雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

文字の大きさ
27 / 65
騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校3

しおりを挟む
「そして、航太の学生生活が始まるのだった……と」

「ん? ゼーク様、何を書いているのですか?」

小さな手帳にゼークはサラサラっとメモをすると、声を掛けて来たクスターの方を向く。

「これ? んー、日記みたいなモンかな? 前の戦いの時は正確な記録が無くて、間違って伝わっている話とかあるからね。これからの事、しっかり記録に留めておきたいの。それで、私が航太の事を戦友って言った意味、分かった?」

「ええ……何となくですが……正直、神剣を持った事で強くなったって勘違いしているだけの奴だと思っていました。力は人を変える……でも、彼は本当の強さを持っている。確か、彼がベルヘイム遠征軍に加入した時は、神剣を持った素人だったと聞いています。力に呑まれなかった……って事ですよね」

「そうね……いやいや、ちょっと天狗になっていた時期もあったかもしれないけど、でもね……彼らは私達と違う国の出身なのに、私達の為に必死になって戦ってくれたの。それこそ、寝る間も惜しんで修業してくれたわ。そして、自分を守る方法と人を護る術を吸収していってくれた……基礎を教えてあげる余裕は無かったけどね」

ゼークは難しそうな顔をして校舎の方を見る航太に視線を移し、そしてクスターに苦笑いを見せた。

「ちょっと……いや、だいぶ頭悪そうなのよね。そこだけが欠点だわ……」

そう呟くと、ゼークは腕を組んで頬を膨らませてる智美に声を掛ける。

「智美は、私達と一緒に来てくれる? お城で国王がお待ちなの。私達を救ってくれたお礼がしたいって。それに、聖凰騎士団の話も……」

「分かったわ。じゃあ航ちゃん、2ヶ月後に騎士見習いとして会いに来てね。私は、現状の整理とロキさんの陣営の話なんかをすればいいのよね? ロキさんに捕まってたから、必ず話を聞かれると思ってたし」

智美の言葉に、ゼークとオルフェが深く頷く。

「流石は智美だ。今すぐにでも、私や国王様の側で働いてもらいたいぐらいだよ。聖凰の動き……というより、一真の動向も気になるが、ヨトゥン軍で注意しなきゃいけないロキ軍の内状は知っておきたいからね。じゃあ航太、必ず騎士見習いを取得するんだぞ! 一真を助ける第一歩だからな!」

歩き始めるオルフェ達と、校舎と、天空の城……航太の視線は泳ぎまくり……そして、オルフェの背中目掛けて怒鳴り声をぶつける。

「おい、ちょっと待った! 智美は天空の城に行って国王と美味い飯を食って、オレは学校で勉強ってか? ありえねーぞ! 今日ぐらい、オレも城でゆっくりさせろ! 疲れてんだ! オレだって疲れてんだよ! 天空の城にだって行ってみたいし!」

「航太……なんかダサイよ……だいたい、美味しいご飯食べてる余裕なんて無いでしょ? 2ヶ月で騎士見習いになるって、かなり大変なんだから遊んでる暇無いって。私やテューネで2年、天才って言われてたオルフェ元帥でも1年かかってるんだから……航太が騎士見習いになれなかったら、私達の計画が全部破綻するんだから、頑張ってよ!」

呆れ顔で大きく溜息をついたゼークは、智美を促し歩き始めた。

「ちょ……ちょっと待ってクレープ……いや、違うんだ! 今のはオレが悪かった! 少しでも場を和ませようと……おーい!」

無言で去って行く四人の背中を見つめながら、航太は絶望で膝をついた……


「はぁ……なんでオレばっかり、貧乏クジを引いちまうんだろ……てか、智美も一緒に入学する流れだろ、普通……あー、クソ! イライラしてきた!」

セルマに案内された食堂で、航太は人参らしき野菜にフォークを突き刺して、がっつく様に口に放り込む。

「どうして異世界に来てまで、大学に通ってる時の様な生活をしなきゃいけないんかなー! カリキュラム表ったってなぁ……どうぜ全部受講して、この3週間に一回の試験を受けて合格すりゃいいんだろ……てか、3週間に一回の試験って何なんだよ。試験大好きかっての!」

航太は皿も見ずに肉の塊にフォークを突き刺し、そして口に頬張る。

「航太さん、学校に嫌な思い出でも?」

「んにゃ、学校ってトコが嫌い……もとい、勉強が嫌いなだけだ……って、うぉっ! なぜに目の前にいる?」

航太の独り言を目の前で聞いていたセルマは、パンを一切れ口に運んでからカリキュラム表を指差す。

「私は、自分の食事を取りに行ってただけなんですけど……勉強が嫌いでも、カリキュラム通りに授業を受けてもらいます。本来1年かけて勉強する所を、3週間で……最短で突破していくには、このカリキュラムしかありません。頑張って下さいね」

「ああ……すまん。完全に見えてなかったよ。しかし、このカリキュラム……地獄なんだが?」

「でしょうね。でも、このカリキュラムでしか2ヶ月で騎士見習いにはなれません。1学年に3週間しかいれないから、あまり学校生活を楽しんで……とは言えないけれど、良い思い出が作れるように祈っているわ。今は航太さんは私の後輩ですけど、卒業する頃には先輩ですね……何か複雑です」

眼鏡をかけ直したセルマは少し笑うと、更にパンをちぎって口に入れる。

セルマと話して少し落ち着いた航太は、食堂が人で満たされている事に気付く。

「混んで来たな……飯はここでしか食えないのか?」

「ええ……全寮制だから、食事はここで食べる事になるわ。時間帯は少し気にした方がいいかもね。混んでる時は、席が足りなくなるから」

それから暫く、航太はセルマに学校の事を色々と教わった。

寮での生活や、授業の受け方……必要な事を書き取りながら話を聞いていたら、外は暗くなり食堂で食事をしている人も疎らになり始める。

「セルマ、サンキューな! 学校の事、だいぶ分かったよ。明日から頑張らねーとな!」

食事を片付けようとした航太は、食堂から次々と人がいなくなる異様な光景を見た。

「なんだ? 急にワラワラと……感じ悪ぃな」

「いえ、航太さんが原因ではないわ。原因は彼女……イングリス・フォルシアン。人間とヨトゥンの混血よ」

褐色の女性……イングリス・フォルシアンは、航太達だけになった食堂に静かに入って来ると、食事の乗ったトレーを広いテーブルに置くと一人で食べ始める。

「航太さん、行きましょう。もう少しで、食堂も閉まるわ」

セルマに引きずられる様に外に出た航太は、寂しそうに……哀しげに食事をするイングリスの横顔が気になった。

人間とヨトゥンの混血……その言葉が、頭から離れなかった……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...