雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

文字の大きさ
59 / 65
騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校35

しおりを挟む
 
「で、オルフェ将軍! ヨトゥンの連中が、何で攻めて来たか……しっかり説明をしてもらうぜ!」

「ちよっと航太! 将軍じゃなくて、元帥! しかも、見習いにもなってない人が元帥にそんな口を利いちゃダメだって!」

 オルフェに突っ込もうとする航太を、ゼークが慌てて後ろから襟首を掴み急停止させる。

「どわっ! おいゼーク! 頚椎捻挫になったら、どーすんだ? 責任とってもらうぞ!」

「頚椎捻挫って……むち打ちって言いなよ。それでも、コッチの世界の人達に伝わるかも分からないんだから……」

 呆れた顔で航太の前に歩み出た智美は、オルフェと向き合った。

「とは言え……私も航ちゃんと同じで、説明は聞きたいです。ヨトゥンの……それも、かなりの部隊が動いていたのに、お城に近付かれるまで気付かなかったんですか? これだけの国の防衛としては、あまりにも杜撰というか……」

 智美の指摘に、少しバツの悪い表情を見せたオルフェは、視線を外しながら口を開く。

「まぁ……その通りだな。今は、予想外の事態が起きたとしか言いようが無いんだが……しかし、その件も含めて防衛計画の修正をしなくてはいけない事は確かだ。そして実際のところは一真達の介入で助かったが、国民には更なる恐怖を植付けてしまった事も事実だ……色々と厄介な状況にしてくれたよ」

 オルフェは眉間に皺を寄せて、疲れを浮かび上がらせる。

「元帥……そんな顔をしていたら、ドンドン老けちゃいますよ。朗報なのは、城内に入り込んだヨトゥン兵を全滅できた事かしら? 今回の作戦が成功したかどうか、クロウ・クルワッハに伝わってないでしょうから……」

「城外のヨトゥン兵も全滅だ……一真の一撃でな。ヨトゥンの幹部も連れ去って行ったから、ヨトゥン側からしたら大惨敗な筈だ。そして……聖凰騎士が強ぇって事は、改めて思い知らされた……ベルヘイムの国民に恐怖を植付ける程にな。キャメロット国ってのは、別にベルヘイムの友好国って訳じゃねーんだろ?」

 ゼークと航太の言葉に、オルフェは意識的に皺を伸ばして穏やかな表情を作りながら軽く頷く。

「ゼークの言う通り、最悪の事態だけは免れた。しかし、近衛軍……もしくは軍の上層部にいる何者かが裏切っている可能性がある。でなければベルヘイム城下とは言え、容易く侵入出来る筈が無い。だが当面の問題は、キャメロット国の脅威だ。策を弄さず城下に入り込み、ヨトゥンの将メイヴを捕らえ、更に……黒き龍の二つ名を持つニーズヘッグをも退けた。それも部隊を派遣せず、騎士数名でやってのけたんだ。それだけの騎士達が束ねる兵達は、一つ目の巨人からヨトゥン……傭兵や奴隷、魔術師も含めた混合部隊と聞く。あまりに不気味で、そして強すぎる……」

 言葉の最後には、再び眉間に皺を寄せるオルフェ……

「だからぁ……本当に年寄り臭くなっちゃうってば! 聖凰の動きは気になるけど、フレイヤさんとか絵美とかもいるんだから、何かあれば交渉出来るんじゃない? それより、民衆の動きをコントロールしないと……大きな波になったら、止められなくなるわ……」

「けど……カズちゃんも含めて、聖凰の人達はベルヘイムを守る為に戦っているようにも見えたわ。それでも、反聖凰になっちゃうんだね……」

 ゼークの言う事も、智美が言ってる事も分かる……

「だから、これが戦争をしているって事なんだろうな……聖凰は聖凰の事情で戦争に介入し、結果としてベルヘイムを助ける形になった。ベルヘイムが正式に支援を要請し、それを受けた訳じゃないんだ……傍から見りゃ、ヨトゥンの将を簡単に倒した敵国の騎士って事になる。そう考えると、やっぱり脅威さ。心を失った悪魔……そう言われてんだからな」

