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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校16
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「やめろおぉぉぉ!」
叫びながらイヴァンの前に飛び出したのは、ザハールだった。
怒りに震え、憎悪を孕んだ表情で、バスタード・ソードをイヴァン目掛けて振り下ろす。
ガァキィィィ!
激しい金属音……しかし響き渡る金属音とは裏腹に、イヴァンは余裕を持ってザハールの剣を受け止めていた。
「これは……懐かしい顔がいたもんだ。ザハール……君はまだ学生だったと思ったが……見習いにもなっていない男が、ベルヘイム第9騎士団長の私に刃を向けるとは……愚かしいな。ここで私に倒されても、倒されなくても、それ相応の罪に問われるぞ。騎士への道は確実に断たれたな」
「うるせぇ! てめぇだけは……てめぇだけは、オレが自分の手で殺すと決めているんだ! その後の事なんて知った事じゃねぇ!」
ザハールは怒声を上げながら、叩きつけるようにバスタード・ソードを横に振る。
怒りを乗せたザハールの剣は……力の篭ったその一撃は、イヴァンの持つティルフィングに力を殺されて、簡単にいなされた。
「さて……見苦しい男は死んでもらおう。クスターの事も救ってやったのに、逆恨みもいいとこだからな」
黒き稲妻……ザハールの太刀筋より、明らかに早く破壊力のある一撃がザハールの頭を目掛けて振り下ろされる。
ガァキィィィィィィィ!
先程よりも、更に激しい金属音が……耳を切り裂くような鋭い音が、周囲に響く。
血を吸い、本来の力を持ったティルフィングの一撃は、並の剣など紙が切れるが如く真っ二つになっている筈……
養成学校の生徒が持つ剣などで、防げる筈もない。
「貴女は……アンジェル家のご息女か……良いのですか? 今回の作戦は、ベルヘイム王が承認された作戦……邪魔をすれば、罪に問われますよ。そして、私は命令を遂行する立場にある。アンジェル家のご息女とはいえ、邪魔をするならば倒さねばなりませんよ?」
「そうですか……そうですね。でも私達は、友人のお母様のお見送りに来ただけ。そして、その方が襲われている。ベルヘイム騎士の……たとえ、見習いになる為の勉強中だとしても、私達はベルヘイム騎士としての誇りと誓いを胸に刻んでいます。大切な人や弱き人を助ける……騎士として当たり前の事をしているだけなのです。英雄イヴァン様……貴方様程の騎士が、何故弱き者を一方的に虐殺するような作戦の指揮をとっておられるのです?」
静かな口調の奥に、信念を曲げないという意思と決意を感じた。
イヴァンは、その圧力に後退りする。
「アンジェル家の剣術か……女だが養成学校に行く程だ。学んでいてもおかしくはないか……」
イヴァンは誰にも聞こえない声で呟くと、アンジェル家の宝剣を構えるジルを睨む。
「私としても、不本意ですがね……しかし、国王の命令だ! これ以上邪魔をされるのであれば、アンジェル家のご息女といっても斬らねばなりません! 離れて見ていてもらいましょうか!」
ティルフィングの動きは早い……イヴァンが喋り終わった時には、ティルフィングの剣腹がジルの柔らかいお腹に食い込んでいた……いや、現実には、ティルフィングとジルの腹の間の水球に食い込んだ。
「きゃあああ!」
威力は殺されたが、その衝撃でジルの身体は後方に弾け飛ぶ。
「てめぇ! やりたい放題、やってんじゃねーぞ!」
助けに入った航太のグラムと、イヴァンのティルフィングが激突する。
「おいおい、私にばかり気をとられて良いのか? この作戦には、かなりの数のベルヘイム騎士が参加している。奴隷共を救えなくなるぞ」
イヴァンの言う通り、激流伝雷を逃れた者……崖の上から下りて来た者……後方に控えていた者……多くのベルヘイム騎士達が水のドームの中に侵入してきていた。
「航ちゃん、殺すなって言っても……数が多過ぎる! このままじゃ、数に飲み込まれちゃうよ!」
「くそっ! だが、この男も放ってはおけない! エアの剣さえあれば……」
航太は使い慣れないグラムを見ながら、無い物ねだりをしてしまう。
「航太さん、その男は私が相手をします! 航太さんは、ベルヘイム騎士の足止めを……私達が守らなければいけない人達を守れなくなってしまう前に!」
「魔法使い如きが、私の相手をするだと? 笑わせるな!」
イヴァンの前に出たルナは、風の螺旋に炎を乗せてイヴァンに放つ……が、ティルフィングを振っただけで掻き消され、簡単に懐に飛び込まれた。
「聖凰の人間相手なら、手加減の必要は無いな! 死ね! ぐわぁぁぁぁぁ!」
ルナが斬られるであろう……その瞬間、イヴァンの身体は電撃に撃たれ痙攣を始める。
「航太さん……ありがとうございます!」
「いや、オレじゃねぇ! あれは……」
イヴァンを襲った電撃……その攻撃をしたであろう武器は、意思を持っているかのように持ち主の元へ帰っていく。
電撃を放った武器……その槍は、黒い仮面と黒い鎧を纏った騎士の手に収まった。
「あの武器を、オレは知っている。グングニール……ロキの奴が使ってたのと、同じ神槍だ……」
グングニールを携えた黒き騎士は、静かに歩き始めた……
叫びながらイヴァンの前に飛び出したのは、ザハールだった。
怒りに震え、憎悪を孕んだ表情で、バスタード・ソードをイヴァン目掛けて振り下ろす。
ガァキィィィ!
