雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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それぞれの旅立ち

魔導師マーリン

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マーリンは、部屋で手記を見て涙を流す女性の姿を物陰から見つめていた。

その女性、ルナ・ハートリィが弟子にしてくれと頼んできた日の事……そして、その数週間前に起きた出来事を思い出して大きく息を吐く。

雷が落ちる轟音……嵐のような風切り音……響き渡る金属音……

大地が裂け、世界が終わるんじゃないか……そう思わせる程の爆音が響き渡った次の日の出来事……

マーリンは強大な力が近付いて来る事に気付き、暗き森ミュルクヴィズの入口付近にある自宅を飛び出した。

家には未熟者の弟子、ガラードがいる。

自分の身は守れても、ガラードを守れる保障はない……マーリンは最強の魔導師と言われていたが、それでも恐怖を感じる程の力が迫っていた。

森を走っていたマーリンの目の前に、その力の源が姿を現す。

血塗られたような紅き剣を携えた騎士と、その従者のように付き従う神槍を持つ騎士。

たったの二人……いや、紅の剣を携える騎士から溢れ出す圧倒的な気迫に、一人で万の軍勢を相手にした事もあるマーリンですら気圧された。

身体は小さい……そして、ただ歩いている少年のような風貌の男に、最強の魔導師の足が竦む。

「そこに隠れている奴! 出て来い!」

マーリンの姿に気付いた神槍を持つ騎士……パシェード・シェルクードが声を出す。

それ以前に気付いていたであろう紅の剣を持つ騎士は、まるで興味が無さそうにマーリンを見て……相手にする様子もなく、再び歩き出した。

「我が君! 見たところ、かなりの使い手の魔導師のようです! 我々の姿を見たのですから、消しておいた方が無難かと……後々、憂いになるやもしれません!」

「なら、貴様がやれ。面倒な事はしたくない」

紅の剣を携える騎士は大木を背もたれ代わりに寄り掛かると、興味無さそうに事の成り行きを眺める。

「仕方ない……我が君の許しも出たし、オレが直接引導を渡してやる。こんな森をほっつき歩いていた自分の身を怨め!」

「槍使いが仕掛けて来る! まずいな……力を見せれば、弱点を見抜かれる……」

マーリンの意識はシェルクードではなく、紅の剣を携えた騎士に向けられていた。

力を見せれば見せる程、隙を見抜かれる……マーリン程の魔導師にそう思わせるぐらいの力を、紅の剣を携える騎士から感じる。

そんなマーリンの思考を読み取った訳ではないが、紅の剣を携えた騎士に見せつけるようにシェルクードがマーリンに仕掛けた。

シェルクードの持つ神槍グングニールはロキが造ったレプリカではあるが、その力はオリジナルと同等である。

使い手が主神オーディンではなく人間であるシェルクードの為、その力の全てを使える訳ではないが、トップクラス神器である事に違いはない。

視界が明るくなった瞬間、マーリンを目掛けて稲妻が走る。

マーリンは大地を蹴って後ろに飛びながら、杖を回して魔法を発動させた。

心言詠唱……高位魔導師のみが使える魔法詠唱。

声は出さずに、頭の中で詠唱するだけで魔法が発動するのだ。

声に出すより、詠唱時間は格段に短くなる。

稲妻は四散し、弾け飛んだ電撃は木々を凪ぎ払い、巨大な岩をも破壊した。

それ程の破壊力の電撃を、紅の剣を携える騎士は大木に寄り掛かり腕を組んだまま弾き飛ばす。

心言詠唱どころの話ではない……電撃を見つめただけで弾き飛ばしたようにも見える。

「面倒だが……オレに危害を加えるというなら、相手になってやる。一方的に殺すだけだがな」

ゆっくりと大木から背中を離した男は……次の瞬間、消えた。

火の粉だけが舞った……魔法を詠唱する余裕もなく……

「ぐはっ……」

マーリンの鳩尾に、拳が深々と突き刺さった。

マーリンは自分の周囲の時間が遅くなる魔法を使っていた……にも関わらず、何も出来ずに攻撃を受ける。

閃光の如き稲妻ですら弾ける力があるにも関わらず……だ。

「貴様……運が良かったな。この剣は汚したくない。そして、他に剣が無い。更に言えば、かなり高密度の魔法を使っていたな……攻撃スピードが遅くなったせいで、拳で貴様の身体を貫けなかった。使える剣を持っていれば貴様の命は消えていたが……これも時の運だ」

胸骨が破壊され、骨が肺に突き刺さる寸前の状態ではあったが、辛うじて魔法が間に合った。

それでも大ダメージを受けたのは変わりなく、マーリンは身体を「く」の字に折り曲げて、大地に膝をつく。

激しい衝撃を受けたマーリンだったが、それと同時に分かった事がある。

紅の剣を携える騎士の内面は、正義と悪の間を揺れ動いているという事実……

大いなる魔力を持つマーリンは、心の内面を読む事が出来る。

今なら、この強大な力を持つ男を救えるかもしれない……

「私めも、あなた様の共に加えて頂けないでしょうか? 必ずや、力になってご覧にいれます」

今まで、人に頭を下げた事などない。

だが、この男を正しき道へ導く事が自らの使命なのではないか……マーリンは、強く感じていた。

ここで出会えた事が、運命なのだと……

「ふざけるなよ! どこの馬の骨とも知らん奴がっ!」

「ほぅ……貴様も、似たようなモンだろ?」

シェルクードを見て冷ややかに笑った紅の剣を携える騎士は、マーリンを見下ろす。

「力になる……か。どう力になってくれるのかな?」

更に頭を深く下げたマーリンは、口を開いた……



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