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第四章 星天燃ゆる雪の都
四章終幕 「東へ」 二
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アスたちが八階に近づくにつれて、クィンスたちの激しい戦闘によるものと思われる大きな衝撃音が耳に届くようになってきた。
轟音が響く度に、城を揺るがすような振動が起こり、その都度アスたちが駆け上がっていた中央階段を大きく軋ませる。
「次が八階だ!皆、気を引き締めろ!」
先頭を走るミリアの声に、アスは剣の柄を握る手に力を込め、臨戦態勢を整える。剣の刀身はシオンから十分に注がれた風音系の魔力によって深緑に染まっていた。
八階に着くとすぐに待合用の大きな広間に出た。そして、広間の先、階段から見て真正面に位置する方向に式典会場となっていた八階中央大ホールがあった。
式典会場の場所を視認したアスたちは、そのまま広間を駆け抜け、破壊されて開けっぱなしとなっている大扉から、戦場と化した中央大ホールに一気に突入した。
荒れ果てた大ホールの中には、黒フレアと対峙する一人の女性の姿があった。女性はボロボロで既に剣を持つ手にも力がこもっておらず、虚ろな目で黒フレアを見つめている。
だが、その表情はなぜか笑みを含んでいた。
「ふふ、まさかこれ程の相手に相見えるとは・・・。完敗です。なかなかに楽しかったですよ」
最早、無抵抗とも思えるその女性に対して、黒フレアが漆黒の大剣を振り下ろす。
「クィンス!!」
咄嗟に黒フレアの剣の軌道に割り込んだミリアが、振り下ろされた黒フレアの剣を弾いた。
「・・・あら、お姉様?・・・遅かったですわね」
「クィンス!しっかりしろ!」
そう叫びながら、ミリアは黒フレアを牽制するために全力で剣を振り抜く。だが、黒フレアは避ける素振りも見せず、強力な魔力で覆われた左腕でその剣を受け止めた。
「なっ!?神剣で切れないだと!?」
志征の鳳だけに貸与される人類最高峰の刃を持つ神剣。それをあっさりと止められたことにミリアは大きく動揺し、一瞬動きが止まる。
黒フレアは、その隙を見逃さずミリアの剣を素早く握ると、にたりと不気味な笑みを浮かべて、ミリアの腹を蹴り上げた。
蹴りの威力を和らげるために、咄嗟に剣から手を離し宙に飛んだミリアであったが、それでも黒フレアの蹴りの威力は凄まじく、ミリアは血反吐を吐きながら天井に激しく叩きつけられた。
「ぐぅっ!」
その強い衝撃によって意識が飛んでしまったのか、ミリアは無防備の状態で力無く天井から落下してくる。
笑みを浮かべたままの黒フレアは、落下してくるミリアにタイミングを合わせて大剣を振りかぶった。
「止まれぇ!」
注意が上に向いている黒フレアの側頭部を目掛けて、エラルが跳躍しながら剣撃を放つ。不意をついた一撃にも見えたが、黒フレアは体をのけぞらせて難なくそれを躱した。
「くっ、アス!」
「ここだ!」
続いて距離を詰めるアスが黒フレアの足元から剣を振り上げる。風音の魔操で剣速を強化していたアスの強烈な剣撃が、体をのけぞらせていた黒フレアの脇腹に命中した。
黒フレアの魔力で覆われた体表に傷をつけることはできなかったが、それでも全力で振り抜いたアスの剣が黒フレアの体をほんの僅かに浮かした。
「突き上げ大氷柱!!」
今度はシオンの口伝と共に黒フレアの足元から鋭く尖った氷柱が発生する。宙に浮いた黒フレアは回避行動が取れず、発生した氷柱によって大きく吹き飛ばされた。
黒フレアは体を翻して着地するも、すぐには動かず、首を傾げて周囲を見回している。新たな敵の発生に再度周囲の状況を確認しているようにも見えた。
その間にアスはミリアの下に駆け寄る。
落下するミリアの体はクィンスがしっかりと受け止めており、ミリアが無防備のままで床に激突する事態はなんとか避けることができていたのだ。
「ミリアさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、すまない。一瞬意識が飛んでいたようだ。助かったよ。クィンスもありがとう」
「・・・お姉様、油断しすぎですよ」
優しげな声でクィンスがそう言うとミリアは苦笑いをしつつ、蹴られた腹を押さえながら立ち上がった。途端にミリアが顔を歪ませる。
「ちっ、また肋骨が折れたな・・・。だが、なんとかいけるか」
ミリアは口元の血を拭うと、先ほどのアスたちの連撃で黒フレアの手からこぼれ落ちた自身の剣を拾い上げ、再び構えた。
「クィンスは戦えそうか?あと、モードレッド様はどうした?」
ミリアが尋ねる中、アスは大ホールの脇に倒れ込む二つの人影に気付いて驚く。モードレッドとレンが倒れていたのだ。
「・・・モードレッド様はかなり善戦していたのですが、退避されずに戦っていたレン卿を特大の火球から庇った際に被弾して戦闘不能に。その火球の余波でレン卿も気を失って、今はご覧の通りですわ。そこから私が一人で戦っていたのですけど、黒フレアの攻撃で体を大分削られた上に、最後は魔力が尽きてしまって。ふふ、お姉様には少し恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたね」
「そうか。となると戦えるのは我々だけか・・・、かなりキツイな」
「一応、黒フレアの魔力は大分消費させたので、そろそろ核が出る頃だとは思いますよ。・・・それに私はかなりダメージを負いましたけど、まだ魔操限界には至っていませんので、魔力さえあれば支援くらいはできますわ」
虚ろだったクィンスの目に再び光が宿り、剣の柄を握る手に力が込められた。
同時に状況確認を終えた黒フレアが再び不気味な笑みを浮かべて、アスたちににじりより始めた。
「ちっ、考える時間は無いか。アスとエラルは私と共に黒フレアを削るぞ!あの強い魔力で覆われた腕には特に注意しろ!シオンはクィンスの剣に魔力を注いでから後方支援だ!クィンスは最後のとどめ役を頼む!支援などと甘いことは言わせない。全力を尽くせ!」
「まあ、厳しいお言葉ですわね。でも了解しましたわ」
「行くぞ!」
駆け出すミリアの掛け声に合わせて、アスとエラルも猛然と黒フレアに向かって走り出す。
真っ先に黒フレアの懐に入ったエラルが、足を狙って剣を振り抜いた。
黒フレアは、その斬撃を避けようともせず、そのまま受け止める。エラルの剣は魔力で覆われた黒フレアの体表を傷つけることなく弾かれた。
「くそ!やっぱり剣は通らないか!」
足の止まったエラルに対して黒フレアが大剣を振り下ろす。その剣を握る腕を狙って、アスが強烈な刺突を繰り出した。
刺突によって黒フレアの腕をなんとか弾くも、やはり傷はつけられない。
「やっぱり、さっきよりも硬いよ!」
顔をしかめるアスに向かって、黒フレアの強烈な拳が繰り出される。
「こなくそ!」
今度は体勢を立て直したエラルが、全力でその拳を弾いた。
黒フレアの攻撃はその一発一発が死を彷彿とさせる程に凄まじく、二人の神経は著しくすり減らされていく。そんな中にあっても、アスとエラルはお互いを補い合いながら、なんとか紙一重で黒フレアの連撃を掻い潜っていた。
黒フレアからすれば、二人の攻撃は致命傷には至らないながらも体にまとわりついて払いきることができない鬱陶しい小蠅のようにも感じていたのかもしれない。
その煩わしさやストレスからか、段々と黒フレアの攻撃が大振りになってきた。
アスとエラルが決死の覚悟で注意を引きつけている一方で、黒フレアの背面に回ったミリアは、全神経を研ぎ澄ませて全力の一撃を叩き込む隙を窺っていた。
三人は事前に作戦を申し合わせたわけではなかったが、黒フレアの硬い表皮を破るためにはミリアの持つ神剣だけが頼りであるということを暗黙的に理解しての行動であった。
「どりゃあ!」
