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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校36
しおりを挟む「済まない航太……私達が付いていながら、ザハールを止められなかった……」
「いや、それはしゃーないんだが……それより、ザハールがイヴァンの野郎を殺したって事が信じらんねぇ……普通に戦って勝ったならまだしも、動けない相手に剣を突き立てるなんてよ……」
合流したイングリスとジルから詳しい話を聞いた航太は、ザハールの行動が信じられなかった……信じたくなかった。
イヴァンを……騎士団の隊長クラスを殺したのだから、ベルヘイムから出る事は理解出来る。
だが……無防備な相手に剣を突き刺し、その剣を奪って行く……ザハールの性格を考えても、信じられない。
「私も、ザハールくんの行動に目を疑ったわ……ザハールくんは、カズちゃんとヨトゥンの女性の大将との戦闘を目の当たりにして、絶望を感じたみたいなの。騎士になって、イヴァンを見返す前に死んでいる……神剣を持たない騎士は、そもそも昇進出来ないんじゃないかって……」
「一真やヨトゥンの将なんて、異次元の強さだぜ……そんなモンに絶望してたら、キリねぇってのに!」
そう……強い。
航太も智美も元の世界で修業して、多少は強くなった。
神剣も、多少は使える様になった。
それでも一真はおろか、ヨトゥンの将の足元にも及んでいない事は自覚している。
ザハールが絶望を感じるのも、分からなくはない。
そもそも、ヨトゥンの将が圧倒的に強い事なんて知っている筈……
「航太と智美はさ……神剣を持ってるんだもん……神剣に認められているんだもん……私達の絶望感なんて、本当の意味では分からないと思う。どんなに手を伸ばしても、必死に努力しても届かない場所……私達のような殆どの騎士は、神剣を使う騎士を活かす為……生かす為だけにいるんだよ。私も一度、その絶望を味わったから分かる。立ち直るまでに、凄く時間がかかったよ……」
「そりゃ……神剣を持ってりゃ、奴らに近付く事は出来るかもしれねぇが……でもそれは、神剣を持ってなくたって一緒なんじゃねーのかよ? 結局は、己の努力次第ってーかさ……ゼークだってヨトゥン兵相手に無双してるし、ニーズヘッグ相手に止めを刺す直前までいってたじゃねーか」
「航太、私の力はね……多くの魔導師の命……魔力を吸い上げて造られた魔導師の指輪と、ガヌロンが命懸けで託してくれた力……多くの人が犠牲になって、この国の為に……人類の為に残してくれた力なの。それだけの人の犠牲で与えられた力だって、神剣には及ばない。神剣に認められて、更に血の滲む様な努力をした人だけがヨトゥンの将と互角に戦える。フェルグスみたいに……」
下を向き、不甲斐無さと情けなさを含んだゼークの言葉に、沈黙の時間が流れる。
その沈黙を破ったのは、静かな声で話を始めたジルだった。
「ゼーク様……神剣を持たなければ、ヨトゥンの強者や聖凰の王と戦える強さは身につかないかもしれません。でも、神剣は哀しみを背負っているモノが多いのです。神剣を持つ者は、その哀しみの連鎖に囚われます。そして、その宿命と向き合いながら強くなるしかないんです。そうでなければ、イヴァン様のように神剣に見放される……神剣なんて、持たなくて良いなら持ちたくなんかない……」
ジルはそう言うと、アンジェル家に伝わる宝剣を手に持つ。
「神剣だったのか……確かに、血を吸ったティルフィングの一撃を防いでいたからな……逆に、神剣じゃねーと説明つかねーか」
ジルは頷くと、宝剣を鞘から抜いた。
ティルフィングとは逆に、純白の刀身に赤いルーン文字が輝いている。
「この剣は、アンジェル家の栄華と恨みと呪いと……全てを知って、ここに存在しています。神剣によって作られた繁栄は、神剣によって悲劇へと塗り替えられる。それでも……私達は、神剣に縋らなければならない。強い力は、その代償を伴う……イヴァン様とザハールのように……」
ゼークは頷く……ジルの言っている事は、分かっている事なのだ。
それでも……求めてしまう自分がいる。
強い相手と戦った時……強い力に助けられた時……もし自分に力があったならと、思わずにいられない。
「十二騎士の選抜試験は2人一組……ゼーク、やってやろうぜ! ニーズヘッグとの戦いで分かった……人の力が、神剣だけじゃねぇって……神剣を持ってなきゃ、神剣を持ってる奴の力を利用すりゃいい! 見せ付けてやろうぜ、オレ達の戦い方ってヤツをよ!」
「えーっと……私、航太と組むんだっけ? 結構、色んな殿方からお誘い受けてるのよねぇ……どうしよっかな?」
ゼークの目の前に突き出したグーの拳を維持したまま、航太の身体が固まる。
「じゃあ、ジルちゃんは私と組んでみる? 小難しい事、あまり考えないで参加してみない? 私の勝手なお願いなんだけど、ジルちゃんとイングリスとは一緒に歩んで行きたいんだよね。出来たら、一緒にカズちゃんを助けに行ってもらいたい。私にとっては、信頼出来る仲間だから……」
「智美さん……私も参加はしようと思っていたので、智美さんとパートナーになれるなら、嬉しいです。でも……」
ジルは、イングリスの方を見た。
「なんだよ? 私は参加しないぜ! この数ヶ月で、色々と考えさせられたからな……ちょっと考える時間も欲しいんだ。ベルヘイムの事、聖凰の事、奴隷の事、それにザハールの事……けど、力になれる事があれば言ってくれ! なんでもしてやるからよ!」
「ありがとう、イングリス。智美さん、足手まといになるとは思いますが、よろしくお願いいたします」
ペコッとお辞儀するジルに、智美は笑顔で抱きつき……その輪にイングリスを無理矢理取り込む。
「なーに羨ましそうに見てるのよ! やるからには、私達は優勝を目指すわよ。絶対に十二騎士になってやるんだから!」
キャッキャする3人を見ながら固まっていた航太のグーに、ゼークは小さく握った自らの拳をコツンと合わせる。
そして始まる十二騎士選抜試験……その裏で暗躍する陰謀……
そして……アンジェル家の宝剣ティルヴィング……ティルフィングの姉妹剣である事にジルが気付くのは、もう少し後の事であった……
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