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番外編
4.二人きりの長期休暇④
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朝がやってくる。ダミアンの腕の中で目を覚ました僕は、気恥ずかしさを感じながら、その肩に額を埋めた。
「おはよう、ございます……」
昨日散々泣き叫んでいたせいで、声が少しかすれている。顔を上げられずにいると、ダミアンはそっと僕の腰を撫でた。
「おはよう。体は大丈夫か? 昨晩中に出したものは、洗浄魔法で洗い流したが」
中に出したもの、と聞いて顔が熱くなる。
昨日僕らは、三度も体を繋げてしまったんだ。一度目はダミアンの部屋で、二度目は体を清めようした風呂の中で、三度目は再びダミアンの部屋に連れていかれて……。最後は激しい快楽の中で、意識を手放したんだ。
後処理までダミアンに任せきりになってしまったなんて……。羞恥心に悶えながら、ダミアンの肩にぐりぐりと額を押し当てる。
「腰に違和感はありますが、大丈夫です」
「そうか。それなら、もう一度するか?」
思いがけない提案に、びくんっと体が飛び跳ねる。
もう一度って……。どれだけ絶倫なんだ、この男は……。
言葉を詰まらせていると、ふっとおかしそうに笑われる。
「冗談だ。真に受けるな」
「な、なんだ。驚かせないでください」
冗談と知って、ホッと胸を撫でおろす。
いくら休暇中とはいえ、制限なくまぐわうのは良くない気がする。初っ端から飛ばし過ぎて、飽きられでもしたら困る。
「今日は、船に乗ろうと思う。支度をしよう」
「船!? それは楽しみです!」
今日の予定を聞かされて、飛び起きる。船に乗る機会なんて滅多にないから、楽しみだ。
着替えを済ませたところで、ふとダミアンの長い髪が視界に入る。いつもはまっすぐに伸びている髪は、今日は珍しく寝癖がついていた。
「寮長、髪が跳ねています」
「……ああ、昨日は手入れを怠ったからか」
その原因は僕にあると思うと、申し訳ない気分になる。
「あの、髪を梳かすのを手伝ってもいいですか?」
「手伝い? 別に構わないが……」
罪滅ぼしという意味合いもあるが、ダミアンの髪には前々から触れたいと思っていたんだ。梳かすという名目で、じっくり触らせてもらおう。
「では、椅子に座ってください。ブラシはお借りしますね」
ダミアンを椅子に座らせてから、いそいそとブラシを握る。
昔からリオンに髪を梳いてもらっていたから、やり方は分かっている。絡まらないように、丁寧に丁寧に梳いていった。
絹のような滑らかな髪は、触れているだけで心地いい。髪質が良いこともあるが、日ごろから手入れを怠っていないのも理由だろう。
「寮長は、どうして髪を伸ばしているんですか? これだけ長いと、手入れも大変でしょう」
何気なく尋ねると、ダミアンは前を向いたまま、小さく息をつく。
「鋏を持った人間に、背後に立たれるのは落ち着かないからだ。油断した隙に、背後から刺されると想像すると、ゾッとする」
その言葉で、ダミアンの境遇を思い出す。
ダミアンは幼少期から命を狙われてきた。そのせいで、基本的に他人のことを信用していないんだ。
髪を伸ばしていることも、そうした理由が絡んでいると知ると、不憫に思えてくる。
「まあ、アレンが長い髪は好かないというのなら、断髪しても構わないが」
「それって、僕が寮長の髪を切るってことですか?」
「そうなるな」
「無理無理! 絶対無理です!」
この美しい髪に鋏を入れるなんて、できそうにない。想像しただけで手が震えてきた。
「僕は、寮長の長い髪も好きですよ。結っている時は、背中でしっぽのように揺れていて可愛らしいですし」
「……貴様、そんなことを考えていたのか」
ダミアンは、呆れたように目を細める。うっかり本音を漏らしてしまったが、怒られることはなかった。