少しして、黒フレアの大振りとなった剣を掻い潜ったエラルが渾身の力を込めて再び足を払った。しかし、剣は先程と同様に強力な魔力で覆われた表皮に弾かれてしまう。
「風の縦刃、三!、魔力の注入が完了したから魔操で支援するよ!」
エラルが剣を叩きつけた場所に向かって、シオンの風の刃が高速で三連打を浴びせた。それでも黒フレアはまだ倒れない。
「エラル、もう一度だ!攻撃は僕とシオンで弾くから今度は全力で叩いて!」
「了解!守りは任せたぞアス!」
エラルは両手で剣を握ると、大きく息を吸い込み魔錬刃に込められた熱火の魔力を解き放った。強烈な熱火の魔力がエラルの魔錬刃を深い紅に染めていく。
その魔力を感知した黒フレアがすぐにエラルに鋭い剣撃を放った。
「うおおぉ!」
「板氷の盾!」
アスが側方から黒フレアの腕を思いっきり刺突したことで斬撃の軌道が若干横に逸れる。更に滑り台のように斜めに創生されたシオンの板氷に黒フレアの剣が着氷すると、その剣撃は大きく横に滑った。
思いとは違う方向に力を受け流された反動で、黒フレアの体勢が若干崩れる。
「倒れろぉ!」
間髪入れずに、力を溜めていたエラルが全力で剣を振り切った。その全力の剣が、体勢を崩した黒フレアの足を思いっきりすくい上げる。
黒フレアは、大きくバランスを崩して床に倒れ込み、片膝と手をつく四つん這いの体勢となった。
「よくやった!上出来だ!」
ミリアはこの好機を逃さず、練り上げた魔力を神剣に込めて跳躍する。そのまま、落下の勢いも乗せて剣を振り下ろし、無防備となった黒フレアの背中を一気に斬りつけた。
「グゴァ!」
黒フレアから赤黒い体液が飛び散り、さらに追撃の熱火魔操が傷口を焼く。
「まだ浅いか!?だが傷はついた!えぐるぞ!」
返す刃でもう一度攻撃しようとするミリアだったが、即座に体勢を直した黒フレアが大剣で弾き返す。
今度はアスの目の前に黒フレアの背面が晒された。
アスは剣の柄を握り締めるとミリアのつけた背中の傷口を目掛けて、渾身の刺突を繰り出した。
黒フレアは片腕でミリアの相手をしつつ、体を開いて背後に迫るアスに特大の火球を放つ。
「フォローするぞ!」
すぐにエラルがアスの進路を確保するために、目一杯の力を込めて火球を打ち抜く。
魔力がほぼ尽きたエラルの剣は火球を相殺するには至らなかったが、それでも僅かに軌道を変えることに成功した。
火球は突進するアスの側方をかすめながら後方の床に着弾し、轟音と共に巨大な火柱を作る。
「うおおおぉ!」
背後からの強烈な熱風を感じる中、アスの手には肉の繊維を突き破る確かな感触があった。
アスの剣は黒フレアの背中に深々と突き刺さったのだ。アスはそのまま肉を破壊するように剣を捻りながら一気に引き抜く。
「グゥアガガガ!」
黒フレアは悲痛な叫び声をあげ、苦悶しながらやみくもに腕を振り回す。その背中からは、ねっとりとした赤黒い体液が大量に飛び散った。
「もう一つ!」
大きな隙ができたところにエラルが傷口を狙って追撃する。その剣も深々と肉をえぐり、更に大量の体液が噴出した。
「ガァアア!!」
猛る黒フレアは怒りをぶつけるかのようにエラルとアスに向かって火球、氷柱、風刃の魔操を見境なく連射する。
「ぐぅ!」
「くそっ!」
無数に放たれた魔操は照準が定まっておらず、二人はその大半を回避することができたが、それでも氷柱の一本がエラルの左肩を貫き、風刃の一閃がアスの脇腹を切り裂いた。
「いい加減にしろ!」
距離を詰めたミリアが再び黒フレアの傷口をえぐるように剣を斬り払う。
剣は黒フレアの背骨に引っかかったのか一瞬止まるが、ミリアは更に力を込めて無理矢理に剣を振り抜く。
骨が砕ける鈍い音と肉を引きちぎる音が合わさった不快な音が鳴り、折れた巨大な背骨が剥き出しとなった。
「ググゥ・・・」
背骨が折れて体の制御ができなくなった黒フレアはそのまま地響きを立てながら床に倒れ込む。
