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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校17
しおりを挟む「さて……第9騎士団長のイヴァン殿、国王から作戦中止の命令が下された。その物騒な剣をしまって、部隊を撤退させてくれ」
「貴様……何者だ? この私に攻撃を仕掛けておいて、何もせずに後退しろと言うか? 悪いが、不審者の言う事など聞けぬな! 貴様も、我がティルフィングの錆にしてやるぞ!」
黒騎士に仕掛けようとしたイヴァンは、飛んで来た槍に勢いを潰された。
更に、その槍は黒騎士の元に戻らずに、連続でイヴァンを襲い続ける。
「もう一度言うぞ……ベルヘイム国王の命令で、作戦中止だ。言う事を聞かないならば、手加減出来なくなるうえに、処罰も下されるぞ」
「ちっ……貴様、本当にベルヘイム騎士か? 私は貴様の事を知らんし、国王の命令かどうか確かめる術がない! ならば、作戦を遂行するだけだ!」
ティルフィングで襲ってくる槍……グングニールを思い切り弾き飛ばすと、イヴァンは力任せに大地を蹴って黒騎士との距離を詰めた。
「イヴァン騎士団長、そこまでだ! 剣を収めろ!」
「な……元帥! ならば、奴の言っている事は本当なのか?」
イヴァンと黒騎士の間に割って入って来た男……オルフェは左手を大きく開いて、その動きを牽制する。
「元帥閣下、奴隷の分際で国を離れようとするなど重罪です。ここで粛清しとかなければ、後に続く輩が出てくる可能性もあります」
「そうだな……だが、そこのフードの男……団長も知っているだろう? ベルヘイム遠征軍を救った男は、我々の常識では動かない。自分の信念でしか動かない男だ。そして、その力は……あのバロールを倒し、ロキと互角に戦う程だ。全力で戦われたら、ベルヘイムの国力を根こそぎ持ってかれる可能性すらある。そんな男と敵対するか、奴隷を解放してやるか……答えは考える間もないだろう」
ちっ……イヴァンは舌打ちしながらも、オルフェの命令を聞くしかなかった。
「元帥、聖凰の連中はどうします? 捕らえますか?」
「いや、我がベルヘイム領内に入って来たとはいえ、戦う意思を持ってる訳ではない。それに、捕らえて拷問でもしてみろ……元ランカスト隊の連中に殺されかねんぞ……」
オルフェは無邪気に手を振っている絵美を見ながら、頭を抱えて大きな溜息をつく。
「ベルヘイム遠征軍を守りし水の騎士の一人……亡くなったランカスト将軍に接唇した姿は、正に聖女のようであったと……今回ばかりは見逃すしかなさそうですね……」
黒騎士はオルフェに深くお辞儀をすると、ベルヘイム城内に戻って行く。
「イヴァン団長……手荒い止め方をして、済まなかったな。被害が広がる前に止めろ……国王様からの命令だったのでな。第9騎士団員の治療は、ホワイト・ティアラ隊に任せてある。団長は無傷な者達と城に戻り、少し休んでくれ」
「はっ……国王と元帥閣下の命令であれば、何も言う事はありません。しかし、あの黒い仮面の騎士……何者です?」
ベルヘイム城に戻って行く黒いマントがなびく後ろ姿を睨みながら、イヴァンはオルフェに問う。
「明日にでも、国王から紹介されるだろうが……新たにベルヘイム騎士団に採用された神槍を持つ男だ。十二騎士の選抜試験の為に、ベルヘイムに訪れたらしい。国王自らスカウトしたという噂だが……」
「国王が! そうですか……分かりました。では、後をお願いいたします」
オルフェに対して深くお辞儀したイヴァンは、鋭く睨むザハールを無視して部隊を纏め始める。
「あの野郎!」
「ザハール、やめなさい! オルフェ様が場を収めてくれたのだから、これ以上混乱させないで……今は、イングリスのお母様達の無事を確認しないと……」
ザハールはイヴァンの背中を恨めしく睨むが、怪我をしている奴隷の人達の治療を優先すべき時だという事は理解していた。
「ジル……分かってる。お前がいてくれて、助かったぜ。ありがとな」
ザハールは頬を少し赤らめて、少し小さい声でお礼を言って、そのまま駆け出す。
「何を恥ずかしがってんだ? あいつは? ジル、イングリスも怪我は無いか? 治療が必要なら、ホワイト・ティアラ隊の人達に声をかけるんだ」
「私は、母さんが心配だから見て来るよ。航太、救世の騎士と共に戦った者の力……見せてもらったよ。あんたの力は……航太の力は、偽物なんかじゃない。自分の正義を貫く為の力……私の目指すべき騎士の道が見えた気がするよ」
航太にそう言うと、イングリスも走り出した。
「あったく、オレは自分が偽物とは言ってないんだが……ジル、ザハールを助けてくれて、サンキュな。ジルが変態騎士の剣を止めてくれなかったら、ザハールはやられていた。オレも間に合わなかったし……」
「咄嗟に身体が動いたのは、航太さんとの訓練のおかげです。それと、アンジェル家の宝剣……でも、私も見えました。本当に、見えてない事って沢山ありますね。私……不謹慎ですけど、今日ここに来て良かった。何の躊躇いもなく、自分の守るべき人達の為に戦う航太さんや智美さんが見れて……昔の私なら、ベルヘイム騎士様に刃向かうなんて考えもしなかった……でも、ザハールを守れて良かった……今は心から、そう思えるんです」
そう言いながらも、ジルは怖かったのだろう……手を胸の前で固く握り締め、その肩は震えている。
その小さな肩を航太は軽く一回叩くと、オルフェに向かって足を踏み出す。
言いたい事が沢山ある。
その顔は、怒りと悲しみで複雑な表情になっていた……
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