星に願えば

木野恵

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18.魔法のカード

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 朝目が覚めると、影の精はせっせと何かを用意していた。

 雷の精は私の近くでグゴオといびきをかきながらまだ眠っている。昨日あれだけ長距離を飛んでくれたのだから無理もないだろう。

「おはよう。影ちゃん」

 起きて声を掛けてみると、影の精はニコッと笑って片手をひらひらさせて答えてくれた。

 眠い目をこすりながら影の精の方へ近寄ると、影の精は空のカードに力を吸い取らせ、大量の黒いカードを作っているところだった。

「えっ」

 思わず声を出して驚くと、影の精は首を傾げながらこちらを見上げた。

 固まってしまった私を見ているうちに、影の精はいけないことをしたのかな?とでも言わんばかりに眉を八の字にしだしたので、慌てて説明した。

「影ちゃんごめんね。何も言わずにカードの束を渡して悪かった。もしものとき、やむを得ないことがあってしんどくなったときのために持っておいてほしかったんであって、カードを作ってほしかったんじゃないんだ。ほんとごめん。渡すとき何も言わなかったらそりゃそうなるか……」

 言葉足らずだなって自覚する瞬間もあるけれど、今回のこれはどういうつもりで渡したのか一つも言わなかったせいだ。

「辛い思いを何度もしてほしいわけじゃない」とは言ったけれど、それじゃ不十分すぎる。我ながらなんて言葉が足りないのか。

 影の精は口をパクパクさせ、あたふたしながら手に持っているカードを上下にブンブン振り、丁寧に積み上げてある吸収済みのカードを見て、私を見ての繰り返しだった。

 完全に私のミスだ。

 影の精に手を合わせながら「すまん」と謝ると、影の精も物凄く申し訳なさそうにしながらペコペコしていた。

「でも、せっかくだから使わせてもらうね。渡すときにちゃんといっておけばよかった。でも、全部使用済みになったわけじゃないから大丈夫さ。今度から何かあれば私もカード使って援護できるよ。影ちゃんありがとうね。大事に使うね」

 影の精は両手の人差し指の先をツンツンしあいながら落ち込んでいたけれど、口では自責しないようにしつつ、影の精にお礼を言い続けた。

 そのうち影の精は少しずつ元気になって、最終的には照れた顔を見せてくれた。

 良かった!にしても、言葉が足りなさすぎるなんてもんじゃないぞ……。

 自分の悪いところだと自覚してはいるけれど、厄介なことになかなか直せないんだよあ……。気をつけてるつもりではいるんだけど。

 ちゃんとどういうつもりで渡したのか話していれば、影の精にこんなにたくさんのカードを作らせたりせずにすんで、お互い謝らずにすんだのにな。

 自責しながら、ふと雷の精の方を見てみた。

 影の精と同じことをしてないか心配だったけれど、カードが積みあがってないどころか、雷の精は腰に湿布代わりのようにしてカードを張り付けていて思わず声を出して大笑いしてしまった。

 雷の精の腰痛は蓄電由来で、カードは湿布のような役割を果たしているのかもしれないな。

 雷の精がいびきをかきながら寝返りをうち、腰に貼られていたカードがハラリと落ちるのをみた瞬間、爆発的な笑いがこみあげてとまらなかった。

「ぷっ。あははははは」

 こらえきれず盛大に笑うと、影の精がつられて一緒に口を開けて笑顔で震え始めて、余計おかしくなってきた。

 やばい。壺に入った!

 あんまり大声で笑いすぎたせいで、雷の精が唸りながら目を覚ましてしまった。

 本当にすまん!止められなかった!

「なにがあったってんだ?」

 雷の精の問いかけに答えたくても、笑いがこみあげておさまらない!

 そのままケラケラ笑い続けていると、雷の精もつられてガハハと笑いだして笑いの大合唱がしばらく続いた。



 しばらくして、ようやく全員の笑いが収まったころ、雷の精にどういう意図でカードを渡したのか話すことができた。

「お前さん。昔から周りに無関心なようでいて、ある一点においては心配しすぎで過保護だよな」

「そうかな?」

 ある一点ってどの一点だろう?