丁寧に髪を梳いていくと、跳ねた毛もまっすぐに伸びていく。梳かし終えた髪を一つに束ねると、いつもの凛々しい姿になった。
「はい。できました」
肩を叩くと、ダミアンは仕上がりを確認するように結び目に触れる。
「上手に結べているようだな。ありがとう」
てっきり嫌味のひとつでも言われると思っていたから、素直に褒められるとむず痒くなってしまった。
ダミアンは、結び目から手を離した後、ふとサイドテーブルに視線を向ける。そこには、昨日拾った貝殻が寄り添うように置かれていた。
「そうだ。昨日貰った貝殻は、髪飾りにでも加工するか」
「それはいいですね! ぜひそうしてください!」
僕の拾った貝殻に、使い道があったようで良かった。貝殻の髪飾りは、ブロンドの髪にも映えるに違いない。
完成した髪飾りを想像していると、頬が緩んでいく。にまにまとにやけていると、椅子から立ち上がったダミアンにおもむろに抱き寄せられた。
「わっ! 急にどうしたんですか?」
「なんでもない。ただ、愛おしいと思っただけだ」
さらりと告げられた甘い言葉で、ドキッと心臓が跳ねる。
昨日、体を繋げてからというもの、ダミアンは躊躇いなく甘い言葉を口にするようになった。嬉しいんだけど、慣れていないからちょっと困る……。
恥ずかしくて俯いていると、腰を抱く手に力がこもる。
「ああ、触れれば触れるほど、離れがたくなる。こんなにも強く、誰かを繋ぎとめておきたいと思ったのは初めてだ」
真っすぐな思いに、胸の内をくすぐられる。
僕だって、同じ気持ちだ。昨日、体を繋げたことで、より一層ダミアンへの想いが膨れ上がってしまった。
ダミアンとの距離を縮めるように、僕も背中に手を回す。
「監禁したり、首輪をつけたりするのだけは、勘弁してくださいよ」
照れ隠しも含めて冗談めかしく伝えると、ダミアンは肩を震わせて笑いだす。
「わかっている。体ではなく、心を繋ぎとめておけるように努力しよう」
見つめ合うと、お互い引き寄せられるようにキスをする。触れ合っているだけで、愛おしさが溢れかえった。
もう、この男からは逃げられそうにない。
僕は、首輪なんかよりも強固なもので、繋がれてしまったのだから。
【fin】
「おはよう、ございます……」
昨日散々泣き叫んでいたせいで、声が少しかすれている。顔を上げられずにいると、ダミアンはそっと僕の腰を撫でた。
「おはよう。体は大丈夫か? 昨晩中に出したものは、洗浄魔法で洗い流したが」
中に出したもの、と聞いて顔が熱くなる。
昨日僕らは、三度も体を繋げてしまったんだ。一度目はダミアンの部屋で、二度目は体を清めようした風呂の中で、三度目は再びダミアンの部屋に連れていかれて……。最後は激しい快楽の中で、意識を手放したんだ。
後処理までダミアンに任せきりになってしまったなんて……。羞恥心に悶えながら、ダミアンの肩にぐりぐりと額を押し当てる。
「腰に違和感はありますが、大丈夫です」
「そうか。それなら、もう一度するか?」
思いがけない提案に、びくんっと体が飛び跳ねる。
もう一度って……。どれだけ絶倫なんだ、この男は……。
言葉を詰まらせていると、ふっとおかしそうに笑われる。
「冗談だ。真に受けるな」
「な、なんだ。驚かせないでください」
冗談と知って、ホッと胸を撫でおろす。
いくら休暇中とはいえ、制限なくまぐわうのは良くない気がする。初っ端から飛ばし過ぎて、飽きられでもしたら困る。
「今日は、船に乗ろうと思う。支度をしよう」
「船!? それは楽しみです!」
今日の予定を聞かされて、飛び起きる。船に乗る機会なんて滅多にないから、楽しみだ。
着替えを済ませたところで、ふとダミアンの長い髪が視界に入る。いつもはまっすぐに伸びている髪は、今日は珍しく寝癖がついていた。
「寮長、髪が跳ねています」
「……ああ、昨日は手入れを怠ったからか」
その原因は僕にあると思うと、申し訳ない気分になる。
「あの、髪を梳かすのを手伝ってもいいですか?」
「手伝い? 別に構わないが……」
