救国の魔女と滅国の皇子～プログラマーは魔法も作れる！？～

仲間

５７．殴りますか？

除去除染の作業が始まって二週間、作業は休みなく続いていた。

私はその関係で街中の井戸水をチェックしたり、忙しい日々を送っている。

マスターに呼ばれて私がマスターの執務室に入ると、珍しくマスターが神妙な面持ちで待っていた。

隣のテオさんも腕を組んで難しい顔をしていた。

向かいに座ると、マスターは口を開いた。

「例の業者には何の罰も課せられないことになった。慰謝料もゼロだ。」

「はあ！？どうして！？」

不法投棄をした業者は裁判の準備が進んでいたはずだった。

「領主のピノアー伯爵が圧力を掛けたんだ。」

「ピノアー伯爵が...？まさか、業者に土地を斡旋してたのって..」

「ああ。ピノアー伯爵だった。どうやら、ゴミ捨て場にするつもりだったことも知っていたらしい。だから自分に火の粉が掛かる前に潰したんだろう。」

「市民に大変な被害が出てるのに？」

「そうだ。ピノアー伯爵は金と地位と名誉しか興味が無い。領地のことも部下に任せっぱなしだ。市民が苦しみ喘ごうと気に留めない。」

「じゃあ、被害を受けた人は泣き寝入り...」

「そうだ。」

「私を呼んだのはそのクズを殴るためですか？」

「君はすぐ殴りたがるな。そんなわけがないだろう。」

「じゃあなんですか？」

「慰謝料が見込めないから、別の方法で住民達を支援したい。君に意見を聞きたくてね。」

「まず国にゴミの投棄について報告しましょう。」

「報告したところで動いてはくれない。」

「報告は大事です。報告っていうのは、私は報告したから責任は上司にありますって免罪符を作るためにするんです。それで指摘があれば、オマケもらえてラッキーです。」

「わかった。報告はしておこう。」

「お願いします。それで、住民の支援なんですけど、被害者支援団体を設立するのはどうでしょうか？」

「支援団体？」

「はい。被害を受けた住人やお店に、支援金を払ったり、ギルドから人手を手配したり、物資を提供したりするんです。」

「金はどうするんだい？」

「基金を設立して寄付で賄います。まずは私が討伐した魔物の報酬を全て寄付します。次に、寄付を募ります。広場に掲示板を設置して、そこに定期的な活動報告を載せます。同時に、寄付を行った人の名前も掲載していきます。掲示板には私が作った音声案内を設置して、寄付した人のリストも読み上げるようにします。これで、字が読めない人でも誰が寄付してくれたかわかるので、知名度や好感度のアップに繋がるはずです。こういうのが好きな貴族もいるでしょう？」

「君は一瞬で凄いことを提案するね。」

「人の確保とか、課題は多いと思いますが、今回は一時的な支援が必要なパターンなので、これがマストだと思います。」

「わかった。それで進めよう。」

「おい、そんなに簡単に進めるな！」

「悠長に会議をしてる場合じゃない。ゴミの撤去の莫大な費用も賄わなければならないんだ。すぐにでも財源を確保しないと、撤去もできなくなる。その点、最初に彼女が多額の寄付をしてくれるんだ。それだけでやる価値がある。テオは下に行って早速伝えて来てくれ。」

「おい。」

「早く。」

テオさんは仕方なさそうに執務室を出た。

「この前の返事を聞かせてくれないかい？」