 首を傾げていると、雷の精はいつものような笑い声をあげてカードをしまいこんだ。

「腰が痛くなったらまたパリッとはれってこったな!」

 さっきまでの大笑いがぶり返しそうになるのを必死に抑えながら、首をブンブン縦に振って頷いた。

「それにしたって、あんさん準備が良いようで悪いよな。昔っから!惜しいというかなんというかねー」

 くっそーぐうの音もでねえ!けど、何か言わずにはいられない。

「うるさいなあ……これでも結構悔しがって気にしてるんだぞ内心では」

 唇を尖らせ、へそを曲げながら言うと、雷の精はおじさんみたいなカラッとした笑い方をしながら謝ってくれた。

「そうかあ。すまんすまん」

 そのお陰であんまり嫌な気分は尾を引かなかったし、こっちも気分が軽くなってきた。

「もしイケメンに生まれてたら『残念な』がつくだろうし、もし天才に生まれてても『残念な』がつくだろうって諦めてるよ。私はそういうもんだって。気にするのはやめられそうにないし、やめるつもりもないけど、完璧は諦めたんだ」

「なんじゃそら。わからんでもないが!」

 会話にはいれない影の精も含めて、また一緒にひとしきり笑った。

 ああ、楽しいな。例え伝わってなくても一緒に笑うのって最高だ。

「そういえば、影ちゃんと雷のおっちゃんってどんな力をカードに封じ込めたの?」

 自分の魔法以外がこもったカードを使うのは初めてで、少しウキウキしながら二体の精霊に尋ねてみたけれど、雷の精は鼻をほじりながら一言「ん?知らん」だけだった。

 影の精はというと、首を傾げてしまっている。

 あれ?私の時は使いたい魔法を星や月、太陽に祈って願って選んで貯めてたんだけど?精霊はまた勝手が違うってことか。

 私が魔法を貯めたら、願った対象……月なら月、太陽なら太陽、星なら星の模様がカードに浮かび上がってたんだけどな。

 本人たちがわからないなら、自力で研究して知っていくしかない。なんだか胸が高鳴ってくる!

 まずはカードの模様を観察してみた。

 影の精が作ってくれたカードは真っ黒に染まり、さらにそのまた暗くて黒い色でブラックホールのような模様が浮かび上がっていた。

 黒は黒でも薄い黒、濃い黒が文字通り多彩に表現されているカードだ。

 具体的にいうと、黒色を濃淡、明暗ではなく、透明度で黒の違いが表現されているように見える。

 効果はどんな効果だろうか?

 気になって試す段階ですでにくじ引きのようなワクワクした気持ちになってくる。

 このカードには癖があって、効果を試すのにも使うのにも、ちょっとだけ苦労しないといけない。

 苦労といっても、さほどしんどいものではなく、どちらかというとちょっとした罰ゲームやくじ引きのようなもの。

 誰が拾っても魔法が使えるようじゃ危ないから、このカードを作った人がセキュリティの一環で条件を達成しないと発動しないように設計してくれたのだ。

 条件はカードごとにランダム。どんな魔法が込められてようがランダムだ。気まぐれな猫のように決まりはない。

 さて、影ちゃんが作ってくれたこのカードはどんな効果で、どんな条件が設定されているのやら……。

 空を見上げて何かに願う時と同じ気持ちでカードを軽くこすると文字が浮かんで見えた。これがこのカードを使う条件だ。

 なになに、何が書かれてるのかな?

 少しワクワクしながら見て笑いだしそうになった。

 カードに書かれていたのは「異なる決めポーズを三個決めろ」で、心に余裕を持ちながらポーズを決めた。

 これは私がいじめを受けて辛い中で読んだ漫画の有名なポーズ。楽しめる条件で良かった!

 それを三つ決めると、影の精が込めた魔法を発動できた。

 影の精が力を込めたカードは変身能力だった。

 私の周りに黒い影が集まり、あっという間に体が真っ黒に変わった。

 また空っぽになって消えつつあるカードを見ると「イメージで変身」と簡潔に説明文が書かれている。

 私は何に変身したい?

 自問自答して真っ先に浮かんだのがドラゴンだった。格好いいドラゴンになりたい!