激しい金属音……しかし響き渡る金属音とは裏腹に、イヴァンは余裕を持ってザハールの剣を受け止めていた。
「これは……懐かしい顔がいたもんだ。ザハール……君はまだ学生だったと思ったが……見習いにもなっていない男が、ベルヘイム第9騎士団長の私に刃を向けるとは……愚かしいな。ここで私に倒されても、倒されなくても、それ相応の罪に問われるぞ。騎士への道は確実に断たれたな」
「うるせぇ! てめぇだけは……てめぇだけは、オレが自分の手で殺すと決めているんだ! その後の事なんて知った事じゃねぇ!」
ザハールは怒声を上げながら、叩きつけるようにバスタード・ソードを横に振る。
怒りを乗せたザハールの剣は……力の篭ったその一撃は、イヴァンの持つティルフィングに力を殺されて、簡単にいなされた。
「さて……見苦しい男は死んでもらおう。クスターの事も救ってやったのに、逆恨みもいいとこだからな」
黒き稲妻……ザハールの太刀筋より、明らかに早く破壊力のある一撃がザハールの頭を目掛けて振り下ろされる。
ガァキィィィィィィィ!
先程よりも、更に激しい金属音が……耳を切り裂くような鋭い音が、周囲に響く。
血を吸い、本来の力を持ったティルフィングの一撃は、並の剣など紙が切れるが如く真っ二つになっている筈……
養成学校の生徒が持つ剣などで、防げる筈もない。
「貴女は……アンジェル家のご息女か……良いのですか? 今回の作戦は、ベルヘイム王が承認された作戦……邪魔をすれば、罪に問われますよ。そして、私は命令を遂行する立場にある。アンジェル家のご息女とはいえ、邪魔をするならば倒さねばなりませんよ?」
「そうですか……そうですね。でも私達は、友人のお母様のお見送りに来ただけ。そして、その方が襲われている。ベルヘイム騎士の……たとえ、見習いになる為の勉強中だとしても、私達はベルヘイム騎士としての誇りと誓いを胸に刻んでいます。大切な人や弱き人を助ける……騎士として当たり前の事をしているだけなのです。英雄イヴァン様……貴方様程の騎士が、何故弱き者を一方的に虐殺するような作戦の指揮をとっておられるのです?」
静かな口調の奥に、信念を曲げないという意思と決意を感じた。
イヴァンは、その圧力に後退りする。
「アンジェル家の剣術か……女だが養成学校に行く程だ。学んでいてもおかしくはないか……」
イヴァンは誰にも聞こえない声で呟くと、アンジェル家の宝剣を構えるジルを睨む。
「私としても、不本意ですがね……しかし、国王の命令だ! これ以上邪魔をされるのであれば、アンジェル家のご息女といっても斬らねばなりません! 離れて見ていてもらいましょうか!」
ティルフィングの動きは早い……イヴァンが喋り終わった時には、ティルフィングの剣腹がジルの柔らかいお腹に食い込んでいた……いや、現実には、ティルフィングとジルの腹の間の水球に食い込んだ。
「きゃあああ!」
威力は殺されたが、その衝撃でジルの身体は後方に弾け飛ぶ。
「てめぇ! やりたい放題、やってんじゃねーぞ!」
助けに入った航太のグラムと、イヴァンのティルフィングが激突する。
「おいおい、私にばかり気をとられて良いのか? この作戦には、かなりの数のベルヘイム騎士が参加している。奴隷共を救えなくなるぞ」
イヴァンの言う通り、激流伝雷を逃れた者……崖の上から下りて来た者……後方に控えていた者……多くのベルヘイム騎士達が水のドームの中に侵入してきていた。
「航ちゃん、殺すなって言っても……数が多過ぎる! このままじゃ、数に飲み込まれちゃうよ!」
「くそっ! だが、この男も放ってはおけない! エアの剣さえあれば……」
航太は使い慣れないグラムを見ながら、無い物ねだりをしてしまう。
「航太さん、その男は私が相手をします! 航太さんは、ベルヘイム騎士の足止めを……私達が守らなければいけない人達を守れなくなってしまう前に!」
「魔法使い如きが、私の相手をするだと? 笑わせるな!」
イヴァンの前に出たルナは、風の螺旋に炎を乗せてイヴァンに放つ……が、ティルフィングを振っただけで掻き消され、簡単に懐に飛び込まれた。
「聖凰の人間相手なら、手加減の必要は無いな! 死ね! ぐわぁぁぁぁぁ!」
ルナが斬られるであろう……その瞬間、イヴァンの身体は電撃に撃たれ痙攣を始める。
「航太さん……ありがとうございます!」
「いや、オレじゃねぇ! あれは……」
イヴァンを襲った電撃……その攻撃をしたであろう武器は、意思を持っているかのように持ち主の元へ帰っていく。
電撃を放った武器……その槍は、黒い仮面と黒い鎧を纏った騎士の手に収まった。
「あの武器を、オレは知っている。グングニール……ロキの奴が使ってたのと、同じ神槍だ……」
グングニールを携えた黒き騎士は、静かに歩き始めた……
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