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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校5
しおりを挟む「あなた達……右も左も分からない新入生相手に、大勢で取り囲むのはどうなのかしら? 見ていて、あまり気持ちよくはありませんわ」
静かだが芯の通った女性の声に、航太を取り囲んでいた生徒達が振り向く。
「ジル……あなた、この新入生の肩を持つわけ? 相変わらず、何を考えてるか分からないわね」
「わけ分かんねーのは、あんたらだろ? 新入生が誰と仲良くしたって、オレ達には関係ねー話だろーが。それとも……新入生の気が引きたくて、わざとやってんのか? だとしたら、その作戦の邪魔をして悪かったな」
ジルと呼ばれた黒髪で育ちの良さそうな女子生徒と、後頭部に腕を回して椅子を少し斜めに倒しながら冷ややかな目で航太を取り囲む生徒を見る男子生徒。
そんな二人の言葉に航太達の側から生徒が離れていき、輪が崩れていく。
「航太さん……入学早々に、このクラスの嫌な部分を見せてしまって申し訳ありませんでした。イングリスの事になると、どうしても皆気が立ってしまって……あ、私はジルヘルミナ・アンジェルと申します。ジル……と、お呼び下さい」
「ジル、助かったよ。いやぁ、大人気ない対応をしちまったからな……ちょっと、反省していたトコだ。オレのせいで、イングリスも嫌な気分にさせちまった……」
航太の言葉に、イングリスは気にする事はないと首を振る。
「君も……助かったよ。これからもよろしくな。えーっと……」
「ザハール・ラトヴァラだ。別に、助けたつもりはねぇよ。集団で少数を攻撃するのが嫌ぇなだけだ。ほら、授業が始まんぞ」
ザハールの視線の先の教壇には、いつの間にか担任ではなく次の授業の教師が立っていた。
「おおっと! んじゃ、放課後にオレの部屋に来てくれよ。お礼と歓迎会を兼ねて、ささやかな宴でも開こうではないか! ジルとイングリスも参加な」
「おい、勝手に決めんなよ! でもまぁ、あのバロールに勝った騎士の話を聞けるってんなら悪くねぇ」
航太に視線を合わせはしないが、満更でもない顔をするザハールを見て、ジルは少し笑う。
「そうですわね。自分で歓迎会って言っちゃうのはどうかと思いますけど……気さくな方で良かったわ。筋肉隆々の怖い殿方が来たらどうしようかと思っていましたから。じゃあ、航太さんの最後の講義が終わった1時間後に、イングリスを連れて伺いますね」
「ああ……って、そりゃそうか。オレだけ講義を受ける数が異常なんだよな……皆が帰った後も、2つは講義がある。悪いが、少し待っててくれ」
ザハールとジルが頷くのを確認した後、航太は最初の講義に立ち向かった……
「終わったぁ……知ってる事を延々と聞かされてると、流石に眠くなるが……マンツーだから寝れない地獄よ……」
ブツブツと独り言を言いながら教室のドアを開け、帰路に就こうとする航太の視線の先に二人の女の子が見えた。
「イングリスとジルか。わりぃ、待たせちまったな。でも、後から部屋に来てくれりゃ良かったのに……」
「いえ……一応、校内と周辺の案内の許可をとったので、教室から一緒にいないとまずいのです。この時間から殿方の部屋に行くとなると……その……色々と……」
頬を薄紅く染めながら口籠るジルに、大学生のノリで部屋に誘ってしまったことに航太は気付く。
「おっとぉ……そーいや、そうか。気を使ってもらって、助かるよ。んじゃ、行きますか」
そう言うと、航太は男性寮の方へ足を向けた。
「に……しても、殺風景すぎんだろ。まじで何もねーな。クッションもグラスも無いとはね……よく自分の部屋で歓迎会開くとか言えたな」
備付けの机と椅子しかない航太の部屋を見て、ザハールはグラスやら皿やらクッションやらを自分の部屋に取りに行かされる羽目になった。
「いやまぁ、昨日の今日だからな……皆が気を使って色々と持って来てくれて助かったぜ!」
「流石に歓迎会やるって言われて、手ぶらで来れないでしょ。でも……ベルヘイム遠征軍を救った人の部屋も、私達の部屋と変わらないのね」
イングリスは持ってきた食べ物や飲み物を床に置くと、部屋を見回して呟く。
「だろー! 今度オルフェ将軍……いや、元帥だったっけ? が、来たら言ってやってくれよ! 国に貢献してきた人に対する扱いが酷すぎるってな!」
「実際、その程度なんだと思うわ。前回の遠征軍……と言うより、遠征軍は死んでも問題ない人達から選出されていく。本来、オルフェ様やテューネ様は遠征軍に参加する予定は無かった。航太さん……いえ、本物の救世の騎士が現れ、命の危険が少ないって判断されたから派遣されたのだから……」
イングリスの言葉に、一瞬の沈黙が流れる。
「そりゃ……な。魔眼のバロール相手に、優秀な奴らを連れて行けないって国の方針は分からないじゃねぇ……見られただけで死んじまうんだからな。で……そんなバロール相手に、どうやって戦った? 風の神剣とやらは、魔眼の効果を無効に出来るとかか?」
「今、イングリスが言っただろ? 本物の救世の騎士が現れたって。オレは偽物……って訳でもないが、バロールとは戦ってない。バロールのいた城ん中で、ヨトゥン共とは戦ったけどな。しかし、イングリスは一真の事を知ってるんだな……誰から聞いた?」
航太の視線の先で、イングリスの表情が少しだけ穏やかなものに変わった。
「私の母は、ホワイト・ティアラ隊にいたの……そう、一真さんって言うのかぁ……母は口止めされてるって何も教えてくれないけど、でも確かに救世の騎士はいたって……恐怖の騎士からホワイト・ティアラ隊を守り、大地を穿つ雷からベルヘイム軍の全てを守り抜いた本物の伝説……」
「補足させてもらうと、その恐怖の騎士と協力してバロールも倒してるけどな。で……イングリスは、一真に憧れて騎士を目指そうって思ったのか?」
航太の問いに、イングリスは軽く首を横に振った……
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