 イメージしたとたん、みるみるうちに視点が高くなっていく。

 真っ黒で大きな足元で、影の精と雷の精が目を丸くしながら私を見上げているのが見える。

 本当にドラゴンになったのかな?鏡があれば見たいけど、こんなでかい姿うつせる鏡なんてないしな。

 影の精と雷の精に「どう?格好いいドラゴンになれてる?」と聞いてみたけれど、声の大きさもなにもかもそのままだったから、地上まで声が届いていないようでどちらからも返事はなかった。

 こちらの声が届かないのと同様に、手を振りながら見上げている二体の精霊の声も聞こえなかった。

 目が悪くてよく見えないけれど、多分笑顔で手を振って何か言ってくれてるのかな?

 変身をといて元の私に戻ると、雷の精と影の精がはしゃぎながら話しかけてきた。

「おめえ楽しそうなことしてんじゃねえか!おいさんにもやらせてくんね?」

「自分で自分をおっさん言うな!」

 内心、この雷の精めちゃくちゃおっさんだなと思いはしてもずっと黙ってたのに、自分で言い出して……自覚あったのか。

 思わず大笑いしつつ、カードの使い方を教えると、雷の精はニコニコしながらカードを撫でた。

 しばらく沈黙したあと、条件に何が書いてあったのか知らないけど唐突に「ピピルピー!」なんて言い出したかと思えば、可愛らしい女の子に変身した。

 どんな条件だったんだろう……。

 フリフリの短いスカートにツインテール。魔法少女によくありそうな派手なシャツに……派手な装飾と上着とたくさんのリボン。

「うふっ似合う?」

 声が変わってねえ!声が合ってねえ!

 雷の精の声のままでそんなこと言われても可愛くねえ。黙ってた方がめっちゃ可愛い。

 私の時もそうだったけど、声はそのままで見た目だけが変わるようだ。

 雷の精扮する美少女が顔を赤らめながらスカートの端を持ち上げ始めたので嫌な予感がした。

「おい、おっさん」

 雷の精に冷ややかな視線を送ると「ちゃんとイメージ通り縞パンになってるか確認したかったんだよ!変身ってどこまでできてるのか気になるだろ!?」なんて無茶苦茶なことを言われて顔を覆った。

「確かにそこまで変身できてるか気になりはするけど、それならおっさんに化けてパンツ見りゃ良いじゃん」

 私の言葉に雷の精は猛反発してきた。

「おいおい、女子はダメでおっさんは良いってのは差別じゃねえのか?どうせ見るなら可愛くて目の保養になる方が良いだろう!」

 私はその主張の一部に嫌悪感しか抱けず、すかさず反論した。

「確かに、女子はダメでおっさんは良いってのは差別だと思う。おっさんにも下着を見られたら恥ずかしいって感性はあるだろう。その辺は私が間違ってたと思うが、そもそもの前提が違うって話だ。下着を見る前提がおかしい。確かに変身できてるか気になるけど……。下着までイメージ通りか確認するだけであれば、私が着たい服をイメージして変身したあと自分の下着を確認するって体なら問題ないのでは?」

 雷の精は可愛らしい女の子の姿で唇をぎゅっと噛み締めながら、反論できずに黙りこんでしまった。

「くそー……。見たかったな。可愛い子のパンツ……。わし好みの縞パン……」

「やっぱり、可愛い子のパンツ見たかっただけじゃねえか!このドスケベおやじが!」

 いつもは心の中だけでツッコミをいれているけれど、今回ばかりは口に出して突っ込まざるを得なかった。

 雷の精は可愛い女の子の姿から、いつもの精霊の姿にもどって豪快にガハハと笑った。

 今のやり取りをしている間、影の精は両手で目元を覆って、うっかり覗かないようにずっと背中を向けていたことに今更気付いた。

 影の精が可愛くてたまらないと思うと同時に、雷の精はともかく、影ちゃんのことは心から信頼できそうな気がした。

 なにはともあれ、パンツを見たかっただけの雷の精に巻き添えを食わされずに済んで良かった。

 ふうっとため息をついて落ち着いていると、雷の精がニヤニヤしながらからかってきた。

「おやおや?お前さんたち、もしかして相当うぶなのか?おいさんが夜のあれこれ、大人の楽しみを教えてやろうか?」

 や、やかましいわ!

 勢い良く否定しまくって罵詈雑言吐きそうになったけれど、私はもう大人だから我慢だ我慢……。……大人なのかな……?

