同期と私の、あと一歩の恋

松本ユミ

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あと一歩が届かない

あれから二週間後の企画会議当日。
万全の準備はしたはずなのに、心臓が今にも飛び出しそうなほど緊張している。

プレゼンは何度経験しても慣れることはない。
失敗したらどうしよう、上手く説明できるのか――そんな不安が頭の中をぐるぐると渦巻き、手のひらに汗がにじむ。

企画書の入ったファイルを手に、重い足取りで会議室へ向かおうとした時、背後から声をかけられた。

「広瀬、大丈夫か?」

振り返ると本田くんが立てっている。
彼は今日の企画会議には参加しない。

「大丈夫そうに見える? 緊張して吐きそうだよ」

そう言って苦笑いする。

「相変わらず大袈裟だな」

「大袈裟じゃないよ。本田くんみたいに心臓に毛が生えてないんだから」

「言うじゃん」

本田くんはニヤリと笑い、私の頭を軽くポンと叩いた。
 
「俺は広瀬のあの企画はいいと思うから自信もって発表しろよ。万が一、ミスっても芹沢部長もフォローしてくれるだろうから大船に乗ったつもりでぶちかましてこい」

親指を立ててグッドサインを見せる本田くんに、肩の力がふっと抜けた。

「なにそれ、他力本願になってるんですけど」

思わず突っ込んだ。
でも、本田くんの微妙な励ましに安心感が胸に広がり、さっきまでの緊張が少しだけ和らいだ気がした。

「行ってくる」
「ああ。リラックスして頑張れよ!」

本田くんに背中を押されるように、会議室に向かった。

会議室には張り詰めた空気が漂い、独特の緊張感に包まれたいた。

芹沢部長を始め営業部、生産部など様々な部署の面々が集まっていて、コの字型に並べられたテーブルに着席している。
中央にあるスクリーンはまだなにも映っていない。

今回、私がトップバッターだ。
プロジェクターとノートパソコンの電源が付いているのを確認すると、用意していた企画書をテーブルに置いた。
家で何度も練習をしたので大丈夫なはずだと言い聞かせる。

小さく深呼吸し、心を落ち着かせてから真っ白なスクリーンに資料を映し出した。

私は「商品企画部の広瀬です」と名乗り、スクリーンに映し出された資料を指し示しながら説明を始める。

「既存のアニマルキーホルダーの新バージョンとして、スクィーズ素材を使ったキーホルダーを提案します」

会議室に集まっている人たちがスクリーンを見たり、手元の資料に目を通している。
私は彼らの反応を窺いながら、説明を続けた。

「近年、スクィーズは子供だけでなく大人の女性の間でも人気が広がっています。その心地よい弾力と、指が吸い付くような独特のぷにぷにとした触感は触るだけで心が癒され、日々のストレスを解消してくれると幅広い層から支持を集めています。我が社でもスクィーズのぬいぐるみの売上は好調です」

リモコンを操作し、次のスライドに切り替えた。
そこには、売上データのグラフと、ユーザーの生の声が分かりやすくまとめられているのが映し出されている。

データやリアルな声が大事だということを芹沢部長から叩き込まれているので、そこは企画書を作る上で特に重要視した。

「売上は着実に右肩上がり、ユーザーアンケートはスクィーズのぬいぐるみに関する物をまとめました。『触り心地最高!』『小さいぬいぐるみはあるけど、常に持ち歩きたいので手のひらサイズが欲しい』『キーホルダー化希望』といった具体的な意見が多く寄せられています」

アンケート結果を見て確かな手ごたえを感じていた。
目線を上げて背筋を伸ばす。

「これらの声から、触り心地のいいスクィーズ素材を使った手のひらサイズのアニマルキーホルダーを提案します。この企画が実現すれば、既存のユーザーだけでなく、我が社の商品に触れることがなかった層にもアピールでき、新たな顧客獲得のチャンスにもつながると考えています」

ここまで話し終え、小さく息を吐いた。
残すは、本田くんに相談して背中を押してもらったレアアイテムの件についてだ。

「皆様は、昨今、若者を中心に爆発的な広がりをみせている『ガチャ活』という言葉をご存じでしょうか? 今、カプセルトイを集めてディスプレイしたり、アレンジして楽しんだり、それを写真に撮ってSNSで発信したりする活動のことです」

次のスライドに切り替える。
スクリーンにSNSの投稿数や反響のあった画像を映し出された。
もちろん、プライバシーに関連する部分は削除済みだ。
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