嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ

文字の大きさ
11 / 33
封印した恋心

11

しおりを挟む
食事を終えた新庄くんがおもむろに口を開いた。

「昨日のことだけど、どこまで覚えてる?」

「えっと、会社の飲み会が終わって、新庄くんに車で送ってもらって……その後はよく覚えてない」

尻すぼみに小さくなる声。
いくら考えても思い出すことが出来なかった。

「だろうな。車の中でぐっすり眠ってたから。昨日、桜井のアパートに着いた時に揺すっても全く起きないから仕方なく俺のマンションに運んだんだ」

「ホントにごめんね。いろいろ迷惑をかけて」

あのまま睡魔に負けて寝てしまったなんて最悪だ。

「ホント迷惑。車から部屋まで運んだ時、すっげぇ重たかったし」

「重っ……」

確かにそんな軽い方じゃないと思うけど、ハッキリ言わなくてもいいのに。
恥ずかしいやら申し訳ないやらで顔を上げられない。
しかも迷惑と言われ、本気で落ち込んで時間が巻き戻せるなら戻したい。

「迷惑かけてホントにごめんね」

「冗談だよ。そこまで落ちこまなくてもいいだろ」

絞り出した声で謝罪すれば、新庄くんはケラケラと笑う。
こんな状況で笑えない冗談は言わないでほしい。

「落ち込むよ。体重とか気にしてるんだから女子にその話題は厳禁だよ」

ムッとしながら抗議する。

「別に桜井は重たくなかったよ。寧ろ、軽かったし」

「今さらそんなフォローはいらないよ」

「でた、その膨れっ面!いつもの桜井に戻ったな。さっきのしおらしい桜井だとマジで調子が狂う」

思わず頬が膨れた私の顔を見て意地悪に笑う。

反射的に言い返そうとして気付く。
私と新庄くん、いつも通りに話せてる。

昨日、車内で気まずい雰囲気になったまま私は朝を迎えた訳で。
でも、こうしてお互いに悪態をつけるぐらいになっている。

この調子で喋れば大丈夫な気がする。
私は朝起きてからずっと気になっていたことを口にした。

「ねぇ、私を泊めて大丈夫なの?」

「は?どういう意味?」

新庄くんは首を傾げる。
こういう時は察して欲しいんだけど。

「私を泊めたことを彼女に知られたら困るんじゃないかなと思って」

「あー。なんだ、そんなことか。気にすんなって。第一、ここは俺の部屋なんだし、俺の好きなようにするよ」

「それはそうだけど……」

やっぱり気になるよ。
もし、このことが彼女に知られたら私はどうしたらいいんだろう。
なにもなかったとはいえ、彼氏の部屋に他の女が泊まったりしたら絶対に嫌だと思う。

それに新庄くんたちは結婚を考えているみたいなのに、話がこじれてしまったら罪悪感で一生顔向け出来ない。

「俺も聞きたいことがある」

真面目な表情になり、私に鋭い視線を投げかけてくる。
新庄くんのこんな顔は初めて見るので、なにを言われるのか身構えた。

「男を紹介してもらうんだって?」

まさかの内容で目を見開く。

「えっ、どうしてそれを」

「太田さんたちと話してたのが聞こえたから」

その言葉にハッとする。
確かに紹介してもらう話はあったけど、それはなくなった。
そのことは聞こえてなかったのかな。

だったら正直に『その話はなくなった』と言えば済む話。
だけど、私はそれを言うことを戸惑っていた。

どうしてかは分からない。
幸せそうな新庄くんに対抗意識が芽生えたのか、紹介してもらう話がなくなったなんて言って同情されるのが嫌だったのか……複雑な感情が入りまじる。

私は一呼吸置き、わざと明るく言い放った。

「そうなの。三十歳の商社マンだって。どんな人なのか楽しみにしているんだ」

「……へぇ、そうか」

新庄くんの纏う空気が冷たくなり、機嫌が悪くなったような気がした。
だけど、それは私の気のせいだったみたい。

「上手くいくといいな」

そう言って新庄くんは笑みを浮かべていたから……。

私はその言葉に絶望を感じた。
新庄くんにとっては私のことを思ってのことだと思う。
分かっていたけど、胸が張り裂けるぐらい辛かった。

自分の気持ちを誤魔化し、嘘をついて私に残ったものは惨めの一言だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

好きな人

はるきりょう
恋愛
好きな人がいます。 「好き」だと言ったら、その人は、「俺も」と応えてくれました。  けれど、私の「好き」と彼の「好き」には、大きな差があるようで。  きっと、ほんの少しの差なんです。  私と彼は同じ人ではない。ただそれだけの差なんです。 けれど、私は彼が好きだから、その差がひどく大きく見えて、時々、無性に泣きたくなるんです。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあるものを一部修正しました。季節も今に合わせてあります。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

優しい彼

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。 ……うん、優しいのだ。 王子様のように優しげな風貌。 社内では王子様で通っている。 風貌だけじゃなく、性格も優しいから。 私にだって、いつも優しい。 男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。 私に怒ったことなんて一度もない。 でもその優しさは。 ……無関心の裏返しじゃないのかな。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

思わせぶりには騙されない。

ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」 恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。 そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。 加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。 自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

処理中です...