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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校24
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「くそ……大したダメージを受けてない筈なのに、身体が重い……どうなってやがる……」
床に転がっていたザハールは、意識を取り戻すとバスタード・ソードを杖代わりにしてヨロヨロと立ち上がった。
智美に守られた為に打撲程度しか受けていない筈だが、全身の倦怠感に襲われ、痛みのわりに身体が動かない。
壁に背を付けて、バスタード・ソードに体重を預けて、ようやく食堂全体を見渡す余裕が出来たザハールは、その光景に目を見開いた。
智美やヨトゥン兵は見当たらなければ、目の前で対峙している二人はまるで見覚えがない。
食堂の机や椅子の殆どが破壊されている。
「この身体の重さ……ただのヨトゥン兵の攻撃だけで、こんなになっちまうのかよ……強くなったと思ってたのに……」
バスタード・ソードに体重を預けながら、ザハールは食堂の出口に向けて足を踏み出す。
この身体の状態では何も出来ない……寧ろ、智美に迷惑をかけるかもしれない……そう思うと、意地を張っている場合ではない。
逃げる事になろうが、外に出るしかないと感じた。
対峙する二人の男女は、周りの事を気にしてないようにも見える。
逃げるなら今しかない……
食堂の出口に視線を移そうとした……その時、近くの破壊された机の残骸の中に人の動く気配を感じた。
机の残骸の隙間から見えた顔は……忘れもしない、妹の敵であるイヴァンで間違いない。
「こんな身体の状態じゃなけりゃ、アレナの敵を討ってやりたいトコだが……今は逃げる事が優先か」
机の瓦礫に紛れて横たわるイヴァンの脇を通り過ぎようとした時……ザハールの腕が何者かに掴まれた……
いや……バスタード・ソードを握っている右の手の前腕が細い糸にでも巻付けられて、引っ張られるような感覚……
「くっ……なんだ?」
操られるように、ザハールの右腕がイヴァンに向かって伸びていく。
「本気でいくわ。魔眼の力を放棄した事を後悔させてやる!」
女性の声が聞こえた瞬間だった……
それまで亀の動きの様にゆっくりだったザハールの動きが、突然早くなった。
急に重りが外されたかの様に……ザハールの握るバスタード・ソードがイヴァンの喉元に吸い込まれていく。
断末魔すら聞こえなかった……イヴァンの喉をバスタード・ソードが貫通し、程なく……食堂の床に大量の血液が流れ始める。
何が起きたのか、ザハールが理解するまでに時間を要した。
(よくやった……新たなる我が主よ……さぁ、我をその手に……)
頭の中に響く言葉に導かれるように、イヴァンの喉に突き刺さったバスタード・ソードから手を離し、ザハールは床に転がっていたティルフィングに手を伸ばす。
イヴァンの血を脈打つ様に吸い上げながら赤黒く不気味に光るティルフィングは、神剣と呼ぶにはあまりにも禍々しかった。
しかし、そんな不気味さも、頭に響く言葉が以前聞いた事がある事も、ザハールは気にならない。
もはや、ティルフィングに囚われてしまっていた。
ザハールの手がティルフィングに近付くと、その禍々しき剣は自ら飛び上がる。
そして、ザハールの右手に収まった。
ティルフィングから伸びていたピアノ線の様に細い触手が、ザハールの腕から離れ収納される。
(我が欲するは、人の血だ……化け物の血ではない……期待しているぞ……新たなる主よ……)
軽く頷いたザハールの瞳は、普段と何も変わらない。
(そやつのやり方では生温い……まるで血が吸えん……人の血だ……人の血を与えてくれれば、我は無敵の力を貴様に授けてやる……)
頭の中に響く言葉に軽く口角を上げて笑うと、ザハールはイヴァンの心臓にティルフィングを突き刺していた……
床に転がっていたザハールは、意識を取り戻すとバスタード・ソードを杖代わりにしてヨロヨロと立ち上がった。
智美に守られた為に打撲程度しか受けていない筈だが、全身の倦怠感に襲われ、痛みのわりに身体が動かない。
壁に背を付けて、バスタード・ソードに体重を預けて、ようやく食堂全体を見渡す余裕が出来たザハールは、その光景に目を見開いた。
智美やヨトゥン兵は見当たらなければ、目の前で対峙している二人はまるで見覚えがない。
食堂の机や椅子の殆どが破壊されている。
「この身体の重さ……ただのヨトゥン兵の攻撃だけで、こんなになっちまうのかよ……強くなったと思ってたのに……」
バスタード・ソードに体重を預けながら、ザハールは食堂の出口に向けて足を踏み出す。
この身体の状態では何も出来ない……寧ろ、智美に迷惑をかけるかもしれない……そう思うと、意地を張っている場合ではない。
逃げる事になろうが、外に出るしかないと感じた。
対峙する二人の男女は、周りの事を気にしてないようにも見える。
逃げるなら今しかない……
食堂の出口に視線を移そうとした……その時、近くの破壊された机の残骸の中に人の動く気配を感じた。
机の残骸の隙間から見えた顔は……忘れもしない、妹の敵であるイヴァンで間違いない。
「こんな身体の状態じゃなけりゃ、アレナの敵を討ってやりたいトコだが……今は逃げる事が優先か」
机の瓦礫に紛れて横たわるイヴァンの脇を通り過ぎようとした時……ザハールの腕が何者かに掴まれた……
いや……バスタード・ソードを握っている右の手の前腕が細い糸にでも巻付けられて、引っ張られるような感覚……
「くっ……なんだ?」
操られるように、ザハールの右腕がイヴァンに向かって伸びていく。
「本気でいくわ。魔眼の力を放棄した事を後悔させてやる!」
女性の声が聞こえた瞬間だった……
それまで亀の動きの様にゆっくりだったザハールの動きが、突然早くなった。
急に重りが外されたかの様に……ザハールの握るバスタード・ソードがイヴァンの喉元に吸い込まれていく。
断末魔すら聞こえなかった……イヴァンの喉をバスタード・ソードが貫通し、程なく……食堂の床に大量の血液が流れ始める。
何が起きたのか、ザハールが理解するまでに時間を要した。
(よくやった……新たなる我が主よ……さぁ、我をその手に……)
頭の中に響く言葉に導かれるように、イヴァンの喉に突き刺さったバスタード・ソードから手を離し、ザハールは床に転がっていたティルフィングに手を伸ばす。
イヴァンの血を脈打つ様に吸い上げながら赤黒く不気味に光るティルフィングは、神剣と呼ぶにはあまりにも禍々しかった。
しかし、そんな不気味さも、頭に響く言葉が以前聞いた事がある事も、ザハールは気にならない。
もはや、ティルフィングに囚われてしまっていた。
ザハールの手がティルフィングに近付くと、その禍々しき剣は自ら飛び上がる。
そして、ザハールの右手に収まった。
ティルフィングから伸びていたピアノ線の様に細い触手が、ザハールの腕から離れ収納される。
(我が欲するは、人の血だ……化け物の血ではない……期待しているぞ……新たなる主よ……)
軽く頷いたザハールの瞳は、普段と何も変わらない。
(そやつのやり方では生温い……まるで血が吸えん……人の血だ……人の血を与えてくれれば、我は無敵の力を貴様に授けてやる……)
頭の中に響く言葉に軽く口角を上げて笑うと、ザハールはイヴァンの心臓にティルフィングを突き刺していた……
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