次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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愛を伝える

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「そ、そうですか?多分、口紅の色がいつもと違うからだと思いますけど……」

今日は前に立花さんからもらった口紅を塗っている。
なかなか使うチャンスがなくて、今朝ようやく箱を開封した。

確かに鏡で見た自分の顔は、いつもと雰囲気が違って少し大人びたような気がした。
私はバッグの中の化粧ポーチから口紅を取り出した。

「立花さんからもらった口紅を使ったので」
「あぁ、それ使ってくれてるんだ」
「私にはちょっと大人っぽいかなと思ったんですけど」
「そんなことないよ。梨音ちゃんによく似合ってる」
「ありがとうございます」

似合ってると言われ、何だかくすぐったい。

そういう立花さんもカッコいい。
黒のシャツにジャケットを羽織り、デニムにスニーカーという姿だ。
しかも、穿いているスニーカーが偶然にも私と同じスポーツブランドのものだった。
それだけで嬉しくなってしまい、頬が緩んだ。

駐車場に着くと、止めてあった車に乗り込んだ。

「よろしくお願いします」
「安全運転で行くよ」

笑いながら車を発進させた。
チラリと運転している立花さんの横顔を盗み見る。
立花さんと付き合ってるなんて、まだ信じられない。

なにより、私のことを名前で呼んでくれるようになった。
立花さんの口から"梨音"と呼ばれることに慣れてなくて、誰か違う人の名前みたいに感じる。
私も下の名前で呼んでみようかな。

心の中で『翔真さん』と呼んでみる。
(キャー!無理無理、実際に言うのは恥ずかしすぎる)
一人、顔を真っ赤にしてしまう。

景色を見たり、他愛もない話をしながら目的地までのドライブを楽しむ。
休憩を挟みながら目的地に到着した。

事前に駐車場を予約していたみたいで、すんなり車を止めることができた。
駐車場が予約を出来ることを知らなかった。
立花さんの用意周到ぶりには感心する。
そこから歩いて遊園地へ向かう。

「手、繋ぐ?」

手を差し出してきて、私は緊張しながらも自分の手を伸ばした。
指先が絡んで恋人繋ぎになり、初めてのことにドキドキしてしまう。
立花さんは慣れてそうだけど、なんて思ったら仄暗い気持ちになる。
まあ、立花さんはモテるから仕方ないよね。

「好きな人と遊園地なんて初めてだよ」
「そうなんですか?」

思わず、声が上ずった。

「なんなら、こうして彼女と手を繋ぐのも初めて」

照れくさそうに言う立花さんに胸がキュンとなった。
さっきまでのどんよりとした気持ちが一気に晴れる。
我ながら単純だ。

「私も初めて、です」

何もかも初めてで、そのすべてを立花さんが与えてくれる。
それが嬉しくてたまらない。

「初めて同士、今日は楽しもうか」

優しい笑みを向けられ、私は「はい」とテンション高く答えた。

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