最早、勝利は目前と思われたが、にわかに黒フレアの星紋が強烈に輝き、大量の魔力が凝縮されていった。
アスの脳裏に広場での大爆発が蘇る。
「マズい!全員、防御体勢をとれ!」
ミリアの声が聞こえると同時にアスの目の前は強烈な閃光で真っ白になった。
轟音が響く度に、城を揺るがすような振動が起こり、その都度アスたちが駆け上がっていた中央階段を大きく軋ませる。
「次が八階だ!皆、気を引き締めろ!」
先頭を走るミリアの声に、アスは剣の柄を握る手に力を込め、臨戦態勢を整える。剣の刀身はシオンから十分に注がれた風音系の魔力によって深緑に染まっていた。
八階に着くとすぐに待合用の大きな広間に出た。そして、広間の先、階段から見て真正面に位置する方向に式典会場となっていた八階中央大ホールがあった。
式典会場の場所を視認したアスたちは、そのまま広間を駆け抜け、破壊されて開けっぱなしとなっている大扉から、戦場と化した中央大ホールに一気に突入した。
荒れ果てた大ホールの中には、黒フレアと対峙する一人の女性の姿があった。女性はボロボロで既に剣を持つ手にも力がこもっておらず、虚ろな目で黒フレアを見つめている。
だが、その表情はなぜか笑みを含んでいた。
「ふふ、まさかこれ程の相手に相見えるとは・・・。完敗です。なかなかに楽しかったですよ」
最早、無抵抗とも思えるその女性に対して、黒フレアが漆黒の大剣を振り下ろす。
「クィンス!!」
咄嗟に黒フレアの剣の軌道に割り込んだミリアが、振り下ろされた黒フレアの剣を弾いた。
「・・・あら、お姉様?・・・遅かったですわね」
「クィンス!しっかりしろ!」
そう叫びながら、ミリアは黒フレアを牽制するために全力で剣を振り抜く。だが、黒フレアは避ける素振りも見せず、強力な魔力で覆われた左腕でその剣を受け止めた。
「なっ!?神剣で切れないだと!?」
志征の鳳だけに貸与される人類最高峰の刃を持つ神剣。それをあっさりと止められたことにミリアは大きく動揺し、一瞬動きが止まる。
黒フレアは、その隙を見逃さずミリアの剣を素早く握ると、にたりと不気味な笑みを浮かべて、ミリアの腹を蹴り上げた。
蹴りの威力を和らげるために、咄嗟に剣から手を離し宙に飛んだミリアであったが、それでも黒フレアの蹴りの威力は凄まじく、ミリアは血反吐を吐きながら天井に激しく叩きつけられた。
「ぐぅっ!」
その強い衝撃によって意識が飛んでしまったのか、ミリアは無防備の状態で力無く天井から落下してくる。
笑みを浮かべたままの黒フレアは、落下してくるミリアにタイミングを合わせて大剣を振りかぶった。
「止まれぇ!」
注意が上に向いている黒フレアの側頭部を目掛けて、エラルが跳躍しながら剣撃を放つ。不意をついた一撃にも見えたが、黒フレアは体をのけぞらせて難なくそれを躱した。
「くっ、アス!」
「ここだ!」
続いて距離を詰めるアスが黒フレアの足元から剣を振り上げる。風音の魔操で剣速を強化していたアスの強烈な剣撃が、体をのけぞらせていた黒フレアの脇腹に命中した。
黒フレアの魔力で覆われた体表に傷をつけることはできなかったが、それでも全力で振り抜いたアスの剣が黒フレアの体をほんの僅かに浮かした。
「突き上げ大氷柱!!」
今度はシオンの口伝と共に黒フレアの足元から鋭く尖った氷柱が発生する。宙に浮いた黒フレアは回避行動が取れず、発生した氷柱によって大きく吹き飛ばされた。
黒フレアは体を翻して着地するも、すぐには動かず、首を傾げて周囲を見回している。新たな敵の発生に再度周囲の状況を確認しているようにも見えた。
その間にアスはミリアの下に駆け寄る。
落下するミリアの体はクィンスがしっかりと受け止めており、ミリアが無防備のままで床に激突する事態はなんとか避けることができていたのだ。
「ミリアさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、すまない。一瞬意識が飛んでいたようだ。助かったよ。クィンスもありがとう」
