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素直に気持ちを伝える
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「緑ちゃん、お疲れ様。美桜ちゃん、これからよろしく。乾杯!」
副社長が持っていたグラス片手に音頭をとる。
その日の夜、緑さんの送別会と私の歓迎会が行われた。
緑さんは有給休暇を消化して退職するので今日が最後の日。
ダークブラウンを基調とした木造のお洒落な居酒屋に来ていた。
店内はテーブル席や個室があり、今日は大部屋の個室を貸し切っている。
掘りごたつということもあり、妊婦の緑さんもゆったりと座れている。
私は隅っこでいいと言ったのに「美桜ちゃんも主役なんだからダメ」と却下され、ど真ん中の席に座らされているので居心地が悪い。
緑さんが隣にいてくれるから心強いけど。
引き継ぎの関係で緑さんと一緒にいる時間が長く、必然的に距離が近くなった。
何でも相談出来てすごく頼りにしていた。
そんな緑さんとお別れなんて寂し過ぎる。
私は緑さんの後任でこの事務所に来たので最初から分かっていたことだけど、寂しいんだから仕方ない。
黙っていたら涙腺が緩んでしまう。
私の歓迎会も兼ねているのに……。
いろんな人が話しかけてくれるので、どうにか笑顔で答える。
「美桜ちゃん、飲んでる?ほら、新しいやつ」
副社長がビールのジョッキを渡してくる。
前にお酒で失敗している私としては断りたいけど、緑さんが妊婦でお酒が飲めない。
私まで拒否するのは場の雰囲気をしらけさせるかなという思いがあり、それを受けとった。
気が付けば周りの人もお酒がすすみ、饒舌になっていた。
「夏木さん、彼氏いるよね?」
ウェブデザイナーの近藤さんがビール片手に話しかけてきた。
近藤さんとは挨拶程度ぐらいであまり話したことはない。
いつも清潔感のある白のブラウスを着ていて黒縁眼鏡、無駄口は一切話さないような印象で、真面目という言葉が一番似合う女性だった。
だけど、お酒が入ると恋愛関係の話を興味津々に聞いてくる。
返答に困っていたら、緑さんが口を開く。
「はいはい、近藤さんストップね。誰よ、こんなにお酒を飲ませたの」
「勝手に飲んだんだよ。やっぱり酒が入ると普段とのギャップがすごいな。あの無口な近藤さんはいずこ?って感じだし」
「ちょっとそこ!感心してないで、次からはウーロン茶を頼んであげてね」
酔っぱらった近藤さんの様子にケラケラ笑っているのは、確か営業の光藤さん。
緑さんと同期だった気がする。
「もう、私がいなくなったら誰が近藤さんのストッパーになるのよ。ミッツ、頼んだわよ」
「えー、俺は嫌だよ。めんどくさいもん」
「緑さん、大丈夫ですよ。私が頑張るので」
「さすが、松ちゃん!頼もしい。ミッツとは大違いね」
「俺だってやる時はやりますけどね」
「どうだか」
ワイワイと話が盛り上がっている。
私はお手洗いに行きたくて立ち上がる。
少し足元が覚束ないけど、どうにかレストルームにたどり着いた。
用を足してレストルームを出るとテツとバッタリ出くわし、私の顔を見るなり眉間にシワを寄せた。
「緑ちゃん、お疲れ様。美桜ちゃん、これからよろしく。乾杯!」
副社長が持っていたグラス片手に音頭をとる。
その日の夜、緑さんの送別会と私の歓迎会が行われた。
緑さんは有給休暇を消化して退職するので今日が最後の日。
ダークブラウンを基調とした木造のお洒落な居酒屋に来ていた。
店内はテーブル席や個室があり、今日は大部屋の個室を貸し切っている。
掘りごたつということもあり、妊婦の緑さんもゆったりと座れている。
私は隅っこでいいと言ったのに「美桜ちゃんも主役なんだからダメ」と却下され、ど真ん中の席に座らされているので居心地が悪い。
緑さんが隣にいてくれるから心強いけど。
引き継ぎの関係で緑さんと一緒にいる時間が長く、必然的に距離が近くなった。
何でも相談出来てすごく頼りにしていた。
そんな緑さんとお別れなんて寂し過ぎる。
私は緑さんの後任でこの事務所に来たので最初から分かっていたことだけど、寂しいんだから仕方ない。
黙っていたら涙腺が緩んでしまう。
私の歓迎会も兼ねているのに……。
いろんな人が話しかけてくれるので、どうにか笑顔で答える。
「美桜ちゃん、飲んでる?ほら、新しいやつ」
副社長がビールのジョッキを渡してくる。
前にお酒で失敗している私としては断りたいけど、緑さんが妊婦でお酒が飲めない。
私まで拒否するのは場の雰囲気をしらけさせるかなという思いがあり、それを受けとった。
気が付けば周りの人もお酒がすすみ、饒舌になっていた。
「夏木さん、彼氏いるよね?」
ウェブデザイナーの近藤さんがビール片手に話しかけてきた。
近藤さんとは挨拶程度ぐらいであまり話したことはない。
いつも清潔感のある白のブラウスを着ていて黒縁眼鏡、無駄口は一切話さないような印象で、真面目という言葉が一番似合う女性だった。
だけど、お酒が入ると恋愛関係の話を興味津々に聞いてくる。
返答に困っていたら、緑さんが口を開く。
「はいはい、近藤さんストップね。誰よ、こんなにお酒を飲ませたの」
「勝手に飲んだんだよ。やっぱり酒が入ると普段とのギャップがすごいな。あの無口な近藤さんはいずこ?って感じだし」
「ちょっとそこ!感心してないで、次からはウーロン茶を頼んであげてね」
酔っぱらった近藤さんの様子にケラケラ笑っているのは、確か営業の光藤さん。
緑さんと同期だった気がする。
「もう、私がいなくなったら誰が近藤さんのストッパーになるのよ。ミッツ、頼んだわよ」
「えー、俺は嫌だよ。めんどくさいもん」
「緑さん、大丈夫ですよ。私が頑張るので」
「さすが、松ちゃん!頼もしい。ミッツとは大違いね」
「俺だってやる時はやりますけどね」
「どうだか」
ワイワイと話が盛り上がっている。
私はお手洗いに行きたくて立ち上がる。
少し足元が覚束ないけど、どうにかレストルームにたどり着いた。
用を足してレストルームを出るとテツとバッタリ出くわし、私の顔を見るなり眉間にシワを寄せた。
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