罪滅ぼしという意味合いもあるが、ダミアンの髪には前々から触れたいと思っていたんだ。梳かすという名目で、じっくり触らせてもらおう。
「では、椅子に座ってください。ブラシはお借りしますね」
ダミアンを椅子に座らせてから、いそいそとブラシを握る。
昔からリオンに髪を梳いてもらっていたから、やり方は分かっている。絡まらないように、丁寧に丁寧に梳いていった。
絹のような滑らかな髪は、触れているだけで心地いい。髪質が良いこともあるが、日ごろから手入れを怠っていないのも理由だろう。
「寮長は、どうして髪を伸ばしているんですか? これだけ長いと、手入れも大変でしょう」
何気なく尋ねると、ダミアンは前を向いたまま、小さく息をつく。
「鋏を持った人間に、背後に立たれるのは落ち着かないからだ。油断した隙に、背後から刺されると想像すると、ゾッとする」
その言葉で、ダミアンの境遇を思い出す。
ダミアンは幼少期から命を狙われてきた。そのせいで、基本的に他人のことを信用していないんだ。
髪を伸ばしていることも、そうした理由が絡んでいると知ると、不憫に思えてくる。
「まあ、アレンが長い髪は好かないというのなら、断髪しても構わないが」
「それって、僕が寮長の髪を切るってことですか?」
「そうなるな」
「無理無理! 絶対無理です!」
この美しい髪に鋏を入れるなんて、できそうにない。想像しただけで手が震えてきた。
「僕は、寮長の長い髪も好きですよ。結っている時は、背中でしっぽのように揺れていて可愛らしいですし」
「……貴様、そんなことを考えていたのか」
ダミアンは、呆れたように目を細める。うっかり本音を漏らしてしまったが、怒られることはなかった。
丁寧に髪を梳いていくと、跳ねた毛もまっすぐに伸びていく。梳かし終えた髪を一つに束ねると、いつもの凛々しい姿になった。
「はい。できました」
肩を叩くと、ダミアンは仕上がりを確認するように結び目に触れる。
「上手に結べているようだな。ありがとう」
てっきり嫌味のひとつでも言われると思っていたから、素直に褒められるとむず痒くなってしまった。
ダミアンは、結び目から手を離した後、ふとサイドテーブルに視線を向ける。そこには、昨日拾った貝殻が寄り添うように置かれていた。
「そうだ。昨日貰った貝殻は、髪飾りにでも加工するか」
「それはいいですね! ぜひそうしてください!」
僕の拾った貝殻に、使い道があったようで良かった。貝殻の髪飾りは、ブロンドの髪にも映えるに違いない。
完成した髪飾りを想像していると、頬が緩んでいく。にまにまとにやけていると、椅子から立ち上がったダミアンにおもむろに抱き寄せられた。
「わっ! 急にどうしたんですか?」
「なんでもない。ただ、愛おしいと思っただけだ」
さらりと告げられた甘い言葉で、ドキッと心臓が跳ねる。
昨日、体を繋げてからというもの、ダミアンは躊躇いなく甘い言葉を口にするようになった。嬉しいんだけど、慣れていないからちょっと困る……。
恥ずかしくて俯いていると、腰を抱く手に力がこもる。
「ああ、触れれば触れるほど、離れがたくなる。こんなにも強く、誰かを繋ぎとめておきたいと思ったのは初めてだ」
真っすぐな思いに、胸の内をくすぐられる。
僕だって、同じ気持ちだ。昨日、体を繋げたことで、より一層ダミアンへの想いが膨れ上がってしまった。
ダミアンとの距離を縮めるように、僕も背中に手を回す。
「監禁したり、首輪をつけたりするのだけは、勘弁してくださいよ」
照れ隠しも含めて冗談めかしく伝えると、ダミアンは肩を震わせて笑いだす。
「わかっている。体ではなく、心を繋ぎとめておけるように努力しよう」
見つめ合うと、お互い引き寄せられるようにキスをする。触れ合っているだけで、愛おしさが溢れかえった。
もう、この男からは逃げられそうにない。
僕は、首輪なんかよりも強固なもので、繋がれてしまったのだから。
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