次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

文字の大きさ
40 / 107
優しさに触れて


「ちょっと触るね」

そう言うと、私の額に掌をあてる。

「あー、熱いね。しんどくない?」
「今は大丈夫です」

立花さんは手に持っていた買い物袋の中を漁り、冷えピタを出して額に貼ってくれた。
買い物袋の中にはプリンやゼリー、スポーツ飲料などたくさんの物が入っていた。

「キッチンを使わしてもらうから河野さんは寝ていていいよ」

そう言ってベッドを置いている部屋を指差すので、おとなしくベッドに寝転んだ。

立花さんはキッチンを使うって言った?
料理は全然しないと言ってた気がするんだけど。

そんなことを考えていたら、キッチンからガチャガチャ音がしてきた。
(気になりすぎる)
グッと覗くのを我慢して、ボーッと天井を見つめていたらドアをノックする音が聞こえた。

「河野さん、寝てる?」

立花さんがお盆を手に部屋に入ってきた。
ベッドのサイドテーブルの上にお盆を置いた。
私が起き上がろうとしたら身体を支えるように手を添えてくれた。

立花さんが持ってきてくれたお盆には、お粥の入ったお椀、小皿の上に二粒の梅干しがあった。

「お粥、作ってくれたんですか?」
「あぁ。普段料理をしないし、お粥の作り方もよく分からなくてネットを見ながら作ったから自信はあまりないけど」

頬をポリポリとかく。

「ありがとうございます」

料理をしない立花さんが私のためにお粥を作ってくれたことがすごく嬉しかった。
立花さんは茶碗からレンゲですくったお粥を冷ますために息をふうふうと吹き掛けた。

「はい、どうぞ」

レンゲを私の口許にもってくる。
これは、もしかして……。

「どうした?口を開けないと食べれないだろ」

そう言って私の唇によく冷ましたレンゲをピタッとつける。
(いやいや、さすがにこれは恥ずかしい)
目で訴えかけたけど、立花さんは気付かない振りをする。

「はい、あーんして」

何だろう、この羞恥プレイは。
鼻通りもよくなり、お粥の美味しそうな匂いに負け、小さく口を開けるとお粥の優しい味が口の中にじわりと広がった。
やや薄味だったのでもう少し塩気があってもよかったけど、今まで食べたどのお粥よりも立花さんが作ってくれたものが一番美味しく感じた。
目の前の立花さんは少し不安げに口を開いた。

「どう?」
「美味しいです」
「ホントに?少し味が薄いかなと思ったんだけど」

立花さんは「よかった」と言ってホッとした表情を浮かべると、再びレンゲでお粥をすくおうとしていた。
これって、エンドレスで食べさせてもらう感じになるんだろうか。
さすがに恥ずかしすぎる。

「あの、自分で食べれますから」
「そう?遠慮しなくてもいいのに」

残念そうに言う立花さんからレンゲと茶碗を受け取った。

朝からまともにご飯を食べていなかった私は、茶碗に入っていたお粥を全部平らげた。
熱があるのに、こんなに食べれてしまう自分にビックリしたけど。
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。 ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。 同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。 ※♡話はHシーンです ※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。 ※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。 ※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

普通のOLは猛獣使いにはなれない

ピロ子
恋愛
恋人と親友に裏切られ自棄酒中のOL有季子は、バーで偶然出会った猛獣(みたいな男)と意気投合して酔った勢いで彼と一夜を共にしてしまう。 あの日の事は“一夜の過ち”だと思えるようになった頃、自宅へ不法侵入してきた猛獣と再会し、過ちで終われない関係となっていく。 普通のOLとマフィアな男の、体から始まる関係。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。