歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

文字の大きさ
58 / 58
番外編

4.二人きりの長期休暇④

しおりを挟む
 朝がやってくる。ダミアンの腕の中で目を覚ました僕は、気恥ずかしさを感じながら、その肩に額を埋めた。

「おはよう、ございます……」

 昨日散々泣き叫んでいたせいで、声が少しかすれている。顔を上げられずにいると、ダミアンはそっと僕の腰を撫でた。

「おはよう。体は大丈夫か? 昨晩中に出したものは、洗浄魔法で洗い流したが」

 中に出したもの、と聞いて顔が熱くなる。
 昨日僕らは、三度も体を繋げてしまったんだ。一度目はダミアンの部屋で、二度目は体を清めようした風呂の中で、三度目は再びダミアンの部屋に連れていかれて……。最後は激しい快楽の中で、意識を手放したんだ。

 後処理までダミアンに任せきりになってしまったなんて……。羞恥心に悶えながら、ダミアンの肩にぐりぐりと額を押し当てる。

「腰に違和感はありますが、大丈夫です」
「そうか。それなら、もう一度するか?」

 思いがけない提案に、びくんっと体が飛び跳ねる。
 もう一度って……。どれだけ絶倫なんだ、この男は……。
 言葉を詰まらせていると、ふっとおかしそうに笑われる。

「冗談だ。真に受けるな」
「な、なんだ。驚かせないでください」

 冗談と知って、ホッと胸を撫でおろす。
 いくら休暇中とはいえ、制限なくまぐわうのは良くない気がする。初っ端から飛ばし過ぎて、飽きられでもしたら困る。

「今日は、船に乗ろうと思う。支度をしよう」
「船!? それは楽しみです!」

 今日の予定を聞かされて、飛び起きる。船に乗る機会なんて滅多にないから、楽しみだ。

 着替えを済ませたところで、ふとダミアンの長い髪が視界に入る。いつもはまっすぐに伸びている髪は、今日は珍しく寝癖がついていた。

「寮長、髪が跳ねています」
「……ああ、昨日は手入れを怠ったからか」

 その原因は僕にあると思うと、申し訳ない気分になる。

「あの、髪を梳かすのを手伝ってもいいですか?」
「手伝い? 別に構わないが……」

 罪滅ぼしという意味合いもあるが、ダミアンの髪には前々から触れたいと思っていたんだ。梳かすという名目で、じっくり触らせてもらおう。

「では、椅子に座ってください。ブラシはお借りしますね」

 ダミアンを椅子に座らせてから、いそいそとブラシを握る。
 昔からリオンに髪を梳いてもらっていたから、やり方は分かっている。絡まらないように、丁寧に丁寧に梳いていった。

 絹のような滑らかな髪は、触れているだけで心地いい。髪質が良いこともあるが、日ごろから手入れを怠っていないのも理由だろう。

「寮長は、どうして髪を伸ばしているんですか? これだけ長いと、手入れも大変でしょう」

 何気なく尋ねると、ダミアンは前を向いたまま、小さく息をつく。

はさみを持った人間に、背後に立たれるのは落ち着かないからだ。油断した隙に、背後から刺されると想像すると、ゾッとする」

 その言葉で、ダミアンの境遇を思い出す。
 ダミアンは幼少期から命を狙われてきた。そのせいで、基本的に他人のことを信用していないんだ。
 髪を伸ばしていることも、そうした理由が絡んでいると知ると、不憫に思えてくる。

「まあ、アレンが長い髪は好かないというのなら、断髪しても構わないが」
「それって、僕が寮長の髪を切るってことですか?」
「そうなるな」
「無理無理! 絶対無理です!」

 この美しい髪に鋏を入れるなんて、できそうにない。想像しただけで手が震えてきた。

「僕は、寮長の長い髪も好きですよ。結っている時は、背中でしっぽのように揺れていて可愛らしいですし」
「……貴様、そんなことを考えていたのか」

 ダミアンは、呆れたように目を細める。うっかり本音を漏らしてしまったが、怒られることはなかった。

 丁寧に髪を梳いていくと、跳ねた毛もまっすぐに伸びていく。梳かし終えた髪を一つに束ねると、いつもの凛々しい姿になった。

「はい。できました」

 肩を叩くと、ダミアンは仕上がりを確認するように結び目に触れる。

「上手に結べているようだな。ありがとう」

 てっきり嫌味のひとつでも言われると思っていたから、素直に褒められるとむず痒くなってしまった。

 ダミアンは、結び目から手を離した後、ふとサイドテーブルに視線を向ける。そこには、昨日拾った貝殻が寄り添うように置かれていた。

「そうだ。昨日貰った貝殻は、髪飾りにでも加工するか」
「それはいいですね! ぜひそうしてください!」

 僕の拾った貝殻に、使い道があったようで良かった。貝殻の髪飾りは、ブロンドの髪にも映えるに違いない。
 完成した髪飾りを想像していると、頬が緩んでいく。にまにまとにやけていると、椅子から立ち上がったダミアンにおもむろに抱き寄せられた。

「わっ! 急にどうしたんですか?」
「なんでもない。ただ、愛おしいと思っただけだ」

 さらりと告げられた甘い言葉で、ドキッと心臓が跳ねる。
 昨日、体を繋げてからというもの、ダミアンは躊躇いなく甘い言葉を口にするようになった。嬉しいんだけど、慣れていないからちょっと困る……。

 恥ずかしくて俯いていると、腰を抱く手に力がこもる。

「ああ、触れれば触れるほど、離れがたくなる。こんなにも強く、誰かを繋ぎとめておきたいと思ったのは初めてだ」

 真っすぐな思いに、胸の内をくすぐられる。
 僕だって、同じ気持ちだ。昨日、体を繋げたことで、より一層ダミアンへの想いが膨れ上がってしまった。
 ダミアンとの距離を縮めるように、僕も背中に手を回す。

「監禁したり、首輪をつけたりするのだけは、勘弁してくださいよ」

 照れ隠しも含めて冗談めかしく伝えると、ダミアンは肩を震わせて笑いだす。

「わかっている。体ではなく、心を繋ぎとめておけるように努力しよう」

 見つめ合うと、お互い引き寄せられるようにキスをする。触れ合っているだけで、愛おしさが溢れかえった。

 もう、この男からは逃げられそうにない。
 僕は、首輪なんかよりも強固なもので、繋がれてしまったのだから。



【fin】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

氷の死神αと余命宣告五年の悪役令息

ミカン
BL
悪役令息Ωと噂されているミアンが死神と呼ばれる戦狂αと噂されているダリウスに出会う

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...