雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校22

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「2人の神剣使い様、お初にお目にかかります。わたくし、クロウ・クルワッハ軍のメイヴと申します。以後、お見しりおき下さいませ」

スカートの裾を指で少し持ち上げ、膝を曲げて軽く会釈した金髪の女性は、高貴な佇まいの中に幼さと老獪さという相反する趣を感じる。

「貴女……人間ね? どうして、ヨトゥン軍に? それより……どうして、こんな酷い事が出来るの? 力も無い人達を、こんなに無残に……」

ヨトゥン兵を従える軽装の女性……メイヴを、智美は蒼き瞳で怒りの視線を向けた。

その視線をいなすように、メイヴは冷淡な笑みを浮かべる。

「お前……バロールを倒した部隊で戦っていて、メイヴの存在を知らないのか? あのガキみたいな女は、数百年生きてる化け物だ。そして、7国の騎士のクー・フーリンを葬むった張本人だ。まさか、こんな場所でクロウ・クルワッハ軍の大物に鉢合わせするとはね……」

ザハールをヨトゥン兵の凶刃から守ったティルフィングを構えながら、イヴァンは智美の横に歩み寄った。

「ちょっ……近寄らないでよ! ザハール君を守ったからって、あなたを信用した訳でもないし、友人の兄妹の敵には違いないんだから!」

「そんな事を言っている場合か? 協力しなければ、全滅するぞ。メイヴだけの力でも、私の連れて来た騎士も含めて数分と持たないだろう。お前の力が、どの程度なのかで勝敗は決まる。いがみ合っている余裕は無い筈だ」

言い合う2人を見ながら、メイヴはクスクスと笑っている。

「お話は終わったかしら? 蒼き龍のお嬢様は、なかなか強そうね。強い女性は好きよ。でも……わたくしと戦うつもりなら、そちらの殿方の言う通り協力した方がいいわ。わたくし、剣の腕には自信がありますの」

剣の柄を舐めるように指で撫でていたメイヴは、その柄を突然握ると床を蹴った。

パンっ! と乾いた音が一回しただけで瞬間移動したかのように、その細い身体をイヴァンの懐に潜り込ませる。

稲妻の如き一撃……黄色い閃光が、イヴァンに向かって走っただけに見えた。

皇の目を使っていた智美ですら、閃光にしか見えない……

が……イヴァンの握るティルフィングの柄から触手の様な物が伸び、それが束になり盾の様にメイヴの剣先を止めていた。

「流石は神剣。単純な攻撃は通らないか……持ち手は三流でも、神剣は一流ね」

パンっ……と、再び響く軽い音と共にメイヴの身体は宙を跳び、ヨトゥン兵達の前に着地する。

「出鱈目な速さだ! ティルフィングじゃなければ、やられていた! お前……今のスピード、目で追えたか?」

「黄色い線にしか見えなかったわ……目で追えるスピードじゃない!」

草薙剣と天叢雲剣を握る智美の手の平から、大量の汗が流れ始めた。

水の防御が間に合うスピードじゃない……どんなに守勢に回っても、確実に犠牲者が出てしまう。

ヨトゥン軍の隊長クラスと戦う恐怖が、智美の脳裏から再生されていく。

スリヴァルディ、ビューレイスト、スルト……それに、ロキ。

勝った事も無ければ、勝てると思った事すらない。

圧倒的な力の前に、ただ助けられていた。

航太、絵美、アルパスター、ゼーク、オルフェ、テューネ……信用出来る多くの仲間達と戦っても、勝機すら与えてくれなかった相手達……

恐怖で棒立ちになっていた智美の横を、触手の様な物が通り過ぎた。

智美は思わず、自分の横を通った触手の様な物を草薙剣で弾き飛ばす。

冷静になった智美は、食堂の中を見渡し……そして、その惨状に愕然とした。

ティルフィングから伸びた触手の様な物が学生達の身体を貫き、血を吸っている。

たまたま智美が弾き飛ばした触手は、ザハールに向かって伸びていた物だった為、その身体に触手は届いていない。

「あなた……何をしているの?」

「見れば分かるだろ? 戦力にならない奴らから、力を吸い上げている。血を吸えば、ティルフィングは強くなる! ザハールと……そこに倒れている女2人を守らせている水の防御を外してもらおうか! 万全を期さなければ、ここで全滅だ!」

皇の目を発動した事で、ジルとイングリスを包み込んでいる水球が維持されていた。

その水球が、ティルフィングの触手の侵入を拒んでいる。

「よくも……こんな酷い事が出来るわね! あなた、本当に人間なの? 守るべき人達を……守らなきゃいけない人達を……許さない! 絶対に許さない!」

渾身の力を込めて、智美はイヴァンに剣を振り下ろしていた。

ガァキキキィン!

激しい金属音によって、草薙剣の軌道が止まる。

「そんな……どうして?」

「智美様、お止め下さい。倒さなければいけない相手は、ヨトゥン軍の筈です!」

そう……草薙剣を止めたのは、ベルヘイム騎士の一人だった。

「ベルヘイム騎士達は、ヨトゥン兵の前に出ろ! ティルフィングの力が溜まるまでの時間を稼いでくれ! 女……戦いの邪魔をするなら、出て行くんだな! だが、ティルフィングの強化物資は置いて行け。そいつらは、ベルヘイムの所有物だ!」

「強化物資って……あなた、人を何だと思ってるの? ジルちゃん達は、ベルヘイムの所有物じゃない! 誰の物でもない! そもそも、物じゃない!」

智美の怒りは、頂点に達する。

こんなに怒りを感じた事……今までに、あっただろうか……

蒼き瞳が、更に青く……

水の翼が、大きくなっていく……

皇の目の代償……身体の機能が失われていくんだっけ?

そんな事、関係ない。

身体が動かなくなったって……臓器が動かなくなったって……こいつだけは倒す!

水の翼が、龍の翼に形を変えていく。

「そこまでにしておけ。後に引けなくなるぞ。ヨトゥンの女は、オレの獲物だ。ついでに、胸糞の悪い男も倒してやる」

黄金の閃光が舞う。

学生達の身体に突き刺さっている触手が、次々と斬り裂かれていく。

智美の目に映った背中……

喋り方は変わってしまったが、聞き覚えのある声……

見覚えのある小さな身体……

そして、安堵する自らの心……

「カズちゃん……ゴメンね……また頼っちゃう……私達、助けに来た筈なのに……」

その声は、激しい金属音に消されていた……
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