 大人ぶってるだけで夜のあれこれと言われても知らないし、わからない。どうせろくでもないことだと決めつけて拒否したけれど、知らないことは知りたくてたまらなかった。

 そんなことより影の精が心配になって目をやると、ちょっと顔が赤くなってる上にモジモジしていてめちゃくちゃ可愛かった。

 雷の精が私たちをからかってきた理由がわかる気がして、雷の精に噛みつきそうな気持ちがおさまってくる。

 確かにこれはからかいたくなる……。

 でも、私は大人ですから、からかったりしないんですよ。夜のことは知らないけど大人だもん。

 なんてことを自分に言い聞かせ、雷の精の力を吸いとったカードを手にした。

 中央から外側へ向けて稲妻のような線が五本ほど伸びている。薄い水色を帯びた白色のカードだった。

 願いを込めてカードをこすり、見えてきた発動条件は……中二病……。は?中二病?

 困惑しながら何度も見たけれど、どこからどう見ても中二病だ。

 横や上から見ても文字が変わるなんてことはない。

 雷の精と影の精がニコニコしながらこちらを見ている。

 さっきみたいに、二体ともこっち見てなくて各々のことをしている間ならまだしも、今注目を浴びてる中で中二病やんないといけないの?えっ?本気で言ってる?

 なんて意地悪なカードなんだ!いや、カードが意地悪なんじゃなくて私の運が悪すぎるんだ。きっと。

 思わずカードをへし折りそうになりつつ、自分の気持ちを抑え込む。物に当たるのはよくない。

 それに、雷の精の力を吸収したのは今この一枚しかない。

 ちくしょう……どんな効果か気になるし、いざという時のために知っておきたくてうずうずもするんだよ。ちくしょう……。おのれおのれおのれ!

 二体からの視線を浴びながら腹をくくり、左目に左手を添え、右手はそれっぽく振りかぶった。

 セリフなんか知らねえ!適当だ!やけくそだ!勢いだ!呪文っぽいもん唱えて名乗りゃ簡単に中二病よ!

「我が名は夢幻の盗賊ファントム・シーフ!夢夜を渡り、草花を惑わし、星の心を掴みし者!」

 星の心掴んでるとか壮大すぎること言っちゃった!中二病を演じるって言ってもちょっと大それたこと言いすぎたあああ!

 後悔と羞恥にまみれていると、体からバチっというものすごい音がした。

 その一方で、影の精は顔を赤らめながら見守ってくれていて、雷の精はゲラゲラ大笑いしている。正直なところ、このおっさんをひっぱたいて黙らせてやりたいが……。

「なんじゃこりゃ!?」

 カードをみてみると、帯電と書いてあった。

 ということは、この間うかつに何かに触れなくなるってことか……。不便なだけでは?

「ちょいといいかい?カードって自分にしか使えないのか?」

 雷の精霊からの質問に首を傾げていると「投げたり貼り付けて設置したりとかはできんのかい?わしの力が自分をビリビリさせるだけってのはちょいとおかしい気がしてな」なんて言うのだ。

「そういえば、今までそういう使い方しようと思ったことなかったな」

 雷の精のおかげで気づけた使い方だった。

 いつもカードに魔法を貯めるときは、使い道を決めて星月日に願いを込めたり祈ったりするだけだった。

 あとはカードをこすって条件を満たせば願った通りの魔法が使える。

 精霊たちの力が込められたカードは、カードの使い方で効果が変わるって可能性が確かにあるぞ。

 試しに影のカードを取り出し、こするんじゃなくて投げるときの構え方をしてみた。

 カードなんて投げたことがなければ投げ方も知らない。見様見真似というやつだ。

 するとどうだろう、こすったときのように条件がうっすら浮き上がって見えてくるではないか!

「雷のおっちゃんの言うとおりだ。投げたり設置したりもできるみたいだよ。こすったら自分にカードを使うみたいだね」

 今まで気づかなかったカードの機能に興奮してくる。

 自分の魔法を貯めてもしもに備えてきただけじゃ気づけなかった様々な使い道だ。

 精霊がエネルギーを貯めすぎてダウンするのを見て、どうか苦しみが減るように願いながら使おうと思わなければ知ることがなかった使い道。

 精霊の治療に使えて、精霊の力を使えて、カードにはこする以外に投げたり設置もできて……。なんて可能性に満ちたカードなんだろう。

 夢もロマンも溢れて心が躍ってくる。

 いろんなことを試したくなった。他の精霊の力もカードに入れて試しに使ってみたい。もちろん、本人たちの了承を得てからね。

 今は影のカードを投げた時の効果を確認してみたくてうずうずする。

 条件に目をやると、また中二病だった。

 なんでまた中二病……。私が魔法をカードに貯めたときこんな条件、一度も見たことがなかったし、同じ条件が連続してでてきたこともなかったぞ?!

 運の悪さが天井を突き抜けたような気がしてしまう。

 でも、さすがに二度目ともなればいささか羞恥心は抑えられていた。

「星々の煌めきが届かずとも、我の光は消えぬッ!」

 適当に我とか古典にでそうな言葉織り交ぜてそれっぽく言ってみただけだったけれど、判定が甘いのか大目に見てもらえたのか、カードから真っ黒なオーラが溢れだした。

 やけくそで叫びながらカードを投げると、情けないことにカードはふにゃっと弧を描いて地面に突き刺さった。

 うわあ、我ながら下手くそすぎ!初めて投げるんだから仕方ないんだけどさ!

 雷の精はゲラゲラ大笑いだ。

 影の精をちらっとみると、顔を両手で覆いながら赤く染めている。

 見ている方も恥ずかしくなるような見事な投げっぷりを披露してやったぜ!

 恥ずかしすぎてもはや開き直るしかなかった。

 それにしたって恥ずかしさだけでなく悔しさが溢れて止まらない。あとでこっそりカードと似たようなものを使って練習しよ。

 恥ずかしい気持ちから逃れるようにカードを見ると、カードが刺さった地面に真っ黒な影が渦を巻き、周りにどんどん伸びていっている。

 伸びているといっても、距離には限りがあるようで、込められた影の量だけしか伸びないようだった。

 そうして影に触れられたものはカードのほうへとどんどん引っ張りこまれていき、カードが消えると、引っ張りこまれたものの山だけがそこに残っていた。

「これ一枚あれば良い掃除機になりそうだな」

 思わずぽろっと零した言葉に、雷の精は大笑いしながらつっこみをいれてくれた。

「掃除どころか家具も全部ゴミ箱いきになるじゃねえか!」

「確かに!」

 二人でケタケタ笑っていると、影の精が落ち着かない様子で服の裾を引っ張った。

「どした?影ちゃん」

 影の精は地面に一生懸命文字を綴っている。

 私があげた卵のような石をまだ大事に持って使ってくれていて、少しだけ嬉しくなる。

 影の精がいうには「変身しかしたことがなかったから、こんな力があるなんて自分でも知らなかった」とのことだった。

 あー……。あるある!自覚はないし今まで使ったことはないけど、他人から教えてもらって初めて気がつく自分の能力!何かの漫画で読んだ気がするな。

 別に能力じゃなくったって、一生懸命やってたら他人に褒めてもらえて初めて気づけることもたくさんあるよね。

 喧嘩した時に相手に言われて気づけることだってある。

 恥ずかしがりながらしょんぼりしている影の精を見て、そっと頭を撫でた。

「私にだってあるよ。自分の気づかない側面ってやつだね」

 影の精は私を見上げ、少し元気そうな顔を見せてくれた。

 良かった。

 影の精の元気そうな顔を見て、一息ついたところで改めてカードの効果をおさらいした。

 雷のカードはこすれば帯電。他にカードはまだないから投擲と設置は保留。

 影のカードはこすれば変身、投げれば吸引、設置はどうなるかはこれから試す。

 カードを漫画とかでよく見るお札のようにして木に貼り付けてみると、発動条件が浮かんできた。

 中二病。また中二病だと!?ふざけんじゃねえ!何が中二病だ!こんちくしょう!

 バッと後ろを振り向いてみれば、精霊たちがウキウキワクワクといった様子でこちらを見ている……。

 今のところ、みられていないときは決めポーズ、注目を浴びていれば中二病……ということだろうか?

 偶然が重なっている可能性もあるし、まだまだ検証段階だ。たった数回で条件を断定はできないが仮説は立てられる。

 にしても、よりにもよってなんで中二病なんだ?

 もし次にカードを使う時が来たら、事前に二人から見られないよう対策をとっておきたいと強く思った。

 条件を調べる目的はもちろんだが、中二病回避のための対策でもあって一石二鳥ってやつ!

