雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

文字の大きさ
40 / 65
騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校16

しおりを挟む
「やめろおぉぉぉ!」

叫びながらイヴァンの前に飛び出したのは、ザハールだった。

怒りに震え、憎悪を孕んだ表情で、バスタード・ソードをイヴァン目掛けて振り下ろす。

ガァキィィィ!

激しい金属音……しかし響き渡る金属音とは裏腹に、イヴァンは余裕を持ってザハールの剣を受け止めていた。

「これは……懐かしい顔がいたもんだ。ザハール……君はまだ学生だったと思ったが……見習いにもなっていない男が、ベルヘイム第9騎士団長の私に刃を向けるとは……愚かしいな。ここで私に倒されても、倒されなくても、それ相応の罪に問われるぞ。騎士への道は確実に断たれたな」

「うるせぇ! てめぇだけは……てめぇだけは、オレが自分の手で殺すと決めているんだ! その後の事なんて知った事じゃねぇ!」

ザハールは怒声を上げながら、叩きつけるようにバスタード・ソードを横に振る。

怒りを乗せたザハールの剣は……力の篭ったその一撃は、イヴァンの持つティルフィングに力を殺されて、簡単にいなされた。

「さて……見苦しい男は死んでもらおう。クスターの事も救ってやったのに、逆恨みもいいとこだからな」

黒き稲妻……ザハールの太刀筋より、明らかに早く破壊力のある一撃がザハールの頭を目掛けて振り下ろされる。

ガァキィィィィィィィ!

先程よりも、更に激しい金属音が……耳を切り裂くような鋭い音が、周囲に響く。

血を吸い、本来の力を持ったティルフィングの一撃は、並の剣など紙が切れるが如く真っ二つになっている筈……

養成学校の生徒が持つ剣などで、防げる筈もない。

「貴女は……アンジェル家のご息女か……良いのですか? 今回の作戦は、ベルヘイム王が承認された作戦……邪魔をすれば、罪に問われますよ。そして、私は命令を遂行する立場にある。アンジェル家のご息女とはいえ、邪魔をするならば倒さねばなりませんよ?」

「そうですか……そうですね。でも私達は、友人のお母様のお見送りに来ただけ。そして、その方が襲われている。ベルヘイム騎士の……たとえ、見習いになる為の勉強中だとしても、私達はベルヘイム騎士としての誇りと誓いを胸に刻んでいます。大切な人や弱き人を助ける……騎士として当たり前の事をしているだけなのです。英雄イヴァン様……貴方様程の騎士が、何故弱き者を一方的に虐殺するような作戦の指揮をとっておられるのです?」

静かな口調の奥に、信念を曲げないという意思と決意を感じた。

イヴァンは、その圧力に後退りする。

「アンジェル家の剣術か……女だが養成学校に行く程だ。学んでいてもおかしくはないか……」

イヴァンは誰にも聞こえない声で呟くと、アンジェル家の宝剣を構えるジルを睨む。

「私としても、不本意ですがね……しかし、国王の命令だ! これ以上邪魔をされるのであれば、アンジェル家のご息女といっても斬らねばなりません! 離れて見ていてもらいましょうか!」

ティルフィングの動きは早い……イヴァンが喋り終わった時には、ティルフィングの剣腹がジルの柔らかいお腹に食い込んでいた……いや、現実には、ティルフィングとジルの腹の間の水球に食い込んだ。

「きゃあああ!」

威力は殺されたが、その衝撃でジルの身体は後方に弾け飛ぶ。

「てめぇ! やりたい放題、やってんじゃねーぞ!」

助けに入った航太のグラムと、イヴァンのティルフィングが激突する。

「おいおい、私にばかり気をとられて良いのか? この作戦には、かなりの数のベルヘイム騎士が参加している。奴隷共を救えなくなるぞ」

イヴァンの言う通り、激流伝雷を逃れた者……崖の上から下りて来た者……後方に控えていた者……多くのベルヘイム騎士達が水のドームの中に侵入してきていた。

「航ちゃん、殺すなって言っても……数が多過ぎる! このままじゃ、数に飲み込まれちゃうよ!」

「くそっ! だが、この男も放ってはおけない! エアの剣さえあれば……」

航太は使い慣れないグラムを見ながら、無い物ねだりをしてしまう。

「航太さん、その男は私が相手をします! 航太さんは、ベルヘイム騎士の足止めを……私達が守らなければいけない人達を守れなくなってしまう前に!」

「魔法使い如きが、私の相手をするだと? 笑わせるな!」

イヴァンの前に出たルナは、風の螺旋に炎を乗せてイヴァンに放つ……が、ティルフィングを振っただけで掻き消され、簡単に懐に飛び込まれた。

「聖凰の人間相手なら、手加減の必要は無いな! 死ね! ぐわぁぁぁぁぁ!」

ルナが斬られるであろう……その瞬間、イヴァンの身体は電撃に撃たれ痙攣を始める。

「航太さん……ありがとうございます!」

「いや、オレじゃねぇ! あれは……」

イヴァンを襲った電撃……その攻撃をしたであろう武器は、意思を持っているかのように持ち主の元へ帰っていく。

電撃を放った武器……その槍は、黒い仮面と黒い鎧を纏った騎士の手に収まった。

「あの武器を、オレは知っている。グングニール……ロキの奴が使ってたのと、同じ神槍だ……」

グングニールを携えた黒き騎士は、静かに歩き始めた……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...