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Myth of The Wind
宿命の戦い2
しおりを挟む「こいつら、正気か? 一真がいなければ、今回の作戦で全滅していたかもしれないのに……命の恩人に対する仕打ちじゃねーぞ!」
「航ちゃん、この人達に何を言っても無駄みたいよ。ベルヘイム軍と戦うか、カズちゃんを見捨てるか……早く決断しないと、取り返しがつかなくなる!」
智美の言葉を聞くまでもない……航太の心は決まっていた。
今まで共に戦っていたとはいえ、こんな理不尽を許す訳にはいかない。
弓を射ろうとしている弓兵に向かって、航太は鎌鼬を放とうとした。
しかし、その動きは銀色の疾風に止められる。
「ゼーク、邪魔すんな! 神に逆らえないってんなら、せめてジッとしてろっ! オレは一真を守る。こんなアホらしい展開に、付き合ってられるかっ!」
「あなた達こそ、正気な訳? オーディン様に刃を向けるような愚行……頭がイカレてるとしか思えないわ!」
魔導師の指輪から溢れる魔力が炎を生み、その炎を纏った剣が航太を襲う。
「ちっ、本気かよっ! その指輪に魔力を注いだって奴らは、さぞ後悔してんだろーなっ! ベルヘイムを……人々を守ろうって命を張ってる奴を倒す為に使われてんだからなっ!」
「馬鹿な事を……私達は、神を守る為に戦っているのよっ! その神を救う為に使っているんだ! 後悔する筈がない!」
一度、魔導師の指輪に手を当てたゼークは一瞬だけ迷った表情を浮かべたが、直ぐに剣を構え直す。
「あー、もぅ! 普通に見て分かんないわけっ! どう考えても、どう見ても、カズちゃんが皆を守る為に戦ってるって分かるじゃん! なんで神様の手助けするのよっ! 神様が、私達に何をしてくれたのよ! 雷を落として人を殺しただけじゃんよー!」
絵美が天沼矛を構えて、ゼークの間合いに飛び込む。
「絵美様、ごめんなさい! でも、神は私達の創造して下さった。何をしてくれたかと言われたら、私達を生み出して下さったと言うしかない。だから、その創造主を守るのは当たり前の事!」
ゼークに向かって走る絵美の横から、テューネがデュランダルを振り下ろす。
ガァキキキィィ!
その大剣を、智美が2本剣で受け止める。
「いったぁぁ! テューネ、あなた本気で絵美を殺そうとしたわね……それなら、私達だって全力で行くしかなくなるわよ!」
まるで踊るかの如く剣を振る智美の軌道を沿うように、水の刃が発生した。
円を描くように発生する水の刃に、絵美が直線的な水の刃を加える。
変則的に襲ってくる水の刃をデュランダルの広い剣腹で受け止めたテューネは、後方へ身を躱す。
そこに、オーディンに叩き落とされた一真が降って来た。
「カズちゃん、大丈夫?」
「くそっ! 全員、姿勢を低くしてっ! また雷を放って来る!」
絵美の言葉に応える余裕もなく、一真は叫ぶ。
しかし、その声には誰一人反応せず、地面に落ちて狙いやすくなった一真を狙って、矢を……火の球を……その身体に浴びせていく。
「間に合わないっ! グラム、オレに力を貸してくれっ!」
襲いかかる矢と火の球を鳳凰の翼で防ぎながら、一真はグラムを地面に突き刺し、そして力を込める。
ガガガガガガァ!
一真の立っている大地を残し、その周囲の地面が1m程度沈んでいく。
そして、グラムを握って跳んだ。
浮き上がった瞬間、一真を目掛けて電流の柱が地面から立ち昇る。
「うおおおおぉぉぉぉ!」
全ての雷をその身に受けて……しかし、力を込めて電流を身体の外へ逃がす。
「一真、そんな奴らを守る必要ねーって! とりあえず、この場を離れるぞ!」
「カズちゃん、航ちゃんの言う通りだよ! こっちの世界の人達、訳分かんないよ! 私達の世界に戻ろう!」
航太と絵美が、空へと戻った一真の背中に……翼の生えた大きな背中に負けない程の大声で声をかける。
その言葉が届いてない筈がない……それでも、一真はオーディンに化けたロキにグラムを突き出す。
「お仲間が心配しているぞ? これ以上、私の邪魔をしないというなら逃げても追わないでおこう。ここにいる人々も、とりあえずは生かして帰してやる」
「ここでオレが逃げたら、いずれこの世界を滅ぼすんだろ? 多くの犠牲者を出して! それに、ここまで仕組んだアンタが、このままベルヘイムの人達を帰す筈がない。今なら、ロキとしてではなくオーディンとして人々を抹殺出来るんだ……オレを逃がした罰とかで雷を落とすんだろっ!」
一真の言葉にオーディンの口元が少し緩み……振り下ろされたグラムとグングニールが激しくぶつかり合い、火花が散る。
その姿を……一真が戦っている姿を、血が出る程に拳を握り締めて見ていたティアは、決心して走り出した。
「航太さんっ! 一真を止めてっ! このままじゃ、一真が一真でいられなくなっちゃう! あの力を使い続けたら、心が……心が……」
「って、ティアさんは一真の心配してくれんだな。ありがたいぜ! だが、あの戦い……俺達で止めれるレベルを超えている。それに、俺達はゼークやらテューネと戦わないといけないらしい。一真が逃げてくれりゃいいんだが……」
ティアの身体をゼーク達から隠すように動いた航太は、エアの剣を構える。
「ゼークとテューネと言ったか……情けないわね。7国の騎士の末裔と皇の目を持つノアの家系の者が、揃って聖杯の影響から逃れられないなんて……見たところ、彼女は普通の人みたいだけど、聖杯の影響から逃れている」
ボリュームのある金髪を靡かせて、フレイヤは航太とゼーク達の間に割って入った。
青く輝く瞳で一度ティアを見て頷くと、ゼークとテューネに視線をズラし……そして睨む。
「この瞳を持つ者なら知っている筈だ。この目の力を使って戦う代償をなっ! 何故バルドル様が、凰の目を全力で使い続けているのか……バロールと戦っている時は、ほぼ鳳凰覚醒のみで戦っていたのに……今は鳳凰天身で戦っているのか……」
そこまで話すと、フレイヤは大地に横たわるガイエンの亡骸と空中で戦う一真の姿を交互に見た。
そして、再び口を開く。
「バルドル様が力を使う時は、仲間を……大切な人達を守る時だけだっ! 身勝手に戦う事はない……お前達は、バルドル様と共に戦ってきた仲間だろっ! 何故、私よりバルドル様の事を理解していないのだっ! 考えろ……そして、心に問い掛けろ! お前達は、神の為に戦うだけの道具か? 違うだろっ! バルドル様は、心を失う覚悟で戦っているんだ……その姿を見ても、お前達の心は何も言わないのか? 聖杯の呪縛すら溶けない……その程度の心しかないのか?」
フレイヤの言葉は、情けなさと悲しさを宿していた……
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