 もし見られていないときに中二病以外の条件が出れば、見られていたら中二病が確定で出てくる。

 もし見られていなくても中二病が出てきたらなんらかの不具合か嫌がらせか、運が底を尽きたか……。

 中二病という条件に対して頭にきながら思考を巡らせていたので、半ばやけくそになりながら中二病っぽいセリフを口にした。

 もうセリフのネタがないけどね!

 セリフを考えているうちに、中二病とはいったいなにか?どこからが中二病でどこからが狂人で痛い人なのか?中二病な時点で痛くて狂人なんじゃないか?なんて哲学的に考え始めそうになってくる。

「我はバトル陰陽師!魑魅魍魎を拳でねじ伏せし者!バトル陰陽師!!筋肉こそが至高なり!」

 カードを貼り付けた時お札っぽいと思ったから陰陽師を名乗ってみたけれど、それだけじゃ中二病っぽくない気がして、やけくそ気味につけ足してみた言葉の数々。

 頼む!どうか!条件達成しててくれ!

 星も月も太陽もない中で祈りながらだったけれど、どうやら条件を達成できたようだ。

 判定が優しいのかな?ありがたい……。

 カードは木に貼りついたままで、文字がうっすら浮かんで見えた。

 どうやら設置の場合は「通りがかった対象に影を伸ばして捕縛する」効果を発揮してくれるようだ。

 私が魔法を貯めたカードより、精霊たちの力の方が面白くて楽しい使い方ができるのが少しだけ羨ましいと思った。

 私ももしかしたら、具体的な願いのこもったカードを作るのではなく、水を求めた願いを込めたカードとか、シンプルな願いを込めれば多種多様な使い方ができたりするんだろうか?

 やってみたことないから試したくてうずうずしても、今は空に星々がないからなにもできないただの人間。下手したらその辺にいる人間より役に立たないしなにもできない。

 なんてこと考えていると気が落ち込みそうだったけれど、影の精と雷の精が楽しそうにしながら私の様子を見守ってくれて、カードの効能も一緒に見て、私一人じゃできない発想や意見、アイディアを出してくれるのがとても心強い上に楽しくてたまらなかった。

 みんなのおかげだね。



 カードの実験を一通り終えたあとも、精霊たちとの会話は楽しくてたまらなかった。

 カードに関する話で盛り上がり、家に帰ったら他の精霊のみんなに持たせて試してみたいことがたくさんあると躍起になっているのは雷の精だった。

 私よりもやる気満々、興味津々だな。

 また影のカードを使った時のような下心に火が点いているのかと思いきや、真面目な顔をしながらそれぞれのカードを組み合わせてみたいと言い出していて腰が抜けた。

 普段おっさんみたいな振る舞いをして陽気だけど、研究者気質っていうのかな?そういうところがあるんだろうか?

 人にだっていろんな一面があるように、精霊にもいろいろな一面があるんだなと思った瞬間だった。

 それに、私も今あるカードを組み合わせてみたい欲求に駆られてきた。

 今は影のカードしかないけれど、雷の精のカードと組み合わせたらどうなるんだろう?

 そもそもカード同士を組み合わせたことなんてなかったから、雷の精の発想には脱帽した。

 これも、一人じゃできない発想の一つだな。

 人間に愛されなかった代わりに、私には愛して大事にしてくれるロボットたちとAI、精霊たちがいて、星々の寵愛がある。

 たったひとりきりじゃ、きっととっくの昔に死んでただろうな……。

 ないものよりも、恵まれた物事に感謝をしながらその日もみんなで野宿をした。



 楽しい時間を過ごした後なのに、夜になるとまたあの夢を見た。タマの目線で味わう、胸が締め付けられるような悪夢だ。

 ロシアンルーレットで全部実弾入ってるピストルを頭に当てて引き金を引きまくって頭をぶち抜きまくってるような、そんな最悪な気分だ。

 たまに良い夢を見れた気がしたのに、何も覚えていなかったからあれは数に入れていない。そもそも夢を見なかったこと自体が幸せで良い夢ともいえる可能性だってある。

 だったら実弾じゃなかったってことで数に入れて良いな!ラッキー!