「・・・お姉様、油断しすぎですよ」
優しげな声でクィンスがそう言うとミリアは苦笑いをしつつ、蹴られた腹を押さえながら立ち上がった。途端にミリアが顔を歪ませる。
「ちっ、また肋骨が折れたな・・・。だが、なんとかいけるか」
ミリアは口元の血を拭うと、先ほどのアスたちの連撃で黒フレアの手からこぼれ落ちた自身の剣を拾い上げ、再び構えた。
「クィンスは戦えそうか?あと、モードレッド様はどうした?」
ミリアが尋ねる中、アスは大ホールの脇に倒れ込む二つの人影に気付いて驚く。モードレッドとレンが倒れていたのだ。
「・・・モードレッド様はかなり善戦していたのですが、退避されずに戦っていたレン卿を特大の火球から庇った際に被弾して戦闘不能に。その火球の余波でレン卿も気を失って、今はご覧の通りですわ。そこから私が一人で戦っていたのですけど、黒フレアの攻撃で体を大分削られた上に、最後は魔力が尽きてしまって。ふふ、お姉様には少し恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたね」
「そうか。となると戦えるのは我々だけか・・・、かなりキツイな」
「一応、黒フレアの魔力は大分消費させたので、そろそろ核が出る頃だとは思いますよ。・・・それに私はかなりダメージを負いましたけど、まだ魔操限界には至っていませんので、魔力さえあれば支援くらいはできますわ」
虚ろだったクィンスの目に再び光が宿り、剣の柄を握る手に力が込められた。
同時に状況確認を終えた黒フレアが再び不気味な笑みを浮かべて、アスたちににじりより始めた。
「ちっ、考える時間は無いか。アスとエラルは私と共に黒フレアを削るぞ!あの強い魔力で覆われた腕には特に注意しろ!シオンはクィンスの剣に魔力を注いでから後方支援だ!クィンスは最後のとどめ役を頼む!支援などと甘いことは言わせない。全力を尽くせ!」
「まあ、厳しいお言葉ですわね。でも了解しましたわ」
「行くぞ!」
駆け出すミリアの掛け声に合わせて、アスとエラルも猛然と黒フレアに向かって走り出す。
真っ先に黒フレアの懐に入ったエラルが、足を狙って剣を振り抜いた。
黒フレアは、その斬撃を避けようともせず、そのまま受け止める。エラルの剣は魔力で覆われた黒フレアの体表を傷つけることなく弾かれた。
「くそ!やっぱり剣は通らないか!」
足の止まったエラルに対して黒フレアが大剣を振り下ろす。その剣を握る腕を狙って、アスが強烈な刺突を繰り出した。
刺突によって黒フレアの腕をなんとか弾くも、やはり傷はつけられない。
「やっぱり、さっきよりも硬いよ!」
顔をしかめるアスに向かって、黒フレアの強烈な拳が繰り出される。
「こなくそ!」
今度は体勢を立て直したエラルが、全力でその拳を弾いた。
黒フレアの攻撃はその一発一発が死を彷彿とさせる程に凄まじく、二人の神経は著しくすり減らされていく。そんな中にあっても、アスとエラルはお互いを補い合いながら、なんとか紙一重で黒フレアの連撃を掻い潜っていた。
黒フレアからすれば、二人の攻撃は致命傷には至らないながらも体にまとわりついて払いきることができない鬱陶しい小蠅のようにも感じていたのかもしれない。
その煩わしさやストレスからか、段々と黒フレアの攻撃が大振りになってきた。
アスとエラルが決死の覚悟で注意を引きつけている一方で、黒フレアの背面に回ったミリアは、全神経を研ぎ澄ませて全力の一撃を叩き込む隙を窺っていた。
三人は事前に作戦を申し合わせたわけではなかったが、黒フレアの硬い表皮を破るためにはミリアの持つ神剣だけが頼りであるということを暗黙的に理解しての行動であった。
「どりゃあ!」
少しして、黒フレアの大振りとなった剣を掻い潜ったエラルが渾身の力を込めて再び足を払った。しかし、剣は先程と同様に強力な魔力で覆われた表皮に弾かれてしまう。