 歯軋りする航太に、悲しそうに瞳を伏せる智美……

 救いたいと思っている義弟が、お世話になっている国の人々にそう思われている事が悔しく悲しかった。

 命を削り……心を削ってまで守った国の人々から、恐怖の対象として見られている事にも納得が出来なかった。

 それでも、だからこそ救いたいと思う。

「こんな事……言える力が無い事は分かっちゃいるが、救ってやんねぇとな……事実を知っているオレ達が目を背けたら、一真が何の為にロキの野郎と戦ったか分からなくなっちまう! ベルヘイムの騎士を命懸けで守った意味が無くなっちまう!」

「そうかな? 一真がロキと戦ってくれたから、私もオルフェ元帥も……それにテューネも帰ってこれた。そして、私達は感謝している……だからフレイヤさん達とは別の方法で、一真を助ける。私達だって、一真の功績を全てのベルヘイム国民の前で伝えたい……分からせてあげたい。でも、心を失っている状態じゃダメ……必ず取り戻そう……一真の心を!」

 ゼークは首を横に振りながら、航太の手を取る。

 オルフェもゼークも忘れていない……ベルヘイム騎士に容赦なく降り注いだ雷の雨……その雷を一身に受け止めた鳳凰の翼を……

「航太……ベルヘイム12騎士の1人になって、一真を救いに行こう! 世論が聖凰を……キャメロット国を敵だと煽り始める前に、私達がキャメロット国とベルヘイムの掛橋になろう!」

「あ? ああ……けどよ、オレはまだ見習い騎士にもなってないんだぜ? 明日が最終試験だったってのに、こんなメチャクチャになっちまったら試験どころじゃねーだろ? だからゼークが12騎士になって、お供でオレを連れて行ってくれよ。キャメロット国によ……」

 浮かない顔で言う航太の言葉に、オルフェとゼークは顔を見合わせて……そして笑った。

「んだよ! 何笑ってんだ! 結構、深刻な問題だろーが!」

「いや……航太は結構頭が切れるから、騙されているフリをしているだけだと思っていたんだがな……まさか、本当に最終試験を受けるつもりだったか?」

 頭にハテナマークを大量に放出する航太を見て、ゼークが頭を抱える。

「航太……元帥って、軍の最上位の階級なのよ。って事はさぁ……」

「おい……オレの予想が正しければ、今すぐブチ切れるんだが……覚悟は出来てんだろーな!」

 オルフェは、ひとしきり笑った後に真剣な顔つきになった。

「航太……ベルヘイム騎士になる上で、ベルヘイムという国を見てほしかったんだ。騎士養成学校での生活の中で、感じた事も沢山あっただろう。騎士養成学校で学んでいる者の中にも、真剣に取り組んでない者もいる。奴隷制度と上下関係、差別や理不尽な出来事を抱えながら生きている者もいる。そして、そんな人々を救えない国が……騎士団がいる。その事を知った上で、それでも航太と智美にはベルヘイム騎士になってもらいたい。勿論、航太と同じカリキュラムを受けていた3人も同様にな」

「まぁ……オルフェしょ……元帥の考えは分かっていたけどよー……騙されたフリし続けんのも楽じゃあないぜー。ははは……」

 大量の冷や汗をかきながら、ゼークと智美の冷たい視線に耐える航太。

「そーいや、イングリス達はどこだ? 試験受けなくても合格って事、早いとこ教えてやらねーと! 智美、一緒に行動してたよな?」

「うん……ジルちゃんとイングリスは無事よ……でも、ザハール君が……」

 智美の言葉は、航太の頭を真っ白にさせるに充分だった……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...