 今回の夢は、タマが中学生の頃の夏休みに、部活動で図書室にいるところのようだった。

 先輩たちがOBがくるって騒いでいるのを聞いて「OBって何?」とユキに聞いているところだ。

 ユキは「卒業した先輩のこと」だと簡潔に教えてあげている。

 タマは緊張しながらOBが誰か気にしていたけれど、女のOBが複数人と男のOBが一人。

 男のOBはタマを見るなりいきなり騒ぎ出し「お前なんかよりこいつのがよっぽど可哀想だ」とユキのことを示しながら先生に廊下へ連れていかれていた。

 タマは相手が誰かわかっていないようだったけれど、妙なことに私の方は誰かがわかってしまった。

 いや、妙でもなんでもないな……。だって、今回の夢で私の立てた仮説が正しいと立証されたようなものだから。

 うーんと唸りながら、頭を抱えられたら抱えてるだろうなって心境で今回の夢を見ていると、どうやらこのOBが部活で起きたいじめの大きなトリガーになったようだと、このあとの夢ではっきりした。

 OBがきたあと、なんだか周りの様子がおかしくて、タマはなんとなく嫌われて避けられているのを、うっすら敏感に空気から感じ取っていた。

 夏の舞台、タマの初出演が終わり、誰かの父親がタマの親にすごい勢いで話しかけていて、タマは知り合いだったの?なんて父親に聞いていると父親は「いや……」なんて言っていた。

 ああ、やっぱり見覚えがあるなんてもんじゃないぞ。

 苦い顔、しんどい気持ちにまみれながらタマの父親を見ていると、ユキが「やめて」ってすごい剣幕でタマの父親に話しかけていた誰かの父親に叫んでいた。

 ユキの父親だったのか……。

 少し驚きながら見ていると場面が急に変わった。

 夏の演劇が終わった後、タマが先輩に挨拶をしても無視されているところだった。

 冷たくされているのに、ユキはいつも通り話しかけてきて、先輩がいつもより冷たいといってもユキはなんでもないように振る舞っていた。

 タマは、一緒にいたらユキが嫌な目に遭うと思って好きな人の話を持ち出しながら距離を置こうとしていた。

 今まで見てきた夢のループより少し前か。

 ユキがタマに好きな人について話してから喧嘩するまでの間の話か。

 欠けていたもの、足りなかったパズルのピースがどんどんはまっていくような感覚に陥りながらも、嫌悪や不快な気持ちに飲まれるよりずっと楽しくて良い捉え方ができていると自負した。

 そうしてまた場面が変わった。

 今度はユキが父親が怒った話をタマにしているところで、次が自転車で追突寸前まで近寄ってきた話、その次がどういうわけかタマが売り飛ばされている瞬間のシーンだった。

 唐突な場面転換に、思わず心臓がぎゅっと掴まれる。

 何で急に売られたシーン?7歳の話だろ?

 心臓をバクバクさせていると、夢は落ち着くのも待たずに次の場面に移った。

 タマがユキの家にお金をもって行き、骨壺と携帯が置かれていて、ユキの母親が号泣しているのを見ているところだった。

 今回の夢は何を言いたい?私に何を伝えたい?

 考えていると、また場面が急に変わった。

 ユキがタマに「ウチと一緒だ」なんて言っている場面の次は、鏡という名前をつけている場面だった。

 お前も鏡って名付けられてるのか。

 次はユキが先生に注意された後「先生はああいってたけど、ウチは納得できない」なんてタマに自分の気持ちを言っているところだ。

 その次は「タマちゃんはすごいね。ウチは許せそうにないよ」なんてタマにいっていて、タマは「私のこと?」なんていっているけど否定されているところだ。

 そこでふと、ピンとくるものがあった。

 いろいろなことに気づいたけれど、あえて気づかぬふりをすべきところも中にはあって、頭を悩ませる夢だった。

 パズルのピースがどんどん埋まっていく。

 やはり、ユキとは良くも悪くも関わるべきじゃなかったんだよ。相手が死ぬって言ったからってさ……。

 相手にとってもタマにとっても、精神衛生上良くなかったんじゃないか?相手から近寄ってきてるのに無理があるといえばあるんだけどさ。

 ユキのためを想うなら、離れてやるのが一番だったんだよ。もう死んでしまったから離れるも何もないんだけどさ。死んだからね。

 切ないような、辛いような……気づいても教えちゃいけないことがある。そんな嫌な気持ちになる夢と発見だった。
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第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

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アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

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アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

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都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

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