「風の縦刃、三!、魔力の注入が完了したから魔操で支援するよ!」
エラルが剣を叩きつけた場所に向かって、シオンの風の刃が高速で三連打を浴びせた。それでも黒フレアはまだ倒れない。
「エラル、もう一度だ!攻撃は僕とシオンで弾くから今度は全力で叩いて!」
「了解!守りは任せたぞアス!」
エラルは両手で剣を握ると、大きく息を吸い込み魔錬刃に込められた熱火の魔力を解き放った。強烈な熱火の魔力がエラルの魔錬刃を深い紅に染めていく。
その魔力を感知した黒フレアがすぐにエラルに鋭い剣撃を放った。
「うおおぉ!」
「板氷の盾!」
アスが側方から黒フレアの腕を思いっきり刺突したことで斬撃の軌道が若干横に逸れる。更に滑り台のように斜めに創生されたシオンの板氷に黒フレアの剣が着氷すると、その剣撃は大きく横に滑った。
思いとは違う方向に力を受け流された反動で、黒フレアの体勢が若干崩れる。
「倒れろぉ!」
間髪入れずに、力を溜めていたエラルが全力で剣を振り切った。その全力の剣が、体勢を崩した黒フレアの足を思いっきりすくい上げる。
黒フレアは、大きくバランスを崩して床に倒れ込み、片膝と手をつく四つん這いの体勢となった。
「よくやった!上出来だ!」
ミリアはこの好機を逃さず、練り上げた魔力を神剣に込めて跳躍する。そのまま、落下の勢いも乗せて剣を振り下ろし、無防備となった黒フレアの背中を一気に斬りつけた。
「グゴァ!」
黒フレアから赤黒い体液が飛び散り、さらに追撃の熱火魔操が傷口を焼く。
「まだ浅いか!?だが傷はついた!えぐるぞ!」
返す刃でもう一度攻撃しようとするミリアだったが、即座に体勢を直した黒フレアが大剣で弾き返す。
今度はアスの目の前に黒フレアの背面が晒された。
アスは剣の柄を握り締めるとミリアのつけた背中の傷口を目掛けて、渾身の刺突を繰り出した。
黒フレアは片腕でミリアの相手をしつつ、体を開いて背後に迫るアスに特大の火球を放つ。
「フォローするぞ!」
すぐにエラルがアスの進路を確保するために、目一杯の力を込めて火球を打ち抜く。
魔力がほぼ尽きたエラルの剣は火球を相殺するには至らなかったが、それでも僅かに軌道を変えることに成功した。
火球は突進するアスの側方をかすめながら後方の床に着弾し、轟音と共に巨大な火柱を作る。
「うおおおぉ!」
背後からの強烈な熱風を感じる中、アスの手には肉の繊維を突き破る確かな感触があった。
アスの剣は黒フレアの背中に深々と突き刺さったのだ。アスはそのまま肉を破壊するように剣を捻りながら一気に引き抜く。
「グゥアガガガ!」
黒フレアは悲痛な叫び声をあげ、苦悶しながらやみくもに腕を振り回す。その背中からは、ねっとりとした赤黒い体液が大量に飛び散った。
「もう一つ!」
大きな隙ができたところにエラルが傷口を狙って追撃する。その剣も深々と肉をえぐり、更に大量の体液が噴出した。
「ガァアア!!」
猛る黒フレアは怒りをぶつけるかのようにエラルとアスに向かって火球、氷柱、風刃の魔操を見境なく連射する。
「ぐぅ!」
「くそっ!」
無数に放たれた魔操は照準が定まっておらず、二人はその大半を回避することができたが、それでも氷柱の一本がエラルの左肩を貫き、風刃の一閃がアスの脇腹を切り裂いた。
「いい加減にしろ!」
距離を詰めたミリアが再び黒フレアの傷口をえぐるように剣を斬り払う。
剣は黒フレアの背骨に引っかかったのか一瞬止まるが、ミリアは更に力を込めて無理矢理に剣を振り抜く。
骨が砕ける鈍い音と肉を引きちぎる音が合わさった不快な音が鳴り、折れた巨大な背骨が剥き出しとなった。
「ググゥ・・・」
背骨が折れて体の制御ができなくなった黒フレアはそのまま地響きを立てながら床に倒れ込む。
最早、勝利は目前と思われたが、にわかに黒フレアの星紋が強烈に輝き、大量の魔力が凝縮されていった。
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