はっ!光栄であります!」

 嬉しそうな顔をしながら敬礼で応じるリジュにミリアが笑みを送る。それからアスたちに再び顔を向けた。

「待たせたな。アス、エラル、シオン。・・・行くぞ!」

 先陣を切って走りだすミリアの背中をアスたちが追う。

 一行は黒フレアがいるとされる八階の式典会場を目指して疾風の如く城内の中央階段を駆け上がっていった。
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