24 / 107
偽装恋愛、始めます
5
しおりを挟む
端から見て、広くもないシンクに二人並んで立っているという不思議な光景に戸惑う。
「あの、何をしてるんでしょうか?」
「河野さんが食器を洗ってるのを見てる」
しれっと言う。
別に普通に洗ってるだけで物珍しいことなんてないんだけど。
しかもすぐ側にいるもんだから、手を動かしていると立花さんの身体に何度も触れてしまう。
私はその度に「すみません」と謝罪すると立花さんは「いいよ」と笑う。
(なんなの、このやり取りは)
洗い物をするだけで、どうしてこんなにドキドキしないといけないんだろう。
「洗っているだけなので見ても楽しくないと思うんですけど」
「そんなことはないよ」
いや、絶対に楽しくないと思う。
「あの、水が飛んで立花さんの服が濡れちゃうので、向こうにいてもらった方がいいんですけど」
離れてくださいという意味を込めて、遠回しに言ってみた。
それが伝わったのか、立花さんは「分かったよ」と言ってクスクスと笑う。
「もう少し見ていたかったけど、仕方ない。おとなしく座っておくよ」
さっきから立花さんはずっと笑っていて、私はからかわれていたんだろうかという疑惑が生まれた。
リビングに向かう立花さんの背中にジト目を向けた。
食器を洗い終わり、お湯を沸かす。
カップにコーヒーを淹れてテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
立花さんにコーヒーはアイスとホットのどちらがいいか聞くとホットが飲みたいと言った。
私は氷を入れてアイスにした。
さっきは炭酸のジュースが飲みたかったけど、今はそんな気分ではなくなった。
「あのさ、ちょっと図々しいお願いしてもいいかな」
コーヒーを飲んでいた立花さんがおもむろに口を開く。
「何ですか?」
「偽装だけど、俺たちは彼氏彼女だよな?」
「そう、ですけど」
「飯を作るのに一人分は難しいんだよな?」
「はい」
確認するように聞いてくる。
一体、立花さんは何が言いたいのか分からず、次の言葉を待った。
「俺は料理は全く作れないし、手料理に飢えているんだ。河野さんさえよければ、またこうして料理を作ってくれないかな?」
いきなりの提案に目が点になった。
私が立花さんに料理を作る?
「もちろん、食材費はこちらが払うよ」
「いえ、そんなことしていただかなくてもいいんですけど」
「で、どう?」
期待を込めた目で見られ、断ることなんて出来る訳がない。
それに、さっき私の作った料理を食べていた立花さんを見て、また作ってあげたいと思ったし。
何だか分からないけど、私の料理を気に入ってくれたってことなんだろう。
「分かりました。私の料理でよければ」
「そうか。ありがとう」
立花さんは嬉しそうに微笑んだ。
こうして私は、立花さんが仕事が遅くならない日は料理を作ることになった。
「あの、何をしてるんでしょうか?」
「河野さんが食器を洗ってるのを見てる」
しれっと言う。
別に普通に洗ってるだけで物珍しいことなんてないんだけど。
しかもすぐ側にいるもんだから、手を動かしていると立花さんの身体に何度も触れてしまう。
私はその度に「すみません」と謝罪すると立花さんは「いいよ」と笑う。
(なんなの、このやり取りは)
洗い物をするだけで、どうしてこんなにドキドキしないといけないんだろう。
「洗っているだけなので見ても楽しくないと思うんですけど」
「そんなことはないよ」
いや、絶対に楽しくないと思う。
「あの、水が飛んで立花さんの服が濡れちゃうので、向こうにいてもらった方がいいんですけど」
離れてくださいという意味を込めて、遠回しに言ってみた。
それが伝わったのか、立花さんは「分かったよ」と言ってクスクスと笑う。
「もう少し見ていたかったけど、仕方ない。おとなしく座っておくよ」
さっきから立花さんはずっと笑っていて、私はからかわれていたんだろうかという疑惑が生まれた。
リビングに向かう立花さんの背中にジト目を向けた。
食器を洗い終わり、お湯を沸かす。
カップにコーヒーを淹れてテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
立花さんにコーヒーはアイスとホットのどちらがいいか聞くとホットが飲みたいと言った。
私は氷を入れてアイスにした。
さっきは炭酸のジュースが飲みたかったけど、今はそんな気分ではなくなった。
「あのさ、ちょっと図々しいお願いしてもいいかな」
コーヒーを飲んでいた立花さんがおもむろに口を開く。
「何ですか?」
「偽装だけど、俺たちは彼氏彼女だよな?」
「そう、ですけど」
「飯を作るのに一人分は難しいんだよな?」
「はい」
確認するように聞いてくる。
一体、立花さんは何が言いたいのか分からず、次の言葉を待った。
「俺は料理は全く作れないし、手料理に飢えているんだ。河野さんさえよければ、またこうして料理を作ってくれないかな?」
いきなりの提案に目が点になった。
私が立花さんに料理を作る?
「もちろん、食材費はこちらが払うよ」
「いえ、そんなことしていただかなくてもいいんですけど」
「で、どう?」
期待を込めた目で見られ、断ることなんて出来る訳がない。
それに、さっき私の作った料理を食べていた立花さんを見て、また作ってあげたいと思ったし。
何だか分からないけど、私の料理を気に入ってくれたってことなんだろう。
「分かりました。私の料理でよければ」
「そうか。ありがとう」
立花さんは嬉しそうに微笑んだ。
こうして私は、立花さんが仕事が遅くならない日は料理を作ることになった。
26
あなたにおすすめの小説
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
好きの手前と、さよならの向こう
茶ノ畑おーど
恋愛
数年前の失恋の痛みを抱えたまま、淡々と日々を過ごしていた社会人・中町ヒロト。
そんな彼の前に、不器用ながら真っすぐな後輩・明坂キリカが配属される。
小悪魔的な新人女子や、忘れられない元恋人も現れ、
ヒロトの平穏な日常は静かに崩れ、やがて過去と心の傷が再び揺らぎ始める――。
仕事と恋、すれ違いと再生。
交錯する想いの中で、彼は“本当に守りたいもの”を選び取れるのか。
――――――
※【20:30】の毎日更新になります。
ストーリーや展開等、色々と試行錯誤しながら執筆していますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
不器用な大人たちに行く末を、温かく見守ってあげてください。
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
愛想笑いの課長は甘い俺様
吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる
坂井 菜緒
×
愛想笑いが得意の俺様課長
堤 将暉
**********
「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」
「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」
あることがきっかけで社畜と罵られる日々。
私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。
そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる